Aries.

Home > 小話 > 闇の眷族、みたいな、っていうか長いよ!←

2011.10.29 Sat 闇の眷族、みたいな、っていうか長いよ!←

※「闇の眷族、みたいな」は卯月がずいぶん前に見た夢の話が元ネタです。なので、わりと自分を満足させるために勝手気ままに書きたいエピソードだけ書いております。だから本館には載せてないんだよっていう。

設定については、とりあえず このへん とか このへん とか このへん とか、読んでいただければよいかと思われ。書きかけですけども。←←

ちなみに他エピソードとしては こういうの とか こういうの とか こういうの もあったりして。吸血鬼しか出てこないのに吸血してませんけども。←←←

いや吸血してるの読みたいんだってば! という向きには、こちら とか こちら がオススメでありますのでぜひ! ぜひぜひ! お友達のミズマ。さまが書いてくださっておりますむふふv←←←←




という上記、注意文は9割コピペです☆←

前回、リア充で悶々とするゴウダの話の時、イクヤさんはこんな感じでしたよー、というお話をカッとなって書いてみたらいままでも闇の~の頁数を大幅に記録更新して12ページっていう、ね! どうすんのコレ長いwwwww でも分割できない罠wwwww

というわけで、追記からズルズル載せて行きます! 長いよ、シリアスだよ!

闇の眷族のダーク指数は『宵闇』レベル、とのことなので、とりあえず宵闇の範疇におさめた、つもり、なのですが……どうでしょうね? 卯月、わりと加減わかってない自覚はあります。←

とりあえず、新キャラがふたり出てますよー、という宣伝!

ひとりは、まひるちゃんに「吸血鬼描いてよ!(ムチャ振り)」って言って書いてもらったイチゴ・オレの人(仮名)

イチゴオレ

いや、キャラ絵を依頼して描いてもらったわけではけしてなくて。卯月が「やばいこの人新キャラのビジュアルイメージにぴったりすぎてたぎる!!」と、思って勝手に新キャラの外見に当ててるだけ=無許可なんですけどね。

というわけで、まひるちゃんごめんね! ツイッターのごめんはこれにかかるごめんだよ!(オイ、

そんでもって、もうひとりは、以前ミズマ。さまに闇の~のお話書いてもらった時に出てきたおやっさんの影の人。名前もミズマ。さまにつけていただきましたよ、キリヤマさん。

キリヤマさんこういう外見だとすごく幸せ。卯月が(´∀`人)←

眼鏡執事

ハイまひるちゃんつながりで前に「眼鏡執事描いてよ!!(ムチャ振り)」って言って書いてもらった眼鏡執事w これこそ完全に無許可で流用してる。

――本当にごめん!!! メンゴ☆←

卯月ぜったいいつかまひるちゃんにめちゃくちゃ怒られる気がするガクブルwwwww



というわけで、おもむろにお話投下ー。追記からどーん☆






 雨の日に道端で拾った。猫の仔みたいに抱いて帰った。

 ひと言もなく、身じろぎもせず、部屋のすみからじっと見つめてくる瞳は左右色ちがいで、そんなところも人見知りする猫のようだったから、しばらくは本当に、仔猫を拾ったつもりで世話を焼いていた。
 呼び名がないことを不便だと感じはじめるのは、それからしばらく後になる。


     ***


「――それで? 地祇(ちぎ)の御曹司が俺みたいなチンピラを呼びだして、用件は何だ」
 指定の場所はホテルだった。
 いちばん安い部屋でも聞けば笑うしかないのだから、このフロアの一泊の額なんて考えないほうがいい。そもそもそんなチンケな単位で泊めてくれるか怪しいものだ。なかはホテルのかたちをした宮殿と言ったほうが正確で、長期滞在者の好みに合わせて内装をしつらえているようだった。
 時代がかったデザインの上等なソファに座り、クリスタルのテーブルを挟んで向かい合う相手は、至極友好的に微笑している。
 髪の長い、若い、男。
 その瞳の虹彩は、右と左で色がちがう。
 始祖天羅(てんら)とこの国の同族を二分する、東の始祖――地祇総領の一人息子。
「率直な方ですね。嫌いではありませんが」
 言葉どおり不快さのかけらも見せないおだやかな声で、地祇の息子は言う。
「せっかくこうしてお会いできたのですから、まずは世間話でも楽しみながら、親交を深めませんか?」
「悪いけど、俺はこれでも人見知りでね」
 室内には、見える範囲だけでも護衛と思われる黒服が正面に三人。後背に一人。血統主義の地祇の子飼いに、眷属がいるとは思えない。全員が混じりけない純血の同族だ。
 それがフロア全体に、あと何人いることか――考えながら、けれど目の前の相手にはせいぜい鷹揚に振る舞ってみせる。
 ソファに深く腰掛け、組んだ脚の膝に手を置き、にたりと笑って。
「それでなくても、今日は予定があったんだぜ。デートの約束を泣く泣く蹴ってここに来た。そこンとこ、俺の心境も汲んでくれるとありがたいね。坊ちゃん?」
「そうですか」
 地祇の息子は苦笑する。ただそれだけ。鉄面皮の護衛のほうがピリピリしている。
 ――喰えそうにもないガキだ。
「あなたとは、本当に、親しくなりたいと思っているのです。本当に。けれど……急いても仕方がありませんね。これ以上、お時間をとらせるのも心苦しい」
「そうそう。話の長い男はきらわれる」
「用件はひとつです」
 その先は、本当は、聞かなくてもわかっている。

「僕の妹を返してください」

 目の前の男はおだやかに微笑していた。
 左右で色のちがう瞳から、それ以上のなにかは見てとれない。うっかりすると親しみさえ感じそうな人懐こさだ。
 白々しいほどに。
 だからこちらも、白々しく、笑って返す。
「なんのことだかサッパリだな。地祇に娘がいるなんて、そんな話は聞かないが」
「母のこどもは僕だけです。いわゆる腹ちがいですよ。けれど、僕にとってはたしかに妹ですから。兄として、いつまでも外に出しておくのは心配なのです」
「それは愛情深いことで」
「たったひとりの妹です。返していただけますか?」
 繰り返される問いには答えず、ただ口の片端に笑みを貼りける。
 ソファの背もたれに頬杖をつくようにして、見下ろしぎみに目をやってみても、地祇の息子は友好的な雰囲気を微微たりと崩さない。
 ただすこし、困ったように首を傾けた。ほんのすこし。
「僕はあの子が心配なのです。本当に……」
 その言葉に嘘はない。その心に偽りはない。目を見ればそれとわかる。色ちがいの瞳の底は、あきれるくらいの慈しみで満ちている。
 ――俺は、それが気に入らない。
「ずいぶん妹にご執心だな。血統主義の地祇の坊ちゃん。俺のとこにいる女の子が、よしんばあんたの妹だとして、うちの子は混血だぜ? あんたらの大嫌いな」
「母をはじめ一族の総意と、僕の本意はちがうものです。我が家の家風によって、あの子にこれまで、さまざまにつらい思いを強いたのは事実ですが――僕ももう、こどもではありません。あの子は僕が守ります。母からも、だれからも。これまで以上に」
「なるほどね」
 うなずくかわりに目を伏せる。
 その一瞬にぼんやり、雨音が遠く聞こえた気がした。すこしだけなつかしい。
「あんたがどれだけ妹を大事に思ってるのかは、よく、わかった」
 ――だから。
「うちの子はあんたの妹じゃない。ひとちがいだ」
 俺のハッタリなんかきっと、通じていないのはわかっている。
 それでも笑いながら言ってやると、やはり地祇の息子は苦笑するだけだった。
「どうしても、応じていただけないのですね」
「応じるもなにも、なんのことだかわからない、最初からそう言ってるぜ? うちにはたしかに女の子がいる。だけど、ひとちがいだ」
「どうしてそうだと?」
「うちの子は、真夏でも首の詰まった長袖着てンの。脚も出さない。なんでかわかる?」
 地祇の息子は答えなかった。
 答えなかったが、その口が、お行儀よく微笑んでいた唇が、薄く、開く。
 その奥に――するどい牙を覗かせて。
 地祇の息子はにたりと笑った。
 それでもなお嘘偽りない慈愛に満ちたその目が、気に入らない。
 混血とはいえ、だからこそ半分は同族の血だ。ましてやあの子は血が濃くて、人間よりも俺たちに近い。華奢に見ても身体は丈夫。傷の治りも異常に早く、多少のことでは痕にもならない。それを。
 その牙でどうすれば、あんなに――。
 あんなふうに――。
「とてもじゃないが、うちの子は兄貴に大事にされてきたお嬢さんには見えないね。だからひとちがい。そーいうことにしとこうぜ、坊ちゃん。あんたの為に」
 がらにもなく腹のなかで煮えたぎるものを、どうにか奥へ奥へと押しやって、平静をとりつくろい、不遜な顔をたもたせる。
 そんなこっちの努力なんかわかっていないように、向こうは余裕綽々だ。
「僕の為、ですか?」
「あんたの悪食については、天羅と、地祇で、話がついてる。だからあんたの妹は帰って来ない。――あんまり混ぜっ返すと、ママにお尻を叩かれちゃうぜ?」
 地祇の息子はくすりと吐息を漏らし、その身をわずかだけ深くソファに沈ませる。
 目前の笑みは揺るぎない。
「母がいつまでも、地祇として在るわけではありませんよ」
 言うなり左右で色のちがう眼底に、一瞬、光るような真紅が閃いた。
 同時に。
 その、右頬と。
 ソファの背もたれと、壁と、絵画と、正面に見える黒服たちのミラーシェードと、街ひとつ買えそうな花瓶と、鉢植えと、重ったるい豪勢な照明と、他もろもろ、俺の視界に映るもの、手当たり次第に三十八か所。
 ひと息に切り裂いた。
 照明が落ち鉢植えの木は斜めに縊れ花瓶の胴から水が溢れ黒服がうろたえ絵画の女の首が断たれ壁の建材が露出しソファの角が斬り飛ばされ、またたく間に破壊される部屋のただなかで、微笑する頬にはしった裂傷から、赤い血がひとすじ流れ落ちた。
「地祇がだれでも、天羅がだれでも――」
 俺の虚勢なんかは最初から見抜かれているだろうけど。
 だからこそ背筋を伸ばし、呼吸を乱さず、笑みを絶やさず、せいぜい不遜に。
 鷹揚に。不敵げに。
「――生太刀は、この俺だ」
 はっとして前へ出ようとする黒服を片手で制し、地祇の息子は頬から顎に伝う血をぬぐいもせず、肩を竦めるようにしてみせる。
「あなたとは、本当に、親しくなりたいと思っているのです。本当に、ね」
「俺は人見知りだって言ったろ?」
 ソファから腰を浮かせて軽口めかせば、地祇の息子はくすりと笑った。
 立ち去る俺を引きとめもせず、ただ、その目をおだやかに細くする。ぞっとするほど、おだやかに。
「つぎの機会には楽しいお話でもお聞かせします。いずれ、また――」
 地祇の息子は言う。
「――お会いしましょう、生太刀」



 職務質問されれば便利屋とでも答えるしかない相手になにを勘違いしたのか、総支配人まで出張っての大仰なお見送りを受けてホテルを出ると、つややかな白い車体が滑るように車寄せに入って来た。国産の4ドア。平凡な勤め人の年収なんかおよびにならない高級車。俺の稼ぎじゃ縁もない。
 それが目の前でぴたりと停車し、車寄せの係が粛々と開けたドアから後部座席に乗り込めば、おちついた色調の車内には運転席に男がひとり。
 ドアが閉まり、揺れもなく走り出してしばらく。
 通りをずいぶん進み、角をひとつふたつ曲がったあたりで限界だった。
 座り心地のいいシートにずるずると沈み込む。
 こんなありさま、だけどホテルからはもう見えないだろう。そう思えばほっとした。
 頭を貫くような耳鳴りと、焦点を結べないまま明滅する視界と、押さえていなければ胸を突き破りそうな動悸で噴き出す汗と。
 呼吸もままならない強烈な、渇きと。
「――っ、あ、」
 むりやり息を吸い込めば、ひきつった喉が高く鳴る。
 目を閉じたいのにまばたきの仕方を思い出せない。胸元を掴んでいるのと逆の手で目を覆い、浅い呼吸をくりかえしながら、ふと、自分が笑っているのに気付いておかしくなる。
「ハ、ハ……ね、俺、死んじゃうかな……キリヤマさん」
「ばかおっしゃい。いい歳をして」
 こどもみたいなことを聞かないように、と揺れを感じさせない運転にはすこしの乱れもなく、ハンドルを握る背中から声が返った。
 当代の始祖天羅にもっとも長く仕える腹心中の腹心。俺やゴウダがガキの頃からおやっさんのそばにいる、表向きの肩書きは、第一秘書のキリヤマさん。
 バックミラー越しに視線を向けられたのがわかる。ため息も聞こえた。
「薬はアームレストのなかに。きみ、どうせもう気休め程度にしか効かないでしょう。無茶はしないことです」
「したくっても、できねーもん……まいった」
 ぐらぐら焦点の定まらない視界で、どうにか見当をつけて肘掛けをあけ、薬瓶を取り出す。ふたを開けるのも一苦労だ。震えてまともに動かない手に中身をぶちまけ、むりやり口にねじ込んで、吐き出したい衝動をこらえて飲み下した。食道を落ちていく異物感。
 まなじりに滲んでいるのは汗なんだか、涙なんだか。
 あの一瞬――地祇の息子がほんの指先で弾く程度に広げた力場を圧し返し、威嚇してやっただけでこのザマだ。同族としての力は血によって贖(あがな)われる。生太刀の能力が使えなくなったのは数年前。いくら自分の血で賄(まかな)ってみても、この分だと並の異能も使えなくなる日はそう遠くなさそうだ。
 あるいはそれよりも、冗談でなく、くたばるのが先か。
「クーラーボックスには血液パックもありますけどね」
 その何気ない言い草と、狙い澄ましたような間合いにうっかり吹きだした。
「ヤっらしー言い方……俺、操立てしてンのにさ、知ってるでしょ? 誘惑しないでよ」
「ひとの善意を茶化すのはやめなさい。しかも気色悪い感じに。不愉快です」
「キリヤマさんは真面目だなあ」
 フロントガラスに映り込んだ顔の、眉間がむっとしわ寄った。
 ドアにべったりもたれながらそれを見て笑っていると、信号待ちで停車した隙に、キリヤマさんが言う。
「――御館様からのご伝言です」
 御館様。さまざまある始祖天羅の呼称のひとつ。
 この人が迎えに来たのなら、そこにおやっさんの指図のないはずがない。
「無茶はするな、無謀もするな、天羅(おれ)があの子を庇護するのは、それで生太刀(おまえ)の存在がこちらに付随するからだ。そうでなければ、地祇と争うつもりはない。もしもおまえがいなくなり、あの子を使ってうまくいく交渉があれば、その時は、俺はあの子を好きに使う、と」
「容赦ねェの。あの人も、なかなか、喰えねえなあ……」
「御館様は総領です。天羅の血族に有益でないことは、なさいません。だから、きみ、あの子を守ってあげたいのなら、無茶はするなと、そういうことです」
「……あっそ」
 信号が変わり、車が走り出す。
 車体にくっついているせいで、はじめはタイヤかエンジンの振動だと思った。内ポケットに携帯電話が入っていることを思い出すのにしばらくかかり、握力の戻らない手でひっぱり出すにもずいぶんもたついた。
 そのあいだもずっと、着信は途切れず、ちいさな端末はてのひらのなかで震え続ける。
「あのさ……」
「黙ってますから早く出てあげなさい」
 車を路肩につけながら叱るように言われ、ひとつ深呼吸して、受話ボタンを押した。
「――はーい、お待たせお待たせ。アキちゃんどーしたの? ゴウダにいやらしいことされなかった、あいつきっとねちっこいよ?」
『ゴウダさんの名誉をいたずらにおとしめるのはいけないことだと思います』
 いつものように、いつもの調子で、電話越しに淡々と聞こえる彼女の声。向こうも車内にいるのか、走行音にまざってラジオの音楽が聞こえた。
『お夕飯の買い出しが終わりました。いま、帰宅しているところです。イクヤさんは?』
「俺もこれから帰るところよ。でもちょっと遠いから、着く頃には日が落ちちゃってるかな。晩飯なあに?」
『オムライスに、ポテトサラダと、しじみのお味噌汁。おやつはシュークリームです』
「ゴウダの好物ばっかりじゃん! イクヤさんの好きなものも作ってほしいなあ、シュークリーム食えないし俺」
『変更はありません』
「うちの女の子はつれないねえ」
『……うそです。イクヤさんにはケーキがあります、ブランデーの。甘くありません』
 それから今日はどこに行って、何をして、とつらつら語る彼女はいつもより興奮気味だ。声を高くして騒ぐわけではないけれど、楽しそうだった。お守りを任せたゴウダが、あれにしてはよく頑張って、期待以上の働きをしてくれたらしい。
「ねえ、アキちゃん」
『はい』
 話をさえぎって呼びかけると、あたりまえのように返事があった。
『? なにか?』
 きっと小首をかしげている。右と左で色ちがいの、猫みたいなまるい目をしばたかせて。
 はじめて会った時には濡れしょぼたれて、貧弱な仔猫みたいだった。
 なかなか懐いてくれなくて、自分からは何も話してくれなくて、結局、いまもまだ――あの子の名前を、俺は知らない。
 すぐにどこかへ行くだろうと思っていた。
 だから適当に付けた名前だったのに、気付けばずいぶん長く、いっしょにいる。
「んーん、なんでも。俺、今日はアキちゃんと遊べなくてさびしかったのよ」
『私はゴウダさんといっしょで楽しかったです』
「わーキズついた! っははは! じゃあね、イクヤさんが帰るまで、お家でいい子で待ってなさい。ゴウダには油断しないよーに」
 生真面目なあの子が、わかりました、なんてじつに真面目くさった返事をするから、通話が切れる直前に感じたのはゴウダの怨念じみた殺気だった。これはいよいよ死ぬかもしれない。声を張ったせいで喉が嗄れ、咳き込みながらドアと座席のあいだに身体を沈ませて笑っていると、車体が震え、ふたたび滑るように走り出した。
 呆れたようにキリヤマさんが言う。
「そういうことばっかり上手くなって、なにがしたいんです?」
「なにって、そりゃ……可愛い女の子に、カッコイイお兄さんだと、思われたいのー」
「馬鹿だ馬鹿だと思っていましたがきみは本物の馬鹿でした」
「キリヤマさんそれ正解」
 運転席の深いため息とともに、車は角を曲がって通りを外れる。
 日暮れまではまだ少し。
「あのさ……俺、ちょっと寝るから。二時間くらいドライブしてて」
「足代は貸しですよ」
「天羅の秘書が、そーいうこと言っちゃう?」
「私は御館様の小間使いですが、馬鹿とセロリは嫌いなので」
 キリヤマさんはきっといい笑顔だ。こっちがガキの頃からこの人はいつもこんな調子で、だけど、この遠慮のなさはいやじゃない。あの家にいた頃がふっとなつかしい。
 そんなふうに、朦朧と目を閉じかける、その一瞬の心地よさにまどろみながら、脳裏を巡るものが夢なのか現実なのか曖昧になってきた頃、思い出した。
 あの、目。
 微笑んでいた。色ちがいの。あの子のではなくて。ちがう。男の。
「……キリヤマさん、さ」
「なんです。寝るならさっさとお眠りなさい」
「ん、だけど……覚えてたら、おやっさんに、言っといてくれる……?」
 キリヤマさんの、返事はあったか。わからない。聞こえたような気もした。けれど。
 あの男、地祇の息子。
 まぎれもなく、よどみもなく、嘘偽りない親愛と、慈しみで、微笑んでいた。
 得体の知れない、おぞましいものが、歪んで、歪んで、そのうちまっすぐ、純粋になっていったような、色だ。 あの目、あの色は。
 ――気に入らない。
「あんたの従弟(いとこ)は、あれは、ダメだ。あれは……あれは……」
 いずれ争いを招く。
 けれど、その先は、言葉になったか、どうか――。


     ***


「一瞬で千九百七か所。連続で十二分四十八秒間。――なんの話かという顔だな?」
「申し訳ございません」
 テーブルを挟み、空になったソファの向こうに立つ黒服の男の表情はミラーシェードに隠れていた。この部屋にいた護衛で唯一、その眼鏡を壊されなかった男だ。
 地祇の息子は悠然と脚を組みかえながら、笑う。
「十一ある始祖の家系のうち、邪視の異能を具(そな)えるのは五つ。そのうちのひとつに、視界に映るあらゆるものを切り裂く、という邪眼がある。――太老サンジェルマンの家系に具わる能力だ。それは知っているだろう?」
「はい」
「その血脈の総領たるサンジェルマンが、文字通りひとつまばたきをするうちに、同時に切り裂くことの出来る箇所と、それを連続して継続できる時間が、千九百七か所、十二分四十八秒、だと言われている。おおやけに、ね」
 本当はどのくらい出来るんだろう――と、地祇の息子は知らないおもちゃを夢見るようにつぶやいた。くすくす、と無邪気な子供のような声は、部屋の広さと静けさに吸われ、思うほどには響かない。
 その右頬の傷もすでにふさがり、痕すら消えかけている。
「生太刀を、帰してよろしかったのですか」
 黒服が言った。
「あの程度であれば、いくらでも――お嬢様を奪い返せたかと」
「奪うだなんて。不穏なことを言ってはいけない」
 地祇の息子は苦笑する。
「もう何年、いや、十年以上前になるのだったかな……お前はその頃、お母様の指図でよそへ行っていたのか。けれど、話くらいは聞いただろう?」
「どのような」
「地祇の傍流……末席だった眷属まじりの家がひとつ、なくなった話さ」
 黒服が一瞬、息を詰めた。
 ミラーシェードの鏡面に、薄く、微笑んだ唇の隙間からのぞく、白い牙が映っている。
「あの日は蒸すような日で、空は赤くきれいな色だった。日が沈み始めてから、落ちきるまでかからなかったのさ。あの日、あの時、あの家にいたのは八人だったか、十三人だったか、すくなくとも生まれて間もない赤ん坊と、歩きはじめの子どもと、女がふたり、年寄りもひとりいたという――だが、だれも、残らなかった」
「それは、」
「鏖殺しだよ」
 こともなく地祇の息子は言い、歌うように続けた。
「なぜ人数がはっきりしないかわかるかい? お母様が天羅に頭を下げたのは後にも先にもあの時かぎりだというけれど、天羅が万禍識を連れて止めに来た頃には、もう、だれがだれだか、区別がつかなくなっていたのさ。女も、男も、子どもも、年寄りも。みんな切り刻まれて。人間の女をひとり、殺された、ただそれだけであの男は――同族の血を、ひとつ絶やした」
 それが、あれほど弱り、衰えてなお、畏れられ、憎悪され、命を狙われる所以なのだ。同族殺しの生太刀。あの男はその名の由来を、まざまざ示した過去がある。
 先刻、切り裂かれたのは同時に三十八か所。
 あの男があれ以来、血を摂っていないという話は聞いた。それでもなお異能を使う、その事実には素直に感心する。あの目、あの髪、肌、そしてあの異能であればまちがいなくサンジェルマンの血族だ。大始祖直系。現存する、ただひとり、一世の始祖。
 それも、そうとうに血の濃い続柄の――。
「……なんにせよ、生太刀がこのまま痩せ衰えて息絶えるなら、それほど穏便なことはない。そうだろう? そうなれば、あの子はかならず、僕のところへ帰ってくるのだから」
「万禍識が残ります」
「生太刀にくらべれば、天羅の狗なんてずいぶん御しやすい」
 それに、と、色ちがいの目が小気味よく細まる。
「この世には、同族殺しの生太刀がいて、その生太刀が唯一封じることのできない万禍識がいる。であれば……万禍識を征す存在もいるかもしれない、その可能性について、どうしてだれも、思わないのか」
「坊ちゃま」
 抑揚薄い黒服の声が、けれどこの時だけ、悲鳴のような響きを帯びていた。
 地祇の息子は目を閉じる。そして深く息を吸い、微笑んだ。
「冗談だよ。僕はいつも夢のようなことばかり言うんだ。そう、お母様に聞いているだろう? だからこれも、冗談」
 けれど――。
「あれは、いいな」
 だれもいない、空のソファについ今しがたまで座っていた、あの姿を思い出す。
 見抜かれているとわかっていて、なお、虚勢を張り、尊大に振る舞っていた。時折、本当に敵わないような気さえした。あの男。
 ――同族殺しの生太刀。
「欲しいなあ……」
 妹と、あの男、両方ともこの手に堕ちてきたのなら、どれほど素晴らしいだろう。
 そう思えば自然に、笑みが浮かんだ。

 

 愛に満ちて。












そしてここから本編ははじまりません。(どーん)



イチゴ・オレ(仮名)ことアキちゃんのお兄さんは、本編時間軸だと呼称『地祇』なので、名前はまあべつに付けなくていいかなと思ってげふげふイクヤさんが興味なくて名前覚えてないので「地祇の息子」で押し通しました。いい名前を考えていただければ採用させていただくかもしれませんので、よろしければ名付けてみちゃったりしちゃったり?

おやっさんは車好きなのでムダにたくさん所有してます。で、自分の秘書とかにホイホイ貸しちゃうから、あの国産車はもうほとんどキリヤマさんの私物。ゴウダがアキちゃん乗せてた車もおやっさんの、外車、のはず。おやっさん自身はクラシックカーを好みそう。おやっさん専属の運転手はべつにいるけど、運転いちばん上手なのはキリヤマさん。キリヤマさんはドライブ好きが高じて気付いたらプロもはだしで逃げだす腕前の人。おやっさんを乗せて走るには「キリヤマ検定」に合格する必要があるとか、そんな感じだと楽しい。ちなみにゴウダはちゃんと公的な免許をとったあとさらにキリヤマさんが運転教えました、アキちゃんは公的な免許はとってないけどキリヤマさんに教わったので運転できるし運転免許証も持ってます(ェ、 イクヤさんは運転荒いのに事故らない、タチの悪い男。ミッション車になんか乗せると市街地で峠のカーブ攻めるみたいな走り方します。三半規管に自信のないひとは助手席に乗っちゃだめ。

そしていまさらですがこの物語はフィクションです実在の人物・団体その他もろもろには関係ありません以下略! 設定的にいろいろヤバイ気がしてきたので主張しておく本当にいまさら!!(汗)

とりあえず、イクヤさんとゴウダの戦闘値とか技能とか、生太刀と万禍識のなにがすごいのかとか、なんとなく掴めてきた、ような気がする。そろそろ設定を詰めたいorz



さてー、次はなにを書こうかな?


関連記事
スポンサーサイト



Comments

name
comment
: URL

Edit  2011.10.29 Sat 22:57

イクヤさんが過去から現在まで凄まじく恰好良い……!!!
あれ、あれ、イクヤさんちょう恰好良い! 目に映るものを、まさに瞬きひとつの間で、しかも血なし(?)で! 大興奮でした。イクヤさん、真面目に最強だったんですね!
アキちゃんとゴウダさんは電話越しにもほのぼの可愛いですね〜vv そんなアキちゃんにもシリアスな、過去が……。ずっとイクヤさんのお傍で文句を言ったりお世話したりしていて欲しいです。
イチゴ・オレのお兄様……エルトベーレ(苺)、ミルヒ(ミルク)、とか……? 禍々しくても名前はほんわかだとギャップ萌えです!

長々とすみません;; 今回もにまにまさせていただきました!

燈青 尚真 : URL

2011.10.29 Sat 23:44

俺のオーバーヒートが治まりませんよ、卯月さん!!
感情が昂りすぎて、何から言っていいのかわからなくなってますスミマセンorz
生太刀と万禍識の関係がカッコよすぎて、悶えが止まりません(〃▽〃)
キリヤマ検定wwそれぞれの検定風景が目に浮かびますww楽しそうです(キリヤマさんが←
アキちゃんのお兄ちゃんに勝手に茜さんとか呼びそうになった俺を許してくださいorz

長々と失礼しましたー^^;

ミズマ。 : URL

2011.10.29 Sat 23:52

名前ほんわか、たぎりますねッ!←

いやー、イクヤさんカッコイイイクヤさんカッコイイイクヤさんカッコイイイクヤさんカッコイイイクヤさんカッコイイ……!
虚勢はりまくりの強がりまくりのイクヤさん( 〃▽〃)
イイ……ッ!!


イチゴ・オレの人も出てきましたねー。
あ、ああああアキちゃんのお兄さんんッ!?
しかもアキちゃん、そんな身の上の子だったの? ふ、不憫……( ノД`)
是非、幸せになって欲しいですね、彼女には。

イクヤさんとアキちゃんがラブ的になってもならなくても、アキちゃんのピンチで吸血してイクヤさん無双!とかだと私、すごい嬉しい。嬉しすぎてムー大陸にある卯月さん家(マテ)に押し掛けてしまいそうなぐらい、嬉しい……!

キリヤマさんもカッコイイですねぇvvv
キャラを作った(というか、必要だったんでひねり出しただけですが^^;)+名前採用していただいた身としては、こんなに美しくていいんだろうか、と^^;


そして本編が……始まらないとか^^;
このたぎりはどうすれば良いんですかあッ!!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2011.10.31 Mon 23:37

祭 歌さま
イクヤさんにラブコール、ありがとうございますーっ!(´∀`人)v
あの人は万全な状態だと真剣に最強ですよ、一瞬で斬れる場所の数ももっと多いですし! プラス力場と生太刀の能力も使えるので、無双状態ですbbb いまは弱ってますけども。本当は銃使いです(という設定を本文でまったく書いてない。←
そんでもってアキちゃんの過去は最初はもうちょっと悲惨だったのをあれでもなんとか『宵闇』レベルまで引き上げたましたげふげふ。アキちゃんはイクヤさんの思惑どおり、知らないところで起きてる事に気付いてないので、そのあたりの感じが可愛くってイクヤさんがんばっちゃうのかなー、と思ってみたり。
お兄ちゃんの名前提案ありがとうございます! でも日本名じゃないと付けられなくて;;; しかし、エルトベーレかわいいのでいただきます! おやっさんの六番目の奥さんの名前にしよう!(勝手に;;


燈青 尚真さま
最強と、最強に対して絶対無敵の存在――という、生太刀と万禍識の関係は夢のなかで決まってたまんまの設定なんですけど、最強とか無敵とか大好きな卯月の深層心理がよくあらわれてるなあさすが夢……と、思ってお気に入りの設定だったりします(笑)
感情昂ぶらせていただけて、卯月はめちゃくちゃ嬉しいです~~~~~~っ! がんばって書いたかいがあったv じつは何回か書くの挫折して本稿上げるまでにテイク5くらいっていう。
>キリヤマ検定wwそれぞれの検定風景が目に浮かびますww楽しそうです(キリヤマさんが←
キリヤマさんがwwwww 楽しそうwwwww まさしくwwwww 卯月も目に浮かぶようです、嬉々としてしごきまくってるんだろうなあ( *´艸`)クスクス
尚真さまも、お兄ちゃんの名前提案ありがとうございます! 茜! 闇の~は必然的に名前カタカナ表記になっちゃうので、アカネ、ですが。卯月「茜」って好きなんです、じつは、響きが。
どうしよう、アカネお兄ちゃんにしちゃおうかな……ウズウズv


ミズマ。さま
たぎりますね! どんなに悪役ぶってもイチゴ・オレ(仮名)!wwwww
そしてミズマ。さまが荒ぶっている……ふふふ、いいぞもっとやry(←自重。
イクヤさんがつねにあんな感じでハッタリ効かせまくって強がったあげく、陰でウーウーしてダウンしてます。キリヤマさんやおやっさんは、イクヤさんのなかで「身内の大人」分類なので、多少弱みを見せても平気、と思っててあんな感じです。こういう人けっこう好き///(お前が言うなしw
アキちゃん兄は、イクヤさんの墓参り話を書いたあと、リア充のゴウダの話がテイク2くらいの頃にふっと現れて、その頃からこのお話を考えていたんですけど、まひるちゃんに描いてもらった吸血鬼絵が本当にイメージそっくりすぎて! それまで、書こうかどうしようか迷ってたのはイッキに書く方向に傾いたっていう。
おかげでアキちゃんにはエライ過去が……いやでもこれでも不憫度は低くなったほうでげふげふ。ちなみにお兄ちゃんはヤンデレです! あれでも全力でデレてるんです! フォロー苦しいorz
>アキちゃんのピンチで吸血してイクヤさん無双!
――やばいこれたぎる。うっかり書きたくなってしまった卯月が、ここに(〃▽〃)
そうかこれを書けばミズマ。さまが卯月んチに遊びに来てくれるのか! でも本編はじまらないんです、まだ! まだっていうと予定があるようですが予定も未定!←
キリヤマさんは、口調が、なんかこう「あれ? こうだっけ? こう、こう……うわああ違和感がハンパないきっとこれちがうけどもう修正きかない!(困惑」って感じになりながら書いたので、ミズマ。さまのイメージとちがっていたら申し訳なく;;; ま、まひるちゃんの美麗絵で勘弁してください!(オイ、

朱鷺(shuro) : URL

2013.07.13 Sat 12:22

素直に感心・感動いたします。
素晴らしいですねぇ!

アキちゃんにお兄さまがいらしたとは!
そして、仔猫みたいに拾われたんだとは!
良いなぁ、仔猫。
いや、そっちじゃなくって。しかし、オッドアイの仔猫なんて美味しすぎるっ♪

なかなかスゴイ設定になって、背景になって、ああ、次第に解き明かされる闇の真実~♪ 感にぞくぞくいたします。
悲しいというか、切実に切ない過去を抱いていながら、現在は平和にアホを演じて、そして、そのまるでつかの間の、刹那の「穏やかな幸福感」を求めている。

ある一定以上の苦しみや苦悩を知ってしまったヒトは、やはりある特定の境地に至るんだろうな、という気がします。
手の中にある温かいものを守るために、必死に笑うこと、能天気を演じること、そうやってそれを本当の自分にすり替えていく過程。
いつか演じる自分が本当になるように。

壮絶なる美しさを感じます!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.15 Mon 00:01

朱鷺さま
コメントありがとうございますー! 設定の細部を詰めないまま勢いで書きはじめたお話なんですが、このあたりから徐々に、長く書こうという意識をもって設定を固めはじめています……本当は最初にしなくちゃいけないんですけれど(-д-;) 設定が微妙に変化していく部分等々ありますが、よろしければあしからずお付き合いいただけると嬉しいです<(_ _*)>

>アキちゃんにお兄さま
いたのです! じつはいたのです! この時点ではまだ名前決めてなくて、コメントしてくださった方々に提案していただいた名前からアミダくじで選んで「カヤ」になっています(*´꒳`*)

イクヤさんは虚勢とハッタリで生きてる感じで、長く生きたいとも思ってないから『刹那の「穏やかな幸福感」を求めている』たしかにそうです! イクヤさんは、わりと後ろ向きで、過去にひきこもりがちで、今のことにはわりと臆病で……と、ヒーローなのに結構ヘタレな感じなのですが、虚勢でもハッタリでもいいから笑って、能天気にして「強い自分」を演じながら本当の自分と摺り合わせしようとしてるのかなあ、と思いました。キャラとの付き合いが長くなってくると、そのキャラに対して理解を深めるために思考することが少なくなってきてしまうので、こうしてコメントをいただいて考えるきっかけに出来るのはすごく嬉しくて、ありがたいです。

comment form

Trackback

FC2Blog User

  1. Trackback