Aries.

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2012.01.03 Tue 闇の眷族、みたいな、過去時間。

なんとなく、サキさんを喋らせたいなあと思ってたぎったら1日で5ページ書ききれたっていう。なんだこの筆速。テンションとかモチベーションって大切ですね!←

というわけで、追記から若いゴウダ視点でサキさんの話。ちなみに闇の眷族なんぞや?という場合はこちらをどうぞ。



ではでは、追記からどーん。










「――三ヶ月だって」

 病院の帰りに告げられた言葉の意味はすぐにわかった。平日の午後。歩道には人もまばらだ。梅雨前にしてはすこし暑い。ただそれだけの、なんの変哲もない初夏。
「あんなとこに付き合わせちゃって、ごめんね? ゴウダくん」
 すこし前を歩きながら、きみはくるりと振り向いてそんなふうに言った。
 学校にいた頃はいつもふたつに分けて結んでいた髪をおろし、足首までかくれる生成りのワンピースの裾をゆらめかせながら、そのまま後ろ歩きに進んでいく。薄手のカーディガンは長袖で、ストールを巻いた首筋が汗ばんでいた。
 暑いのなら、もっと涼しい格好をすればいいのに。
 あるいはあの下に噛み痕があるのだろうか――ふっと脳裏をよぎる思考の不快さで眉根が寄るのが、自分でわかった。
 きみは笑う。
「ごめんね」
「べつに……前、向いて」
「心配してくれるんだ? 大丈夫だよ、このくらい、転んだりしな、」
 言ってるそばからきみは歩道の溝にかかとを取られてあおのいた。
 わっと声を上げ、宙を掻くきみの手を掴まえて引き寄せる。思った以上の軽さに驚いた。加減がきかず、たたらを踏んで今度は前のめりになった身体をそのまま抱き込む。勢い余って尻もちをつきそうになるのはどうにかこらえた。
 ほっと息を吐いたのは同時。
「気をつけろ」
 身体を離しながら言うと、きみはちいさくうなずいた。苦笑して。
 またすぐに歩きだすだろうと思えば、けれど、うなずいてじっと自分を見下ろしたまま、道端に立ち尽くす。そのそばにいると、ぽつぽつとすれ違う人の足音や、通り過ぎる車や、ほかの何か、雑多な街の音がやかましくて、なんだか妙に静かな気がした。
 不安になる。わけもなく競り立てられているような気がする。
「……どうした?」
「ん。ちょっとね――」
 細い手が、まだふくらんでもいない腹をそっと撫でた。そうして。
 困ったなあ……と、きみがつぶやく。
 その、意味は。
 問いかけるより早く、きみが顔を上げた。いつものように。飄々と、名案を思いついたこどものような顔。調子のいい笑顔。
「――ねえ、ゴウダくんのって言ってもいい?」
「殺し合わせたければな」
 むっとしながら答えると、そうだよねえ、ときみはわざとらしく嘆息して肩を落とし、そのままとぼとぼ歩きだした。
 どうしようかなあ、どうしようかなあ――繰り返す背中は、けれどそれほど困っているように見えなかった。それもなんだか不安に思う。困っているようでないのなら安心してもいいはずなのに。どうしてだか、ずっと。
 きのう、きみから電話がかかってきてから、ずっと。
 あいつとふたりで家を出て、ふたりで暮らして、しあわせに過ごしているのではなかったのか。その幸福は俺の知るところではないけれど。しあわせなんじゃないのか。
 ――不快だ。
 考えるほど外界の音が遠ざかるような、景色がゆがむような、手当たりしだいに何もかも壊してみたくなるような、そんな気がして、気持ちが悪い。
 こんな感情は知らない。知りたくもない。感じたくもない。俺は。
「……あいつに、言わないのか」
「考え中。だから、しばらくナイショにしてね」
「どうして」
「心の準備がいるの」
「どうして」
「もしもイクヤが喜んでくれなかった時、あたしが、傷つかないために」
 きみはそう言って振り向いた。
 それでようやく、自分が立ち止まっているのに気がついた。
 手を伸ばしても届かない場所で、きみが笑う。
 いつもどおりに、ひとを遠ざけるような優しい顔で、笑う。
「イクヤはあたしだけって言ってくれた。あたしもイクヤだけ欲しいと思った。それだけで良かったの。嘘じゃないよ。それだけで良かったの……だからね、それ以上は、いまはまだ……ちょっとだけこわい」
 これもナイショね。わざとらしくおどけてみせる、きみが。
 ――不快だ。
 ふたりだけで家を出て、ふたりきりで暮らして、ふたりして俺を置いていったくせに。俺を残して、俺のあずかり知らないところで、ふたりで、しあわせなのだと思っていたのに。なにを、いまさら。
 こわいのなら、泣けばいいんだ。あいつのそばで。泣けばいいんだ。
 自分があいつにとってどれほどの存在かもわからないで、それでもあいつに選ばれた。あいつを連れて行ってしまった。俺を残して。そのくせ、なにを。
 いまさら、俺を巻き込むな。
 どうせ手を伸ばしたってとってくれたりしないのだろう。きみも、あいつも。
 気持ちが悪い。不快さに吐き気がする。
 こんな感情はいらない。吐き出すならもっと気の休まるものがいい。
 もっと、わかりやすくて。
「……俺は、」
 投げ出してしまえるような。
 だれかに叩きつけられる感情がいい。

「俺は、あんたなんかきらいだ」

 そう言うと、きみは一瞬きょとんとした。
 それからだんだん目を細くして、口端を上げて、にんまり笑う。たちの悪い笑顔だった。
 いやな感じはしなかった。
「ゴウダくんはあいかわらず優しいねえ!」
 きみの声が大きく響く。たまたま通りすがった人が驚くくらいには。
 けれどきみはおかまいなしで、なんだか嬉しそうに笑っていた。
 あんたなんかきらいだと言ったのに。
 わけがわからない。そっちもあいかわらずだ。むかしからずっとそうだ。
「……帰る」
 どうしていいのかわからなくなって、顔をそむけてきびすを返す。
 けれどすぐに捕まった。手を握り強引に引き戻される。きみはそのまま歩きだす。
「帰ってもいいからコンビニ行こうよ。アイスおごってあげるよ?」
「いらない。帰る。あんたといると、調子がおかしい。いやだ。帰る」
「ゴウダくんって体おっきいのにちょっとこどもみたいだよね。イクヤが可愛がってるの、すごくわかるなあ」
「可愛がられてないだろ……」
「うそうそ。すっごく可愛がってるよ。イクヤって本当にどうでもいい相手にはウザいとか消えろとか埋まってろとか言わないでしょ。全部の暴言に愛が詰まってるから」
「……本気で言ってるのか」
「どうかなー?」
「……」
 こういう言動はあいつにそっくりだ。手を振り払っても気分を悪くしたようでもなく、もう一度つないでくるでもなく、すこし前をすたすた歩いて行く。
 おとなしくついて行くのもどうかと思ったけれど、わざわざ離れるのももう億劫だ。
「――ねえ、ゴウダくん」
 振り向いて、きみが言う。後ろ歩きに進みながら。
「今日はありがとうね」
「……べつに」
 いいけど、と言う前にまたきみはつまづいて転びそうになって、それを支えて抱き起して、こっちはため息を吐いてそっちはばつが悪そうに笑った。

 あの時、きみは気付いていなかっただろうけど――。
 倒れそうになりながら、細い腕でとっさにその腹を守ろうとしていたことを、俺はたしかに憶えている。





「それじゃあね、ゴウダくん。今度はうちにも遊びに来てね」
「……気が向けば」
「あたし、料理は上手なんだよ。ごちそうするよ? 甘いもの作ってあげるし」
「しつこい。わかった」
「来てくれる? 絶対よ? イクヤもきっと喜ぶから。約束だからね」
「わかったから……もう、はやく、帰れ。あいつが心配する」
「どうだろうねえ? ふたりで試してみよっか?」
「いやだ」
「ちょっとは考えようよ。まったく、しようがないなあ」
「はやく帰れ」
「わかりました、バイバイ。またね」
「ああ……また、な」












ちなみにゴウダはこの時点で高一です。ていうかイクヤさんもサキさんも同い年。

イクヤさんは体力ありあまってるのをいいことにガテン系の仕事とかバイトとか早朝から深夜までみっちりかけもちして生活費稼いでました。サキさんはお家で待ってる係。夜遅くに帰ってきてサキさんの寝顔見ながらご飯食べて、ちょっとだけ寝て、朝は出かける前にサキさんをハグすればすごく幸せ、という当時のイクヤさんの低燃費な暮らし振り。イクヤさんとサキさんのことを考えてる時はつねに脳裏に『15の夜』とか『I LOVE YOU』が流れてるので、あのふたりはそんなイメージなのかしらと思いつつ。まともに聞いたことがないからサビが延々とリピートしてるだけなので、大変恐縮ですけども(汗) ちなみにゴウダはふつうに学校通ってました。イクヤさんもサキさんもいなくてこっちはさびしいスクールライフ。

サキさんは言動が今時間のイクヤさんにそっくりで驚いた。今時間のイクヤさんがサキさんにそっくり、なのかな? 若いゴウダはサキさん相手だとわりとガツガツ物を言う子で面白かったです。三人の中学時代も見てみたいなあ。たのしそう。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2012.01.03 Tue 13:03

いま外なのにー!
人混みの中、歩いてるのにー!
にやにやがー! 止まらないーッ!www


あー、しかし、あれですね。
産婦人科の付き添いかよ的なシチュエーションもあれですけど、
なんてゴウダはかわいいんだッ!!!!щ(゜▽゜щ)www
なんでサキさんはイクヤさん選んだのかなぁ、ゴウダさんすげえかわいいのになー。イクヤさんの方が面倒な気がすんだけどなー(酷)。

サキさんはあんな子ですか。……うん、しゃべり方似てるけど、イクヤさんの数倍魅力的!←
当時のイクヤさんは、今とは違う感じなんでしょうねぇ。サキさんにイクヤさんとゴウダさんは振り回されてたんでしょうねぇ。
平和だった三人の中学生時代が読みたいものです。


で、この後、イクヤさんに赤ちゃんのことを告げられぬまま、ゴウダさんと再び会うこともなく、サキさんは逝ってしまう気がするんですけど……。
サキさんに赤ちゃんがいたことは、ゴウダさんがイクヤさんに、絶対言えない、言ってやらない秘密になった、という気がするんですけど……(つд;*)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.01.04 Wed 00:56

ミズマ。さま
ニヤニヤありがとうございますー! 歩きながらwww それはつらい、視線とかwww
>なんでサキさんはイクヤさん選んだのかなぁ
ホント、なんでイクヤさんのほう選んじゃったんでしょうねイクヤさん確実に面倒くさいのに←
ほっとけない感じとかがいいのでしょうか。サキさん、イヌよりもネコ派だったのかもしれません(笑)
イクヤさん、むかしも表裏あったけどいまより奥(っていうか、根?)は深くなくて、わりと単純に上辺のテンションが高いだけの少年でした。あんまり考えてない分いまよりウザかったかもしれませんw
そしてイクヤさんとゴウダがサキさんに振り回されている学生時代、ミズマ。さまに読まれているwwww

「ゴウダくんキムチ食べないの? 辛いの苦手だっけ?」
「……好きじゃない」
「そっかー、よしよし、あたしが食べてあげる。プリンと替えっこしてね」
「あ、ありがとう……」(デザートが増えて嬉しい)
「サキー、サキー(*゚Д゚)ノシ」
「なに?」(あからさまに平坦な声)
「俺、甘納豆きらいなんだけどぉ」
「だから?」(あからさまに平坦な以下略)
「食べてほしいなー♪」
「むしろあたしの食べてよ」(あからさまに以下略)
「うっ……」
「食・べ・て?」(めちゃ可愛い笑顔)
「ぅううううううううっ(´;ω;`)」(食べた)

なんでサキさんイクヤさんにドSなんだろう……?←
そしてこの学校の給食の献立これでいいんだろうかwwwww サキさんどうやら仲良くなると人をからかうのが好きなタイプらしいです(笑)

>で、この後~
お察しの通りです(。´Д⊂) ただ、赤ちゃんのことだけは、イクヤさん知ってるんです。サキさんが亡くなった後日おやっさんに恫喝された時にいっしょに聞いた、と、思われ。イクヤさんがアキちゃんのことを「娘みたい」って思ってるのは、そのあたりの関係があるからだったりします。ゴウダは約束を守って黙ってました。
たぶんゴウダも泣きたかっただろうなあ、と思ったり。

朱鷺(shuro) : URL 全部の暴言に愛が詰まってるから

2013.08.18 Sun 13:53

↑これ、ものすごくよく分かります。
本気で本当に嫌いな相手には、だいたい、ヒトって口きかないからね。
いや、その人に寄るのかも知れないけど、朱鷺も身近な友人たちも割とそのタイプ。
絡みたいのは愛情だよね。
そして、社会性がほんの少し育って、とりあえず、自分の大事な相手に恥をかかせないように、とか、仕事上どうしても仕方がないっていうイヤな相手にはその場限りの最高に愛想を振りまくかな。
何を言われてもどんなハナシを振られてもにこにこしてるってのは、その相手が本気でどーでも良いから。本来なら、そんなコトしない方が良いよとか、そんなコト言わん方が良いよ、ってことを教えてあげるべき場面でも言ってやらない、ってやつ。というより、もともと相手に興味がないからハナシを聞いていない、っていうか(^^;

まぁ、良い。

サキさんの物語がすごく知りたかったので、これはオイシイ一話でした。
そして、会話の中に見え隠れするイクヤさんに惚れたわ~
サキさんとイクヤさん、本当に夢のようなカップルでしたね。
尾崎の歌が流れるのがすごくよく分かる。尾崎の歌った世界を現実で生きている二人だったんだな、って感じです。

サキさんの子ども、…ああ、見たかったなぁ、今、その子がいないってことは、きっと生まれ来ることはなかった、或いは死んじゃったんだね。
生きることに必死で、ほんのささやかな幸せをそっと手の中であっためていた若い二人。
うおおぅ、もう、それだけで飽和状態で、押しつぶされそうな不安の中、お互いがお互いを守りたいと思っていたことだけ、切なく伝わってきます。

ゴウダくん派が多いのも分かるけど、やはり朱鷺はイクヤさんだな。そして、サキさん、彼女はものすごく守ってあげたい子だ。
強さもしなやかさもしっかり抱いているのに、どうしてか儚い感じがする。そう、弱いなじゃないんだよ。
イクヤさんを懸命に守ろうとしているけど、でも、彼女の背負うものは大きすぎて危険過ぎたんだろう。
彼女はきっと最後までイクヤさんを守りたかったんだろう。
なんだか、そんな気がしました。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.08.19 Mon 21:11

朱鷺さま
おっしゃるとおり、本当に興味のない相手、嫌いな相手には口をきくのも面倒だと思うんですよね。
悪態を吐いてるのは、そうしても受け止めてもらえる、みたいに甘えてるんだと。イクヤさんは根っこの部分は甘えたい人なので、幼馴染のゴウダには遠慮ないです。ゴウダはたまったものじゃない(笑)

サキさんのこと、興味をもっていただいて嬉しいです。このあとにもちょくちょくサキさんのお話が出てきます。サキさんとイクヤさんの関わり合いは、すでに終わってしまった、取り返しようもなく失敗した過去になるのですが、それでも二人にとってはその時に出来る最大限の幸せになるための足掻きで。サキさんがいてこその今。サキさん(と、その子ども)がいたからこその、アキちゃんとの関わり合い、みたいな感じに書けていけるといいなあと思っています……なかなか筆が遅くて我ながらジリジリしていますが(;-ω-)

サキさんは弱いんじゃない、でも守ってあげたい――と、思っていただけたのも感動です。すごく。
当時のイクヤさんは、サキさんその「弱くはないけど守ってあげたい」儚さみたいのがまだわかってなくて、サキは強いししっかりしてると思ってて。サキさんのそういう面に気付いてたのは、ゴウダのほうだったんですけど、でもサキさんが選んだのはイクヤさんだったので(ということをここで言ってしまっていいのか、卯月。そこを察していただけるお話を書くべきじゃないのか卯月;;;)

イクヤさんとサキさん、それからゴウダの関係は、突き詰めていくとややこしかったり悶々としたりしていくのですが、今後もお楽しみいただければ幸いです。

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