Aries.

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2012.02.11 Sat 闇の眷族、みたいな、アニキと呼ばれた日。

というわけで、ミズマ。さまにうちの吸血鬼でお話を書いていただきましたっ!ヾ(´∀`*)ノ

お許しをいただいたので、追記よりまるっと転載いたします。どどーん☆






   アニキと呼ばれた日

 オレンジ色に染め上げた髪。気合を入れて剃った眉。
 ぶかぶかのジーパンは当然腰以下で履き、威嚇するように丸めた背中にはスカジャン、ではなく、この春からスーツのジャケットを羽織るようになった。
 どこからどう見ても不良、ヤンキー、社会のゴミと呼ばれる類の青年であるヒロは、だがしかし、れっきとした吸血鬼なのであった。
 吸血鬼総領天羅の傍系も傍系、天羅本人ですら、
「ええっと、そーいえばそんな親戚もいた気がするなぁ」
 という程度の家系であろうと、れっきとした総領天羅家の血筋を引いた、嫡子であった。
 地元の仲間の間では闇の堕天使、血染めの悪魔などの二つ名を持ち、いわゆる「ぶいぶい言わせていた」彼は、この度とうとう天羅の下で修業を積むこととなった。数年天羅の下に仕え、学び、いずれは実家を継ぐ予定だ。
 いつもツルんでいた仲間たちからすれば、頭ひとつどころか体ひとつ以上飛びぬけた出世と言える。
「ヒロさん、おたっしゃで!」
「オレらのホコリっす!」
「天羅なんてシメて下さいよ!」
「ヒロさんパねぇから、すぐ天羅の右腕になれますって!」
「それどころか新しい総領家作るんじゃね?」
「マジか! ヤベー!」
 仲間たちの期待を一身に受けたヒロは、意気揚々と天羅の家に入る。
「今日からお世話んなります。ヒロって言います」
「ああ、はいはい。聞いてるよ、よろしくねー」
 重厚で高そうな机に座った、いかにも軽そうなおっさんが天羅その人だという。
 てっきりゴットファーザーみたいのを想像していたヒロは肩透かしをくらった気分。
 横に控えた男は秘書っぽくて、いかにもという感じなのだが。
「んじゃま、とりえずヒロくんには彼の下で色々覚えてもらうから」
 そう言って天羅に紹介されたのは、見るからにそのスジの人間とわかる、危険な雰囲気の大男だった。
 黒髪、黒服、黒ネクタイ。寄らば斬る、といった雰囲気を醸し出すその男はゴウダと言うらしい。
 ヒロは思った。
(上等じゃねぇか。まず、コイツから俺の舎弟にしてやる。
 俺のサクセスの始まりとして、これぐらいの敵を乗り越えねぇと、面白くねぇ!)
「よろしくお願いします」
 言葉だけは丁寧。言葉と同時に力場も使う。吸血鬼の力の強弱はサイコキネシスの強弱によって決まると言っても良い。地元の仲間の間では、右に並ぶものがいないほど、強力な力場の使い手であるヒロ。
 ヒロはまずこのいかつい大男へのジャブ代わりとして、力場を使って彼を強く押した。
 ただの人間であれば大きく吹き飛ぶほどの力だ。
(さぁて、天羅お抱えの吸血鬼ってのは、どれほどのモンなんだか、見せてくれよな!)
 すぐさま報復の力場がヒロを襲うのか、はたまた力場を相殺して何事もなかったようにするのか。
 身構えるヒロ。
 だが、彼の予想は裏切られる。
「!」
 抗いもせずに、大きく吹き飛ぶ黒ずくめの大男。
 大きな音をたてて壁にぶつかると、そのままずるりと床に倒れた。
「……え?」
 予想外の事態に思わず声が出るヒロ。
 それを眺めていた天羅は「あー」と呻き、横に控えていた秘書は冷静に咳払い。
「彼はゴウダと言います。本来ならば自分で自己紹介させたかったのですが」
「……はぁ」
 ゴウダ、という名の男は完全に気を失っているように見える。
「あなたの最初の仕事は、彼をそこのソファに寝かせることですね」
「はぁ」
 この一件でヒロは確信した。
(天羅っつっても、大したことねぇじゃん)
 自分はもしかしたら、天羅の中でも一、二を争うほど強いんじゃないか、と思うヒロ。だが、初日に言い渡されたように、ゴウダの下に着いて回る日々を送っていた。
(自分より弱ぇヤツの下に、どうしてつかにゃなんねぇんだよ)
 ここでの生活にまだ慣れていないからか、と思っていたが、それが数週間も続けば思い込むには無理がある。
 しかもこのゴウダという男、むっつりと黙ったままで面白くもなんともない。
 天羅の運転手のような仕事をしていて、出かけるときはヒロがその助手席に座る。ごく稀に夜会に出るときもひっそりと壁際に立ったまま。一応彼の下についているという形のヒロである。ゴウダが静かに壁際に立っているというのに、自分だけ夜会を楽しむというわけにもいかない。色っぽい女どもや美味そうなご馳走を前にしても我慢と忍耐だけが友達だ。
 時々、ゴウダはヒロのことが見えていないんじゃないか、と思ったことすらある。だが一応、ほんの一瞬程度だが、ごくたまにこちらに視線を向けてくるので、ちゃんと認識はしているらしい。
(こいつの声も、一回ぐらいしか聞いたことねぇしな)
 そしてヒロは思い至る。
(こいつ、俺に吹っ飛ばされたこと、根に持ってやがんのか)
 だからヒロに何も言わないし、何も教えようとはしない。
(嫌がらせ、ってか)
 思わず舌打ち。だがそんなことぐらいで腹を立てるのは馬鹿らしい。
(小物の嫉妬ってヤツか。これだから、大物んなるのはツライぜ)
 懐の深いところ見せてやんぜ、というわけで、ヒロは特に天羅やキリヤマ(あの秘書の名前らしい)に言いつける気はない。
(ま、いずれ俺の偉大さもわかんだろ)
 この下積みもいずれ自分の糧となるだろう。
 そんな日々が続く中で、ゴウダが天羅の仕事とは無関係そうな場所へ行くことが何度かある。
 それはとある街中の繁華街。ごちゃごちゃとした雑居ビル。
 黒塗りの車を横付けして、無言で降りるゴウダ。後に続こうとすると、珍しく彼から視線を向けられた。
「ついてくるな」
 そう言っているようで、ヒロは助手席に戻る。
 ゴウダは小一時間ほどその中で過ごし、車へと戻ってくる。
「なにやってたんすか」
 興味本位で聞いてみた。非常識なほどに無口なこの男からなんの返答も期待してはいない。だが興味はあった。
「……おまえには、関係ない」
 低く、 小さな声は微かに拾えるほど。だが確かにヒロに届いた。
(ふぅん)
 ヒロは思う。
(こいつの大事なモンが、あそこにあるってか)
 その日もいつものようにゴウダは雑居ビルの中へと消えていく。それを助手席から見送るヒロ。また小一時間ほど帰ってこないだろう。
 ヒロはおもむろにスマートフォンを取り出してアプリをいじり始めた。キノコ栽培もいいけど射的もなかなか面白い。
 その時。
 最初は地震だと思った。
 大気を揺るがす振動。ヒロの内臓を振り回すような振動。
 彼は助手席から転がり出る。
 地震などではない。
 空からぱらぱらとガラスの破片が落ちてくる。
 ヒロは見上げた。ゴウダが消えていった雑居ビルを。
 ビルの窓からはもくもくと立ち上る真っ黒の煙。赤く舌を伸ばす炎。
(――爆発、だ!)
 ヒロは走り出す。雑居ビルを駆けあがる。
(あいつ、ヤベェだろ!)
 いくら無敵の吸血鬼だろうと、近距離で爆発をくらっては無傷ではいられない。しかもヒロの力場をちょっとくらっただけで吹き飛ぶほどのゴウダである。この爆発に対し、バリアなど張れているとは思えない。
(無事、かッ!?)
 爆発があったであろう部屋のドアは吹き飛んでいた。
 ヒロは迷わずそこへ飛び込む。
 黒い煙が充満していて、室内の様子は把握できない。
「おい、無事かッ!?」
 叫びとともに力場で煙を押し出した。ずるりと動いた黒煙は外の空気と入れ替わり、室内の様子が次第に顕になる。
 ひどい有様だった。
 ソファなどの家具は焼け焦げ、部屋の隅に吹き飛んでいる。壁や床は煤で汚れ、カーテンや紙片はまだぐずぐずと炎がくすぶっていた。
(あいつは……?)
 ぐるりと首をめぐらす。
 見回し終える前に、ヒロは背後に風を感じた。咄嗟に避けると、すれすれでナイフの鋭い一撃が宙を裂く。
 言葉もないままに謎の男に襲撃されるという事態にヒロは眉を潜める。だが謎の男の動きは力場によって強化されたもの。人間の動きでは当然ない。
「お仲間かよ!」
 ヒロは力場を一点に集中させる。ナイフの刃を宙で固定させる。動かなくなるナイフ。動揺する男に渾身のボディブローを叩き込む。
「おぉッ!」
 雄叫びとともに拳を振りぬく。先ほどの爆風によって、窓ガラスはあらかた吹き飛んでいる。男は綺麗な放物線を描いて、ビルの外へと吹っ飛んだ。
 それを見届けることもなく、ヒロは振りぬいた拳を脇へと戻す。
 地元ではケンカに明け暮れた彼である。そこで養われた勘のようなものが、これで終わりではないと告げていた。
 一人、二人と物陰から動き出す影。ゴウダではない。おそらく、このビルを爆破したものたちだろう。しかも、同じ吸血鬼だ。
「なんだってんだよ」
 呻きながらも、気分は高揚してくる。
 地元では破壊神の名を欲しいままにしたヒロである。天羅の下に入ってからは毎日暴れることもなかった。いい加減、体が鈍ってしまうところだ。
 相手が誰だか分からない。だが、曲がりなりにも天羅の部下であるゴウダが入ったビルに襲撃してくるのであれば、敵と考えて問題ないだろう。
「いいぜ、こいよ!」
 ヒロの挑発に乗ったのか、謎の襲撃者は身を宙に踊らせた。

 ヒロの強さを要約すると、「収束」という一点に尽きる。
 高速で移動するものにだって、彼は力場の焦点を当てることができる。ピストルの銃弾を止められる吸血鬼は数多くいるし、止められない方が少数というものだが、その銃弾を思い通りの場所でピタリと止められるのものは数少ないだろう。
 ヒロより遥かに強い力場を使うものにでさえ、そうやって対抗してきた。
 振り下ろされる腕に焦点を当てる。そこに釘付けにすればそいつはもう動けない。その隙にヒロは側頭部に拳を叩き込んだ。回し蹴りでも派手に決めたいところだが、敵が複数いるこの状況ではそうも言っていられない。
 迫りくる攻撃をかわし、あしらいながら力場を収束させて対抗する。
 だがいかんせん敵しぶとかった。ヒロの攻撃を受けながらもしぶとく立ち上がり、次第にヒロの力場の使い方にも慣れてきた様子も見れる。
(くっそ)
 対するヒロはだんだんと集中力がなくなってきた。
(このままだと)
 負ける、そう思ったとき、襲撃者が引いていく。波が引くように。そして、眼の端に映るキラリと光るもの。
 襲撃者が持つ、手のひら大のそれは、
(手榴弾……ッ!?)
 ピンが引き抜かれ、投擲される。
 ヒロが得意とするのは収束であり、バリアなどとして使える拡大ではない。
(ヤベ)
 思う間もなく、衝撃がきた。



 死んだ、と思ったけれど死んでいなかった。
「あれ?」
 いるのは天国ではなく、相変わらず煤けた雑居ビルの一室。
 襲撃者たちも茫然としている。
 がらり、と動いたのは最初の爆発で倒れた本棚だった。スチール製の本棚はひしゃげていたが、その下にいるものは無事だったようだ。
「ゴウダ……さん」
 黒ずくめの大男は、いつものようにむっつりと押し黙った様子で本棚の下から出てきた。
「ケガとか」
 ないですか、と言いかけた言葉は、ゴウダの下から這い出てきた少女を見た瞬間になぜだか飲み込んでしまった。
 煤で汚れているとはいえ、将来性のある美少女。
(小一時間の理由はコレかよ!)
 ゴウダは少女を抱え、本棚から這い出た。そしてさも大事そうに彼女を下すと、ぱたぱたと埃を払う。
 少女の白い頬についた煤を指で拭おうとして、余計にその顔を汚してしまう。
「あ、あの、……すみません」
「?」
 何のことかわからずに首を傾げる少女。
「顔が、汚れてしまいました」
 狼狽えた、項垂れたその様子は、とてもギャングスタ然とした大男には似合わない。
「ゴウダさんのせいじゃ、ありません」
 少女にそう言われて、ようやく襲撃者の存在を思い出したらしいゴウダは、安全そうな場所へ彼女を誘導してから、ようやく襲撃者へと向き直った。
(なんだかなぁ)
 毒気の抜けた気分でその様子を見守っていたヒロは、気付いた。
(そーいや、手榴弾はどこ行ったんだ?)
 ゴウダは右手を振った。
 そこに下りてくるのは、先ほど投擲された手榴弾。力場に覆われたそれは、今まで部屋の中に浮かんでいたらしい。
 どうするつもりだ、と思っていたら、力場の包まれたまま手榴弾が爆発した。
「!」
 手のひら大の力場の中で破裂したとなれば、どれほどのエネルギーになるだろうか。思わず身を庇ったヒロだったが、実際には爆発の振動どころか音すら聞こえてこなかった。力場から解き放たれた手榴弾の残骸が、ゴウダの手の中からぱらぱらと落ちていく音しか聞こえない。
(……ウソだろ)
 ヒロの背中を冷や汗が滝のように流れる。
 これほどの力場を持つものなど、見たことがない。話に聞いたりもしていたが、噂だったり大昔のおとぎ話だと思っていた。
 最初の爆発にあったというのに怪我ひとつ負っているように見えないのは、同じように力場でバリアを展開していたためか。
 ゴウダは襲撃者を見た。
 黒ずくめの姿の中で、その双眸だけが禍々しく、赤い。
 襲撃者は逃げようとしたのだろう。それはそうだ。目前であれほど強固な力場を見せつけられたら誰だって逃げようと思う。
 だが、誰も動かない。
 ヒロは気付く。
 ゴウダの力場によって、襲撃者はその場に固定されているのだと。
 襲撃者はおろか、部屋の中ではなにも動かない。先ほどまで燃えていた火は消え、ぼろぼろに垂れ下がっていたカーテンも静止している。
(まさか、一部屋全部、固定してるのか?)
 ヒロの喉が我知らず鳴った。
「おまえたち」
 ゴウダは静かに口を開く。
「覚悟は、いいか?」
 そのセリフに痺れたのは、襲撃者だけではなかった。



 ヒロがゴウダは万禍識であると知ったのは、その後のことだった。
 吸血鬼全てから嫌われる存在。だが今となってはゴウダを尊敬する一因が増えたにすぎない。
「すっげ! ゴウダさん、万禍識なんすね! すっげ!」
 雑居ビル襲撃に遭遇して以来、ヒロはゴウダに完全に懐いた。
「アニキって、呼んでもいいすか!?」
「……」
 ゴウダがどんなに無言を通しても、仔犬のようにまとわりついていく。
「アニキが最初、俺に吹っ飛ばされたのは、俺を諌めるためだったんすねー。天羅のおやっさんの前で軽々しくはしゃぐな、って。ホント、すんませんした!」
「……」
「あの襲撃者を無言でバッタバッタと……なんか、サムライって感じでしたね! 痺れました! 超カッコいいっす! イケてるっす!」
「……」
「あ、飲み物どうすか? ホットミルク、お好きっすよね? いいすよね、ギャングスタな外見でホットミルクとか。ギャップに女どもはキャーキャーくるんすよね。あ、女どもなんて煩わしいよね。大丈夫す。俺が露払いさせていただきますから! ゴウダさんば、存分にアキさんとこいって下さい!」
「……」
 その様子を遠巻きに眺めていた天羅とキリヤマは、同時にため息をついた。
「あれ、困ってるよな」
「ええ、盛大に困ってますね」
 再び同時に息を吐く。
「誰ですか、『ゴウダに弟分をつければ自立心とか責任感が目覚めるんじゃないか』なんて言ったのは」
「私じゃないと思うぞ。たぶん」
「了承したのは御館様ですよね」
「その論法はひどすぎるだろ」
「最初、ヒロくんに吹っ飛ばされたのは、まさか初対面でそんなことする人がいるとは思わなかったから、とゴウダ言ってましたね」
「あのあと、泣いてたよな」
「泣いてましたね」
「人間不信、進んだんじゃないか?」
「『早くチョウチョに生まれ変わりたい』って言ってましたよ」
 そして天羅の主従は三度同時にため息を吐いた。
「どーしよっかねぇ」
「どうしますかね」
 二人が見守れながら、ヒロは熱弁を大いにふるう。
「覚悟は、いいか? なんて、俺も言ってみたいす!」
「……」
 対するゴウダは表情をぴくりとも変えないが、天羅とキリヤマが推測した通り、今にも泣きだしてしまいそうなほどに困惑していたのだった。


          むしろゴウダがアニキと呼べばいいのに。了






そしてボーナストラック!




 ヒロとゴウダは天羅の前に立っていた。
 重厚な机に座ったアロハ姿の天羅に、ゴウダは深々と頭を下げていた。
 ヒロがビルの外へとぶっ飛ばした男は、見事に彼らが乗ってきた黒塗りの車の上へと落ちていた。
 黒塗りの、すごく立派で高そうな車は、フロントガラスも粉々に砕けており、屋根もへこんでおり、サイドミラーも外れていた。
 大破、であった。
「すみませんでした」
 潔い一言と共に頭を下げるゴウダ。
 それを見る天羅はやや困惑顔。
「いや別に良、くはないけど、良いんだけど、どうして車壊しちゃったのかな?」
「考えなしに暴れてしまって、すみませんでした」
 だがゴウダはその一点張り。
 そもそも口下手で、たまに喋っても要領を得ないゴウダの言葉である。そのおかげで天羅もキリヤマも、随分と理解力が鍛えられた。
 だが今回は、どれだけ推測しても事の次第がわからない。
 天羅はため息をついて、傍らの若いのに視線を向ける。
「ヒロくん、キミはなにか知らないかな?」
 向けられた視線はなにげないが、それだけに、重い。
「あ、あの、俺が」
 言いかけたが、止められた。
 天羅からは見えない位置で、ゴウダに服の裾を引かれていた。
 口を開いたまま、驚きの表情でゴウダを見るヒロ。彼のその動揺をかき消すように、ゴウダは口を開いた。
「すみませんでした」
 それに応じたのは天羅のため息のみ。
「もう、行っていいよ」
 そして二人は天羅の前から辞したのだが、
「なんで、俺のこと庇ったんすか」
 重厚な扉が閉まってすぐに、ヒロはゴウダにそう問いかけた。
「あれは俺がやったんじゃないすか!」
 すると、ゴウダはヒロを見ることなしに、重々しく口を開いた。
「ヒロは、俺が任されてるから。責任は俺がとらないといけない」
 先刻の戦いで、ゴウダの強さは嫌というほど目に焼き付いている。鬼神のような暴れっぷりだった。それは自分が地元で暴れていたのが赤子の遊びに思えるほどの凶暴さ。
 そのことだけでもヒロの中でゴウダの地位がだいぶ上に浮上していた。一目置くのに相応しい人物だと思った。
 そして、この言葉でヒロは撃ち抜かれたのだった。
「あ、アニキ……!」
「!?」


               ゴウダの災難が今始まる。  了。




もう一回! ボーナストラック!




「ただいっまー、帰りましたよー、っと?」
 イクヤが自宅兼事務所に戻ると、そこには見慣れぬオレンジ頭の男がいた。
「ん?」
 確かに表にゴウダの車(しかも新車かよ!?)が停まっていたのは知っているが。
 誰だ、コイツ?
「んだ、てめぇ。なに見てやがんだよ」
 巻き舌で凄まれるが、その顔は随分下にあるのであんまり怖くない。彼が小さいのではなく、イクヤの背が高いのだ。
 睨みつけてくる視線を確認し、すぐにその奥にと視線を向ける。
「おーい、ゴウダ、いんだろ? コイツ誰だよ? お前の知り合い? ってか、実は不法侵入者? それとも新手の襲撃!?」
 だが現れたのはアキ。
「おかえりなさい、イクヤさん。今日の夕ご飯はお鍋です」
「たっだいま、アキちゃん」
「てめぇ、なにアキさんに気安く話かけてんだよ、あぁッ!?」
「これ、誰だか知ってる?」
「無視してんじゃねぇよ!」
「ゴウダさんのお友達で、ヒロさんです。いつもは車の中で待っているそうなのですが、それも退屈かと思ってあがってもらいました。……いけませんでしたか?」
 小首を傾げるアキ。
「いけなかないけどさァ」
 それってかなり、いいやだいぶゴウダ涙目なんじゃなかろうか。
 折角の二人きりなのに、こんなうるさそうなのと一緒じゃなぁ。
「ってか、お友達? あいつに?」
「友達じゃねぇ! 俺はゴウダのアニキの舎弟だ!」
「舎弟ってなんですか?」
「手下、みたいな」
 へぇ、とアキ。
「ゴウダさん、偉いんですね」
「それ、本人に言ってやってね。喜ぶから」
「いつまでも無視してんじゃねぇよ!」
「あ、ええと、ヒロくんだっけ? ゴウダに『友達じゃない』って言ってみ。あいつ泣くから」
「んなわけねぇだろ! なんつっても、アニキは万禍識なんだぜ」
「……まぁ、好きにするといいよ」
 台所で鍋の用意をしていたゴウダは、珍しくクシャミをしたとかしないとか。

      事務所の修繕費は天羅側から出ました。  了。


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