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2012.04.30 Mon 闇の眷族、みたいな、はじめての家出編その3。

書ける期でもないにしてはそこそこのペースで書けてるから大丈夫きっと大丈夫……!と、自分を奮いたたせつつの3回目。ひきつづきキリヤマさんチ。









「「――つーかさ、妹はイクヤさんとよくいっしょに暮らせるよねえ」」
 テーブルに広げられたノートや教科書や参考書だとかを眺めながら、高校の勉強はずいぶんむずかしそうだと思っていると、ナツキさんとハルキさんが思いついたようにそう言った。ふたりとも家着に着替えて、楽そうな格好。あの人みたいに、上がボロで下はブランド、なんて、でたらめな組み合わせではないけれど。
「イクヤさんと住んでいるのは、おかしいですか?」
 まじまじと聞きかえせば、テーブルの向かいに座るふたりはそろって顔を上げ。
「「うんそりゃフツーに考えたって親戚でもない男の家に妹くらいの歳の女の子が学校にも行かずに同棲してる、って、かなりおかしくね?」」
「……そうですね」
 としか返事のしようもないほど当たり前の意見だった。普段、あまり指摘されることがないから忘れがちだけれど。
 わたしを「妹」と呼んでくれる彼らと血縁がないように、「うちの子」と言ってくれるあの人とも、血のつながりはないわけで。
 雨の日に道端で拾われて、帰るところも行くあてもなくて、追い出されもしないから、ずっといっしょにいるだけの。いつでも好きなところに行けばいいよ、と、言われてしまう程度の関係。
「でも、学校は、まだ、勉強が追いつかないから、通っていないだけです」
「「わかってるよー」」
 妹は勉強好きだもんね、俺らはベンキョーきらいだけど! と、ナツキさんとハルキさんはシシシッと冗談めかして笑う。
 わたしが学校の勉強をはじめたのはあの人と暮らすようになってからで、だから年頃に見合って中学校へ通えるほどの学習量をこなせていないのは、親しいひとたちはおおむね知っている。ヒフミさんに算数を習っていたこともあったし、その時にはふたりもいっしょに勉強を見てくれていた。
 わたしが学校に通っていないのはあの人のせいじゃないし、わたしがあの人と暮らしているのも、べつに、無理強いされたとか、そんな理由じゃない。
 そのことはふたりも知っているのに、どうして、あんなふうに言うのだろう?
 あの人と、よくいっしょに暮らせるよね、なんて。
「「さっきのは、いわゆる一般的な話でさ。俺らが言いたいのはさ、だって、イクヤさんはさ――アレじゃん」」
「生太刀だから?」
 その名前は同族殺し。同族が具えるあらゆる異能を無いものにしてしまう。だから、もっとも恐れられ、憎悪される。あの人の呼び名。
 俺は生太刀のイクヤさんだから――と、あの人自身、事あるごとに口にするから、理由があるのならそれだろうかと思った。しかし。
「「生太刀ってのもあるけどさ、そもそもあの人、ちょっとさ……おっかないよ」」
 何考えてるかわかんないし、何がしたいかもわかんないし、いつもヘラヘラ楽しそうだけど、ホントにそうかな? 声をひそめるようにしてふたりが言うことは、まちがいじゃない。あの人の印象そのままだ。きっと、みんなが思っている。
 あの人のことは、よくわからない。何を考えているのか。何がしたいのか。
 けれど――。
「イクヤさんは、おっかなくありません」
 いつのまにか膝に置いたバッグを両手でぎゅっと握りしめていた。口をついて出た声は我ながら拗ねているように聞こえる。眉間にも力が入っていることに気付いたけれど、わかっていてもうまくそこから力を抜けない。なんでか。どうしてか。
 あの人はおっかなくない。そんなふうには思わない。あの人のことはよくわからないし、よく知らないし、それを訊く勇気もないけれど。
 それでもいいから、いっしょにいたいと思っているのに。
(俺なんかにかまわないで――行きたいところに、行けばいいから)
 思い出すと腹のなかがぐるぐると煮えるような、目の奥がつんとするような、おかしな感じになってしまう。眉間がさらに皺寄っていくのがわかる。うつむきがちの視界に正面のナツキさんとハルキさんの様子がちらつく。
 ふたりして、勉強の手をとめてこちらをうかがうように覗きこみながら。
「「……妹、やっぱりちょーかわい―――――っ!!」」
「さわぐな」
 いつのまにかふたりの後にいたヒフミさんが、流れるような動きでナツキさんとハルキさんの頭をきれいにはたいた。平手打ち。ずれた眼鏡を押し上げながらため息も。
 ナツキさんとハルキさんははたかれた場所を押さえて振り向き。
「「ったいなァ! だってさァしたかねーじゃん妹かわいーじゃんムキになっちゃってさ! このままうちの子になっちゃえばいーし! 兄ちゃん、話つけて来てよ!」」
「冗談言ってないで。ノートと教科書は広げて終わりじゃないだろう。ちゃんと勉強おやんなさい」
「「その隙に妹と仲良くするつもりだろ、兄ちゃんだけズルいよ!」」
「兄ちゃんだっておまえたちくらいの頃には勉強してたさ。四十年ばかり前に」
「「万年小学生!」」
「公共の交通機関から娯楽施設まで安価に利用できてうらやましい?」
 ヒフミさんは眼鏡の奥で目を細くして笑い、ナツキさんとハルキさんは不服そうに口をとがらせて、結局は勉強を再開した。
 教科書ノートと顔を突き合わせながらぶつぶつ文句を言っている様子に、ヒフミさんは軽く肩を上げ下げして息を吐き、ふたりの前にお茶の注がれたコップを置くと、テーブルの脇をまわってこちらにやって来る。
 その容姿は、ナツキさんとハルキさんが声をそろえたように、ともすれば小学生にしか見えないけれど――実際、ヒフミさんはあの人よりも年上だ。
 同族は、血の濃さによって多少の違いはあるけれど、おおむね人間よりも長生きする。だいたいが三百年前後。総領にもなれば千年生きるというし、わたしのような混血でも百年程度の寿命があって、一生の大半を肉体的に若く力強い状態で過ごすのが特徴的だと、知り合いのお医者さんは言っていた。ある程度成長するとそこから老化がぐんと遅くなって、歳をとっていないのと大差なくなってしまう。
 どの程度で肉体の老化が安定するかは個人差があって、ヒフミさんは見た通り、ずいぶん早くに成長が止まったそうだ。だから、見た目は子どものようだけれど、本当はれっきとした年上の、大人のひと。
「お茶をどうぞ」
 ヒフミさんはお盆にのせてきたお茶をわたしのまえにも置いてくれて、それから自分もソファに座った。となりに。ちょっとだけ間をあけて。
「ナツとハルがへんなことを言って、申し訳ないね」
 苦笑するヒフミさんに、首を振って応じた。さっきはふたりに反論したけれど、でも、ナツキさんとハルキさんも、うそや、ちがったことは言っていない。
「イクヤさんは、たしかによくわからない人なので。しかたないと思います。本当に……よくわからないのは、たしかなので」
「それで、ケンカしてしまったのかな?」
 自分のお茶に手を伸ばしながら、穏やかに訊ねてくれるヒフミさんへの返事は、すぐに出て来なかった。ケンカの原因は。そのきっかけは、何だったのか。
 わたしがひとり、あの人の些細な言葉にむきになっているだけで、もしかするとこれはケンカですらないのかもしれない。
 ただのわがままかもしれない。
「イクヤくんはダメだねえ」
「「ダメだねえ」」
 わたしの返事を待たずにヒフミさんが言うと、テーブルの向こうで顔も上げずにナツキさんとハルキさんがそれを真似てくすくす笑った。どうしたのかと三人の顔を交互に見れば、ヒフミさんもお茶をひと口飲んでから、なんだか面白そうに笑っている。
「ねえ、アキくん。イクヤくんはダメだね?」
「だめ……ですか?」
「ケンカもちゃんと出来ないんだから。大人なのにね。困るでしょう?」
「? とくに困ってはいないです」
「それじゃあ、そろそろ家に帰るかい?」
 ヒフミさんの問いかけに、ええーっ、と声を上げたのはわたしでなく、ナツキさんとハルキさん。おかげで、一瞬声を詰まらせたのは、ばれなかった、と、思いたい。
 つまらないことに腹を立てて、家を出て、連絡もしないで、もしも心配してくれているのなら、わたしがあの人を困らせているはずだけれど。
 わたしのほうが、あの人に困っているのだろうか?
 そんなことはないと思う。
 だって、あの人は、わたしを拾ってくれて、追い出したりもしなくて、服も食事もあたりまえに与えてくれて、勉強も、他のいろんなことも、なんでも好きにさせてくれて。
 わたしが困ることなんて、なにもない。ないと思う。
 それでも、まだ、帰りたいと思えないのは――わたしが困っているからだろうか?
 握りしめたバッグのなか。電源を切った携帯電話。
「わたしは、」
 帰りたいのか、帰りたくないのか。一体なにに腹を立てて。
 ――一体、なにを期待しているのか?
 わからないまま、それでもなにかを言いかけた時、遠くの方からけたたましい物音がすごい勢いで近づいて来た。車の音だ。それにしてもひどい騒音。びっくりして、ここからでは窓越しにも広い庭と塀に隠れて見えない道の方に顔を向ける。
 同時に、ナツキさんとハルキさんも、ふたりはそれほど驚いてもいない様子で顔を上げ、ヒフミさんはお茶を持つ両手を膝において深々と嘆息した。
 そんな中、車は家のまえで盛大にタイヤを鳴かせて急停車。
 立て続けに門が乱暴に開く音と玄関ドアの外れる音と廊下を踏み抜くように駆けてくる足音。そして。
「――俺のアリスはまだいるかッ!?」
「「イロハちゃんおかえりー」」
 滑りこむようにリビングに入って来たのは、この家の二番目のお兄さん。イロハさんは見た目ならお父さんのキリヤマさんと同じくらいの年頃だ。
 キリヤマさんはリリコさんと結婚する前、早世した奥さんがふたりいたそうで、ヒフミさんはいちばんはじめの奥さんの子ども。イロハさんは二番目の奥さんの子どもだと、あの人から聞いている。ヒフミさんもイロハさんも顔立ちはお母さんに似ていて、あまり兄弟のようには見えないけれど、ナツキさんとハルキさん、ここにいないもう一人のお兄さんのツクモさんも含めて、みんな、とても仲がいい。
「「妹ならいるよ。さっき兄ちゃんが追い返そうとしてたけど!」」
「っし、間に合った!」
「間に合ったじゃないだろう……イロハ、仕事は?」
 ため息を吐いているヒフミさんに、イロハさんは両肩から斜め掛けにして左右の脇に提げた重そうな荷物を適当な場所に降ろしながら、すごく真面目な顔で。
「モデルの女の子なんていつでも呼び出せるし、代わりもいる……けどな、俺のアリスの今日という日はあとにも先にもいまだけで、彼女の代わりはこの世界のどこにもいないんだぜ……兄貴。仕事と彼女、どっちが大切か。考えるまでもないだろ?」
「考えるまでもなく仕事だおバカ」
 眼鏡を押し上げつつ首を振るヒフミさん。イロハさんのお仕事はカメラマン。
 本当は、子どものままの姿であまり表立てないヒフミさんの代わりに、イロハさんがお家を継がなければいけないそうだけれど。キリヤマさんもまだお若いので、百歳になるまでは好きなことをしていいと、そういう約束でしているお仕事だとか。イロハさんはそれなりに有名なのだそうだ。
 なのになぜだかイロハさんはわたしの写真を撮るのが大好きで。
「かわいいアリス! 少女のきらめきは鮮度が命、一分一秒が惜しいからな! 衣装はここに持って来たなかから好きな順番で全部着てくれ! ナツ、ハル、おまえら勉強なんていつでも出来ンだからちょっと手伝えよ。ツクモのやつがいなくてかわいそうだなあ、なにせ今日の! 衣装は! とっておきだぜッ!」
「「イロハちゃんサイコーわかってるーっ!」」
 手際良く準備したカメラを片手にこぶしを突き上げるイロハさん。荷物のなかから衣装を引っぱり出して声を上げるナツキさんとハルキさん。
 ヒフミさんはやっぱりやれやれと首を振って。
「いろいろ申し訳ないね、本当に……」
「大丈夫です……たぶん」










家出編は下手するとその10くらいまであるかもしれないので要注意、長いよ!←

同族殺しの憎まれっ子、イクヤさんだけれど、でもわりとみんなに可愛がられてないか? と、思ったので普段からみのない面々にちょっと印象を語ってもらったら案の定「こいつよくわからない」と思われていて、うんうんとうなずいてみたり。まだキリヤマさんチの子どもだからこの程度だけど、完全に接点のない同族からはもっと敬遠されてるんだろうなー、と、思うと、イクヤさんのぼっち感ハンパなくて笑える(酷)

イクヤさんの交友関係は8割方上っ面。

キリヤマさんチの子ども、名前は上から「一二三(ヒフミ)」「五六八(イロハ)」「九十九(ツクモ)」で四と七どこいったと思ってたけど、「夏輝(ナツキ)」が七で、「春輝(ハルキ)」が四だと思えば1~10まで網羅してるかな、と。季節的に7月は夏だし4月は春だし。ちなみにイロハちゃんの漢字の字面は卯月が好きなマンガのヒロインから。イレブンソウル、面白いんだよう。

三男坊のツクモは大学生。性格は、ヒフミお兄ちゃん-おっとり+生真面目さ=キリヤマさんが若い頃ってたぶんこんなだったよね、という笑えるくらい父親似。おやっさんはきっと会うたびに笑ってる。ヒフミさんが家を継いで、その補佐としてツクモが表向きの動きをする、のが性格的にはベストなんだけど、ツクモのお母さんは混血のリリコさんなので、まあちょっとそのへんのアレコレで建前でもツクモが跡を継ぐのはムリがある、と。

キリヤマさんチとゴウダ父の家の張り合ってる感じをいつか垣間見てみたい。天羅の血筋にもそれなりに内部の確執があったりする。

イロハちゃんはロリコンじゃないよって言った方がいいのかな?(笑)



というわけで、アキちゃんの家出は続きます、マル。


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Comments

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ポール・ブリッツ : URL 幼少時のころいわれませんでしたか

Edit  2012.04.30 Mon 12:48

先に自分にとりおいしいところだけ書いていくとそれだけで満足してしまい最後までたどり着けない罠(^^)

「おかずばっかり食べていないでごはんや野菜もきちんと食べなさい!」

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.04.30 Mon 13:18

ポール・ブリッツさま
言われたけどなおさないまま大きくなると卯月になります(キリッ←
や、でもこれもじつは一番書きたいのはラストなのである意味ちゃんとぜんぶたべてるんですよ! という言いわけー^-^;

ミズマ。 : URL

2012.04.30 Mon 18:17

やっぱり双子はユニゾンしてくれないとね(*^-^)

よーし、今回は自宅でエンカウントできだぞー!←

イロハお兄様に惚れてしまいそうな私がここにいます!!
でもイロハお兄さんがドタバタと帰ってきたときは、「とうとうイクヤさん登場か!?」とドキがムネムネしておりました。あぁ、このお話の裏側で、あのへタレは一体どうしているのか……オラ、ワクワクしてくっぞ!!←

その10ぐらいまでありそうな家出編に、あと誰が出てくるのか、楽しみです(*^-^)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.04.30 Mon 21:25

お姉さま
イクヤさんは真打なので! 焦らしますよ~、ウフフ( ´ー`)ニヤリ←
イクヤさんは運転できるけど自家用車は持ってない人で、必要な時はおやっさんに借りてます。この人たち、ある程度の範囲なら走るか建物の上を飛び移って移動した方が速いかもしれない、と、思ったり。信号機につかまらない分、自動車よりは速い気がする。ちなみにイロハお兄ちゃん、あわてるあまり玄関ドア全力でぶっ壊したのでこのあとヒフミお兄ちゃんと、帰宅したキリヤマさんにめちゃくちゃ叱られる予定(笑)
つぎも新キャラ出しますよー! うふふー!

レルバル : URL

2012.05.02 Wed 01:34

ゆ、ユニゾン ってなんだろう……っ

ポール・ブリッツ : URL

Edit  2012.05.02 Wed 17:33

>レルバルさん

わからないことがあったらすぐに辞書を引くくせをつけておかないと、大学の授業には対応しきれなくなるぞ。

いえマジです。わたしはそのためにいろいろと苦労を。とほほほ。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.05 Sat 21:17

ルル
だってー♪ だってー♪ つーばーさひろげふーたーりーで、空をーマラソン♪ 夢をーユニゾンしたーい♪
って、言ってもルルは男の子だからわかんないかなあ(笑)
ポールさまのおっしゃるように、辞書ひきましょ♪ ちなみにお姉ちゃんもユニゾンの正確な意味はわからないけどなんとなくフィーリングで使ってますw

ポール・ブリッツ : URL

2012.05.07 Mon 12:51

ほら キャッチュー キャッチュー キャッチミー キャッチミー 待ってー ♪

なんて歌、もう古いような(^^;)

歳がばれる(笑)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.07 Mon 22:52

ポール・ブリッツさま
だだだだだ大丈夫です! 再放送も何回もやってるから、そのたびに更新されているんだとしたらそんなに古くはないのです! たぶん!(笑)

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