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2012.05.06 Sun 闇の眷族、みたいな、はじめての家出編その5。

これ本当に10回までに決着つくのか? と、一抹の不安を覚えつつ。つづくつづくー!









「――言うとくけど、さっきのは本意やないで。しかたなしやで。同族喰いなんて行儀悪いこと、したないけど、このアホ女がわしの分までこそこそ飲みくさってからに」
「喉が渇いて苦しかったのよ。やむにやまれぬ状況だったのよう?」
「せやかてある分残らずカラにして、今月これからどないするんや。アホ」
「追加でもらってくるといいよ!」
「先月もその前のまえもそれやってんねん、立て続けにできるか。わしはもともとそない飲むタチとちゃうのや。わしの分まであんたが飲んでることくらいバレてんねん。アホ。ええ加減にしとかんと、サカザキがうるそうなって、困ンのはあんたやで?」
「それは……わかってるよう……」
 しゅんと肩を落とすヴァシリーサさんに、頬杖をつくカネダ先生はそっぽを向いてため息をひとつ。待合室からカルテやお薬が置いてある受付窓口のなかに場所を移して、部屋の中央にでんと置かれたテーブルを三人で囲んでいる。
 カネダ先生が言うには、さっき、先生がヴァシリーサさんに噛みついていたのは、ヴァシリーサさんが先生の分の血液をすべて飲みほしてしまったのが原因らしい。
 わたしたちが普段口にする血液パックの中身は、もちろん人間のもので、その量には限度があるから、総領家が管理し、血族各人の必要量を月ごとに無償で配給している。
 お金を取らないのは、有料にしてしまうと充分な量を購入できない同族が飢えて人間を襲う場合も考えられ、その危険を避けるためだと、天羅のお父さんが言っていた。血は、わたしたちが生きるには必要なものだから、最低限の保障、ということらしい。
 ヴァシリーサさんは天羅の血族ではないけれど、むずかしい理由から、キリヤマさんが後見人になって、カネダ先生と暮らしている。
 ちょうど、わたしがあの人に拾われたのと同じ頃に、ひどい事故にあって身体を壊したヴァシリーサさんを、先生が治療とリハビリも兼ねて面倒を見ているそうだ。失くした両目はしようがないけど、歩けるようになったのはセンセのおかげよ――と、まえにヴァシリーサさんが言っていた。
 天羅の保護下にあるヴァシリーサさんにも血液パックは配給されているようだけれど、ヴァシリーサさんが欲しい量よりも少ないらしく、いつも先生の分をつまみ食いしていて、ふたりはよくそのことでケンカ――というか、むしろ仲良さそうに――している。
 おおむね、同族の血が濃いほど吸血量や頻度は多くなるから、眷属の血もまざっていない純々血のヴァシリーサさんは、血が足りなければつらいはずだ。カネダ先生もわかっているから、ヴァシリーサさんのつまみ食いを強く止めたりしないのだと思う。
「センセ、ごめんね……?」
 しばらく視線をよこさないカネダ先生の沈黙に気まずくなったのか、ヴァシリーサさんは先生の様子をうかがうみたいに、そろそろと小さな声で言った。
「いまはダメだけど、あとで好きに噛ませてあげるよう……ごめんして?」
「怒ってへんよ。気にしな。腹もくちたよって」
 手をひらつかせながら、ぞんざいな口調のカネダ先生。
 ヴァシリーサさんはむっと口をとがらせて。
「もっとやさしく言ってよう」
「あんたはホンマやかまし女やなァ」
 そう言って、気だるそうに振り向きかけたカネダ先生を、白い両腕が伸びてつかまえて引き寄せる。テーブルの上に身を乗り出したヴァシリーサさんは、胸に抱き込んだカネダ先生のぼさぼさ頭に頬ずりしながら、くすくす笑った。
「センセ、大好きだよぅ。だいすき!」
「……調子ええこっちゃで……」
 敵わんわ、と、カネダ先生はため息ひとつ。
 それからふっと、こちらに目を向けて。
「にゃんこ、よう見てたか?」
「? はい?」
 なにをだろう、と思っていると、先生の頭を抱き締めたままヴァシリーサさんも振り向いて。
「ケンカした時は、こういうふうに仲直りするといいよ!」
「……はい?」
「しおらしくして、泣きそうにして、甘えて、ついでに胃袋と下半身に訴えれば男なんてイチコロだからだいじょうぶよ! バカだから!」
「ばかですか?」
「アホ。女のあっさい考えなんぞお見通しや。うまいこと騙したったて思いな。判てても、そない小賢しとこも可愛い思うよって、許してンねん」
「結局ほだされてるんじゃないのよう」
「女ならミソもクソも可愛いわけとちゃう」
「アタシは? かわいい?」
「アホらし」
 カネダ先生は身体を押しやって抱擁から逃げ出しつつ鼻を鳴らした。
「――で、にゃんこはどないしてケンカしたんや?」
 突然話を振られたのは、カネダ先生がヴァシリーサさんの気を反らせたかったからだろう。あの人とケンカしたことはカイさんを通して筒抜けだ。ヴァシリーサさんも話を戻そうとはせずに、笑いながらこっちに身体を寄せてくる。
「そうだよう、アキ。生太刀にひどいことをされた? 言われた? アキは辛抱強い子だから、ケンカなんてよほどだね。心配だよう」
 アタシがやっつけてあげようか? なんて、さらりと過激なことを言うヴァシリーサさん。だから慌てて首を振った。ヴァシリーサさんは目が見えないけれど、身動きする音で仕草はなんとなくわかるそうだ。
「ひどいことは、なにもないです。イクヤさんはひどくないです」
「ホントに? がまんしなくていいんだよ、アキはアタシの妹みたいなものだから、つらいことがあれば守ってあげるよ?」
「本当に、そんなにすごい理由はなくて……」
 ケンカになった経緯は思い出せない。そもそもケンカなのかもわからない。一方的に腹を立てているだけで、どうして腹立たしいのかも、じつはよくわからない。ヒフミさんは、わたしが困っているのだと言うけれど。なにに困っているかもわからない。
「まあ、どないな理由でもええけどね」
 くわぁ……と、あくびを噛んで立ち上がりながら、カネダ先生が眠そうな視線を壁際の棚へ向けた。何気なく追いかけて見ると、作りつけの棚にはカルテが整頓されている。先生は白衣の裾を揺らして棚に近付くと、カルテを一冊引っぱり出した。
 あ行のカルテだ。それをめくりながら、またひとつ、眠そうにあくびしている。
「気ぃすンだら、家、はよ帰ったり」
「はい……」
 カネダ先生はいつもどおりのぞんざいな口調だった。特別、怒っているふうでもなかったのに、返した声は小さくなって、視線がうつむく。
 バッグのなかの携帯電話。
 電源を入れて、連絡をして、早く帰るのがいちばん良いのだとわかっているけれど。カイさんにもお兄さんたちにもヴァシリーサさんにも、叱られなかったから、ずっと先送りにしていた。家に帰ること。仲直りをすること。
 帰っていいのかわからないし、どうして仲直りするのかも、よくわからなくて。
「急かさなくていいじゃないのよう。今日くらいゆっくりさせて、いっそ泊めてあげて。センセ」
 考え込んでいると、横から伸びてきた腕に抱きよせられた。
 わたしを抱きしめて、カネダ先生がいるほうを睨むようにするヴァシリーサさんに、先生はカルテから顔を上げて片目をすがめる。
「アホ。にゃんこがおらんようなってみ、生太刀のほうがまいるわ。心配さすな」
「心配するならケンカしなければいいのよう。アキをかなしませる生太刀が悪いよ!」
「ケンカは両成敗や。どっちも悪い」
「センセはかわいいアキより生太刀の味方をするのっ!? ひどいよ!」
「そないな話とちゃうやろ……ホンマに、この、アホ女……」
 ため息を落とすカネダ先生に、口をとがらせるヴァシリーサさんがうーっと唸る。ふたりにまでケンカはして欲しくない。早く止めなければと、思う、けれど。
「……あの、」
 仲裁する言葉は出てこないまま。
「イクヤさんは、わたしが帰らないと……心配しますか?」
「それは、わざわざ訊かなならんことか?」
 カネダ先生がこちらをひたりと見つめて言う。ヴァシリーサさんが気遣うように、ぎゅっと抱きしめてくれる。
 先生に訊いたことは、本当は、もうちゃんとわかってるのかもしれない。
 けれどなにをわかっているのか、曖昧で、だから答えず待っていると、カネダ先生は細く息を吐いて、手元のカルテに目を落とした。あ行の棚から出したカルテ。
「……心配してるよ。あれがわしのとこに駆け込んでくるような時は、にゃんこはぐったりしてるさかい、気付いてへんのやろ。あんた抱えて血相変えてる、あの顔見せたりたいくらいやで。ホンマに……あんまし心配させたりな。生太刀がかわいそや」
 先生の手にあるカルテはきっとわたしのもの。同族の血が半分、だから、たまにひどく具合を悪くするわたしを、ここに連れて来てくれるのはいつもあの人だった。
(心配だから――)
 出かける時は、これを持っていなさいね。連絡してね。そう言われて、あの人にもらった携帯電話。心配だから。でも、好きなところに行けばいいと、そんなふうにも言うくせに。あの人は。
「アキ?」
 ヴァシリーサさんの声がする。
 抱き締められたまま顔を上げると、ヴァシリーサさんは苦笑ぎみの表情だった。
「センセはね、あんなふうに言うけど……アキが帰りたくなければ、もうすこし、ここにいたっていいんだよ……?」
 ヴァシリーサさんは優しい。
 ここで最初に会った時からずっと。お姉さんのようで、甘えてしまいたいけれど。
「わたし――」












この病院、ほかに人はいないのか、と(笑)

カネダ先生は、人間だった頃から腕のいいお医者さんでした。当時五十歳くらい。若見えするほうだったので、外見は四十半ばくらい、実年齢は二百歳ちょっと。元人間今吸血鬼の眷属の寿命は三百年ないから、もう二、三十年で寿命がくる。そろそろ老けはじめます。人間だった頃結婚してたけど、奥さんはすでに亡く、子どももいない。吸血鬼を医学的に研究したくて眷属になったために、眷属として血筋を遺そうみたいなつもりなし。ヴァシリーサさんとは男女の仲だけど、恋人とか夫婦とか、はっきりした関係になりたいとはお互いとくに思ってない。

ちなみに、ヴァシリーサは前に設定記事のほうでちらっと書いてた、サーシャお兄ちゃんの恋人未満だった女性です。アキちゃんを連れて地祇の家から逃げたひと。アキちゃんはそのことはスッカリ覚えていなくて、ヴァシリーサとはカネダ先生の病院で会ったのがはじめてと思ってる。ヴァシリーサのケガはアキちゃんと逃げたときに地祇の追手から受けた負傷。ヴァシリーサには邪視の異能は発現してなかったけど、邪視の血筋を相手にする時はとにかく早く目を潰せ、みたいな定石があってそのため。早く治療すれば失明までにはいたらなかったはずだけど、ヴァシリーサはしばらく天羅の血族のサカザキの家に軟禁されていて、手当が遅れたとかそういう過去設定があったりなかったり。サカザキはゴウダの父方。

ふたりともはっきりしなくて、そのうちサーシャお兄ちゃんが地祇の愛人になったり、状況が切迫したりで、はじまらないまま終わったけど、ヴァシリーサはお兄ちゃんのこと好きだったんじゃないかな? むしろいまも好きじゃないかな? どうかな? と、思ったり。



そしてイクヤさんのぼっち&アウェー感ハンパねぇ(笑) と、思っていたらカネダ先生がわりと好意的――というか、中立っぽくてよかったなあ、と。先生は眷属だし、元人間でその頃は吸血鬼なんて下っ端も総領も十把一絡げに人外という認識だったろうし、そのあたりから生太刀とか万禍識に対してもそれほど神経とがらせてない様子。

むしろ、おまえらちょっと体壊して診察に来い、すみずみまで診てやるから! くらいに思ってそう。今回は落ちついてるけどいざ同族が診療に来るとハァハァ言って目の色を変える男。変人。



イクヤさん、どうしてるのかなあ……胃に穴でもあいてるんじゃないかなあ……。


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ミズマ。 : URL

2012.05.07 Mon 21:58

カネダ先生とヴァシリーサお姉さまで、ちょっとお話書いてみる気はないのかな?
濃いめの話書いてみようか、ねぇ、朔ちゃん!!←
この二人の組み合わせはとても好きですねぇ。この二人でもっとお話しが読みたいよぅ! 読みたいんだよう、朔ちゃん!!

ようやくイクヤさんの味方(か?)っぽい方が出てきてよかったね!
でもアキちゃんはまだ帰らぬのだ、ふはははは!
日頃の行いを悔やむが良いのだ、ふはははー!!!←

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.07 Mon 23:05

お姉さま
濃いめっ!? あだるてぃな大人の雰囲気が盛りだくさん濃いめ、ということですかそれはっ!?///
すみません滝行いってきますすみませんorz
カネダ先生とヴァシリーサは、書いてみたらサバサバなのにイチャイチャしてて楽しかったですー! 気に入っていただけて嬉しいです(´∀`人) 濃い話……お姉さまが書いてくださっても、いいのよ?←
カネダ先生は、天羅の血族のなかではとくにどの家よりでもない中立、だったけど、ヴァシリーサさんの面倒をみはじめてからはゴウダ父のサカザキさんに睨まれてて、事あるごとにチクチク言われるので、受け流したり流したと見せかけて放りかえしたりたまにメンチ切ってみたりしている現状。診療所でリハビリ患者世話して何が悪いンや、と、まっとうな暴論を振りかざします。
そしてイクヤさんは日ごろの行いを悔やむがいいよホント悔やむがいいよ! ハハハハハッ!←
……カネダ先生に「リーサ」って呼ばせるのを忘れてましたとこっそり報告orz

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