Aries.

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2012.05.13 Sun 闇の眷族、みたいな、はじめての家出編その7。

いままでで最長の文量になりました! 予定更新回数に抑えようとしてねじ込んだとかそーいうわけじゃないんだからね!←

というわけで、うちの可愛い担当のターン!










「……殺してくれ……」
 やっぱりゴウダさんだった。
 薄暗い部屋の角にたたずんで、壁に向かって良くないことをぶつぶつ呟いている。黒服を着た大きな身体に重苦しい雰囲気をただよわせ、うなだれがちに背中を丸めて、ある意味ではいつもどおりのゴウダさん。
 天羅のお父さんのお家は街はずれの森のなかにある。外国にあるような、ずいぶん立派なお屋敷だった。天羅のお父さんはほかにもたくさんお家を持っているから、ここのことは本邸と呼んでいて、そのなかにはあの人とゴウダさんのお部屋もあった。あの人は子ども部屋と言っている。
 子ども部屋は本邸の母屋の奥、あの人とゴウダさんがそのもの子どもだった頃に使っていたお部屋らしい。いまは日常的に使われていないから、家具は置いてあるけれど、生活感というのか、ひとが暮らしている賑やかさのようなものがなくて、室内はしんとして寂しげな感じがする。その片隅にひとりつぶやき続けるゴウダさんがいるものだから、子ども部屋はいっそう暗くなっているようだった。
 ドアを開けたところで立ち止まっていると、すぐ後ろからヒロさんが声をひそめて耳打ちしてくる。
「ね、ヤバいっしょ? 兄貴、ずっとあの調子なンすよ……」
「そうですね……」
 今日はキリヤマさんがお休みで、本当ならほかの誰かが一日、キリヤマさんの代わりをするのだけれど、天羅のお父さんはどうしてだか、今日に限ってその代役をゴウダさんにさせようと言ったそうだ。
 おまえだってもういい歳なんだ、一日くらいどうにかしてみろ――と。
 天羅のお父さんが他のひとのとりなしを聞かない以上、言われてしまったゴウダさんはキリヤマさんの代役をするほかなくて、ゴウダさんなりにがんばったそうだけれど、結果はさんざんだったのだと、ここに来るまでにヒロさんから事情は聞いている。
「おやっさんもわかってないっすよ! 兄貴に世話女房みたいなことさせようなんて、兄貴の威厳が台無しじゃないすか! ゴウダの兄貴は何もせず何も語らず立ってるだけでも溢れる貫録と隠しきれない大物振りで相手黙らせちまうンすから。それでいーじゃねェすか! キリヤマの兄さんとは違うっすよ、そもそもの、役割っつうか! 格ってモンが!」
 わたしを車に乗せてくれるひとのなかでは、あの人のつぎくらいに荒っぽい運転で、すこしでも速度や反応の遅い車にはすぐにクラクションを鳴らして睨みをきかせつつ、ヒロさんはそんなふうに言っていた。
 ヒロさんが熱弁する、威厳とか、格というのはともかく、ゴウダさんはあまり他人と話すのが得意ではない人だから、キリヤマさんの代わりは大変だっただろうと思う。
 これでまだ、夜にはパーティも控えているというのだから大変も大変だ。
「――ですんで、アキさん! ここはイッパツ、兄貴を元気づけてください!」
 俺は兄貴のかわりに雑用こなしてきます、それじゃ! と、また深々と腰を折ったお辞儀を残して、ヒロさんは廊下をどんどん進んで遠ざかっていった。ヒロさんのお辞儀は何回見ても独特だし、歩き方も変わってる、と階段を下りて行く姿を見送って思う。あんなに猫背で、キリヤマさんに怒られないのだろうか?
 猫背といえば、ゴウダさんも、いまは背中が丸まっている。
 さっき、ヒロさんはそれなりに大きな声だったけれど、それにもまったく気付いていないようだった。窓にひかれたカーテンの隙間から射し込む夕日が強い分だけ、部屋の角の影も濃くなっているようで、ほうっておくとそのまま同化してしまいそうに見える。いまもわりと黒服が影にとけこんでしまっているし。
「いっぱつ……」
 元気づける、というのは、しかし具体的にどうすればいいのだろう?
 うんと甘いものをつくって、食べさせてあげるのがいいように思うけれど。天羅のお父さんのお家のお台所を借りるのは、ちょっとだけ恥ずかしい。それに夜はパーティだから、きっと料理上手なコックさんたちが、腕によりをかけておいしいものを作るだろうし。お腹いっぱいにしてしまうのはだめだ。すると他にどうすればいいだろう?
 ともかく、まずはこちらに気付いてもらわなければ――。
 子ども部屋に入って、ゴウダさんのそばから黒服の背中に声をかける。それにしてもゴウダさんは背が高いし、体格もあの人よりしっかりしてると、見上げながら思う。
「……ゴウダさん?」
 返事はない。
 ゴウダさんは部屋のすみの床を見つめたまま動かない。独り言もとまらない。
「そもそも俺などが育ったところでなんの役に立つわけもなかったんだ、わかりきったことだ、親父様の温情に甘えてずるずると生きながらえてこのザマだ……死にたい。殺してくれ……このまま生きても俺一人の生き恥どころか親父様にまで恥をかかせるばかりだ……死にたい……生まれ変わりたい……」
「ゴウダさん」
「蝶々になりたい……生まれ変わって、蝶々や、タンポポや、いちごの乗ったケーキになったほうが、よほどひとの役に立てるはずだ……だれにも恥ずかしくない。嫌われることもない……俺などいないほうが、皆、嬉しいにきまってる……名刺交換もまともにできなかった……殺してくれ……」
「ゴウダさん」
 呼びかけてもまったく反応してくれないから、三回目は名前といっしょに服の裾をおもいきり引っぱってみた。ぐいぐい、と。
 すると、うなだれていた肩がびくっとして。そろそろと振り向く。
 いつも以上に翳の濃い目元。
 どんより落ちくぼんでいるようだった目が、こちらを見て、驚いたように見開かれる。
「ア、キ、さん……いつから?」
「先ほどからです」
 お邪魔しています、と言うと、ゴウダさんは「あ、」とか「う、」とかうまく言葉にならない様子で口を開けたり閉めたりしつつ、頭をさげるのと身体ごと振り向こうとするのと後ずさろうとするのがごちゃまぜになったおかしな動きをする。
 ともかく、まずはおちついてほしいので。
「大丈夫です。わたしは、蝶々もタンポポもいちごのケーキも好きですが、名刺交換のできないゴウダさんのままでも好きです」
 だからおちついてください、と言い終わる前にゴウダさんはものすごく変な転び方をして、床に片膝をはげしく落としつつ側頭部を壁に打ちつけた。一体どうしてそんなことになったのか目で追いきれないくらいだった。かろうじて、とっさに服の裾を離したから、いっしょに倒れることはなかったけれど。
「……ゴウダさん……?」
 おそるおそる様子をうかがう。ゴウダさんは凍りついたように動かない。
 心配になって、そばにしゃがみこんで、もっと近くから覗きこもうとすると、見開いていたゴウダさんの目が急にまばたきしてまたものすごい勢いで身体が動いた。うしろに。
 ここは部屋の角で、側頭部を打ちつけていたゴウダさんの背後にも壁がある。
 ごん、といい音がして、のけ反るように後ずさろうとしたゴウダさんは後頭部を壁にぶつけ、だけれどそのまま無理やり立ち上がって背筋を伸ばす。そうすると、ゴウダさんは背が高いから、しゃがんでいるとずいぶん見上げなければならなくて、わたしも釣られるように立ち上がった。それでもまだ身長差はあるけれど。
「頭、痛くないですか?」
「だっ、いじょうぶ……です……」
 手を伸ばしかけるとゴウダさんがまた背中をどんっと壁に押し当てるから、出しかけた手を引っ込める。ゴウダさんは、いつも、だいたい、こんな感じといえばそんな気もするけれど。今日は一段とおおげさな感じもする。
 どうしたのだろう?
「「――あの、」」
 声がかぶった。同時に押し黙る。このままだと、ゴウダさんはきっとずっとしゃべらないと思う。
 だから、お先にどうぞ、と言うかわりに首をかしげると、ゴウダさんはすこし目をキョロキョロさせてから、視線を足元に落としてぼそぼそと。
「見苦しいところを、見せて……しまいました。すみません……」
「平気です。いつものことです」
 気にしないでください、と、言いたかったのだけれど、ゴウダさんはなんだかますますうなだれてしまった。言い方がよくなかったみたい。わたしもおしゃべりは得意じゃない。
 でも、黙っていてももうゴウダさんからは話してくれない様子なので、どうにか言葉を考えて、言ってみる。
「あまりおちこまなくても、大丈夫です。ヒロさんが心配しています。わたしも心配です」
「……すみません」
 俺が不甲斐ないので――と、ゴウダさん。
 天羅のお父さんのお仕事をちゃんと手伝えなかったことが、すごく悲しいのだろうと、思う。ゴウダさんは天羅のお父さんが大好きだから、期待に応えたかったのだろうと。そういう気持ちは、よくわかる。
 わたしもあの人の期待に応えられれば、嬉しいけれど、できなければ悲しいし、できなくて失望されたらなんて考えると、それはすごく恐ろしいように思う。
 ――だけど。
「わたしが、料理をはじめたばかりの頃に」
 バッグのなかには、携帯電話と、新しいレシピ。
 あの人と暮らしはじめた最初の頃、食事はつくってもらうばかりだった。しばらくして手伝うようになって、それから段々あの人が作らなくなったから、ひとりで料理をするようになったけれど。
「あまり上手にできなくても、おいしくなくても、イクヤさんはちゃんと食べてくれました。ゴウダさんも、辛い料理が好きじゃなくても、残さず食べてくれました」
「それは、」
「天羅のお父さんも、今日は、そういうふうなんだと思います」
 言いかけたゴウダさんの言葉をさえぎって、すこしだけ上向いた顔を覗き込む。ゴウダさんは困ったような表情だった。わたしはまた、ちがったことを言ったのかもしれない。やっぱりおしゃべりは得意じゃない。
 あの人なら、もっと上手に元気づけられるだろう。
 ちらっとそんな思考がかすめた時には、手を伸ばして、背伸びをして、ゴウダさんのおでこのあたりを撫でていた。自分でもそんなつもりのない動きだったから、ゴウダさんも予想外だったのか、今度は逃げようとせず、じっとして撫でさせてくれる。
 二、三度撫でさすって、手を引き、かかとを落とした。ぱちりと一回まばたきをするゴウダさんを見上げる。いつも暗い目元が普段よりはっきりしている以外、無表情だけれど、怒ってはいないみたい。
「大丈夫です」
 ゴウダさんは無反応。だから、もう一回。
「これで大丈夫です」
「……、はい」
 ゴウダさんはどこかぼんやりした感じにだけれど、こくん、とうなずいてくれた。
 なんだかそれが、とても、嬉しい。










アキちゃんの家出編なのになぜか更新一回分がまるっとゴウダ回だったのは計画通りですゴウダの可愛さに流されたわけではありませんでもこれ本当は40×30原稿で3ページ半におさめるつもりだったけど結局5ページになったよ☆

アキちゃんは、ゴウダが相手だと自発的によくしゃべるし、自分がどうにかしてあげなくちゃ、という姿勢がやけに強いなあ、と思ったり。とても母性的。イクヤさんには守ってほしいけど、ゴウダには背伸びしてみせたい様子。アキちゃんのなかで、なぐさめる・元気づける=頭なでなで、なのは完璧にイクヤさんの刷り込み。



ところで、この時点でゴウダってアキちゃんのことどう思ってるんだろうと何もかもを根底から覆すようなことを思ってみたりした。どうなんだろう?



家出編の時点で、イクヤさんはもちろん、ゴウダももう天羅の本邸には住んでないわけで。ゴウダは本邸の近くでマンション住まい。お高いお部屋。モノクロ基調の室内はインテリアカタログの写真みたいに整ってセンスもいいけど個人の趣味とか感じられなさそう(笑) 子ども部屋は真ん中で分かれて右がどっちで左がどっちで、ということもなく。ベッドは二段ベッドだし、勉強机ひとつにちゃぶ台テーブルひとつ、テレビもひとつ、本棚は兼用、わりとごちゃっとしていた。ゴウダの私物はあまり残ってないけど、イクヤさんの私物はおおかたそのまま。ゴウダはマンションに移る時に大切なものは持って出た。イクヤさんはサキさんと暮らす時に何も持って行かなかった。そんな感じ。子ども部屋がそのままなのは、まあ、なにかあったら帰ってくれば? って、おやっさんの意思表示かもしれない。

ちなみに子ども部屋の壁には小学校の授業でかいた習字や絵が貼ってあって、母の日に描いたお母さんの絵だけは、ゴウダもしばらく考えた末にのこして出たから、いまもふたりの絵が並んでいたりする。ゴウダは生みの母親とリリコさん。イクヤさんは、花を持ってる片手だけ。ゴウダの絵とくっつけると、リリコさんがお花持って笑ってる仕様。だったり。



子ども部屋の話も書きたいなあ、と、思いつつ、つぎも可愛い担当のターンだよ!


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Comments

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ミズマ。 : URL

2012.05.14 Mon 08:03

やっぱり電車の中のエンカウントでしたよ!
そして今回のニヨニヨはラスボス級なんですけどどうしてくれるんですかッ!!
ちくしょう、もういっそのこともっとやry


ゴウダくん、中学生みたいですねー。微笑ましいわぁ。思春期真っ只中だわぁ。そして安定のヒロくんの盲目的な兄貴信仰www 威厳てwww でもヒロくんはゴウダの下についたことで間違いなく成長してるでしょうね。雑用も出来るようだし、案外彼、使える人材なのかも知れない←

アキちゃんは思春期以前に、情緒が開花していなくて…ちょっとだけゴウダくんに同情。

しかしおやっさんも思いきったことしますねー。今日は特に大事な会合もなく、パーティーといっても身内のやつなんでしょうねぇ。それでもキリヤマさんは胃をキリキリさせているかも……いや、ある意味達観しているか、それともおやっさんから「休みの間の代打はゴウダ」と聞かされていないのかも知れない……。

続きも漆黒のフェアリー()のターンということで、楽しみですヽ(´▽`)/

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.14 Mon 22:41

お姉さま
今回は! うちの可愛い担当が本気(ずっこけ的な意味で)なので!
それはもうニヤニヤニヨニヨしていただけたことでしょう! 計画通り!!(*゚Д゚)/ダー゚+。
ヒロくんはどんだけゴウダ好きなんだ、ていうwww ゴウダの成長はともかく予期せぬヒロくんの処理能力開花に、おやっさんとキリヤマさん、びっくりしてるんじゃないでしょうか(笑) ヒロくん、地元じゃ下っ端をパシらせるほうだったろうに、何の迷いもなく雑用こなしてる……大人になったなあ(。´Д⊂)www
ゴウダは、学生の頃にサキさんにもっと過激な発言されてるだろうに、サキさんについては「どうせからかわれてるだけ」と思ってやり過ごしてたので、せっかくの機会だったのに耐性がまったくつかなかったんだよ、っていう(笑) ゴウダとアキちゃんのやりとりを見てるイクヤさんとか百戦錬磨連中は「うわあピュアすぎて目が痛ェしみるwww」とか思ってそうです。
>休みの間の代打はゴウダ
きっと聞いてない、キリヤマさんきっとこれひと言も聞いてないというかおやっさん絶対朝食の目玉焼き食べながら思いついたにちがいないwwwww 翌日話を聞いたキリヤマさんが青い顔して、その日の仕事は前日のフォローからはじまるにちがいないです( *´艸`)クスクスw

氷華 : URL

Edit  2012.05.20 Sun 02:40

ゴウダさんがフェアリーすぎて砂吐きました。
かわいい、かわいいですゴウダさん結婚してくださry

>蝶々になりたい……生まれ変わって~
ああ、ゴウダさんはまことフェアリーであらせられたのですねごふぅっ(喀血
そしてアキちゃんがイケメンすぎてwww
しかし上げてからの、落とす!
ゴウダさん、強く生きて……!

乱文失礼いたしましたっ

我が君 : URL 久々コメント!!

2012.05.21 Mon 00:34

コメントしてないだけで、覗きに来てますのよww
もぅ、我が君はゴウダが可愛くてイジメたくなってます(ダメだろ)!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.21 Mon 22:17

氷華さま
久しぶりにゴウダの原点にたちかえって、めいっぱい鬱めいたセリフを言ってもらいましたがもうゴウダは鬱でもネガティブでも可愛い漆黒のフェアリーでした(笑)
氷華さまのように可愛いお嬢さんに結婚を申し込まれたら、ゴウダ、こけるどころか階段の上から下まで滑り落ちますきっとwww
アキちゃんとゴウダの組み合わせは天然と天然でド天然コンビなのですが、どうやら子どもで無邪気なぶんだけアキちゃんの天然さがゴウダに勝っているようです。上げて! 落とす! 無自覚に!w でもゴウダのことはそれなりに異性だと認識しているようだから、ゴウダ、大丈夫だがんばれ!と、思いつつ(笑)


我が君
愛しておりまするぅ――――――――――――――っ!!(ノ≧▽≦)ノvvv
そろそろ我が君の感想をばおうかがいしたき所存……とか、卯月が思いはじめた頃にナイスタイミングでコメントくれる我が君が好きすぎてつらいよ(笑) ありがとー! ゴウダはどんどんいじめてくれー!ヾ(´∀`*)ノ←酷いw

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