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2012.05.27 Sun 闇の眷族、みたいな、はじめての家出編その9。

というわけで、佳境ですよー。










「ホントに帰っちゃうンすか?」
 あの人の家の近くまで車で送ってくれたヒロさんは、わたしが降りてからも下げた窓越しにそう言っていた。日はもう沈んでいて、暗くなっていく景色は街灯の明かりでどうにか視界をたもっている。バスで帰るつもりだったけれど、ゴウダさんが「心配なので送らせます」とヒロさんを貸してくれたから、これでも予定より早く到着したほうだ。
 あの人の住居兼事務所のはいった雑居ビルは駅向こうの繁華街にあるから、この時間でも外はひとでにぎやかだった。表通りはなおのこと。
「ビルの前まで送るっすよ。ったく、生太刀の野郎もなんでこんな物騒なとこに住んでンだっつう……」
「心配ありません。ご近所さんは、みんな、いいひとです」
 生太刀なんていう身のうえで危ないことに巻きこまれやすいあの人が、わざわざ選んで住居を置くような場所だから、たしかに治安はよくないし、近くのビルに出入りするひとたちもおおむね、柄の良し悪しでいえば良くないひとばかりだけれど。あの人の人づきあいにそつがないおかげで、ご近所さんとの関係はおおむね良好だった。天羅のお父さんの影響も、もしかするとあるかもしれない。
「わたしのことより、ヒロさんは、早く戻ってください。ゴウダさんが心配です」
 そろそろパーティがはじまる頃かもしれない。キリヤマさんの代役で天羅のお父さんに付き添うゴウダさんが、見送ってくれながらすでに青黒い顔をしていたのを思い出す。
「今日はありがとうございました」
「気ィつかわないでいいすよ! なンかあったら俺か兄貴に連絡くれれば、すぐに飛んできますンで! 生太刀の野郎なんざムカついたらブン殴っちまってください!」
 快活に笑いながら車の窓を上げて、ヒロさんはまた荒っぽい運転で路肩に停めた車を発進させた。あいさつ代わりにクラクションを一回。
 あんな運転をして、いつかキリヤマさんに怒られないだろうかと心配に思いながら、ヒロさんと別れてもうしばらく経つ。
 通りを人波にまぎれて行ったり来たり、ふらふらしていたけれど、そろそろ本格的に暗くなり、道沿いのショーウインドウと街灯だけが頼りになったきた。いい加減に帰らなければいけないだろう。バッグから取り出した携帯電話の時刻表示は、普段ならよほどのことでもない限り外出していない時間帯だった。
 あいかわらず着信はない。
 ――帰ろう。
 携帯電話を持ったまま家路についた。なんだか足が重いのは気のせいだと思う。
 通りをすこし行って、路地を曲がると、すぐに街の明るさが変わった。繁華街はいろんな色の看板がごちゃごちゃしていて賑やかだ。表通りのような清潔さはないけれど、ひともたくさんいるから寂しくはない。
 慣れた道を歩きながら、何度か、顔見知りのひとに会って「こんな時間にめずらしいな」とか「どうした」とか「送っていこうか」と言われたけれど、そのたびにどうにかあたりさわりのない返事をしてやりすごした。
 家のあるビルまでもう少し。
 繁華街の目抜き通りから細い道にはいった先の、奥まったところ。
 けれどその道に入る前に足が止まった。
 あの人がいる。
 ほんの何メートルか先。行き交うひとの向こう。ビルに続く道の入り口にある建物の、あそこの一階にはたしか変わった趣向のバーがはいっている。
 その店先に、あの人がいた。
 くたびれて裾の擦りきれたズボンと安物のロゴ入りTシャツは今朝見たままの格好だった。それに昨日仕事に着ていってソファに脱ぎっぱなしだったワイシャツを、ボタンをとめずにはおっている。頭にタオルを巻いているのは、寝癖を直すのが面倒だったか、伸びぎみの髪が鬱陶しいのかどちらかで、あいかわらずめちゃくちゃな着合わせだ。
 そんな姿で、お店の前に出された置き型の看板に腰かけている迷惑な状態なのに、そばには薄着の女のひとが三人ばかり。猫背ぎみで気だるそうにしながら顔を上げて笑っているあの人に声をかけていた。
「ねぇねぇ、その髪とか目、天然なの? カラコン?」
「天然。生まれつき」
「うそー、マジで外人? 日本語ぺらぺらじゃん!」
「英語でしゃべってもいいけど、きみら、言葉通じなきゃ困るだろ?」
「あははコイツむかつくぅー」
「でも正論ー!」
 いいからちょっとしゃべってみてよ、いまなんて言ったの? どこの言葉? 英語じゃない? つうか何人だよ! 通りに響くような大きな声で笑う女のひとたちに、あの人も愛想よく相槌を返したりする。たぶん、いつもの、そつのない人づきあいなのだろうけれど。ずいぶん楽しそうに見えた。
 女のひとたちは、あの人の見た目よりすこし年下で、わたしよりはずっと年上のお姉さんたち。流行りの髪型に、きれいなお化粧をして、おしゃれな服装は肌があちこち出ていた。この頃は、手足を出しても寒くない程度にあたたかくなってきたから。
 無意識に自分の腕に触れる。
 手のひらに長い袖の感触。首元には薄いストール。足は厚手のタイツで隠している。季節に関係なく。肌は出さない。見せられない。
 カネダ先生は、同族喰いは行儀が悪い――と、そう言った。
 わたしはそんなことも知らなかった。
 兄と暮らした幼い頃は食べるのも食べられるのもあたりまえで、噛み痕はだれにでもあるのだと思っていたし、だから知らないうちはあの人に手足を見られても恥ずかしくなかった。かくさなければいけない理由もわからなかった。あの人も教えてくれなかった。ただ肌を隠せる服を与えてくれるばかりで。一度だけ「痛そうで、心配になるから、あんまりだれかに見せちゃだめよ」と言ったきりで。
 理由はそのうちに察した。
 同族喰いは行儀が悪い。はしたない。悪食。
 服の上からでも、薄い生地なら強く触れれば指先にでこぼことかすかな凹凸を感じられる噛み痕はもう消えないようだから。肌は出さない。見せられない。行儀を知らない子どもだと思われるのは悲しいし、何よりも視線の先のお姉さんたちのように、きれいでなくて恥ずかしいけど。
 たとえば、こんな噛み痕なんかはひとつもなくて――。
 あんなに派手な格好でなくていいから、せめてありきたりの、同じ年頃の女の子がするようにおしゃれをして。あたたかな季節には手足を出す服を着て。隠し事もなくて。
 そうしたら――。
 どこかに行ってもいいよ、なんて、言われなくなるだろうか。
 つかまえていてもらえるだろうか。
 考えるだけ切なかった。
 だって噛み痕はもう消えない。隠し事も、兄のことを話せなくてしまい込んでいるのは自分のほうだ。どうしようもない。それを訊かないで、見ないふりもしてくれる、あの人は悪くない。
 悪くないけれど、もう、笑わないで。おしゃべりしないで。
 愛想良く振る舞うあの人を囲んで、お姉さんたちは楽しそうだった。笑い声がする。
「ヒマならさ、あたしらとどっか行かないー?」
「俺、金ないけど奢ってくれンの?」
「なんなら服も買ってあげる。そのかわり朝まで付き合ってよ」
「面倒くせェははは」
「どうせヒマでしょ、いいじゃん! あたしら昼にもこのへん通ったけど、その時からぼうっとしてるの見てンだから」
「待ちぼうけなのー? フラれだー」
「失恋記念にたっかいお酒飲ませてあげるから、いっしょに行こーよー」
 お姉さんたちは言いながらぐいっと囲みを狭めて、あの人の姿がきれいな服の向こうにかくれてしまった。女のひとの高い声が雑踏にまぎれて響く。あの人をしきりに誘っている。あの人は――いっしょに行ってしまうだろうか?
 わたしはどうしよう。
 ひとりで家に帰っていようか。
 明日、あの人が帰ってきたら、なんでもない顔をして普段通りにしていれば、もしかすると今日一日はなかったことになるかもしれない。朝になればあの人は忘れているかもしれない。それならもういつもどおりだ。はじめから、なかったことにすればいい。
 名案のように思えたけれど、それは、なんだか、すごく――いやだ。
 いやだな。
 いますぐあの人のところに行って、お姉さんたちを遠ざけたい。
 どうすればいいのかわからないけれど。どうにかして追い払いたい。そう思っても身体は動かなかった。気後れして。だってわたしは子どもだし、きれいじゃないし、あの人のそばに行って逆に遠ざけられたらもう本当にどうすればいいのかわからなくなりそうで――。
 いやだな。
 お願いだから。
「わかった。それじゃあ――」
 何もできず、思っているうちに、あの人の声がした。










イクヤさんの着てるTシャツには胸にデカデカと『海人』ってプリントしてあります。きっと勇壮な毛筆っぽい書体で。「イクヤさんの家着のバリエに詰んだので急募!」って言ったら歌さまが考えてくれましたよ! ホントは上に着てるのは革ジャンのはずなんだけれど、季節的にちょっと暑そうだったのでシャツだけ使わせていただきました。しかしこんな男に逆ナン仕掛けてきた女の子たち勇者すぎるwwwww

アキちゃんの噛み痕がうんぬんは詳細に書くといろいろがいろいろなので、気になる方はこのへんとかこのへんの設定を読んで察していただけるとありがたいです! そのうち書こうと思ってるというかじつはファイル作ってあるんだけど書きはじめたら初手から禁断耽美倒錯臭がハンパなくてひるんで止まってるというか←



ともかくも、予定回数で完結出来そうでほっとしていたりするー。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2012.05.28 Mon 08:20

ヘタレおま、丸1日そこでアキちゃん待ってたとかwwwwwwwwww
いやそれわかんねぇよ、アキちゃんに伝わらねえよ、さすがヘタレだなぁおいwwwwwwwwww

前回から引き続き、電車内でのエンカウントです。ヘタレのヘタレっぷりはともかく、アキちゃんのもやもやにニヤニヤしつつも和みつつ、更に「そんなヘタレで大丈夫か?」と心配になったりと、色々と忙しいです。
あぁ、ユリちゃん派遣してあげたい! アキちゃんのお友達に……是非……!!オシャレとかお買い物とか、一緒に行かせたい……!!恋の相談とかも……!!!←


さて、次回で家出は最後ということで、ヘタレが多少は名誉挽回できるのか、楽しみです。←最後までヘタレ呼びなのは、なんかもう仕方ないと思うの。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.28 Mon 23:07

お姉さま
連続でエンカウントありがとうございます<(_ _*)>
登場を心待ちにしてくださったお姉さまの期待をうらぎって、このヘタレは一日中待ってましたよ!wwwwwwwwww ずっと!wwwwwwwwww
こうなるとアキちゃんの男運というか男を見る目というかそーいうのから改善していかなくっちゃならないような気がひしひしと……はじめになついてたのがカヤ兄で、そのつぎがイクヤさんって……アキちゃんには幸せになって欲しい(切実)
なのでユリちゃんの派遣ぜひにーっ!!(*≧Д≦) ユリちゃんは言うべきことはハッキリ物申す子な印象なので、アキちゃんのかわりにイクヤさんバッサリやっちゃってほしい。どうだろう、さすがによその家の事情にそこまで首は突っ込まないかな? でもアキちゃんの相談にはすごく乗ってくれそう、その時でもいいからイクヤさんバッサリやっちゃってくれ(笑) そしてユリちゃんとアキちゃんがお出かけの時はきっとカイさん同伴なのだろうなあ、カイさんは美味しいユリちゃんのボディガードだし、アキちゃん一応吸血鬼だし。三人で歩いてるところ想像するとニヤニヤ///
ヘタレの名誉挽回、なると、いい……な☆←

我が君 : URL

2012.05.29 Tue 20:47

誰かがあのヘタレにドロップキックかませばいいと思うの。ホントに。(゜ロ゜;
出ていけばいいとか言いつつ、帰ってくるの待つとか…女々しい((T_T))ヘタレ度UPだよ!!
今回はゴウダの勝ちだと思う!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.05.29 Tue 21:44

我が君
ドロップキックと聞けば恐怖のドロップ麺星人が出てくる卯月だよ(笑)
ホントね! もうね! あのヘタレだれかボコボコにしてやればいいのに! でもイクヤさんもいろいろ思うところがあるのよ…と、かばいたい気持ちもあるけどでもやっぱりアイツ一発なぐりたいよ卯月も!www
今回のゴウダは彼ガチで向こう半年分くらいの勇気振り絞ったと思う。真剣にゴウダEDでいいかと思ったもの(*゚Д゚)/ダー゚+。(笑)

: URL

2012.06.01 Fri 15:59

イクヤさんマジでその恰好で逆ナンされてるのさすがwwwwwww

アキちゃんのもやもやにせつなくなりつつ、カヤお兄ちゃんのバカァ!と思いつつ、先の気になるところで終った次の瞬間に目に飛び込んできた「海人」の文字に吹っ飛びそうになりました! 私は! なんてことをしてしまったのか! せっかくイケメン(な見た目)のイクヤさんなのに……っ!

フェアリーゴウダさんに軍配が上がりまくっていますが、でもアキちゃんはイクヤさんが大好きなんですよね……(じつは最近までゴウダさんEDだと思っておりました!←)
イクヤさんは今回のゴウダさんの三分の一でもヘタレ解消しないとまたアキちゃんに逃げられるというかゴウダさんにかっさらわれてしまう気がひしひししてとても心配です!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.06.02 Sat 12:06

祭 歌さま
服装<<<イケメンだったのか、ヘタレさがにじみ出てて楽に釣れそうだと判断されたのかwww
カヤ兄に叱咤ありがとうございます。ホント、アキちゃんになんてことしてくれたんだカヤ兄……!と(゚皿゚メ)怒。「海人」Tシャツは秀逸だったので使用させていただきました! 本文中にロゴが「海人」だと記述したかったのですけど、どうしても地の文のリズムがあわず、載せられなくてすみません;;; これからもイクヤさんのダサいTシャツとか服装とか考えていただけるとうれしいでs(ry
>じつは最近までゴウダさんEDだと思っておりました!←
卯月はいまもゴウダEDだと思ってます!←←←
闇の~は、なんとなくラストだけはぼんやり何パターンか考えていたりするのですけど(=未定)、イクヤさんEDとかゴウダEDとかまさかのカヤ兄EDとか、いろいろあります(笑) でもいまのところ、歌さまお察しのとおり漆黒のフェアリーに軍配が上がりそうなので、イクヤさんにはもうちょっと頑張ってほしいところです! なんだかんだ言ってもイクヤさん可愛い(笑)

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