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2012.10.14 Sun 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その2

ユリちゃんはきっとあのあと普通のお茶も出してくれたと思うよね?(笑)









 カイさんが、アムリタの女の子に会わせてくれるそうです――と、言い出して、心配なのでついてきてほしいです、なんて頼まれた時には大丈夫だろうかと思いもしたが、アムリタの子どもが想像以上に明朗な性格だったおかげで、うちの子がなじむまで、そう時間はかからなかった。
 昼寝に都合のよさそうなソファに座って、アムリタの子どもから学校の話だの、友達の話だのを熱心に聞いているうちの子の横顔に安心する。たのしそうな顔だ。うちの子があまり笑わないのも、この時節に極端に素肌を隠す服装なのも、アムリタの子どもはとくに気にしている様子がなくて、それにもほっとした。
 瞬きながら視線を正面に戻すと、色眼鏡のレンズ越しに、向かいの相手とひたりと目が合う。子どもたちの楽しげな声を聴きながら、とりあえず笑っておく。
「俺たちももーちょっとおしゃべりする? カイさん」
「面白ェ話でもあンのかよ」
「久しぶりにカレーつくったらジャガイモがとけちゃって」
 もともとあまり機嫌の良くなさそうだった銀色の眉が、ますますいっそう険しくなった。鼻面に隠しきれない小さなしわが寄る。
「くだらねェ」
 吐き捨ててふいと視線を逸らす仕草はこちらを黙らせようとするものだ。
 百歳超えの同族。キリヤマさんのお友達。
 カイさんがアムリタの子どもの味付けを請け負うことになったのは、おやっさんのお抱え料理人のなかでも飛びぬけて腕のいいシェフだったから。世界中を渡り歩いて、料理の武者修行をしていたこともあったらしい。浅黒い肌に目鼻のはっきりした顔立ちといい、その目、髪の色といい、冗談のようだがカイさんはこの国に根付く同族の血筋だ。
 ただし、天羅の血族じゃない。
 そのむかし、始祖天祇に治められていたこの国の血族を二つに割った二世天祇の双子の末子――当代地祇と先代天羅の姉を母とする、まごうかたない大始祖直系の始祖血統。ともすればどこかの女総領の伴侶として総領後継の父親にもなっていたかもしれない、純々血の、地祇の血族。
 それがこうして天羅の庇護を被るようになった経緯には、よその血族の大物まで巻き込んでいろいろあったとか、なかったとか、小耳に挟むくらいはしているが、くわしくは知らない。訊ねようとも思わない。俺が物心ついた頃には、カイさんはおやっさんの料理人だった。なによりも地祇の血族だとわかっていれば、十分だ。
 それだけで、俺には十分すぎるくらい、敬遠の理由になる。
 カイさんも俺のことは昔から厄介な子どもだと思っていただろうし、腐っても血統主義の血族に育ったなら、生太刀なんかとはすすんで関わり合おうという気もなかっただろう。俺とサキがどうなったのか、知っていればなおさらに。
 だから、キリヤマさんのつてでうちの子の料理の先生を頼みはしたものの、いままで大した関わりもなかった。
 さっきはお互い、面倒をみている子どもの手前、押し黙って距離をとるわけにもいかなかっただけだ。それでも、こちらの軽口にまさか向こうが乗ってくるとは思わなかった、というのが正直なところ。しらっとあしらわれるだろうと思っていた。意外だった。
「……カイさんて、顔に似合わず気をつかうひとなのねえ」
「やっと静かになったと思ったとたんケンカ売ってンのか? あァ?」
 眉間に刃物で刻んだようなしわを寄せ、カイさんが横目に睨んでくる。
「俺にまで女みてェにしゃべンな、反吐がでる」
「えー? むしろカイさんはもっと優しく話すべきでしょ? ユリちゃん、女の子だよ」
「ンなとこで過保護にしてどうする」
「過保護についてはカイさんに言われたくないでーす」
 なにか面白いことでもあったのか、リビングからアムリタの子どもの笑い声が聞こえた。カイさんは一瞬ぐっと喉を詰まらせる。図星だと思っているわけじゃなさそうだけど、おおかた、キリヤマさんあたりによく言われているんじゃないかと思う。過保護。
(来るのはいい。ただし、その眼、どうにかしろ)
 いま、この人と本気でケンカしたら、あっという間に俺の負けだと思うけどな――。
 同族殺しと忌み嫌われる生太刀としての能力はおろか、異能もまともに使えなくなっていることはおやっさんとそのごく近辺には知れているから、カイさんが知らないはずはない。それでもどうにかしろと言った。視たものすべてを切り裂く異能の眼を。カイさんはアムリタの味付けと、その護衛のために、ここであの子と暮らしているから。
 極上のアムリタとはいえ、他人の子どもひとりにずいぶん過保護だ――と、思う。
 うちの子が楽しくやってるか、知らず知らずに横目で窺い見てしまう俺が言えたことでもないけれど。
「てめえ、」
 リビングの様子を眺めていると、カイさんが言った。
「結局、あのチビを迎えに行かなかったってな」
 こないだはうちの子に余計なこと吹き込んでくれてどうも、先にそう言ったのは俺だったか。まだひと月と経っていない。アキちゃんが朝出かけて行ったきり、音沙汰もなく、ずいぶん遅くまで帰ってこなかった。
 あの日――。
(イクヤさんは、わたしがいなくなったらどうするんですか?)
 そう言われたのはなぜだったか。またぞろ自分がだらしなくしていたせいだろう。
 いつものことで、だからあの子にとっても言うほどの意味などあってない、何気ない言葉だったはずだ。そのくらいはわかっていた。
 わかっていても、時折、ふっと、得体も知れずこわくなる。
 あの日がそうだった。言わずにいられなかった。
 ――好きなところに行けばいいよ。俺になんかかまわないで。
 不意打ちをくらって、一瞬、泣きそうになっていた。あの子の表情を憶えている。
 それでもまだこわかった。
「迎えに行けばいっしょに帰れるって、さ……決まってないでしょ?」
 サキは帰ってこなかったから。
 走って、走って、迎えに行っても。帰ってこなかった。あの子はサキとちがうけど、でも、俺はこんなで、どうせずっといっしょにはいられない。それならいっそその日まで、抱え込まずに。手放したまま。あの子がそばにいるあいだだけ、近くにいられるほうがいい。そうすれば、あの時とおなじに、傷つくこともないだろう。
 最低すぎて笑えないけど。
「――ガキが。てめェよりチビに甘えてンなよ」
 椅子を鳴らしてカイさんが立ち上がる。
 すぐにアムリタの子どもが聞きつけて、どこに行くの、タバコ、カイさんのぞんざいな返事も気にならないのか、ベランダに出ていく背中をいってらっしゃーいなんて適当に手を振って見送り、すぐに談笑の続きをはじめた。
 となりにいるうちの子も、ここにいる俺も、人間が吸血鬼と呼んで恐れる存在で、自分がその極上の嗜好品なのだと、わかっているのだろうか。
 カイさんはもともとああいう性格と態度のひとだけど、やり方はどうであれ、アムリタの子どもをちゃんと守って、年相応に甘やかしてもいるようだ。
「……ホント、顔に似合わないひとだなあ……」
 そうでなければあれほど繊細な料理は作れない、と、言ってしまえばそれまでだが。
 おやっさんが主催するなかでも、とくに大掛かりな夜会なんかのメインディッシュに出てくるカイさんの料理の味を思い出す。料理人としてアムリタにそそぐ情熱が、なにかの拍子に男が女に向けるそれに変わったら大騒ぎになりそうだ。ふと想像して忍び笑う。
 アムリタの子どもとケータイを見せ合ったりして、うちの子もだんだん口数が多くなってきた。楽しそうに。名前も教えられないまま、どうやって会話に口を挟めばいいかもわからずにいた時には、こっちがハラハラしたけれど。
「俺も、もっとしっかりしなくちゃな――」










カイさんの設定を正式に許可いただかず勝手にいろいろ付けてみちゃったけど大丈夫かっ、これ!? と、冷静な卯月がガクブルしている!(((( ;゚Д゚)))

ちなみに、イクヤさんは基本、女の名前は聞くけどほとんど覚えない男、です。なのでユリちゃんもおおむね「アムリタの子ども」って、頭のなかでは記号呼び。昔からよほど親しい相手じゃないと、女性の名前は正確に覚えない。サキさんに出逢って以降はその傾向に拍車がかかってる、みたいな。ヘタレ感が増すばかりのイクヤさんはいつ正ヒーローの名誉挽回できるのかなあ?


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Comments

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ミズマ。 : URL

2012.10.14 Sun 23:50

カイさんの過去については、概ね間違ってないから大丈夫だよ、朔ちゃん!
イクヤさんの腹ん中が読めてとっても嬉しい…ってよりは、助かりますw ヘタレ度に拍車がかかってる気もするけど、最後の言葉がせめてもの正ヒーローの意地なのかしらw

ちゃんとカイさんの過去話とか、ユリちゃんとのアレコレとか、書かないと色んな弊害があるのだなぁ、書かないとなぁ、と思いました。
で、出来る限り、頑張ります。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.15 Mon 22:52

お姉さま
よよよ良かったです大幅にちがってなくて良かった!(;・д・A 汗々
お姉さまのカイユリを読む準備でしたらいつ何時にも万端なのですが! お姉さまのオリジナルお話も読みたいのでここは自重すべきかむむむでも待機したいうむむ……!щ(゚ロ゚щ)ジレンマー
お姉さまの良い時に思ったものを書いていただければ卯月はつねにウマウマですこれはたしか!
そしてどうしてもイクヤさんのヘタレ加速が止まらなくてどうしましょう、と。この人は本編がはじまらないかぎりたぶんずーっとこのままだろうなあ、というあきらめも若干、ありますが(笑) 最後はたしかに正ヒーローの意地ですね、自分でもやばいと思っているらしいですw イクヤさんがんばってw

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