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2012.10.15 Mon 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その3

女子は恋バナ! って、安直すぎるかなあと思いつつ。










 イクヤさんとカイさんは何か話をしているようだった。一段声を落として話しているから、気にはなったけれど、でも、聞き耳を立てようなんて思わなかった。
 そんな余裕がなかったから。
「それから――これが同級生の、男子、友達。右が浩来で左が宗太っていうんだけど」
 表示させた写真が見えるように携帯電話をわたしに向けて、ユリちゃんが説明してくれる。さっきまでは、わたしの電話に保存してある写真を見て、私服姿のゴウダさんを気に入ったというユリちゃんの携帯電話に写真を送ったりしていた。ゴウダさんはユリちゃんの学校の送り迎えをしているそうで、ユリちゃんはゴウダさんのスーツしか見たことがなくて、だから私服は不思議で面白い、という。
 ゴウダさんのおかげで、ユリちゃんのメールアドレスを教えてもらえた。いっしょに電話番号も聞けた。ゴウダさんに、あとでお礼を言っておこう。
「宗太はアキのこと知ってるんだ」
「え?」
 ユリちゃんと、携帯電話に表示されている写真の男の子を見比べて、首をかしげる。ソウタ、という名前にも、顔にも、見覚えはないけれど。
 ユリちゃんがにやりと笑う。
「まえに、紛争地帯でアキを遠目に見かけたんだって。それだけ。だから名前とか事情は知らないけど」
「紛争地帯?」
「繁華街の通称。ガス爆発なんだかヤバイひとたちの出入りなんだか知らないけど、あそこ、しょっちゅう騒ぎがあるでしょ? だから紛争地帯」
 理解したという返事のかわりに何度かうなずく。
 ユリちゃんの言う「騒ぎ」の原因は、たぶん、きっと、イクヤさんやわたしだと思うけれど、ユリちゃんがこわがってしまうかもしれないから、黙っておこうと思う。何回かに一回は、わたしたちじゃなくて、ご近所さんの事務所の騒ぎということもある。
「宗太はさ、」
「はい」
「アキのことが好きだって」
「……、え?」
 さっきと同じように、ユリちゃんと、携帯電話を見比べた。ユリちゃんは満足そうな笑顔でにやにやしているけれど、よくわからない。
 だって、名前も知らないし、話したこともないひとなのに。
「どうして好きなんですか?」
 訊ねると、ユリちゃんは吹き出すように笑って。
「運命の出会いだったらしいよー、ひと目惚れひと目惚れ」
 ひと目惚れ、ってなんだろう?
 訊きたいけれど、さっきの問いかけがおかしかったのか、ユリちゃんはソファに突っ伏して笑っていて、声をかけるのがむずかしい。また、へんな聞き方をして、ユリちゃんがこれ以上笑い続けることになったら酸欠になるんじゃないか、とも思う。
 だから顔を上げてダイニングを見やると、テーブルに頬杖をついているイクヤさんと目があった。紫色のレンズの向こうで青い目がしばたく。
 そうして、イクヤさんは意地悪そうに笑い、ひらひらと手を振った。
 わたしがどうしたかったのか、すぐにわかったみたいだ。だから追い返すようにそんな仕草をしてみせる。声を出さずに「がんばれ」なんて言う。すこしくらい助けてくれてもいいと思う。
 ムッとしたところで、ベランダにいたカイさんがテーブルに戻ってきて、イクヤさんはわざとらしく「カイさん、それでさ――」なんて言いながらこちらから視線を反らした。今日の夕飯にはとくべつ甘いデザートをつけよう。絶対――。
「ねえ、アキ」
 耳元で声がした。
 びっくりして振り向くと、それに驚いたユリちゃんも目を真ん丸にする。けれどすぐに気を取り直して、ダイニングのほうを見ながらわたしに耳打ちした。
「もしかして、アキって……あのひとのことが好き?」
「あのひと、とは」
「チャラいホストみたいな、えーっと、名前、イクヤさん? だっけ」
 好きなの? と、ユリちゃんは首をかしげる。
 だから――。
「好きです」
「即答なんだっ!?」
「はい」
 悩むようなことじゃない、と、思うけれど。ユリちゃんには意外だったみたい。
 わたしも意外だった。
「ユリちゃんは、カイさんのことが、好きじゃないですか?」
 いっしょに暮して、ごはんを食べたりおしゃべりをしたりするのだから、当然、カイさんのことが好きなのだと思っていたけれど。
 わたしとイクヤさんを交互に見て「そうかーへえそうなのかー」とか「ちょっと腹黒そうだけどカッコイイし優しそうだもんねー」とか「宗太かわいそうだけど成仏して」とか言いながら、じたばたしているユリちゃんの様子に首をかしげる。
 すると、ユリちゃんがぴたりと動きを止めて。顔を上げて。
「ちょっと待って」
「? はい」
 真剣な面持ちでソファのうえに正座をするユリちゃん。
 つられて、こちらも正座をして向き合うと、ユリちゃんはなおいっそう真面目な表情で、声を潜めてこう言った。
「アキは、イクヤさんのこと好きなんだよね?」
「はい」
「ゴウダくんは?」
「好きです」
「やっぱりー」
 そういうことかあ――と、ユリちゃんは大きくのけぞるみたいにして背もたれにしなだれかかった。がっくり。脱力している。おかしなことを言ってしまっただろうか?
「あっ……あのっ、ゴウダさんだけじゃなくて、カイさんもキリヤマさんも、天羅のお父さんも、みんな好きです!」
「あんまりフォローになってないけどありがとうよくわかった……」
 どうしよう、どうしよう。
 見当違いなことを言ってしまったようだけれど、いったい何をはずしたのか、よくわからない。イクヤさんは好き。ゴウダさんも好き。優しくしてくれる人、仲良くしてくれる人は、みんな好き――だと、ちがうのかしら?
 なにがちがうの?



「女の子たちは平和ねえ」
 うちの子の気を反らそうと、眉間をしわ寄せるカイさんを相手に益体もない話をしているうちに、リビングではアムリタの子どもによる異性愛の講義がはじまっていた。
 彼女によると、友愛と恋愛のちがいはキスしたいかどうか、なのだと。その微笑ましい言い分に、うちの子はソファに正座したまま背筋を伸ばして何度もうなずいていた。ちゃんとわかっているだろうか? それにしても。
「キスで決めるって、カイさんずいぶん古風にしつけたんだ」
「俺じゃねェ。あれが勝手に言ってンだよ」
「でも、キスを基準にするとうちの女の子にはちょっとややこしいかなー?」
 案の定、キスしたいひともいます、とうちの子が名前を挙げはじめ、アムリタの子どもがぎょっとしている。うちの子の「キス」したいは、「挨拶」代わりにという意味だ。ディナシーや、アル・シャイターン、ほかにも何人か。出るところに出れば血混じりと毛嫌いされるうちの子にも、頬にキスしてハグで挨拶になる相手はいる。
 もどかしそうに、めずらしく手をじたばたさせたりしながら、どうにかこうにか説明するうちの子と、それをうまくまとめて話を続けるアムリタの子ども。ふたりの様子を見ていると、安穏とふわふわした心地で、すこし眠くなる。
 カイさんがこっちの話に付き合ってくれるのも、そんな気分だからだろうか。
 ちらりと窺い見れば、氷のように冷たそうな色の目も、どことなくやわらかい視線でリビングの少女たちを眺めているように思えた。
 血統主義の地祇の純々血、そのくせ、血族の思想を嫌って家を出て、人間の娘の世話などしている。地祇の連中は好かないが、それでもあの子の先生にカイさんを選んだのは、そういう性格のこのひとなら、混血の子どもでも無下にはしないと思ったからだ。おなじ血族のよしみもある。あの子を近しい血のそばにいさせてやりたいような気もした。もっとも、アキちゃんはカイさんが地祇の血族だと思ってもいないようだけど。
 カイさんは、いいひとだ。そのうえ頼もしい。
 アムリタの子どもは幸せだろう。
 一瞬で視線を鋭くし、振り向いてキッチンを見据えるカイさんの様子に、口端が思わず上がった。浅黒い肌に険しいしわが浮き上がった眉間を上目づかいに見て問いかける。
「ところで、今日、俺たち以外に来客の予定は?」
「ねェよ」
「まあ、押し売りや勧誘だって、前もって連絡くれたりしないけど、ね――」
 どちらからともなく席を立つ。
 カイさんはキッチンへ、こっちはリビングに。
 女の子たちはキスの話をどこかにやって、どのケーキがいちばんおいしいのか、そんな論議で盛り上がっていた。うちの子へのおみやげの参考に、もっと聞いていたかったんだけど――。
 あーあ、残念。










イクヤさんは、わりとアキちゃんのおでことかほっぺにチュッチュチュッチュしてそうなので、アキちゃんは額と頬のキス耐性が異常に強そうだけど、それ以外の場所になると「あれいつもとちがう?」と思ってビックリするんだろうなあ、と。逆に、他のひとからキスされても場所がおでこやほっぺだとじゃれてるだけだと思って完全に無反応だから、たぶんゴウダが初めて勇気を振り絞ったときは確実にゴウダ涙目EDだと思うのw うちのフェアリーは最初から唇とかムリだろう。

このあたりから、当初予定していた展開とちがってくるというか、むしろ当初予定していた展開は「イクヤさんとカイさんがカイさんチの玄関先でガンくれ合う」までだから、じつはもうおとしまえ編の目的はその2時点で完全にクリアされていたりする(笑)


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ミズマ。 : URL

2012.10.16 Tue 22:54

女の子たちはかわいいなぁ♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ
んまー、女子っつったら恋バナでしょう! 宗太くん、成仏してね!←
ちょっとよそ様の文章の中で宗太はともかくとして、浩来って文字があるとドキリとしますね、宗太はともかくしとて←

この一件でユリちゃんはアキちゃんの情緒を成長させてあげなければならないと、それは自分の使命であると強く思ったに違いないのですw

>チャラいホストみたいな
ホストきたーーーー!!!キャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー
エピローグでシャンパンコールとかしてくれるって、私、信じてる!←

しかし、しみじみとカイさん過保護で優しいなぁ、と。こんなに丸わかりでどうすんのかしら。面目もくそもない気がしてきました。まー、それが後々の独占欲とかに繋がっていくと、私は信じているんですけれどねー。

そしてラストの不穏な空気。
>あーあ、残念。
なんかこのラスト、すごい好きだなぁ。
不穏な空気なのに肩に力入ってない感じで、イクヤさんかっこいい。珍しく←

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.17 Wed 22:10

お姉さま
宗太くんの立場wwwwwwwwww
イクヤさんのシャンパンコール、卯月も聞きたいのですけども!← イクヤさんと、あとアル兄とイロハお兄ちゃんとか加わると大変楽しい事になる予感しかしない(笑)
「ミズマちゃんがご希望ならシャンパンコールくらい何語ででもしてあげるけどさ。どうしてみんな、俺がキチッと服着ただけでホストとか遊び人とか言うの? むしろタンクトップに股引とか履いてるほうが人畜無害で地に足がついてる感を演出できるの?」「演出とか言ってる時点でアウトだろ。ンな格好でうちの敷居またいだらブッ飛ばすぞ」まあホストでも遊び人でもジゴロでもなんでもいいからイケメンはスーツ着てというのが卯月の本音(オイ、
という流れでカイさんのスーツ姿想像しましたら吐きそうなんですけども! 萌えすぎて!(言い方)
カイさんとユリちゃんの距離感は、油断してると卯月手癖でどんどん近づけちゃうのでつねに「ホワァアアアアアッ、近い! 離れて! 近い!」とか思ってます……けど、やっぱりもうちょっと間合いを広げたほうが良いかなあ? ヒロインを過保護にしてしまいがちな卯月、精進いたします。でもユリちゃん可愛いから守ってあげたくなるんです言い訳です(o゚Д゚)ノダーッ!
お姉さまがカイユリで戦闘ありを書いてらしたので「よぅし卯月も書いちゃうゾ☆」と、思ってのあの不穏な空気です。おとしまえ編は本当に、イクヤさんが玄関でユリちゃんに一撃もらうシーンと、イクヤさんとカイさんが鼻くっつきそうな距離で睨み合うシーンしか考えてなかったので、その後は好きにしていいかな! と!(笑)

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