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2012.10.21 Sun 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その6

VS.はぐれ者、続きます。









 背伸びをすればつまさきが床に着く。
 もうすこし背の高いひとだったら、きっと、もっと息苦しかった。片腕で後ろから首を絞めるように抱えられているから、いまも呼吸はしにくいけれど。後ろ手にひねられている右腕も、身動きしなければそれほど痛くないのだもの。
 だから、わたしは大丈夫。
 大丈夫だから、慌てないし、騒がない。
 これ以上、イクヤさんたちに迷惑をかけたくない。ユリちゃんにも。
 捕まったのがわたしだけなら良かったのに。
 うかつだった。
「総領の庇護? そいつらで天羅と交渉でもする気か」
 ふざけンな――ユリちゃんを捕まえているひとの背中が陰になって、見えないけれど、カイさんの怒っているのはよくわかった。あたりまえだ。カイさんはユリちゃんを守ってあげなくちゃいけないし、ユリちゃんはすごく怖がっていると思う。
 背後で、はぐれ者のひとが軽く笑った。背中に胸の震えが伝わり、声が響く。
「天羅など冗談じゃない」
「あァ?」
「総領ならだれでもいい、と言うほど、こちらの状況は切迫していないのでな。選ばせてもらうさ。眷属なんてまがいものまで重用し、あげく人間だの血混じりだのと馴れ合う恥知らずは願い下げだ」
 はぐれ者は男のひとのようなのに、しゃべると女のひとみたいにも聞こえる不思議な声だった。まがいもの、血混じり、恥知らず――まじりけない純々血以外をひどく嫌うひとたちは、同族のなかでも血統主義と呼ばれている。
 混血のわたしにとってはこわいひとだ。
 イクヤさんに拾われてから、天羅のひとたちはみんな、わたしにも優しいから忘れてしまいそうになるけれど。思い出して、身体がすくみそうになる。
「ウピルでもいいが。もう一度海を渡るのは面倒だからな。天羅がとっておきにしているアムリタに、生太刀を付ければ、地祇の年寄りには十分すぎる手土産だろう。――どうだ? 生太刀」
 はぐれ者が言う。
「お前が目を潰して、おとなしく従うなら。この血混じりは離してやるが」
「いいぜ」
 間髪入れずイクヤさんは応じた。姿は見えないけれど。ためらったりしなかった。
「目を潰すなり手足を捥ぐなり好きにして、俺ならどこにでも持っていけよ。――ただし、その子はたしかに無傷で返せ。アムリタもだ」
「欲をかくのはうまくないぞ? 俺は従えと言っている」
「……、わかった」
 イクヤさんは食い下がらない。わたしのせいで。
 わたしのせいで――。
 イクヤさんがひどい目に遭うのも、どこかに連れて行かれるのも、ユリちゃんがこれ以上こわい思いをするのも。そんなのはだめだ。わたしのせいで、そんなふうになるのはだめだ。絶対に。
 そんなことさせない。
「だめですっ! イクヤさん!」
 出せる限りの声で叫んだ。
 はぐれ者が驚いた一瞬に、思い切りあごを引いて首を絞めている腕に噛みつく。袖から出ている手首のしたあたりにうまく牙が当たった。振り払おうするはぐれ者の腕を力いっぱい掴まえて、牙を突き立てて肌を食い破れば口のなかに血の味が広がる。甘くない。けれどとても濃い同族の純血。
 身体中の血管が弾けてしまうのだと思った。
 骨も肉もなにもかも、全部が入れ替わったように。感覚が鋭くなる。力が湧いてくる。心臓が打つ拍動のままに暴れだしたくなる。
「――っァアあ!」
 後ろでなにか言っているような気がしたけど、首が折れそうなほど強く締め上げられたけど、そんなのはどうだってよかった。
 はぐれ者の身体に体重を押しつけ、振り上げた足で目の前の男の背中を蹴りつける。人間の男のひとだけれど、どうしてかイクヤさんやカイさんも驚くほど力が強くなっていた。普段のわたしじゃどうしようもないけど。いまはちがう。血を飲んだ直後なら。
 蹴り倒すくらいできるはず!
 足から伝わる生身の感触を無視して力いっぱい押しやれば、振り向きかけた相手は踏ん張りきれず、ぐらりと体勢を崩した。
 もうひと押しと思ったけれど、反動ではぐれ者もよろめいたせいで距離がはなれて届かない。でも首を絞めてくる力がすこし弱くなっていた。そのすきに思い切り身をよじってはぐれ者の腕を振りほどく。
 床に足がつくのと同時に、顔を上げればユリちゃんと目があった。
 カイさんが、ユリちゃんを助けてくれている。
 ――よかった。
 ほっとした瞬間に、がくんと。
 首がのけ反る。
 その衝撃と激痛に思わず悲鳴を上げた。髪を鷲掴みにされて引き倒される。
 動転して揺れる視界に牙を剥いたはぐれ者の顔が映り込む。
 怖い。痛い。怖い。
 ――こわい!
「このっ、血混じ、」
 はぐれ者の怒声が途切れた。わたしの髪を掴んでいた手が引き攣るように指を開く。
 その手にいくつも裂傷ができたのはいつなのか――。
 気づいた時にはずたずたになったはぐれ者の手から血が噴き出し、わたしの頭上には影がかかっていた。それはひとの形で。よく知る姿で。飛び退こうとしたはぐれ者を追って視線を走らせる。
 青いはずの瞳は、赤い。
「く、っそ!」
 頬に、首に、腕に、脚に――。
 身体中に傷をつくりながら、ダイニングに飛び込んだはぐれ者がうめきながら手を伸ばす。ダイニングテーブルを掴んでこちらに投げつけようとする。その腕にさらに裂傷ができ血がしぶく。ユリちゃんをソファの陰に座らせたカイさんが踏み出そうとする。
 玄関チャイムが聞こえたのは、その時だった。
「ごめんください!」
 そんなあたりまえの挨拶とともに――。
 衝撃が真横から壁を突き破り、リビングとダイニングを分断した。



 馬鹿げたほど強く大振りの力場だった。
 粉々になった壁の建材が爆風じみた勢いで室内に飛び散り、粉塵に視界を覆われる寸前でとっさにうちの子を抱え、建材の飛んでくるほうへ背を向けた。いくら吸血直後でも、こんな仕打ちに耐えられるほどこの子は頑丈に出来ていない。俺のほうがまだマシだ。アムリタの子どもはカイさんがどうにかしているだろう。
 背中にぶつかる建材は突き刺さるほどじゃないがそれなりに痛いしうっとうしい。ただでさえいまは異能を使ってガタがきているのに。
 あと少しだった。
 カイさんがあのはぐれ者を抑えれば、それでおしまいだった。
 そこに横槍を入れた挙句、もうもうと立ち込める粉塵をひと息に吹き飛ばすような大声で、何人目か数えるだけで腹の立つ招かれざる客は朗々と名乗りを上げる。
「我々は人類解放戦線、暁の団である! 悪辣非道の吸血鬼ども、貴様らの蛮行もこれまでだ! 覚悟するがいい!」
 そんな百回聞いたような名前で。
 これ以上、事態をややこしくすンじゃねえよ。くそったれ。










じつはアキちゃんはふつーの時でも人間なら成人男性くらいブッ飛ばせたりする。

お父さんが純々血で、総領クラスのカヤ兄の血を飲んでた頃もあったから、混血にしては力が強いほう。でも、格闘技やってるってわけじゃないし、そもそもケンカ向きの性格でもないから、そんなに強くないアキちゃん。

女の子ふたりはどうにかヒーローの手元に戻ってきたけれど、ここからどうなるのかなあ←


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Comments

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たぬ : URL

2012.10.21 Sun 18:40

イクヤさんキタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!しかも赤眼ひやふー!!!

でも遅いよ、遅すぎるよwww
女の子を人質にされた上に、自分を差し出すへたれっぷりに、そこは隙をついてのしちゃえよ!!とツッコミ入れちゃったけど、笑
突破口作ったのはやっぱアキちゃんだったね。だと思った。

最後の「ごめんください!」で、あれ、ゴウダってこんな口調だっけ?とか思いながらもみんなに好かれるもう1人のヒーローが到着しちゃったかと思って正直ちょっと焦った。
だってここでフェアリー来たらイクヤさんいいとこ帳消しだもの。超絶あわれだもの、笑

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.21 Sun 21:51

たぬさま
吸血鬼スキル発動中はみんな赤目になるからねー!  イクヤさんも赤目だよー!ヾ(´∀`*)ノ
いやほらイクヤさんもたぶん隙を見てはぐれ者倒すつもりだったんだけどアキちゃんが先にしびれを切らしたっていうかでもあのヘタレのことだからガチで「アキちゃんが無事なら目ン玉のひとつやふたつ別に」とか思ってそうな気がしなくもないけれど! しなくもないけれど、まあどっちにせよイクヤさん遅いよねw←
>アキちゃんだったね。だと思った。
吹いたwww うん、お察しの通りでしたwww
ゴウダが来たならとくにピンポンとかせず突っ込んできてブツブツネガティブ発言しながらはぐれ者ボコッたあとやり場のない怒りをHP真っ赤で点滅状態のイクヤさんにぶつけようとしてアキちゃんとカイさんに全力で止められると思うw そんな気しかしない(笑)

真城 青瑛 : URL

2012.10.21 Sun 22:56

どこぞのヒーローよりカッコイイよ、アキちゃんww
やっと重い腰をあげたイクヤさん、敵にも味方にも、いつもいい所は持ってかれちゃうんですねww

最後の来客に思わず、「フェアリー来たか?!」と立ち上がりそうになったんですが、次のセリフで腰を椅子から上げる程度に収まりました^^;
「ごめんください」する態度じゃないよwwと、ちょっとイヤかなり緊迫したシーンのはずなのに笑ってしまったのは申し訳ないです(´▽`;

とにかく、レアなイクヤさんのカッコイイ所を見れたのでニヤニヤしてましたー(笑

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.22 Mon 22:04

真城 青瑛さま
「――そうか! イクヤさんはいいところ持っていかれ属性なのかっ!」と、気づきましたwww ヒロインにがっつり持っていかれた正ヒーロー。がんばれイクヤさんwwwww
でも、こんなイクヤさんも、ゴウダのいいところだけは持っていける……んだけど、いまゴウダいなかったですね(笑) 漆黒のフェアリー出待ちしていただけてうれしいです。愛されてるなあゴウダw
バトルが連続してるので、最後、ちょっとでもなごんでいただければ何よりですー(v ゝ`ω・(v ゝ`ω・(v ゝ`ω・)ブィッ!
イクヤさんは後半に向けてもうすこしヒーローっぽくカッコよくなってくれるといいなあって、思います!(笑)

ミズマ。 : URL

2012.10.22 Mon 23:32

暁の団てなにwwwww
場が一気にコメディになったよ朔ちゃんwww

いやあ、急転直下ですね! この後どうする気なんだろう、朔ちゃん。←
ともあれ私が頭を抱えたのは、
「カイさん家、血まみれ! 再起不能!!」
ということでしたwww

イクヤさんはいいところもってかれ属性なんだなぁw 正ヒーローなのに。アキちゃんのがよっぽどヒーローしているというこの不思議。
腕っぷしだけならアキちゃんのがイクヤさんよりカイさんよりも強そう。腕相撲したら、イクヤさんに勝ち、カイさんには……ぎりぎりでカイさんの勝ち、ぐらいだと楽しい。ゴウダくんは手を握れないので不戦敗ですw

しっかし暁の団、外から襲撃中、戦闘中だって気付いただろーに、なぜいま突撃したのだwww

そしてはぐれ者。
地祇んとこ行くとか言ってますけど、カイさんが地祇にコネ持っていると仮定しますと、
「いまからはぐれもんが行くけど、そいつボコっとけ。代わりに俺が戻るから」とか一報入れれば速攻で詰むような気が、しないでもないw
でもイクヤさんが地祇への手土産とか、カヤ兄はどれだけヘブン入っちゃうのかなー。はぐれ者がアキちゃん攻撃したとか知られてもアウトだよなぁ。一世紀ぐらいかけてじわじわと消滅させられそう。カヤ兄、怖い……(゜-゜)
だったら素直に土下座して天羅の庇護下に入った方がまだマシだよなぁ。キリヤマさんに調教してもらえば良いんだよ。スパルタカスも裸足で逃げ出すぐらいのスーパーハード調教コースに叩き込まれれば、……性根は治らなくても天羅に対するトラウマが植えつけられるハズだよね♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ ←
むしろ暁の団に入団、とかの方が新しい人生が開けるかも知れない。あ、はぐれ者の話ね、うん。

いつも以上に乱文でごめん<(_ _)> 楽しかった!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.23 Tue 22:05

お姉さま
暁の団てなにって卯月も思ってます暁の団ってwwwww
シリアスな空気もえろい展開もいい雰囲気もあまり長く続くと派手にクラッシュさせたくなる気持ちはみんないっしょって、卯月、信じてる!←
>「カイさん家、血まみれ! 再起不能!!」
すみませんでしたぁああああああ! 間取り確認までしてやらかすことが家屋損壊ですんませんっしたぁああああああああっ!!(m≧Д≦)m いやでもまだ、ね、切り傷ですんでますから! まだどの部位も斬り飛ばしてないですから!(笑、えぬ……!) バトル中は本当にまっっったく、気づいてなかったのです……ひと段落ついてハッと正気に戻った瞬間「カイさぁあああああああああん! ごめぇえええええええええっ!」って、頭抱えましたどうしようこの損壊どうしようorz
そしてイクヤさんのもっていかれ属性もどうしよう!(笑) これだけ舞台が整った状況ならさしものヘタレも正ヒーローとして颯爽と女の子を助けてくれるだろうと思ったらしびれを切らしたヒロインが勇ましくユリちゃん助けちゃって、もう、イクヤさんwwwww 腕相撲は、吸血直後のアキちゃんが瞬発力にものを言わせればイクヤさんに勝てなくもないですーヾ(´∀`*)ノ でも腕力はイクヤさんのほうが強い、はず、まだかろうじてw カイさんはきっと、女の子ふたりが両手でもって全体重かけて倒そうとしても、シレッとしてそう。ゴウダは安定の不戦敗ですよねwww ユリちゃんとなら手を組むくらいはできるけど、たぶん、まったく力入れずに押されるまま自分から倒しそう。で、叱られる(笑)
>一世紀ぐらいかけてじわじわ
カヤ兄、こわい……ものすごく丁寧に丹念にじっくり愛を込めてじわじわやりそう、こわい……(゜-゜)
卯月も「いや地祇ンとこ行く気ならアキちゃんに乱暴しちゃダメだよ知らないよ?」と、思ったけどキリヤマさんの調教もこわいwwwww すごくこわいwwwww しばらくは眼鏡見ただけで「ヒィッ!」と悲鳴を上げる体にされてしまうのですねわかりますwwwww キリヤマさんは眷属まじりの純血なので、キリヤマさんにしごかれるとか血統主義のはぐれ者にはとてつもない屈辱だと思います精神的にも肉体的にも屈服を強いるとかキリヤマさんハンパねえですっていう文章がなんだかなあ(笑)
お楽しみいただけて何よりです! まだ続きます、まだまだ!(*≧∪≦)ヤベェオワラネー☆

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