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2012.10.28 Sun 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その7

というわけで、ひきつづきイクヤさんのターン。(訳:地の文が黒い)









「――同志、クルルギ! 遅いぞ!」
 ダイニングから、はぐれ者が上がった息で人類解放戦線の男を怒鳴りつけた。
 建材の破片と埃で覆われた視界の曇りが少しずつ晴れていく。クルルギと呼ばれた男は、ちょうど自分が崩した壁の大穴から這入りこんで、リビングとダイニングの中間あたりに立っていた。ゴウダ並みの体格だ。片手に何か、長細いものを持っている。棒か?
「ほかの連中をおとなしくさせるのに、手こずった。すまん……だが、同志諸兄に同志ジンホァ! 大丈夫か!? ズタボロではないか!」
「かまうな。それより――」
 人類解放戦線の男クルルギと、女みたいな名前のはぐれ者、ついでにぶっ倒れている人間たちも、聞き違いでなければみんな暁の団の「お友達」らしい。
 人間なんか小賢しい家畜程度に思っている血統主義が、同族(おれたち)を目の敵にしてはばからない自称「正義の味方」の人間と手を組んで、人類解放? 大体その正義の味方だって、たったいま純血同族ばりの力場で他人様の家の壁をブチ抜いて見せた。
 ――なんなんだ、こいつら。
 ともかくもこのままじっとしていて得はない。
「アキちゃん、動ける?」
 腕のなかを覗いて訊ねると、腰が抜けたように座り込んで身体をこわばらせていたうちの子は、それでも顔を上げてうなずいた。
 アムリタの女の子に会うのだとずいぶん浮かれながら、とっかえひっかえ服を選んで、鏡のまえで真剣な顔をして髪を結わえていたのは、ほんの数時間前。はぐれ者と組み合ったせいで着崩れた服や乱れてしまった髪がかわいそうだった。口の端も切れて血がにじんでいる。
 どうにかしてあげたいけど、いまはそんな余裕もない。
 異能を使った反動で、身体が急激に弱っていくのがわかる。目眩がする。呼吸には喘鳴がまじり、眼球の痙攣で視界が揺れる。心拍の調子も外れだした。
 このまま動けなくなる前に、この子をカイさんに預けないと――気を抜くと思考がちりぢりになりそうな頭で考えながら、うちの子の気丈さに甘えて立ち上がった。
「おい、無事かっ?」
 カイさんの声にそちらを見れば、向こうも粉塵に咳き込むアムリタの子どもを抱えて立ち上がらせるところだ。俺たちより壁の近くにいても、アムリタの子どもには傷ひとつない。もちろんカイさんにも。
 さすが、と思えば、口の端が皮肉気に持ち上がってしまう。
「なんとか」
「チビ、平気か」
「はい」
「なんで俺が答えたのにアキちゃんにも訊くかな?」
「るせえ無駄口叩いてねェでさっさと、」
 カイさんは最後まで言わず、俺も最後まで聞かず、アムリタの子どもとうちの子を抱えて同時にその場から飛び退いた。
 ドオッ、と室内をめちゃくちゃにする衝撃が、俺たちのあいだを隔てるようにリビングを突き抜ける。見ればダイニングにいる人類解放戦線のクルルギが、その手に持つ棒切れを頭上に振りぬいていた。なんだあれ、木刀か。
 荒事に慣れていないらしいアムリタの子どもが悲鳴を上げるのに舌打ちしながら、カイさんが吠えるように怒鳴った。
「てめえっ、いい加減にしろ! ひとの家をなんだと思ってやがる!? こっちには軟(やわ)のガキがいンだぞ、パンパンパンパン力場撃ってンじゃねえよ考えろ!」
「黙れ化け物っ、いたいけな乙女らを人質にするとは! なんたる卑劣か!」
 木刀の切っ先を勇ましく突きつけ、クルルギも負けていない。
 カイさんの怒気に当たれば天羅の純血連中だってたじろぐものを、見たところ歳は三十にも届いてなさそうなのに根性のある奴だ――なんて考えながら、しかし、引っかかる物言いに眉をひそめる。
 カイさんも同じように、髪よりもすこし色の濃い銀の眉をいぶかしげに動かした。
 クルルギは、こちらの様子に気付いてるんだかいないんだか、その体躯から堂々と声を叩きだして話を続ける。
「血に飢えた貴様らが乙女らをかどわかし、野蛮な振る舞いをしていることは知っているぞ! まさに鬼畜! 外道! しかしその悪行も今日かぎりだ、我ら暁の団が貴様らを粛清し、この闇の深淵より乙女らをかならず救ってみせる!」
「……おい、アレがしゃべってンな日本語だよな? 俺の耳はおかしくなってねェよな?」
「むしろおかしくなってたほうがマシかもね」
 皮肉ではなく、なかば本気でそう思う。あの大男は痛いバカだ。
 生活基盤を人間社会に依存している同族(おれたち)が、言ってしまえば人間を食料にする人外であるにもかかわらず許容されているのは、もちろんこちらが『控えめ』にしているおかげと言えるけれど、もっと根本的で身もふたもない事実をあげれば、いまの社会にこちらの存在がなくてはならないものだからだ。
 総領と呼ばれる始祖たちが千年の寿命を費やして得た莫大な財力が、知識が、あらゆる人脈が、人間にとってはおとぎ話のようなむかしから社会に根を張り、いまさらそれを引っこ抜けない状況を作り上げている。
 だから、俺たちは人外でも寛容に許されてきた。
 その一方で、人類解放だの吸血鬼殲滅だののお題目を掲げる連中も、むかしからいる。
 藪をつついて蛇を出そうというこの手合いは、人間と派手にもめて生活基盤を失いたくない俺たちにしても、俺たちと事を構えて社会を破綻させたくない人間にしても、扱いに困る厄介な相手で、大概はお仲間の人間社会に煙たがられて追いやられ、大した勢力にもならずに終わるのが関の山だった。
 なにより、むかしからいるものだからこちらもそれなりに心得ていて、意図的に情報を流してはぐれ者や月光症の罹患者なんかに適当にぶつけておけば、血族本体からは目を逸らせつつ向こうの目的意識も満足させられ、ついでにこちらの手間も省けて結構、という具合に、わりあい上手に付き合ってきた。
 だから、同族から目の敵にされて「面倒な奴と共倒れしてくれれば重畳」と思われがちの俺はともかく、総領に近しいカイさんは、こういう連中とまともにカチ合ったことなんてほとんどないはずだ。仕組みをわかっているからぶつかるとも思っていない。
 ふつうなら、うまく遠ざけられているはずの相手なのだ。
 それがこうして、大昔から使い古されてきた典型的な勘違いを恥ずかしげもなく振りかざして来るということは――まあ、本人が絵に描いたような熱血正義漢バカだからという要素も少なからずあるみたいだが、厄介事を避ける仕組みをわかったうえで、あえてそれを台無しにした奴がいる、ということだ。
 えらくわかりやすいがその分だけ面倒くささもはなはだしい。
「――化け物化け物って言ってくれるが、お前はどうなんだ? そっちのやつも」
 もう一度木刀を構えるクルルギの調子を乱すように、かすれそうな喉を誤魔化しながらむりやり声を張って問いかけると、向こうは狙った以上のバカ正直さで「む?」と首をかしげて動きを止めた。おまえそんなで大丈夫か、と、いちおう敵ながら心配になる。
 けれど、ほんのさっきはぐれ者と話していたことに嘘がなければ、これだけの騒ぎにここの警備がだれもやってこない理由は、カイさんがいるからじゃなくて、こいつがみんな「おとなしくさせた」からだ。警備なんて気軽に呼んでもその実は眷属まじりといえ純血のやつらを。
 木刀一本でノしてきた。それも、自分はまったく無傷で――だ。
「そっちの同志サマは俺らのあいだでもなかなかの大物で、まちがいなく化け物だぜ? おまえだってさっきから人間らしくねえよ。同族なんじゃ、」
「失敬な!」
 こちらの言葉を遮って、クルルギは叩きつけるような声で怒鳴った。
「私は高祖父母の代までさかのぼっても、まぎれもない人間だ! 我が力は天より授かりし正義の鉄槌! 貴様らのような化け物と同視されるのは心外の極み! 同志ジンホァも、私に説得により心を改め、我らの崇高なる目的のために尽力している! おかげで貴様らの不埒な行いをこうして止めることができているのだ! 我が同志を貴様らのごとき悪党と一緒にするな!」
「ああ、そう……」
 想像以上にペラペしゃべってくれてありがたいけど本当にこいつ大丈夫か? 
 となりで口も挟まずげっそりしているカイさんはきっともうクルルギの話を右から左に聞き流すことに意識を集中しているだろうし、クルルギの後ろでよろめくはぐれ者が若干居心地悪そうに顔をそむけているのも気のせいではないと思う。女の子たちは突然やって来た大男の主張があまりにも自分たちの現状と食い違っているせいで、うまく話を飲み込めないのかポカンとしているし。
 とにかく、この騒ぎは思った通り「はぐれ者が正義の味方を都合よく利用した結果」という、ありがちなところに落ち着いた。
 イレギュラーは四代前まで辿っても人間だというくせに力場使い放題のクルルギだが、五世の祖も人間だった保証がないなら、そのあたりで同族の血が混ざってるのかもしれない。事情はわからないが、いまは純血並みの力を使う、ということだけわかっていれば充分だ。
 異能使いのはぐれ者と、木刀を振り回す痛いバカ。
 クルルギはこのまま話し続ければうまく丸め込めそうな気もするんだが――それは、さすがにはぐれ者が許してくれないようだ。
「いつまでものんびりするなっ、クルルギ!」
 ダイニングからキッチンを顧みて、向こうで伸びていた人間の同志たちを鬼神の異能で起き上がらせたはぐれ者が鋭い声で叱責する。
「こいつらの味方が来たらさすがに手に余る、あまり時間をかけるな!」
「おおっ、そうだった!」
 口先だけじゃなく本当に心底軽く目的を見失っていたらしいクルルギが、再び木刀を構える。その気迫と、殺気立つはぐれ者に、こちらも緩みかけた気を引き締める。
「勘違いだっつって、話聞いてくれると思う? カイさん」
 切れ切れになりそうな息をどうにか繋いで話しかけると、カイさんは横目をくれて不機嫌そうに言った。
「喋ンならてめえ勝手にやれ。――俺ァもう面倒くせえ」
「だよね」
 時間がないのはこっちも同じだ。
 カイさんはともかく、俺はもう、そんなに保ちそうにないんだし。










ずーっと前に、吸血鬼モノといえば吸血鬼ハンターがいるのにうちにはいないなあ、と呟いたら、ミズマ。お姉さまが、人間だけど気合でなんかすごいハンターがいてもいいんじゃないかしら! というような感じでおっしゃっていたのでその時の『もしかするとどこかにいるかもしれない吸血鬼ハンター』がつまり、人類解放戦線・暁の団のクルルギさんです!(どーん)

ちなみに、この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。よし。

あと、そういえば設定のほうではチラッと書いたような気がするけど、どうしてこの世界でうちの吸血鬼たちがわりとふつーに平然と人間社会で暮らしてるのかとかそーいう感じの説明を、小話本文には入れてなかったなあ、と、思ったのでイクヤさんにザックリ説明してもらいました(笑)

クルルギさんにはサムライソードを振り回してほしかったけどさすがにw と、思ったので、木刀。服装はサッパリ考えてないのでひらめいたら教えてください(オイ、


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Comments

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我が君 : URL

2012.10.28 Sun 22:23

クルルギさん、スーツがいいなww
あの性格なら、ピシッとスーツでwww

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.28 Sun 23:02

我が君
クルルギさんスーツ、いいね! スーツいいよね! 卯月最近スーツ着てればマネキンにもときめくようになったから、だいぶ末期☆(笑、えぬ……!)
スーツ木刀中二病とか、完璧すぎるつらいwww

ミズマ。 : URL

2012.10.29 Mon 00:06

クルルギさん、スーツとかwww
普段はフツーのサラリーマンとかだったらどうしようwwwww
サラリーマン風の鞄の中からスラリと木刀が出てきて、
「その鞄どうなってんのッ!?」
ってなると楽しいwww

>人間だけど気合でなんかすごいハンターがいてもいいんじゃないかしら!
言った、確かに言ったwww でもこんなにウザ面倒なキャラになるとは思わなかったですよ、クルルギさんwww

>――俺ァもう面倒くせえ
カイさん!! 首をコキコキ鳴らしながら言ってくれると良い!! 無双の始まりだと、私信じてるよ、朔ちゃん!!!

misha : URL 兄さん

2012.10.29 Mon 12:18

もういいから吸血しなよ兄さん(´・ω・`)
スーツが木刀を構えてる見た目だけは最高にカッコいいと良いです。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.10.29 Mon 22:01

お姉さま
年齢的に大卒の新入社員かもしれない可能性wwwww 会社ではまったく冴えない駄眼鏡だけど、吸血鬼の気配を感じればカバンからすらりと木刀を抜き放ち正義のために暗躍する――スー○ーマン的なwwwww ちなみに木刀抜いてハンターとして覚醒した瞬間の演出で眼鏡パリーンって割れるので家にはスペアがいっぱい、とか(笑)

>でもこんなにウザ面倒なキャラになるとは思わなかった
卯月もです!(力強く)

そしてここでカイさん無双はじまるといよいよイクヤさんがもっていかれ属性の肩身狭いかわいそう系主人公の座を不動のものにしそうなのですがwwwww 卯月はまあカイさん無双の幕開けでもまったくかまわないと思える程度にはカイさんっていうかカイユリ好きすぎてつらい日々ですけどもwwwww イクヤさんはいま無双はじめたら開始直後に真・無双乱舞キメた瞬間、干からびそうだからなあ(笑)


mishaさま
コメント拝見した瞬間吹きまし、mishaさまがついにイクヤさんに言ってくださったwwwww そうだよもう吸血しちゃえよ兄さんよwwwww 
そして『見た目だけは最高にカッコいい』の「だけ」の部分に腹筋もっていかれました(´゚艸゚)∴ブッw
クルルギさん、きっと、黙ってればかなりカッコいいスーツの木刀使いです。でも剣術たしなんでないので(なに)、先生が見たら柄の握りとか指導がはいるんじゃないかなあと、妄想が膨らみました<(_ _*)> アリガトウゴザイマス

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