Aries.

Home > 小話 > 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その8

2012.11.04 Sun 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その8

10回で終わりそうじゃないぞ、これ!(((( ;゚Д゚)))









 どうしてかわからないけれど、人類解放戦線暁の団のクルルギさんは、すごく、誤解しているのだと思う。
「でぇえりゃあッ!」
 ダイニングからリビングまで、あっという間に迫ってきたクルルギさんが声とともに木刀を振り切った。力場は目に見えないけれど大きな風みたいな音がする。
 イクヤさんはわたしを背後に押しやりながら、自分は踏み込んで前に出た。
 ドンッ――と、聞こえた衝撃音はふたつ。
 イクヤさんが拳で叩き落とすように空を薙いでクルルギさんの力場を砕く音と、はぐれ者のジンホァさんに操られたひとたちをカイさんがまとめて弾き飛ばした音。
 カイさんは、倒しても倒しても起き上がってくるひとたちと、傷だからではあるけれど純々血のジンホァさんからユリちゃんを守るのに手一杯で、とてもこちらにまで気を回してくれる余裕はなさそうだ。ユリちゃんの足がすくんでしまっているのか、その場から動けないみたいだった。
 ドンッ、とまたひとつ力場のぶつかる音。
 クルルギさんの突き出した木刀を、イクヤさんは躱しながら片腕でからめ取って脇から背中に通し、身体ごとひねってへし折ろうとする。折れなくてもクルルギさんの手からもぎ取るつもりかもしれない。
 勢いの乗った力にクルルギさんも木刀を持って行かれそうになっていた。
 けれど――。
「ぅ、おおおおッ!」
 気合を入れたクルルギさんが木刀を床に叩きつけそうなほど力いっぱい手元に引くと、今度はイクヤさんが釣られて体勢を崩しかけた。危ういところで木刀を離し、姿勢を持ち直すけれど、そのすきにクルルギさんから切り返しの一撃。
 相殺する力場が空気を渦巻かせて床に落ちた建材の破片を天井近く巻き上げる。
 ぶわりと広がる粉塵に、とっさに目を閉じた一瞬で、イクヤさんはわたしのすぐそばまで飛び退いていた。
 意識しているのか、無意識なのか、片手でわたしを自分の後ろに隠すようにしながら。
「――ッそ、この馬鹿力……!」
 クルルギさんに悪態を吐く、その喉からは苦しげに掠れた音が聞こえる。
 輪郭を伝う汗で横顔に髪の先が貼りついていた。瞳は赤いまま、目を開けているのもつらそうに険しく眇め、まぶたの縁が小刻みに震える。
 どうしよう――。
 このまま続けたら、きっとイクヤさんの身体が保たない。
 イクヤさんはもうずっと、長い間、血を摂っていないから。何げなく生活しているだけでも、すごく体調を悪くすることもあるのに。いつも、極力同族としての力を使わないのだってそのためだ。力場や異能を使えばその分、血が必要になるから。
 イクヤさんは、もう異能を使えないくらい弱っているのだと思う。
 もしもそうでないのなら、さっきみたいに、力ずくで木刀を折ろうとなんかしないで、邪視の異能で真っ二つにしたはずだ。なんでも切り裂くサンジェルマンの眼。それを使えないか、使う余裕もないくらい、弱ってる。
 どうしよう、どうしよう――。
 考えて、迷ううちに、ついにイクヤさんが力場でクルルギさんに押し負けた。
 激しい衝撃音と、削ぎきれなかったクルルギさんの力場の余波をもらったイクヤさんがあおのいてたたらを踏む。わたしが背後にいるから、体勢を崩しかけてもそのまま倒れたりしなかったけれど。歯を食いしばって足場を固めようとしているイクヤさんに、クルルギさんが木刀を振り上げる。
 どうしようどうしようどうしようどうしよう――。
「観念しろ、吸血鬼!」
「――誤解ですっ!」
 とっさに叫べば、クルルギさんは木刀を振り上げたまま動きを止めてくれた。
 きょとんと、驚いた顔で、木刀の切っ先をゆっくり目線の高さまで下げるクルルギさんに、イクヤさんの後ろから勢いのまままくしたてる。切れているらしい口の端がひりひり傷むけれど、かまっていられなかった。
「イクヤさんも、カイさんも、悪いことはしていません。わたしも、ユリちゃんも、ひどいことなんかされてません」
「? 何を言い出す、乙女よ」
「誤解なんです、クルルギさん! ふたりとも、わたしたちを守ってくれて、」
「同志! 騙されるな!」
 力場のぶつかる大きな音といっしょに、ジンホァさんの声が飛んできて、思わず息を飲んだ。カイさんの力場を弾いたジンホァさんが怒鳴るようなこわい声で言う。
「こいつらは悪党だっ、お前の相手にしている男など最悪だ! 子どもを脅して都合の良いことをしゃべらせるくらいは、当然やるぞ! ――見ろ!」
 同族の赤い目がわたしを見るようにクルルギさんを促がした。
 呆然と、怪訝そうにしていたクルルギさんが、それでハッと目を瞠る。いったいどうしたのか。疑問に思った瞬間に、気付いた。
 わたしの、首元。
 一番上までボタンを留めていたはずのシャツの襟が開いている。
 たぶん、さっき、ジンホァさんともみあった時にボタンがはずれたか、飛んでしまったから。襟が乱れているんだ。きっと。肌が見えてる。
 首のまわりにたくさん残る、牙の痕が。
「それが証拠だ! 子どもを喰いものにする連中を、ほうっておけるか、クルルギ!」
 襟を合わせて両手で押さえたけれど遅かった。見られた、クルルギさんに。
 カイさんとユリちゃんにも。
 見ていなかったとしても、どんなふうにすればこんな痕になるのか、それがどんなにおぞましいことか、ジンホァさんが大きな声で言うから。聞かれてしまう。隠しているのに。言わないで。聞かせないで。言わないで。
 お願いだから――!
 恥ずかしくて、こわくなって、ぎゅっと目を閉じようとした。
 その時に、声が聞こえる。
 嗄れた喉で、それでもびりびり空気を震わせるほどの強い声で。わたしを隠してくれるみたいに抱き寄せながら。
 イクヤさんが。
「ぎゃあぎゃあ騒ぐな黙ってろ! はぐれっ!」
「チッ――」
 イクヤさんの視線で、ジンホァさんの頬に深い傷が走った。
 よろめくジンホァさんの足からも立て続けに血がしぶき、痩身がくずおれる。イクヤさんも荒れた呼吸に喉を鳴らして膝をついた。
 それでも顔を上げて叫ぶ。
「――カイさん!」
「わかってる!」
 邪視に操られたひとたちを昏倒させたカイさんが、ジンホァさんに組みかかった。
 避けようとするジンホァさんの足元をイクヤさんが異能で切り飛ばし、退路を遮られて動けない隙にカイさんが押さえ込む。力場のぶつかる衝撃音。ジンホァさんはがむしゃらに暴れるけれど。
 真正面からぶつかればカイさんのほうが強い。
 ――でも。
「我が同志に何をする!」
 クルルギさんの怒声とともに木刀が空気を唸らせ、カイさんは反射的にジンホァさんを放してうしろに飛んだ。自分の居た場所を薙いで壁にぶつかる力場を見送りながら、ユリちゃんを庇うようにしてクルルギさんを睨めつける。
 それから鋭くこちらを見て。
「チビっ、来い!」
「行って」
 カイさんが呼ぶのに合わせ、イクヤさんがわたしの背中を押す。声はもう聞き取るがやっとなくらいに掠れて、つらそうに眇めた目はうまく焦点を定められないみたいだった。
 さっきも異能を使ったから。限界なんだ。
 引き離されないように手を伸ばしかけて首を振ると、イクヤさんは輪郭に汗を伝わせながら、すこしだけ笑った。
「俺なら、ね、だいじょーぶよ」
 そんなふうに、いつもみたいに、おどけて言う。
 荒く鳴る嗄れた喉で。膝をついたまま立ち上がれないのに、手には力を込めてわたしをカイさんのほうに促しながら。本当に大丈夫ならそばにいさせてくれればいいのに。
 そうやって、すぐ。
 あなたはわたしを手放そうとするから。
「早く来いっ、チビっ」
 カイさんが呼んでる。ジンホァさんは立ち上がりかけていた。その足をイクヤさんの異能が切りつける。血が飛ぶほどの深い傷にはもうならない。
 クルルギさんが木刀を振りかざして怒鳴った。
「いたいけな乙女に非道極まる蛮行を及ぼすに飽き足らず、我が同志に対する残虐な振る舞い――もはや許せん!」
 その視線はイクヤさんに向けられていて。
 イクヤさんは何か毒吐いただけで。
 きっとクルルギさんの力場を防いだりなんかできない。
「粛清する!」
 ジンホァさんが会心の笑みを浮かべるよりも。
 ユリちゃんが悲鳴を上げるよりも。
 カイさんが異能を使うよりも。
 背中を押しやろうとするイクヤさんの手を振り切って、クルルギさんの前に出る。
 わたしのほうが速い。

「――やめてっ!」

 クルルギさんの力場を防いだりなんてできないけど。
 痛いくらいは全然へいき。
 こわくないもの。
 だから、お願い、イクヤさん――。

 そばにいさせて。



   ***



 クルルギの木刀は半ば以上振り下ろされていた、止めようもなく。
 目の前に立ちはだかる背中は小さく華奢で、とてもあの大男の力場に耐えられるとは思えなかった。クルルギが唸っても躊躇なく振り抜こうとした勢いを留められはしないだろう。カイさんだって間に合わない。
 猶予は一瞬もないのに永遠みたいに引き延ばされて、心臓が千切れそうで、馬鹿みたいにあの子を呼んで手を伸ばした。
 届くよりさきに最悪の結果で終わるとわかっているのに。
 思い出す。
(イクヤさんは――)
 あの日の問いかけに、たとえ言うほどの意味がなかったとしても。
(わたしがいなくなったらどうするんですか?)
 そんなの、本当は考えたこともなかったから。
 俺はすごくこわかったんだ。

 だから叶うならどんなことをしてでも何にだって願う。
 同族殺しの生太刀として、いまだけでいい。



 ――俺にあの子を守らせてくれ!

















はい、というわけで、この続きはまだ書いてません。案の定!(緊迫感が台無しになる仕様)


関連記事
スポンサーサイト



Comments

name
comment
ミズマ。 : URL

2012.11.06 Tue 12:00

ここで続きって、朔ちゃん、そりゃあんまりだよ!(血涙)

いやぁ、イクヤさんがヒーローしてて正直びっくりです。←
そしてこの展開は本編(があるとすれば、とプレッシャーをかけてみる)でやるんじゃないかなー、とかちょっと思っていただけに、実に豪華ですありがとうございます!!

ユリちゃんはちゃんと後でアキちゃんのフォローできるといいなぁ。クルルギさんって、たぶんイクヤさんが嫌いな性格だよなぁ、コレ。でもそーいう人と親しくなれば腐れネガティブが改善されるような気もするなぁ。まァどっちにせよ、はぐれ、てめぇは私を怒らせた。←

続きも読んだけど、そっちの感想はそっちで語ります\(^o^)/←語るんかい。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.11.06 Tue 23:31

お姉さま
フッ……すべては我が計略のままよニヤリ←

>イクヤさんがヒーローしてて正直びっくりです。
卯月もびっくりです(真顔)
今回はおとしまえ編にかこつけて、本編用の伏線張っちゃおうぜむしろ劣化版でプレ本編ドーン!みたいな気分になったので、こんな具合です。豪華仕様になっていたら嬉しいですーヾ(´∀`*)ノ
イクヤさん、本編ノリだとちゃんとヒーローなんだなあさすが正ヒーロー空気読むなあ、と(酷いw)

そして、ジンホァさん逃げてジンホァさんwwwww あんちくしょうやってくれやがりましたからね! 女の子の秘密をあばくとかデリカシーのかけらもないので珍しくイクヤさんがキレました……ん? 珍しくない、のか?
イクヤさんはクルルギさんから爪の先ほどでもポジティブさとか自己肯定力とかもらえばちょうどいいと思いますw ゴウダとクルルギさんエンカウントさせたいなあ、ゴウダ、ぜったい涙目になる(笑)

その9にもコメントありがとうございます! お姉さまを全力でハグしたい!←おちつけ。

comment form

Trackback

FC2Blog User

  1. Trackback