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2012.11.07 Wed 闇の眷族、みたいな、おとしまえ編。 その10

続くつづくー。










 細く、消え入りそうに、それでもたしかに繰り返していたはずの息が。呼吸音が。
 聞こえない。
 イクヤさんは血の気のない顔で、目を閉じたまま。動かない。
 身体が冷たい。
「カイさんっ、ヒフミさんっ、イクヤさんが……イクヤさんがっ」
 どうしようどうしようどうしよう、うまく言葉にならない。イクヤさんを抱きしめてすがる思いでふたりを見る。どうしようどうしようどうしよう。イクヤさんが。
 イクヤさんがしんじゃう。
 そう思っただけで、視界がにじみ、鼻の奥がつんと痛くなる。呼吸が空回りして、もう言葉にならなかった。カイさんとヒフミさんはすぐに察して、そばに来てくれる。ユリちゃんも。
 ヒフミさんがイクヤさんの首筋に手を当てた。
 それからその手を口元にやり、しばらくして、わたしにうなずいてみせる。
「大丈夫。すごく弱っているけど、息はしているし。心臓だって動いてる。大丈夫だからね、アキくん。おちついて」
「ヒフミ、カネダのジィさんは」
「迎えをやってます。――大丈夫だよ。先生も、すぐに来てくれるから」
 ヒフミさんは念を押しながら、背中を撫でてくれたけど。
 カイさんと交わす視線の気配は険しくて。
 ――こわい。
 イクヤさんの胸に耳を当てる。心臓の音がよく聞こえない。
 わたしのせいだ。
 イクヤさんは、自分ひとりなら、力場も異能も使ったりなんかしなかった。わたしがいたから生太刀の力まで使った。すごく弱っていたのに。
 わたしのせいだ。
 イクヤさんがしんじゃったら、どうしよう――。
「……あ、あの……あのねっ!」
 ためらいがちに、けれど意を決したように、ユリちゃんが言った。
 顔を上げてみると、ユリちゃんは向けられる視線のどれに集中すればいいのかおろおろしながら、きっと一番安心できるのだろう、カイさんに向けて話を続ける。
「そのひと、イクヤさん。やばいよね? 具合、悪いんだよね?」
「だからどーした」
「じゃあさ、私の血、飲ませてあげればよくない……かな? 元気にならない?」
 ユリちゃんがルームウェアの袖をめくる。
 ほっそりした、噛み痕も傷もないきれいな腕が剥き出しになると、建材の埃と、ひといきれと、同族の血の匂いでいっぱいだった室内に、はっきりと甘い香りが漂った。
 同族除けの臭い越しにもわかる。
 すこし肌をさらしただけで、ごくりと喉が鳴るのをこらえなければならないくらいの強い芳香。
「却下だ」
 眉間と鼻面にしわを寄せ、カイさんが、すこし怒っているような、鋭い声で言った。
 ひったくるみたいにユリちゃんの手首をつかむと、乱暴に袖を下ろす。
「どうしてダメなのっ、大変なんでしょ!?」
「だから話をさらにややこしくすンじゃねェってこった。うちにゃ採血できるモンなんざねェからな、切るか噛ませるかしかねェなわかってンだろ。覚悟あンのか? あ?」
「それは……でも、でもでも! 非常時なんだしすこしくらい我慢、」
「すこしですみゃいいがな。あンだけ弱ってるヤツがひと舐めして満足すると思ってンなら、てめェのこのデコの中身はずいぶんおめでてえなァ、クソガキ」
 放り出すように手首を放したその手で額を押しやられ、ユリちゃんはよろめきながらなお食い下がろうとする。けれど、カイさんは絶対に許したりしないはずだ。
 カイさんの言うとおり、イクヤさんは弱っている。
 わたしが知っているよりも、ずっと前からまともに血を摂っていないらしいイクヤさんが、こんな状態で血を飲めば――最悪は、狂ってしまうかもしれない。アムリタの血は刺激が強すぎるから。カイさんはそれを心配しているし、ヒフミさんもきっと同じだ。
 わたしだって、わかってる。
 ヒフミさんが大丈夫だと言ったから、カネダ先生が来るまでの我慢だって。わかってる。ちゃんと。けれど、でも――。
「……イクヤさん……」
 呼びかけても返事はなかった。
 まぶたが開いて、あの青い目が覗くこともない。ただ自分の口の端がひりついて痛むだけ。頭のなかが不安でいっぱいになる。やみくもに問いただしたい。先生を待っていて本当に大丈夫なの? カイさんも、ヒフミさんも、きっと困ってしまうのに。
 大丈夫よ、アキちゃん――って、イクヤさんが笑ってくれたら、それだけでいいのに。
 いまより幼かった頃のように、胸に頬を寄せても、頭を撫でてくれない。抱きかえしてもくれない。服に擦れた口の端が痛いだけ。
 ――口の端が。
「あ、」
 意味のない声だったけれど、カイさんとヒフミさんが聞きとめるには充分だった。
 向けられた視線に、緩慢に振り返る。
 口の端。
 舐めてみると、血の味がした。
 じわりとにじむほどの量でも、それでも、血にはかわりない。
「……おい、チビ」
 いぶかしがるように、けれど、本当はわたしがどうしようとしているのかわかっている様子で、カイさんが表情を険しくする。ヒフミさんも何かを言いかけた。
 わたしだって、わかってる。
 カネダ先生が来るまでの我慢だって。イクヤさんが血に狂えばだれも止められないから、危ないのだって。わかってる。ちゃんと。
 けれど、でも――。
 イクヤさんがしんじゃうかもしれないのに、何もしないでいるなんて、わたしには耐えられない。
「やめっ、」
 カイさんの声か、ヒフミさんの声か。制止を振り切って向き直る。
 力なく倒れてしまいそうなイクヤさんの身体を支えながら、くちびるに傷口を押し当てた。

(好きにも種類があって――)
 だから、いろんな『好き』を全部いっしょにしてはいけないのだというユリちゃんの話はむずかしくて、ほんのちょっぴりもよくわからなかったけれど。
(キスしたくなるくらい好きなひとは、特別なんだよ)
(すごくすごーくね!)
 あの時、いろんなひとの名前を挙げながら、イクヤさんの名前だけは、なんとなく恥ずかしくて言えなかった。

 血の気の失せたくちびるが、かすかに動く。
 傷口に触れた舌先はやわらかくて、ほんのわずか、あたたかい。



   ***



 めずらしいこともあるもんだ。
 うちの子が声を上げて泣いている。どこにでもいる、ちいさな子どもそのままに。
 そういえばあのくらいの頃は、髪をふたつに結わえてあげるとずいぶん喜んでたっけ。みつあみはきらいだったけど、一度、編み込んでお姫様のかんむりみたいにしてみたら、しばらく毎日せがまれて、大変だった。
 地べたにぺったり座り込み、あーっ、あーって仰向いて泣きじゃくるうちの子のまえに屈んでみても、ぼろぼろ涙をこぼすばかりで、こちらを見てくれない。
 どうしたの? と訊いても、返事はなかった。
 けれど、ちいさな手が伸びてきて。
 服の袖をぎゅっと、力いっぱい握りしめるから。
 ――まいったな。
 これじゃあどこにも行けないじゃないか。
 泣きじゃくるうちの子を抱き寄せて、立ち上がる。しがみつかれて息苦しいのは俺だけじゃないようで、めいっぱい抱きついてくるうちの子も力みすぎてうまく呼吸ができないのか、へんなふうにしゃくりあげるから、なんだかおかしかった。
 ――アキちゃん。
 そんなに苦しそうにしなくても。
 どこにも行ったりしないから、泣かないで。大丈夫。

 ――大丈夫よ、アキちゃん。










案の定、10回じゃ終わらなかったんだゼ☆щ(゚▽゚щ)フハッ

ユリちゃんの恋愛観は、たぶんもうちょっと成熟してる(はず、だと思う)ので、キスうんぬんはアキちゃんに伝わりそうなレベルに落とし込んだ例え話。ユリちゃんにはこの調子でアキちゃんの情緒面を強化していってほしいなあと切実に思うのです。

しかし卯月はカイさんとユリちゃんの間合いをとるのが下手すぎて泣ける……! カイユリのあの絶妙な距離感が好きなのに、好きなのに! と、思いながら、むやみに近づけすぎちゃうふたりを涙をこらえて引き離してます、これでも。卯月はカイユリ恋愛ED推しだから!(主張)

恋愛EDといえば、今回いよいよアキちゃんがどっちのヒーローEDに行くかわからなくなった、かも? とか、思ったりして。どうだろうねー? マルチエンディングでもいいじゃない、とかねー?w

マルチエンディングシステムになると、まさかの宗太くんEDとかヒフミお兄ちゃんEDとかクルルギさんEDとか発生するかもしれない! って、夢が膨らむまえに本編の方向性決めようね卯月さん?_(:3」∠)_


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Comments

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ミズマ。 : URL

2012.11.08 Thu 00:25

まさかの宗太くんEDてwww まさかのwww 拙宅の宗太くんがあまりに意外な変化球すぎて「よしキタ―ッ!」とアップを始めてしまいそうで、どうにか止めて下さいwww

アキちゃん!キャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー
超絶ヒロインじゃないの! アキちゃん! これはゴウダがこの場にいたら泣いてしまうなー、とか、どっちに転ぶか分からなくなってきたなー、とかマルチEDでも良いっつーかむしろカモン!だけど、そのマルチな分全部を朔ちゃんはお話書いてくれるのかしらん、とか、折角ヒロインとチューなのに意識ないとか、やっぱり主人公()なイクヤさんェwwwとか、色々、ありがとうございます♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ
カイさんは絶対ユリちゃんと止めるよ、そらぁ止めるよ。今だって絶対ユリちゃんをイクヤさんから遠ざけてると思うよ。血に狂ったらアムリタにまっしぐらになりそうだし。
……っつーか、ユリちゃんから直接吸血させるとか、誰にもそんなことは許さないと思っている予感がしますな、カイさんは。ユリちゃんが誰かに直接吸われるってことがありえるということを、考えてもいないような感じ。現実に突きつけられたら茫然とすると良いと思う。過保護です。
過保護は執着で、それはむしろ愛だろう、という化学変化が起きるのはいつかなー? ユリちゃん、早く大きくなぁれ!←
カイさんとユリちゃんが早めにくっつけば、その分アキちゃんの情緒開花の加速にも繋がるのかしら、とも思ったりしてみたりして。思っただけだけど。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.11.08 Thu 21:42

お姉さま

攻略対象は各種属性を取りそろえなければならないので人間代表・宗太くんです! がんばれ宗太くん! あ、でもクルルギさんも人間かあ、しかしあのひとは人間ってより厨二代表だから、うん、やっぱり宗太くんが人間代表で!(笑)

>マルチな分全部を朔ちゃんはお話書いてくれるのかしら
……、……そうか、卯月が書かなきゃいけないんだ( ´・_・`)←なんとなくどこからか降って湧くと思ってた人。
おとしまえ編を書きながら、前々からボヤボヤ~っと考えてたイクヤさんの出生のアレコレを、ボヤーッとレベルにまで設定出来たので(出来た、っていうのか?汗)、この設定ならゴウダルートはなんやかんやいろいろあって例の最長老が急逝→騒然となる総領たち→訳知り顔でほくそ笑むカヤ兄→だがしかしそこに二世総領として現れるイクヤさんからのイクヤさん総領シナリオ(あるいは闇堕ちシナリオ)と並行してのゴウダ恋愛EDかなあとか思ったりげふげふ夢が膨らみますね!←
このキスの場面にゴウダがいたらもう彼は現世になんの希望も見いだせなくなると思います、幼少期からずっと恋心を自覚するより先にフラレっぱなしのゴウダ(笑)

そしてカイさんの過保護が太字wwwww ユリちゃんが直噛みされて茫然となるカイさんとか良いです、カイユリ大好きです(しつこいって;) そして卯月最近「ゆりちゃん」と打とうとして頻繁に「ユリたん」になるのでユリちゃんの愛くるしさが卯月のなかでMAX高まっているようです!゚+.゚(*´∀`)bエェヤナイカー゚+.゚

ユリちゃんがカイさんと早めにくっついたら、アキちゃんはそれでやっとキスの説明の意味がわかって、「……なるほど」って、なると思うのでありますw それでもまだなるほどレベルのアキちゃん、ヒーローたちはもっとがんばるといいw

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