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2012.12.10 Mon 闇の眷族、みたいな――宝石みたいな君に。

歌さまのお題サイト50題に挑戦、今回はさりげにひとつまえに消化したお題と続いていたりして。












「先生」
「なんや」
「リサさんて、何が好きなんですかね?」
「わしやろ」
「言うと思いましたよ」
 急須から緑茶を注いだマグカップを片手に、受付け奥の壁一面を使った薬棚の前に立つカネダ先生は白衣の背中を揺らし、ちいさく笑った。話題のリサさんは先生の恋人、と言うと、先生は冗談でもなく真面目に否定するのだが、そのくせ臆面もなくこんなふうにも言ってくれる。
 まあ、恋人というよりは、もう、夫婦みたいに見えるのは確かだけれど。
「リサはな、」
 ずるっと緑茶を啜り、先生が言う。
「キラキラしたのやら、色のパアッとしたもんをな、えらい好いてるわ」
「そうですか」
「きれいな服(べべ)でも買うたって」
「先生があげればいいでしょう」
「おじいちゃんは何がエエのか、ようわからん」
 桂皮が少のうなってんな、などと呟きながら、先生は薬棚の前を離れた。もうすぐクリスマスだ。リサさんは、先生に指輪をねだったらしい。
 先生はあげるのだろうか。
 彼女に、指輪。
「――センセー! ただいまー!」
 診療所の入り口が開くと同時にリサさんの声が聞こえた。
 下足場から待合室に上がる立てつけの悪い引き戸を開けて、白杖でこつこつ床を叩きながらやってくる彼女は、先生の言った通りに明るい色の服装だ。杖を持っていないほうの手には食材もろもろの詰まったエコバッグ。先生は昔のひとだから、家事炊事は女の仕事と言ってはばからない。
「おかえり。あんたまた、えらいぎょうさん買うてきて」
「今日はお買い得の日だよ! センセの好きなお刺身も買ってきたんだよう」
「そないか」
「晩酌に熱燗もいれてあげるね」
 たのしみにしてるといいよ! と、自分こそ楽しそうに言い置いて、リサさんは待合室の奥のドアから母屋に入っていった。蝶番を軋ませ、いくらかぎこちなくドアが閉まる。この診療所もそこそこ古い建物だ。
 中身のなくなったマグカップを給湯スペースに置いて、先生は呆れたようにこちらを見る。
「声かけたらええやないの」
「かけられないでしょ。気づいてないですもん」
「あれは目が見えへんのやし」
「見えなくっても先生ならすぐに気づきますよ、リサさん」
「おじいちゃん相手に、僻みな」
「僻んでません」
 やれやれ、と先生は肩をすくめる。
「先生」
「なんや」
「午前中の患者さん、点数まちがえてますよ。金額足りませんけど」
「あー……まあ、ええやろ。わしの財布が痛いくらいな」
「リサさんに指輪買ってあげるんでしょ」
「どないかなあ」
 外国の正月やし、とかなんとか嘯きながら、先生は診察室へ退散した。
 敵いっこないから勝負しない、と、言ったら、弟たちには笑われるだろうし、兄たちは苦笑するだろうし、母は心配して、父には叱られるだろう。
「……クリスマスか」
 女性の服の流行りなんかわからないけど、マフラーや、手袋や、そういうものなら、そうそう外したりしないはずだ。たぶん。



宝石みたいな君に




 リサさん、何色が好きだろう?










先生もそうだけど、ツクモお兄ちゃんも、どうも、恋愛感情がものすごく希薄っていうか、ツクモお兄ちゃんの場合は「なんとなく好きだなあ、なんとなく」程度でおさまるっていうか、そんな感じ。自分の両親とか先生とヴァシリーサさんとか、身近にイチャらぶカップルがいるから食傷気味なのかもしれない。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2012.12.12 Wed 23:52

ツクモお兄ちゃん……///!!!!
やだなにこの子、不器用というか全然報われる場所じゃない方向で報われなくても構わない立ち位置で、見ているこっちが切なくなるのに本人はそれで幸せそうな予感がして……ツクモお兄ちゃん……////!!!!

ぬくぬくとした毛布にも似たお話ですねぇ。ツクモお兄ちゃん……///!!!←やりすぎだから。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2012.12.13 Thu 22:19

お姉さま
ツクモお兄ちゃん、草食でもないけど肉食でもなくて、単純に、いまはそんなにお腹減ってない状態、みたいな、目の前でヴァシリーサさんがカネダ先生とイチャついてても「あてられるなあ」くらいの、ゆるーい感じでした。こと恋愛においてそれぞれややこしいのはおそらくキリヤマさんのDNAのせい(笑)
そんなでも、とりあえず僕の存在にも気づいてほしいなあ、くらいには、思ってるのかもしれないです。あえて主張せず、息をころして、向こうから気づいてくるのを待つタイプのツクモお兄ちゃん。

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