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2013.02.11 Mon 闇の眷族、みたいな、日常にある慕情と劣情とそれから。 その1

書き始めた時点ですくなからずタイトルを考えておくべきだったのだよ!\(^o^)/

内容的には分けるほどでもないのだけれど、長くなったのでいちおう二分割にしておく。タイトルに「劣情」とかついてるけどとくに微エロでもなんでもないから注意なんだぜ☆











 ちょっと以前(まえ)までは、そうでもなかったんだけど。
 私、最近ものすごく――。



「フェロモン発してるっ!?」
「この状況でよくものんきだな、ユリ」
 両腕を胸のまえで交差させ、芝居がかった仕草で自分の身体を抱きしめるユリに向け、ジンホァは嘆息しつつ片目をすがめた。その左手は、袋小路のブロック塀に押しつけて宙吊りにした相手の首をいまもギリギリと絞め上げている。くわえて、泡を吹いたり痙攣したりしながら伸びているのが、足元にも二人ばかり。
 夕方にはまだ早い、まどろみを誘う時間帯。
 通学路から道ひとつ入った路地は、表通りからすこし外れたというだけで格段にひと気がない。下校中、あっというまに攫われたユリはそれこそ声を上げるひまもなく路地に引きずり込まれ、さらにどこかへ連れて行かれそうになったところでタイミングよく現れたジンホァにこれもまた問答無用で助けられた。
 地べたに座り込んだまま「私が美味しすぎてこわい!」などと言っているユリに、ジンホァはひっそりとため息を落とし、気を取り直して捕まえている相手へと向き直る。
 首を絞められ、苦しげにもがく襲撃者は同族だ。血走った眼球の中心で瞳を赤く光らせたまま、牙を剥き出しにして喘いでいる。純血ですらない。ただの眷属。
 おそらくは、はぐれ者。
 そうでもなければこんな昼日中に、総領子飼いのアムリタを攫いに来るわけがない。
「どこのだれか訊くだけの価値もないな。貴様らは」
 はぐれ者が相手なら、煮るなり焼くなり、対処は楽だ。
 事の始末は暁の団に連絡すれば上手くやってしまうだろう。なまぬるい「正義の味方」を目指す相方は使う機会がないものの、そもそも吸血鬼の粛清が大好きな人類解放戦線には、じつに優秀な掃除係りがいる。
「能無しのまがいものめ。恥も知らず、身の程をわきまえんからこういうことになる。腹を空かせて餌を狩るならよそでやれ。あれはいずれ俺のものだ。もっとも――貴様らはもう、飢えることもないだろうがな?」
 せいぜい嘆き苦しみ絶望してくたばれ。
 首を絞める手にじわじわと、ほんの少しずつ力を込めながら、抵抗にもならない悪あがきを続ける相手の様子にジンホァはにんまりと口端を持ち上げた。残りのふたりはどうしてやろうか。脳裏では早くもつぎの作業を考え始める。
 その頭をちいさな衝撃が襲った。
 なんだ、と振り返るよりも先に声が聞こえ、後ろ頭にくらったのはたぶん石ころだとジンホァは理解する。
「ちょっ、やめ! やめやめ! ジンホァさん、やめて、ストップ!」
「……ユリ。いくらお前でも、そう何度も俺にものを投げつけるのは許さないが」
「それはゴメンだけど。ちょっと待って!」
 ストップストップ、と、座り込んだままのユリが両手をばたばたさせながら繰り返す。
 ジンホァはむずがる子どもに手を焼くような顔で一瞬視線を仰向け、
「なんだ、もっと血が出たり痛がって叫んだりするほうがいいのか? 面倒だな」
 言いつつも右手の指をバキバキ鳴らしはじめるジンホァに、ユリはこの頃見始めたホラー映画のスプラッタシーンが脳裏を駆け巡り、ゾッとした。
「ちがうって! そうじゃなくって!」
「なんだ?」
「だから……もういいんじゃない? ほら、私、無事だし」
 怪我もないし! と、手のひらを突き出したり膝を立てて見せるユリの笑顔はあからさまに引き攣っていた。無理やり加減もはなはだしい。あとひと言でも食い下がれば、こわいと言って泣き出すのではないか。やたら冗談めいた軽口をたたいてごまかしたところで、怯えて立てもしない小娘が。
 ジンホァは不服げな表情のまま顔を背ける。
 ほぼ同時に、もはやもがく気力もなくなっていた襲撃者の首ががっくりと力なく倒れ、ユリは短い悲鳴を上げた。
「――っ!? ジンホァさ、」
「死んでない」
 首をはなされ、ずるずると塀伝いに頽れた襲撃者の身体が、ジンホァの声に反応するようにびくんっと震える。そのまま痙攣じみた動きで立ち上がる様子は正気のものとは思えず、生理的な嫌悪感にユリは思わず後退ろうとした。
 さらに、一人、二人と倒れていた襲撃者たちが起き上がり、最初のひとりに続いてふらふらと歩きはじめる。一列になって表通りへ。
 その背を見送るでもなく眺めている、ジンホァの瞳は赤い。
「……あ、えっと……吸血鬼の、超能力……だっけ?」
「異能だ」
 横目をくれるジンホァに、どっちでも同じようなものじゃないかな、とユリは思う。
「鬼神(グィシェン)の邪視は、意識のない対象を操れる」
「ジンホァさんはワンちゃんになったりしないの? 蝙蝠とか」
「形態変化は天祇の異能だろう」
「テンギ?」
「この国の同族はそもそも始祖天祇の血族だ。が、二世天祇の末子は双子でな。それが血族を分けて、いまの天羅と地祇になっている。――お前はなにも知らないんだな」
 ふんっ、とジンホァが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
 ユリは眉根をむっと寄せながら、その顔を見上げた。
「あの人たち……どこに行ったの?」
「自分を喰おうとしていた連中が心配か? 心優しいお前が殺すなと言うから、歩けなくなって死にたくなるまで、死ぬほど歩き続けろと命じてやった。安心しろ」
「……ドSだ」
「希望ならお前にもひどくしてやるが?」
 どうする、などと言われれば、もちろんユリは首を振る。
 ジンホァは落ちていた通学鞄を拾い上げながら、吊り気味の目を楽しげに細めた。微笑む両目の虹彩は、すでに赤からもとの鳶色に戻っている。顔立ちも声質もともすれば女性じみている小柄なジンホァは、男といえばコックにしておくのがもったいない上背と体格のカイを見慣れたユリの目にはひどく華奢に映るのだが、これで現れるなりこともなげに同族三人を叩き伏せるのだから驚きだ。
 ついでに無言のまま軽々と抱き上げられ、ユリは思わず。
「ぅぎゃあっ!?」
「……そういう反応は予想外だった」
 制服のスカートに気を付けながら揃えた両脚の膝裏に腕を通し、背中を支え、いわゆるお姫様抱っこでユリを抱えたジンホァは複雑な表情で喉を唸らせる。
「お前くらいの歳の娘は、嬉しがるだろう。ふつう」
「いや、いやいやいや。憧れますけども! ムリ! 無理無理無理! 恥ずかしい! 外でこれは恥ずかしい!」
「暴れるな落とすぞ」
「やーっ! やーっ! ムリーっ、ムリだってばーっ!」
 見ず知らずの眷属に攫われた時よりもよほど大きな声で叫びながら暴れだすユリ。
「わかった。おろしてやる。おちつけ」
「うーっ、でもちょっと名残惜しい」
「おろすぞ」
 そういうと今度は首にしがみつこうとするユリの行動に少女の不可解さを味わいながら、ジンホァは抱えた身体を足先からそっと地面に下ろした。立たせてやればユリの腕はするりと首からはなれ、その瞬間ひときわ濃く鼻先に触れた甘い香りに、気づかれないよう眉間に力を込める。同族避けの臭いなど、こうなっては役に立たないものだ。
 甘い香りは血の匂い。
 ユリは同族の嗜好品、アムリタだ。
「ありがとう」
 鞄を受けとりながら言ったユリに、ジンホァは口の端を皮肉げに上げた。
「はなしてやって礼を言われるとはせつないな」
「――や、そうじゃなくて」
「なんだ?」
「助けてくれてありがとう、っていう意味の、ありがとうございます」
 ユリは子どもらしい仕草で、けれど丁寧に頭を下げる。
 それから顔を上げ、いくらか気恥ずかしそうにへらりと笑うのは、みすみす攫われかけたことへの羞恥だろうと察せられた。ユリは気丈だ。年頃に似合わずしっかりしている。裏を返せばいつも気を張って、ひとの面倒にならないようにしているとも見える。
 ジンホァは我知らず目を眇めた。
「……お前の、」
「ん?」
「番犬はどうした。こんな時に、役に立たん男だな」
 ユリをアムリタとして育てているカイは、純々血の同族だ。
 それも大始祖直系の始祖血統。望めば総領にもなれる。同族の力の強さはおおむね血の濃さで決まり、女よりも男のほうがより強い。おなじ純々血でも、傍系のジンホァとカイで、その差は比べるまでもないのだ。以前対峙した時にカイが苦戦したのは、ひとえに「相手を殺さないよう」「味方を巻き込まないよう」なにより「ユリが傷つかないよう」に配慮していたからに過ぎず、それはジンホァが誰より理解している。
 カイはアムリタの料理人で、かつ、ユリの護衛だ。
 それがいまもって現れない。
 ジンホァには、それが――なぜか、ひどく、苛立たしい。
「カイ、今日は仕事なんだ」
 ジンホァの胸中とはよそに、ユリはこだわりもなくあっけらかんとしていた。
「ていうか、実はちょっと前から仕事でいないんだよね。ジンホァさんとこんなふうに外でばったり会わなくなった頃だから、えーっと……明後日の次は明々後日だけど、おとといの前ってなんて言うんだろう? 三日前から。ジンホァさんも仕事だったの?」
「まあな」
「じゃあ、吸血鬼はみんな忙しいのかなあ、この時期。カイは天羅のおじさんの手伝いに行ってる。キリヤマさんの助っ人で。カイがキリヤマさんの代わりとかホントウケるけど、ちゃんと大丈夫なのかなー?」
「帰ってこないのか? お前はどうしているんだ」
「私? アキとイクヤさんといっしょにいるよ。二人がうちに来てくれてるの。カイがいっしょに留守番してくれるように頼んでくれたみたい。カイってちょっと過保護でさ――」
「ユリ」
 話しながら歩き出そうとするユリの腕を、ジンホァが掴まえた。
 驚いて振り向きかけるユリをそのまま路地の隅へ押しやり、空いている手を塀について腕のなかに閉じ込めるようにする。ぐっと近づいた距離に驚きながら、ユリは自分を見下ろしてくるジンホァと、掴まれている腕とを交互に見て困惑した。
「じ、ジン……?」
 おろおろしはじめるユリに、ジンホァはどうにか表情を取り繕おうと口端を上げる。
 が、意思に反しておかしな顔になっているのは、ユリの様子から明白だった。皮肉げな笑みになっている程度ならまだいい。けれどユリの黒い目のなかに映っている自分もまた、ユリと同じように困っているような、腹立たしげな、それをごまかしてムリに微笑もうとしているのがあからさまな、無様な顔をしていた。
「ユリ、お前は……無頓着すぎる」


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.02.11 Mon 21:53

どうしよう、幸せすぎる……。
なんというか、もう私がユリちゃんやらカイさんやら、書く必要はねぇんじゃないのっつーぐらいにゃ、幸せすぎて困る……。

ユリちゃんとジンホァさんの絡み、ありがとうございまっす!! ジンホァさんはそーか、ユリちゃん相手だとこう、肉食系でイケイケで押せ押せなのか、そーか。ユリちゃんの回りにゃ肉食しかいないのな!←
カイさん、キリヤマさんの代わりしてる場合じゃないよ……! と、いうわけで速攻で続きに飛びますよ!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.12 Tue 22:55

お姉さま
書いてくださいっ、お姉さま!(Дヾ)※切実な叫び
あああでも卯月がつい出来心で書いてしまったジンユリをお楽しみいただけたのは嬉しい限りです! ちょっと、ジンホァさんとユリちゃんを接近させてみたくて。でも卯月はあくまでもカイユリ恋愛ED推奨委員会です! ジンホァさん、ごめんね☆←
ジンホァさん、甘く攻めて油断を誘い、隙を見てちょこちょこ押していく戦法みたいなので、今回は攻勢強めのターンでした! そういえば、ヒフミお兄ちゃんもなにげにグイグイ迫ってたなあ……ユリちゃんの周り、肉食しかいないwww 一番肉食っぽいカイさんが現在もっとも安全パイという布陣ですね!w

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