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2013.02.14 Thu 闇の眷族、みたいな――とかしたチョコレートに沈めます。 その2

歌さまのお題サイト50題に挑戦、バレンタインデー当日のお話も書けたので、その2。










「――センセ、飲んで!」
 満面の笑みでもって差し出されたマグカップの中身がなんなのか、カネダはとっさに判別できなかったが、それも一瞬のことだった。ほこほこと立ち上る湯気の甘ったるい匂いですぐに顔をしかめる。
「チョコレートか。いらん」
「えーっ?」
「せめて固まってからもってき。手抜きせんと」
「ホットチョコレートは飲み物だよう」
「余計や。そない甘ァてドロドロしたもん、好かん。いらん」
「えぇーっ」
 母屋のこたつで夕刊を広げるカネダの隣で、マグカップを持つヴァシリーサは不服げに口を尖らせた。亜麻色の長い髪に縁どられた顔は白く、造作が良すぎて子どもっぽい仕草があまり似合わない。
 異国美人のむくれっ面を老眼鏡のへりから横目に見やり、カネダは嘆息した。
「甘いもんは好かんて言うてるやろ。前から」
「でもでも、センセ、今日はバレンタインデーなんだよっ?」
「おじいちゃんは外国の祭りはよう知らん」
「女の子から好きな人にチョコを贈ったりするのはこの国くらいだよう! 都合が悪くなるとすぐにお年寄りぶるの、センセの悪い癖だよ」
「そういう菓子は好かんのや」
「知ってる? チョコレート、むかしは薬だったんだよ? センセ、薬は好きでしょ? しかもね、それに、元気になる効能があるんだよ! 元気に!」
「なんて言われたかて好かんもんは好かん。――しつこいで、あんた」
 ぴしゃりと言い放たれた言葉に打たれるように、ヴァシリーサはぎゅっと眉間に力をこめて首をすくめた。カネダはもうその様子を見もせず夕刊に目を向ける。去年もたしか同じようなやりとりをしたはずだった。
 あの時も、ヴァシリーサは自分で買ってきたバレンタイン用の生チョコの包みを結局みずから切り、腹におさめて片付けたのだ。すっかり懲りたと思っていた。
「……センセのいじわる……」
 ぷいっと、脚はこたつに入れたまま、上体をひねるように体ごとそっぽを向くヴァシリーサ。
「わからずや。ばか。ちび。センセは、ぜんぜん、わかってくれない。ばか」
 ブツブツ文句を言いながら、ホットチョコレートをすすりだす。そのあいまに鼻水までずるりとすするので、カネダは新聞から顔は上げずこたつのうえのティッシュボックスをヴァシリーサのほうへ押しやった。
 癇癪げな手つきで贅沢にティッシュペーパーを引っ張り出したヴァシリーサが、すさまじい音を立てて洟をかむ。カネダは黙々と紙面を繰った。
「ちょっとくらい、口を、つけて、くれても、いいのに。いじわる。センセは、い、いじわるだ。ばか。お店に、行ったら、みんな、た、たのしそう、だったから、うらやましかった、だけ、だよう。ばか。センセの、わからずや」
 買い物に行った先でバレンタインデーの特設コーナーの賑わいにでもあてられたらしい。しゃくりあげるヴァシリーサの背中をカネダが見もせずさすってやると、ヴァシリーサは苛立たしげにうーうー唸りながら身震いし、その手を払い落した。
 あとはもうチョコレートをやけっぱちに飲みつつ、洟をすすったかんだりしゃくりあげた拍子にむせて咳き込んだりを繰り返す。
 カネダはため息を吐いて夕刊を閉じた。
「――リサ」
「ばか。ばか。ばか」
「ええ歳してだだこねてんと、こっち向き」
 眼鏡をはずし、目頭を揉みながらカネダが言う。
 ヴァシリーサはそれこそ聞き分けのない子どもそのままに大きく首を振った。
「しらない。センセの、言うことは、もう、し、しらない」
「ええ子やからこっち向いてみ、リサ」
「や、だ――」
 かたくなに顔を見せないヴァシリーサに、カネダは年季のはいった天井を仰ぐ。
 それからヴァシリーサの肩に両手を置くと、ぐっと力を込め、なかば引き倒すようにしながら強引に振り向かせた。
「わ、ぁっ」
 持っていたマグカップが傾かないように、ヴァシリーサはとっさに両手を伸ばし、カップの水平をたもとうとする。その隙に。
 驚いて薄く開いている唇を、カネダがふさいだ。
 しばらくして、伸びきっていたヴァシリーサの腕が震え、そのうちじたばたと暴れ出す。マグカップの中身はさいわいにもそれほど残っていなかったのか、こぼれることはなかったものの、長い脚で蹴り上げられたせいでこたつの天板が揺れ、ミカンが何個もころがり落ちた。
「ふっ……ぅ、うう、うーっ、うーっ! うぅーっ!」
 白い顔を真っ赤にして呻きはじめたヴァシリーサから唇を放し、カネダは飄々と言ってのける。
「なんや、もう降参か?」
「――いっ、息がとまってしんじゃうよ! センセは、たまに、とっても、ひどいよ!」
「あんたも大概やろ。わし、甘い菓子は好かんて言うてるのに」
「え?」
「ひと口飲め飲めやかましから、ホンマ……これくらいがちょうどや。まだえらい口が甘ァてかなわんけど」
 濡れた唇を親指の腹で拭い、落ちたミカンを拾いながら。
「薬やねんから、味はしゃあなし。堪忍したろ。わしの寿命もこれでちょびっと延びてたらもうけもんやなあ」
「え、え?」
「つぎは本醸造でも買うてき。貝柱と」
 カネダは拾い上げた最後のミカンを手のひらで揉み回し、そのまま皮をむきはじめる。片手間にテレビリモコンをいじればたわいないバラエティ番組をやっていた。人気のラーメン店ランキング。
「リサ。明日、夜は外に食べ行こか。久しぶりに」
「……」
「? なんや、まだ機嫌なおってへんの、」
 果肉を口に運びつつ、振り向いたカネダの視界いっぱいに影がさす。
 ヴァシリーサの豊かな胸元が鼻の先まで迫っていた。
 避けようもない。
「――ぅぐっ」
 体重はほぼ互角。身長では十センチ近く差のあるヴァシリーサの不意打ちをくらい、カネダはあらがう術もなく押し倒された。後頭部はしがみつくヴァシリーサの腕とあまっていた座布団がクッションになり、さほどの衝撃はなかったものの、おかしな具合にひねることになった腰から背骨がぐきりと嫌な軋みを上げる。
 けれどヴァシリーサはおかまいなしだ。胸の谷間にカネダの顔面をめり込ませるように抱きしめながら、感極まって身をよじった。
「センセぇーっ、大好き! 大好き大好き、大好きだようっ!」
「――っの、アホっ。何してんやっ」
 頭を振って顔を上げ、窒息の危機を脱したカネダはもがきながら声を上げる。
「びっくりするわっ、ホンマ、早よ退きっ。重い。背骨が折れるっ、聞いとんかゴリラ」
「アタシはゴリラじゃないから、聞こえないよう。先に誘ったセンセが悪いよ」
「だれがいつ誘ったっちゅーて、リサっ、こらっ、服に手ェつっこみなっ。あんた指冷たいし、かなわんっ、やめっ。――ここコタツやぞ!」
「だいじょーぶだよーう」
「なにが大丈夫なことあるかいっ、このアホ!」
 冗談言うてんと退きや――ヴァシリーサの肩を押しやりながら、ずり上がって抜け出そうとするカネダに負けじと抱きつき、ヴァシリーサはカネダの薄い胸板に額をこすりつけてから頬を寄せた。少女のように紅潮した顔で、閉じたまま引き攣れた両の瞼も、いまは朗らかに笑顔の一部だ。
 あとどのくらいこうしてハグしていれば、観念して抱き返してくれるのか。ヴァシリーサは考える。せっかく恋人の日なのだから。
 いつもよりうんと甘えたい。



とかしたチョコレートに沈めます




「すっごくすっごく、だーい好きよ! センセ!」










三人称の地の文で、カネダ先生を呼び捨てにすると、なんだろう……すごく、失礼なことをしている気持ちになってくる。地の文で「イクヤ」とか「アキ」とか呼び捨てる違和感も相当だけど、先生の場合はプラス罪悪感がじわじわきた! カネダ先生のことは、大体どのキャラも頭の中でも「カネダ先生」って思ってるから、地の文でも名前に先生ついてないと具合がおかしい。

そんなカネダ先生は、人間のときも結婚するの遅かったし、いまも長老格のご老体で枯れてるけど、このひともしかすると若い頃は茶屋とか花街でそれなりに遊んでたんじゃないかしら、と、思った。今回。リサさんは、先生はおじいちゃんなのであまりムチャな衝撃をくわえないであげてほしい(笑)

ちなみに、リサさんもそれほど甘いもの好きってわけじゃない。嫌いでもないけど。ケーキとフルーツならフルーツが好き。先生は洋菓子の甘さが好きじゃないのであって、和菓子は好きです。ミカンも好き。

このあとは流れでにゃんにゃんしたのかもしれないし、ふたりでミカンを食べつくしたのかもしれないし、テレビ観てたら明日まで待てなくてラーメン作ったのかもしれない。


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Comments

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たぬ : URL

2013.02.14 Thu 00:09

この2人ほんと可愛いよね、なんていうかセットで可愛い。
あったかくてほこほこするー。

ミズマ。 : URL

2013.02.14 Thu 00:24

>テレビ観てたら明日まで待てなくてラーメン作ったのかもしれない。
麺やスープから手作りし始めたのか、と思ってすみませんでした! そうだ、ここはカネダ先生の家で、カイさんの家じゃないw

いやー、にゃんにゃんですねぇ。和むというか、かわいいというか、先生の本気はドキドキしちゃうなぁ。若い頃遊んでてほしい! 浮名を流しまくっていてほしい! そのツテで吸血鬼と知り合った、とかだと良いと思う、よ……!!

私もカネダ先生は「先生」がないとしっくりこないなぁ。前になにかの話で「このキャラには敬称がないと無理だわぁ」って諦めてつけて文章書いた記憶があるよ。うん、カネダ先生も先生って付けたい。

バレンタインに甘々話、ありがとうでしたー♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.14 Thu 14:55

たぬさま
おうちに二人きりだとだいたいこんな感じのカネリサだよーヾ(´∀`*)ノ 先生はおじいちゃんだからセーター着重ねて若干モコモコだとかわいい。
結婚してないから愛妻の日はキリヤマ夫婦に譲ったけど、バカップルぶりなら負けてないと思うの(笑)


お姉さま
>麺やスープから手作り
カイさんwwwww ホントになんでも作れるコック! でもそれすぐに食べられないよね!? スープの仕込みだけで相当かかるよね!? ユリちゃんがしびれを切らせちゃうよカイさん! あ、でも作りおいて冷凍してあったりするのかな? スープ。カネダ先生は週イチでラーメンを食べたいひとなので、スープ具材付きの生麺セットみたいなの常備してて、リサさんがあっためてくれます。

しかしやっぱりカネダ先生は先生ついてないとダメですよねえ、その響きに慣れ過ぎてて。今度からは勇気をもって先生つけよう。そうしよう、うん。

>浮名
現代の男性平均身長と比べると低いけど、当時としては背が高いほうだから、モテていたような気がするんですよねえ。ガッツつかないし素っ気ないのに花街の姉さんたちには好かれてた、みたいな感じだといいな先生! ああでもこれで先生に火遊びスキルが加わると、いよいよ、天羅奥方のサークル誌でカイさんが大変な目に……とかw(オイ、

ポール・ブリッツ : URL

Edit  2013.02.14 Thu 19:48

こういうの読んでいると無性にハードな話が書きたくなるというのはわたしがヒネているせいですか(笑)

ウン十年生きてきてまったく縁がないというか。とほほ。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.14 Thu 21:31

ポール・ブリッツさま
卯月もそろそろシリアスなのが書きたくなってきました……
リア充爆発すればいいと思います(笑)

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