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2013.02.21 Thu 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その4

歌さまのお題サイト50題に挑戦、ひきつづき過去時間のイクヤさん。最ダメ期。雰囲気など苦手な方はスルーしても大丈夫、安心設計の「雨の日に猫を拾った話」つづきます。










   ***



 なかが錆びはじめているのかどこか曲がっているのか、硬い鍵を開け、蝶番の軋む音に苦心しながら家に帰ると、部屋は真っ暗でしんとしていた。深夜どころかもう明け方に近いのだから、無理もない。ほっとしながら靴を脱いで上がった。
 その安心もつかのまで。
「……イクヤ?」
 暗い部屋のおくからそっとかけられた声に、もそりと起き上がる人影に、がっくりと肩を落とす。
「サぁーキぃー、寝てろって言ったろー? ダメじゃん」
「寝てたよ。いま起きたの」
「起きるのもナシでいーです。夜だよ、まだ、夜」
「知ってる」
 電気を点ければ、ふあっとあくびをしながら眩しそうに顔をしかめるサキは、たしかに寝ていたのだろう。食事の載った座卓のそばに布団がわりに座布団を並べて、毛布をかぶって。寝乱れた髪を撫でつけると、気持ちよさそうに頬を和ませて胴回りに抱きついてくる。
「おかえり、イクヤ」
「ただいま。――嬉しいんだけど、俺、仕事あがりでくっさいよ。サキさん」
「んー」
「眠いなら布団で寝ろって、ちゃんと」
「ご飯は?」
「食べる。着替えてから食べる」
 そうは言ってもどうせ早朝にはまた仕事に出かける。なるべく静かにシャワーも浴びて、何度も着替えるのは面倒だから、明日の仕事の服を着た。その頃にはもう、サキが味噌汁を温めなおして、皿にかけられていたラップもはずしてくれて、卓上の料理はすぐに食べられるようになっている。
 サキはふわふわあくびをしながら用を済ませると、俺のあぐらを枕がわりに並べた座布団のうえにふたたび転がった。嬉しいんだけれど。
「サーキぃ?」
「イクヤもう臭くないよ、いい匂い」
「いい匂いがしてンのはサキが作ってくれたご飯。俺、布団で寝ろっつったよね?」
「布団に入ると寝ちゃうから」
「寝なさい」
「イクヤといっしょにいたいんだけど」
「いるじゃん」
「あたしが寝てるあいだ、ちょっとだけね」
 サキがしゃべらなくなると、部屋のなかはずいぶん静かで、食器の触れあう音だとか、汁物をすする音だとかがいやに響いて聞こえた。だれかがこれを聞きとがめて、いまにもここを見つけてやって来るような気がする。だれかってだれが? そんなの知らないけど。いま、玄関が開いたらと思えば、無性にこわい。
 俺の腹に顔を埋めるみたいに、胴回りに腕を回してしがみつくようなサキも、もしかすると同じようにこわいのか。なにか。正体も出どころもわからないまま。
 空になった茶碗と、箸をおいて、平然と水を飲んで、満ち足りた腹をあたためてくれているちいさな頭を撫でると、サキはくすぐったそうに笑った。
「ごちそうさま?」
「ん、ごちそうさま。美味しかった。サキの味噌汁は絶品」
「イクヤの家のほうがいいもの食べられたでしょう」
「俺にはサキのがいちばんだよ」
「――デザートは?」
 顔を上げて、サキが微笑む。小首をかしげて首筋を見せつけるように。
 髪が流れれば白い肌があらわになる。
 白い肌にくっきり残る、治りかけの牙の痕があらわになる。
 頭から髪を撫で、首筋に触れて、指先で傷痕のなぞるとすこしぼこぼこして、かさぶたの周りはちょっとだけ引き攣れていた。サキは動じもせずにこちらを見つめている。
 その瞳のなかで、俺はどうにか理性的に笑みかえせたみたいだった。
「これがきれいに治るまで、おあずけでいーよ」
「意気地なしだねえ、知ってる? 据え膳食わぬはなんとやら」
「武士は食わねど高楊枝」
「だめじゃない!」
 弾けるように笑いだすサキをくっつけたまま、その場にごろりと寝転がる。真後ろに倒れ込むと量販店で買ったプラスチックの箪笥にぶつかるから、座った姿勢のまま横倒し。毛布をひっかけたサキがもぞもぞ動いて登ってくる。
 胸に抱き込めばあたたかかった。
「ねえ、イクヤ――」
 俺のしあわせの温度も、匂いも、かたちも何も、ぜんぶサキが持っている。
「あたしのこと、好き?」
 しあわせだった。


 俺はたしかに、この上なくしあわせだった。



「……」
 夜も明けきらない暗がりのなか、古びたドアをまえに感じる既視感はまったくの錯覚。でたらめ。気のせいだし、気の迷い。ここはあのボロアパートじゃない。
 俺たちの家じゃない。
 民家もまばらな町はずれの工場は、閉鎖して何年も経つようだが辺鄙な立地が仇になり使い道がなかったのか、建物は壊されもせず老朽化するに任せてあった。事務所に通じるドアは鍵が錆びきっていたようでノブを回すだけで簡単に開いた。なかは繊細なやつなら卒倒するありさまだったが、ろくでもない連中がたまり場に使っているようでもなく、雨風がしのげるなら上等だ。
 どうせここもすぐに離れる。
 サキがいないから。
 そう思うとドアノブに伸ばしかけた手がとまる。何もかも急激に億劫になってくる。
 いっそこのまま、きびすをかえしてどこかへ行ってしまおうか、と思う。いつものようにふらりと。けれどそうすると、提げてきたコンビニ袋の中身をどう処分するのか。それを考えるのもまた面倒だった。俺はこんな弁当好きじゃない。
 ため息も出なかった。
 近いうちにそれ自体が壊れそうなノブに手をかけ、ドアを開ける。蝶番がひどい軋みを上げた。室内に声をかけたりはしない。
 どうせ返事はかえってこない。
 弁当をくれてやらなければならない相手は、今日もまた事務所の奥の隅っこで、埃や動物かなにかの干からびた死骸といっしょにうずくまっているはずだ。しゃべりもせず。目だけ見開いて。懐かない猫のように。
 だから、こんな入口のあたりにひとの気配がするなんて――そんなことはありえない。
 ドアを開けて踏み込みながら、逆の手で目の前の空間へ貫手を突き出す。
 放り出したコンビニ袋が足元に落ちるよりはやく初撃は躱されたが、貫手をそのまま横に振って逃げた相手に手のひらを叩きつけた。布の感触。鷲掴みにしたのは胸のあたりか。
 そのまま体重をかけて壁際に押しやり肘まで使って抑え込む。
 身長は相手のほうが高かった。
 体格差も明白で、その気になれば俺くらいは楽に振り払えるだろう。いや、そんなふうに人間みたいに、身体能力に頼らなくても。力場を使えば簡単だ。
 同族だった。
 夜目の利く視界に見える姿は、浅黒い肌に肩にかかる灰色の巻き毛。俺を見下ろしてにやつくのは、わずかばかりの光を吸ってするどく光る銀色の瞳。
 アル・シャイターン総領の血筋、大始祖直系の始祖血統で「遊び人」。
 いまは地祇の客分だったか。
「帰って来たのにひと言もなしかい? 行儀がなっていないぜ、生太刀」
 体躯に見合う低く落ち着いた声音と、親しみやすい軽妙さ。まちがえようもない。
 俺は、こいつを知っている。
「――何の用だ、ハイダル」










おもむろにハイダルさん登場。


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ミズマ。 : URL

2013.02.22 Fri 00:26

おもむろすぎるよ朔ちゃん!! ハイダル、さんッ!!ヘ( ̄▽ ̄*)ノ・ ・.♪ヒャッホーイ♪.・ ・ヾ(* ̄▽ ̄)ノ


サキさんパート、切ないんですけど……。とっても、切ないんですけど……(ρ_;)・・・・ぐすん
でもそれを未だふっきれないイクヤさんを思うと、「(ノ=゚ロ゚)ノ ⌒┫:・’.::ヤッテラレルカニャアアアァァァァァ!!!!」と思うのでイーブンなのかとも思いました。←

>「イクヤの家のほうがいいもの食べられたでしょう」
 「俺にはサキのがいちばんだよ」
このくだりで、私の脳内に常駐しているカイさんが「はァ?」とか言い出したのはナイショですwww いやほら、味の話じゃなくてさ、いやサキさんも料理上手だったかもだけどさ、愛情の差じゃん。好きな子の料理の方が美味しいに決まってるじゃん、カイさんwww


なにはともあれ、おもむろなハイダルさんの活躍に期待!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.22 Fri 22:10

お姉さま
過去時間には過去時間の人間(じゃないけどw)関係があって、書いてて大変たのしいでーす*:+゜ワァイヽ(゚(エ)゚*ヽ)(ノ*゚(エ)゚)ノワァイ*:+゜

>「(ノ=゚ロ゚)ノ ⌒┫:・’.::ヤッテラレルカニャアアアァァァァァ!!!!」
二年、三年じゃないですからね、十年以上ですからね! これを克服すれば、アキちゃんとの恋愛フラグも完璧に立ってゴウダ涙目な状況になるのだろうに(笑) 引きずる引きずる……ズルズル サキさんといた頃のイクヤさんが一番平凡だけど、一番生活力があったなあ……って、今回思いました。

>カイさんが「はァ?」とか言い出したのはナイショですwww
カイさんwwwwwそこは見逃してくださいwwwwwでもやっぱり料理のことだけはスルーできないんだ、カイさんwwwwwそれでこそカイさん!(*´▽`)*´▽`)*´▽`)ノwwwww

我が君 : URL

2013.02.22 Fri 23:59

おもむろにハイダルさん…ウケたww
ハイダルさんも、玄関じゃなく中で待ってれば良いのにwwむしろ、アキちゃん膝に乗せてるくらい手懐けてればいいのに(無理だろ)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.23 Sat 13:01

我が君
膝抱っこってめっちゃ懐かせているwwwww
ていうか、アキちゃんが懐いてなくてもガッと抱っこしてホールドしてそうなハイダルさんwwwww
状況的には、ハイダルさん、イクヤさんが帰ってきたのに気づいて出迎えてくれた可能性だってあるのに、出会いがしらに貫手での刺突から胸倉掴まれたからね!そりゃ行儀うんぬんの文句も言いたくなるよね!(笑)

ポール・ブリッツ : URL

Edit  2013.02.23 Sat 21:43

ミズマ。さんのカイユリ設定を読んでいたら、アムリタ関連の山岡士郎みたいな眷族像を思い浮かべてしまって笑ってしまた(^^;)

「普通の生活をして普通に暮らしているアムリタの血と、同族の小賢しい悪知恵で管理して作り出したアムリタの血と、はたしてどちらがうまいか? しかもこのアムリタの血は、フランスからの空輸ではなく、そこにいるものから直接抜き取ったばかり。鮮度ひとつをとっても天と地の差がある」

……わたしって性格が悪いのだろうか。(^^;)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.23 Sat 22:26

ポール・ブリッツさま
美食家ッщ(゚▽゚щ)ktkr!
野菜は有機栽培がいいのか無農薬栽培がいいのか、とか、畜産は科学的に数値管理したほうがいいのかストレスフリーで自然な状態に近づけて育てたほうが美味しいのか、っていう、ことですね! つまり!
好き嫌いや食べられないものが多くて料理は食べられるものを美味しくおなかいっぱい食べられればそれでいいっていう食に重きを置いていない卯月には逆立ちしても真に迫って書けそうもないから美食家同族はポールさまが書いてくれるといいのなでも卯月お礼できないから言うまいげふげふ←
ていうかポールさま、これと同じ文面をお姉さまのところにも書き込んでらっしゃいますねw もしやと思って確認に行ってみればw

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