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2013.02.24 Sun 闇の眷族、みたいな、彼女の瞳はペリドット。

書いたはいいけどやっぱりタイトル考えてなかったので、ぅわああああって歌さまのお題サイトに駆け込んで拝借してきた次第です! タイトル、考えておくの、大事!(何回言うのかと、









 図書館に行った帰りは、公園に寄ることにしている。
 木陰のベンチで借りてきた本を開き、すこしだけ読むのが好きだった。時間にして三十分ほど。ふっと集中が途切れたときに子どもの遊ぶ声が聞こえると、微笑ましくて、安らかな気持ちになる。その心地が好きなのだ。
 弟たちは四人とも、もう公園で遊ばせてやるような歳ではなくなってしまったから、あるいは子守りをしていたあの頃が懐かしいのかもしれない。弟たちが生まれてからの数年間は、たしかに、だれの目にも僕は「兄」として見えていたはずだから。
 同族の成長は、おおむね二十代から四十代の半ばまでのうちに止まる。正確には、老化が急激に進行を緩めるため、成長していないように見える。二十歳前後でそうなるのはやや若い。僕のように十歳前後であれば、成長不良や成熟障害などと呼ばれて、ある種の疾患扱いになる。月光症とおなじで、対処法はない。
 生まれてから六十余年。
 身体のことで悩むのをやめにしてずいぶん経ってはいるけれど、自分が思うより案外と、気にする性質なのかもしれない。
「――、さて」
 そろそろ帰らないと、本を閉じて顔を上げる。
 真っ向睨みつけてくる女児と目があった。
「……」
「……」
 歳は、五つか六つくらいだろうか。
 くるくるとカールがかったブロンドは、レースのリボンでふたつ結び。清潔なワンピースのスカートを両手でぎゅっと握りしめて、すこし離れた場所から、こちらをじっと見つめてくる。ものすごく目つきの悪い子だ。目自体は大きいのに、三白眼気味だから余計にそう見える。
 瞳の色は僕とおなじに、緑だった。
『――こっ、こんにちは!』
 力み過ぎてどもりながら、響くような大きな声で彼女はそう言う。
 この国の言葉じゃない。
 合点がいった。公園に来た時に、遊び仲間を探すようにあっちに行ったりこっちに行ったりしている子どもがいるのは見かけていた。彼女がそうだ。なかなか仲間に入れないようだったから、大丈夫だろうかとは思っていたけれど。そういうことか。
 同族の見た目にはいろんな人種の特徴がまざっていることがほとんどで、だから外見の違いが言語の違いに直結しやすいことをど忘れしていた。
 三白眼の彼女はまばたきもせずにこっちを見ている。見開いた両目は、期待と不安にうるんでいた。
『こんにちは。はじめまして?』
 おなじ言葉で返事をすると、緊張していた表情が喜色満面にほぐれた。相変わらず威嚇するような目だけれど。元からそういう目つきなのだと思う。
『わっ、わたし、トゥーラ! きょう、ひっ、ひっこして、きたよ!』
 興奮気味に両手で握ったままのスカートをばたばたさせながら、いっきに距離を縮めて目の前にやってくる。トゥーラ。北国か。どおりで肌が抜けるようだ。
『おにいちゃんも、ひっこしてきたのねっ』
 自分とおなじ言葉をしゃべり、おなじ色の目をしているから。そう思ったのだろう。
『残念だけれど、ちがうよ。僕はこの近くに住んでる。ずっと前からね』
『ひっこしてない?』
『そう。僕はヒフミ。よろしく、トゥーラ』
 手を差し出すと、トゥーラは力加減なく握り返してきて、ぶんぶん振り回すようにする。その手のひらは子どもらしく温かく、すこし汗ばんでいた。かわいい子だ。
 握手を交わしながらあたりにざっと視線を走らせる。
 それから、トゥーラに向き直って。
『ねえ、ところで』
『?』
『トゥーラはひとり? それとも、だれかといっしょに来たのかな?』
 おそらく保護者の同伴はないだろう。遊び相手を探す彼女はずっとひとりだったし、そんな彼女を離れて見守るような大人の姿もない。
 思った通り、トゥーラはこくこくとうなずいた。
『トゥーラのおうちは、お、おひっこしで、たいへんよ。だから、トゥーラだけで、あそんできなさい、って。ごはんのじかんには、かっ、かえる!』
 そう言ってスカートのポケットから出てきたのは、懐中時計だった。蓋はなく、大人の手にはちいさすぎるようだが、トゥーラにはちょうどいい大きさだ。
 その時計の四時の部分に、油性ペンか何かが色が塗ってある。
『ここにはりがきたら、かえる!』
 なるほど事情はわかったが、しかし、さすがにこの歳の子どもがひとりでいるのは心配だ。この国だって、むかしほど安穏とはしていない。
 どうしたものかな。とりあえず、お母さんには帰りが遅くなることを連絡するとして。
『おにいちゃんは――』
 カバンから携帯電話を取り出していると、トゥーラがベンチによじ登るようにして隣に座った。こっちの手元やカバンのなかを興味津々に覗き込みながら。
『ひっこしてないのに、どっ、どうして、トゥーラとおしゃべりできるの?』
『いろんな言葉でしゃべれるように、勉強したんだ。そうすれば、どんな人とでもお話しできて、仲良くなれる。――トゥーラは、ほかに話せる言葉はあるかな?』
 メールを送信して隣に目を向けると、ちょっとぎょっとするような顔でトゥーラがこちらを見つめていた。いまにも噛みつかれそうだ。元の目つきの悪さを差し引けば、これは、たぶん、困り顔ではないかと思う。
 トゥーラはしばらく押し黙ってから、意を決した様子で口を開いた。
「こんにちは。わたしの、なまえ、トゥーラ。いっしょ、あそんで。あそぼ」
『すごいじゃないか』
 両親に教わって、何度も練習したという口調だった。頭を撫でてみれば髪の毛はひどく柔らかい感触で、しかし、トゥーラは拗ねたようにぶすくれて口を尖らせる。
『でっ、でも、だれもおともだちになって、くれない。トゥーラとあそんでくれなかった』
『トゥーラが悪いんじゃないよ。大丈夫』
 おそらく、ほとんど外国語しかしゃべれない外人の子どもに、気後れしたのは子どもよりも同伴している保護者だろう。子どもだけなら、はじめはどうであれ、しばらくもするとなんとなしに上手く遊びはじめるものだ。保護者にトゥーラを弾く意図はなかったにせよ、外人の子どもに緊張する親の空気は、子どもにも伝わってしまう。
『ほかにはなにか話せるかい?』
 トゥーラはぶんぶん首を振った。さもありなん。
『それじゃあ――』
『わたしもべんきょうすれば、おっ、おしゃべりできる? なかよくなる?』
 三白眼でちいさな獣みたいな目をきらきらさせながら、トゥーラが言う。こちらの申し出の先をこされた。彼女はどうやら、思った以上に利口な子どもで、すごくタフだ。
『そうだね。いっぱい友達ができるよ。僕がおしゃべりの仕方を教えてあげる』
『ほんとうっ?』
『でも、毎日じゃないからね。会えた時だけ。お家のひととも練習して、ひとりでもがんばって、みんなと仲良くなさいね』
 トゥーラは何度もうなずくものの、一体どれほどわかっているのだか。それよりもあんまり勢いよく頭を振っているから、めまいでも起こされたらどうしようかと心配になる。
 毎日じゃない、とは言ったが、しばらくはなるべく通ったほうがいいだろうか。
 見ず知らずの子どもだけれどこうなったからには気にかかる。半端なことは好きではないし、そのうち幼稚園なり、保育園なり、あるいは小学校に通うようになれば、友達もできて「おしゃべりの先生」は自然とお役御免になるだろう。その頃まで。
 子どもの面倒をみるのは慣れているのだ。なにせ弟が四人もいる。子守りならそのへんの保護者よりベテランだ。
 それに――。
『あっ、ありがとお! おにいちゃん!』
 うちには妹がいないから、こういうのは新鮮でおもしろい。



 公園ではしゃぐ子どもたちは、みんなあっという間に大きくなって、そのうち遊具なんかでは遊ばなくなるけれど。僕はあいかわらず、図書館の帰り道にベンチで本を読むのが好きだ。
 外で遊ぶ子どもは年々減っているものの、それでもやっぱり、ふいに集中が切れると明るい声が聞こえてくる。せっかくだから、飲み物を持ってくればよかった。あたたかいココアとか。秋風がすこし冷たくて鼻をこする。
「――おっ、おっ、お兄ちゃん!」
 トゥーラのどもり癖もあいかわらずだ。
 しおりを挟んだ本を閉じて顔を上げると、鼻先を真っ赤にしたトゥーラが立っていた。
 カールがかった金髪は頭の高いところで左右に分けて、いまもむかしも二つ結び。北国生まれにも関わらず寒がりで、からっ風が吹きはじめればすぐにマフラーを着用するのは毎年のこと。制服にカーディガンも着て、手袋と耳当てまでつけてすっかり冬の装いだけれど、そこまでするならスカートの丈をもう少しどうにかすればいいのではないか、と思う。タイツなんかどれだけ分厚くても風避けにならないだろうに。
 履きこんだローファーにぺったんこの通学鞄を提げ、ワンピースが好きだったちいさなトゥーラも、いまじゃすっかり女子高生だ。
「やあ、トゥーラ。こんにちは。――今日は平日だと思うんだけれど」
 学校はどうしたの? 言外に聞いてみる。公園の時計の時刻は正午を過ぎて午後一時。考査の期間中でもなければ、この時間帯は授業中だ。
 トゥーラは三白眼ぎみの目をあっちこっちに泳がせた。
「さ、サボった……」
「トゥーラ」
「――だって、ね! お兄ちゃん!」
 僕のため息にかぶせてトゥーラが言う。身を乗り出すようにして。
 目つきもあいかわらず悪いから、もしかするとはた目には、スケ番にからまれている子どものように見えるんじゃないだろうか? 僕が。
 けれどトゥーラはそんなことは気にもかけていない必死な様子で、声高に。
「わたし! 今日! 誕生日っ!」
 言われて、脳裏にカレンダーを思い浮かべる。今日の日付は。えっと。
「誕生日でっ、じゅ、十六に、なった! よ!」
 ……おや?
「十六歳の誕生日だからっ、今日はっ!」
 言いきったトゥーラは勢いよくベンチに座った。どすっと、すこし座面が揺れる。伸ばした足の踵だけ地面につけて、ローファーのつま先を空中でコツコツぶつけあったり、膝のうえでスカートの端をいじったり、ひどく落ち着きない様子だった。
 横顔は思いつめたように、とにかく一生懸命で、鼻先どころか頬まで赤い。この様子だと、耳当てのしたまで紅潮しているかもしれない。地面を睨んでいるようにみえる目はまばたきもろくにしていない。
 出逢ったばかりのちいさなトゥーラは、すぐに友達ができて、この国の言葉にも一年ほどでなじみ、僕の身長を追い越す頃には公園に来ることも少なくなった。
 「おしゃべりの先生」も、「おなじ色の目のお友達」も、予想どおり御免になる――と、踏んでいたわけだが。しかし現状はこのとおり。公園で遊ばない歳になっても、トゥーラはたまにやって来て、学校の話をしたり、勉強を見てくれとせがんだりする。
 僕はあいかわらず彼女の「お兄ちゃん」。
 ――だと、思っていたわけだ、が。
「トゥ、」
 呼びかけようとした瞬間に、トゥーラが勢いよく振り向き、思わず声を飲み込んだ。
 目つきの悪い子だとわかっていても、急に視線があうとぎょっとしてしまう。いまはとくに真剣さが増していて、なおさらの迫力だ。
「お兄ちゃん!」
 あんまり大きな声を出すと砂場にいる子が泣き出しそうだよ、と言ったら、噛みつかれそうな気がする。まさかそんなことはしないだろうけれど。
「女の子はっ、じゅっ、十六歳になればっ、け、け、結婚! できるって! 知ってたっ!?」
「そうだね、」
「わたし! 今日! 誕生日っ!」
「おめでと、」
「十六歳の誕生日だからっ、今日はっ!」
 さっきとおなじ言葉を繰り返していることに、トゥーラは気づいているのか、いないのか。たぶん気づいていないと思う。そのくらい緊張しているのは見ればわかる。
 言い切るとまた勢いよく視線を反らし、地面を見つめながらつま先をぶつけたりスカートをしわくちゃにしはじめるトゥーラは、ほうっておけば何回でもこの会話を堂々巡りさせるに違いなかった。わざわざ学校を抜け出して、ここに来るまで、頭のなかで何回も考えてきた会話だ。僕がなにか返すまで、このループからは抜けないだろう。
 コツコツとローファーが鳴る音を聞きながら、中空に視線を向けて息を吐く。冷えるものの天気は良かった。秋空は晴れている。気持ちのいい午後だ。
「学校はどうするんだい、トゥーラ」
「辞める、よ!」
「それはだめだよ」
「で、」
 でも、と言いかけたトゥーラは、すぐに口を噤んで言葉を呑んだ。
 むかしから利口な子どもだったから。皆まで言わせる気はないのだ。ただ、スカートをぎゅっと握って、唇を噛んで、恨めしそうに振り向いて僕を見る。目にはいっぱい涙がたまっていた。
 トゥーラはずびっと洟をすする。
「ぅ、お、お兄ちゃんのばかぁ……っ」
「うんうん」
「わたし、たっ、たんじょうびなんだからあ……っ、じゅうろくさいに、なったもん……ばかぁっ」
「まさかプロポーズされるとは思ってなかったから」
「ほっ、放課後まで、がっ、がまんでき、な、くてっ、走ってきた、のに……っ! ぅああんおにいちゃんのばかあスケベぇっ」
 どういう脈絡で出てきたのかわからないあらぬ罵倒だが、ここは甘んじて受けるより他ないようだ。カバンから出したハンカチを差し出すと、トゥーラは素直に受け取って目元をごしごし拭いはじめる。ちいさな頃には頭を撫でてやるのも簡単だったけれど、いまは目いっぱい腕を伸ばさなけれなならない。一苦労だ。
 トゥーラが「お兄ちゃん」にやたらと懐いている、と、たしかにそう感じていた。
 けれど、末の弟たちも大概お兄ちゃんっ子だから、それが妹ならこんなものだろうか、程度に思っていたのだ。我ながら読みが甘かった。というよりも、その可能性を除外していただけなのか。
 同族の成長は青年期から壮年期のうちに老化が安定して、止まる。子どものうちにそうなれば疾患という扱いだ。一人前と目されることはほとんどなくなる。どれほど生きても「大人」にならない、「子ども」の身体そのままに。
 そして同族の存在は、大多数の人間とその社会にとって、つねに公然の秘密だ。
 トゥーラもまた、どうしてお兄ちゃんは歳をとらないの? なんて、訊いたことはない。訊かなくても、人間(じぶん)と違うことくらい見ればわかる。そのうえ、いまではもう外見だけならトゥーラのほうが「お姉さん」。
 だからまさか自分が異性として認識されているとは、考えてもみなかった。
 盲点だったし、不意打ちだった。それからやはり、自分が思っていたよりも、僕は気にする性質なのだったと改めて自覚する。
「トゥーラ、おちついた?」
 しゃくりあげるのがおさまるのを見計らって声をかけると、トゥーラはこっくりうなずいた。ハンカチの端から覗く目元は擦りすぎて赤くなっている。
 警戒する獣みたいに見えるその目に苦笑して、それからこっちも呼吸を整える。おちついて話をしなければならない。じゃないと、また泣き出されても困る。
「僕が鈍かったのは、謝るからね。ごめんね」
「ううん」
 トゥーラは気丈そうに首を振った。ずるっと鼻を鳴らして。
「だっ、だいじょうぶ……わ、わたしじゃ、お兄ちゃんと結婚なんてできないって、わかってたし」
「――いや、結婚は出来ると思うけど」
「え、」
「え?」
 え、と目をしばたかせるトゥーラを見返して、僕も思わず首をかしげた。
「で……でも、だって、だっ、だって……お兄ちゃん、さっき、学校辞めるって言ったら……」
「中退はだめだよ? それは、もちろん」
「じゃあ、え、じゃあ……」
 どういうこと?
 トゥーラの目がぐるぐる回っているように見えた。目つきは悪いけれど、なんだか可愛らしくて、面白い。しばらく見ていたい気もするが、このままだと本当に目を回して倒れそうだから。
「学校はちゃんと卒業なさい。結婚するとか、しないとか、そういう話はそれからにしよう」
「ぅ、うん。うんっ」
「もちろん、その頃までトゥーラがいまの気持ちのままだったら、だけれど」
「それはだいじょうぶっ!」
 ハンカチを握りしめたまま、ばちんと音がするほど勢いよく両手を膝に置いて、トゥーラは鼻息荒くうなずいた。笑いだしそうなのを堪えているのか、真剣な顔をしようとして、口元がもごもごしている。
 見ているとからかいたくなって、わざと素っ気なく視線を外した。
「僕がそれまでにトゥーラを好きになったら、っていう、条件もあるけれど」
「え、」
「片想いじゃ結婚はできないからね」
 澄まして言えばトゥーラは簡単に眉尻を落として、困り顔だ。わかりやすい。思わず吹き出したら、今度はむっとして口を尖らせた。
「お兄ちゃんっ、」
「僕は真面目に勉強している子が好きですよ。ひとまず、今日はもう、学校にお戻んなさい」
 いまから戻ればつぎの授業には間に合うだろうか。トゥーラの学校は遠くなかったはずだ。彼女は不服そうだけれど、サボタージュしていること自体は後ろめたいと思っている真面目な子だから、食い下がってはこなかった。油断した瞬間にこっちの喉笛に飛びかかってきそうな顔だけれど。これも、まあ、元からの目つきのせいだ。たぶん。きっと。
「ぅう――……わっ、わかった! 帰る! 学校!」
 トゥーラは短いスカートを揺らして勢いよく立ち上がる。
 いい子だ、と、むかしのように頭を撫でてやりたいものの、背伸びしても届きそうにない。
「じゃあね、お兄ちゃん。また、あっ、遊びに来るしっ」
「つぎは来週の木曜にいるよ」
「うん。――か、帰り道は、気をつけてね」
「トゥーラこそ」
 じゃあね、またね、手を振ってトゥーラが歩きはじめる。
 その背中を見送りかけて思い出した。
「待って、トゥーラ」
 呼びとめながら隣に置いていたカバンを漁った。
 目当てのものはすぐに見つかって、顔を上げるとトゥーラが不思議げにこっちの手元をのぞき込んでいる。視線が合うと首をかしげた。よかった。
 渡しそびれなくて。
「誕生日おめでとう」
 本当は一度家に帰って、彼女が下校する頃にもう一度来て渡そうと思っていたものだ。
 細長い透明なケースにかかるレースのリボンと、バースデーカード。中身はそのままでも見えている。ちいさな馬蹄型のネックレス。
 トゥーラは大きく目を見開いて声もない。頬を紅潮させながら、プレゼントと僕の顔を何回も見比べていた。開いた口なんかそのままだ。
「お姉さんになったからね、よければ使って」
「ぅ、あ、う、うん……うんっ、使うっ。つける!」
「学校にはだめだよ?」
「学校には、つけない!」
 もこもこの手袋をはめた手で受け取りかけ、僕のハンカチを握ったままだったことに気づいたトゥーラは自分の鞄にそれをしまうと、一呼吸おいてからそっとプレゼントを受けとった。僕とおなじ色の目を宝石みたいにキラキラさせて。ぎゅっと胸に抱くように。
 それほど喜んでもらえたなら、こちらは充分すぎるほど満足だ。
「お兄ちゃんっ、ありがと! ありがと!」
「うんうん。――足元に気をつけて、転ばないように。いっておいで」
 注意はしたけれどたぶん聞こえていないだろう。駆けていくトゥーラの足取りは踊り出しそうで、実際、公園の出口あたりでくるくる回るものだから、通りすがりの自転車と危うくぶつかりそうになっていた。
 そんなトゥーラの姿が見えなくなると、意識から遠ざかっていた子どもの声が聞こえるようになる。秋晴れの、のどかな午後に変わりはなかった。
 彼女ひとりがまるで嵐のようだった。
「さて――」
 まさか同族でも、関係者でもない、まったくの部外者とこんな状況に陥るのは、さすがに想定外だ。努力を惜しまなければひとりくらい、愛し合える相手と出逢えるだろうとは思っていたものの。事情を知っている相手だと無意識に前提づけていた。
 迂闊な思い込みだった。
「一般市民の親御さんに結婚の許しを貰う場合も、こうなると考えなくちゃいけないのか」
 ひとりごちてみても、とっさにいい案は思い浮かばない。
 けれど、まあ、いいか。
 時間はある。
「ゆっくり考えようかな」
 これが油断だと、そのうち思い知る日が来るだろうか? 今日のように。
 それならじつに楽しみだ。










と、いうわけでヒフミお兄ちゃんの婚活の話のつもりだったのに、気づけば、ヒフミお兄ちゃんが公園でひっかけた幼女に十年後不意打ち喰らってよろめくどころか受けて立つ話、だった。真ん中あたりにある空白の3行にヒフミお兄ちゃんと幼女のキャッキャウフウフな日々が圧縮されています! 感じ取って!←

や、だって、どうしても10ページでおさめたかった、から……orz

・トゥーラ
人間、北欧系、可愛いんだけれど目つきが悪い。ミニキャラだと目は逆かまぼこ型に描かれるタイプ。友達には「トラちゃん」って呼ばれている。じつはまだちっちゃかった頃、ヒフミお兄ちゃんに「大きくなったら僕のお嫁さんになる?」て訊かれたことがある。もちろんうなずいた。ヒフミお兄ちゃんは完璧にままごとのつもりだったし、トゥーラもそんなことはおそらく忘れているけど、もしかするとそれが恋愛スイッチの入るきっかけになっている……のかもしれない。よくつっかえてどもるのは、ものすごく緊張して力んじゃうから。じつはすごく恥ずかしがり。がんばる子。

本編のヒフミお兄ちゃんは、とにかくショタ眼鏡の口説き魔で、とくに恋愛イベントが発生する予定はないから、このお話はもしかするとif世界に属するんじゃないかしら、とか、書きながら考えていたり。トゥーラちゃんが女子高生ver.のランちゃんと同級生とかだと楽しい。if世界の時間軸だとキリヤマ家の三男坊と末の双子は鬼籍にはいってると思うんだけど、その孫かひ孫くらいが同級生でも楽しい。そんな感じ。

しかし我ながら急展開にしちゃったなあ、反省^-^;

ちなみに、ペリドットには「運命の絆」とか「夫婦の幸福」って意味が、あるらしいですよ。


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Comments

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我が君 : URL

2013.02.24 Sun 21:18

可愛いお話でした(o^-^o)こちらも、カイユリ同じく若紫計画だわwww
良い男には、良い娘がよってくるのね。羨ましいわ!!ww

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.25 Mon 22:13

我が君
若紫計画、再びw 流行ってる、闇眷男子に確実に流行ってる若紫計画w
ヒフミお兄ちゃんの場合は源氏物語もちゃんと読んでそうだから、完璧!w

ミズマ。 : URL

2013.02.25 Mon 23:55

若紫流行ってるんだwww

>不意打ち喰らってよろめくどころか受けて立つ話
受けて立つ! さすがはヒフミお兄ちゃんヽ( ´ ∇ ` )ノ 受けて立つのはさすがです!
でも本編時間軸だといろんな女子を全開で口説いてほしいから、この話はきっとランちゃん時代のifなのかも知れない! でも親御さんに「娘さんを下さい」って菓子折り持っていくヒフミお兄ちゃんは見てみたいwww やっぱスーツだよねwww まさかの半ズボンスーツは、ないよねwww

いやー、楽しかった! さて、キリヤマ五兄弟はあと四人だね♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ ←黙れ。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.02.26 Tue 15:18

お姉さま
せっかく若い娘が行為を寄せてくれてて、自分はもうしばらく歳もとらないから、ここは長期計画で自分好みの嫁にしよう!  ――って、あれ? うちの吸血鬼とんだヘンタイじゃないか(*´ゝv・`)テヘペロ☆

>まさかの半ズボンスーツは、ないよねwww
まさかの半ズボンスーツですよお姉さま、ショタの戦闘服ですからね半ズボンスーツwwwwww 小学校の入学式みたいな感じでゴーします(爆) 年頃の娘が「この人と結婚したいの」っていって、見た目ショタ眼鏡で実年齢は80近い相手を連れてきたときの親御さんの心境は察するに余りあります。ビックリしすぎて放心状態になって思わず「いいよ」ってうなずいてしまうのかもしれないw

>キリヤマ五兄弟はあと四人だね♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ
9割残!orz(笑)

: URL

Edit  2013.03.03 Sun 22:43

トューラちゃんかわいいい!!!
どもり方がなんとも可愛くてどっきんこでした……かわいい…老成したショタ×照れ屋どもり屋ロリ(からの女子高生のジョブチェンジ)の組み合わせのトキメキ指数に動悸が止まりません。
ヒフミお兄ちゃんがだまくらかしながらのらくらつきあっていくうちにサラッと結婚していて両人ともあれ?って思いつつ幸せになってほしいです…闇のの中でほのぼの組ですね…
そしてやっぱり私はヒフミお兄ちゃんが大好きです!!(握り拳)

……半ズボンスーツwwwww 最強wwww

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.04 Mon 22:43

歌さま
だいぶ前から拍手コメいただいていたのに気づかなくてすみませんでしたぁああああスライディング! 土下座!!orz いつもありがとうございます(。´Д⊂)ゥウ・・・

ヒフミお兄ちゃん、ごひいきありがとうございます!ヾ(´∀`*)ノ
そうです、半ズボンスーツはショタの正装であり戦闘服なので! ピシッと着て挨拶に行きますよ!(笑)

>のらくらつきあっていくうちにサラッと結婚していて両人ともあれ?
あれ?w 顔を見合わせて首をかしげるヒフミお兄ちゃんとトゥーラちゃん、かわいいwww あるいは「結婚しました」って年賀状送ったら逆に「まだ結婚してなかったのか!?」って、ツッコまれるとかw のほほん夫婦ですね、いいなあ(*´꒳`*)

>老成したショタ×照れ屋どもり屋ロリ
あらためて属性表記するとすごいカップルだなあ、と思いました。老成したショタw

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