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2013.02.26 Tue 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その5

歌さまのお題サイト50題に挑戦、10回で終わりそうもないっていうか、終わらないなあ……と、思いつつ。









「何だも何も。お前、こんなところに子どもをひとり置いて出かけるなんぞ、正気の沙汰じゃないぜ。度肝ォ抜かれた」
「それで、これかよ」
「これは単に俺サマの居心地良くしてやっただけさ」
 待ってるあいだ手持ち無沙汰でな、と笑うハイダルは、その暇つぶしに事務所の模様替えをしていた。室内は相変わらず不衛生に汚いままだが、何台かの事務机と椅子は隅におしやられ、代わりに、薄いドアで区切られた続きの応接室から引っ張り出してきたらしい、破れソファが部屋の真ん中に置かれている。
 朽ちかけのスプリングを軋ませて、ソファに腰かけたハイダルは舞い上がった埃にむせつつ顔をしかめた。
「やっぱり、ひとの住む場所じゃァねえな」
「用件は」
「たいしたことじゃねえ」
 向かいに置かれているソファに座れば、やはりスプリングの悲鳴が室内に響く。
 ハイダルは笑っていた。
「ほんの短いあいだでも、おなじ女に咥え込まれた仲だ。なにより同族。せっかく縁があったんだぜ。元気にしてるか、様子が気になって顔を見に来た――じゃ、だめかい?」
 返事をするだけバカバカしい。視線をよそへやって息を吐いた。部屋の隅の天井に、でかい蛾をとらえた蜘蛛の巣が見える。
 同族を束ねる十一人の始祖総領のうち、アル・シャイターンの二世は子宝に恵まれた男で、生涯で五人の子どもをそれぞれちがう母親に産ませた。純々血ではないものまで合わせれば、さらに二十人とも三十人とも言われている。けれど、そもそも個体として強すぎる同族の生殖力は極端に弱い。総領ともなればすでに一世の代から千年の寿命と複数人の伴侶をしてなお後継がなかなか生まれず、どの時代にもそのことに悩まされる。二世アル・シャイターンの子宝は、ある種奇怪ともいえる珍事だった。
 そんな二世アル・シャイターンの五人の子どものうち、末子相続とする総領家において生まれた順に運がなく、総領になり損ねた子どものひとりが、ハイダルの父親だ。
 ハイダル自身も、生後数年間「瀕死」の状態だった現アル・シャイターン総領がもしも本当にくたばっていたら、血筋からいっても実力からいっても四世総領になるはずだった――らしい。そのあたりは俺が生まれるよりまえの話だ。
 知り合ったのは、ほんの一年とすこし前。
 たまたま拾われて上がり込んだ女の家に、先住していたのがハイダルだ。ずいぶん金のある女で、俺とハイダルはそれこそペットみたいに可愛がられていた、と思う。もうだいぶ忘れてしまったが、ハイダルは初対面から馴れ馴れしく、身の上話も訊かないうちからあけすけに語りはじめて、正直うっとうしかった。
 アル・シャイターンの始祖血統、総領とは従兄弟(いとこ)にあたる。いまは地祇の客分で、しかし血族だの家だとのというのはとにかく肩が凝る。だから気晴らしに、外の女に囲われるているのだ、と。
 あの時の話に、嘘がひとつもないのなら。
(地祇は――)
(その子どもを殺すように命じているの)
 拾った子どもは弁当を持たせて応接室に押し込んでおいた。べつにこの場にいたって構わないが。視界の端で無遠慮に飯など食われるのは、気が散って、いらつきそうだと思った。それだけだ。
 ハイダルの用件があの子どもなら、俺の帰りを待つはずもない。
 それをわざわざ待っていた。
 この男は、昔からそうだ。よくしゃべるくせに何を考えているのかわからない。言葉の裏を考えるのが面倒になってくる。
「しかし、まさかお前があの子を拾っているとはな。偶然っていうのは怖ェもんだな」
「始末するなり連れ帰るなり、どうとでも好きにしろよ」
「勘繰るな。――俺は、本当に、わざわざそんな野暮用で来たんじゃねえんだから」
 肩をすくめるハイダルからは、やはり真意が見えてこない。
 視界に映るあらゆるものをのべつまくなし斬り払う、サンジェルマンの邪視の異能持ちをまえに、姿はおろか急所すら隠そうとしない図太さもあいかわらずだが。ハイダルもアル・シャイターンの異能持ち。それも妙な変わり種で、邪視の異能に対して相性が悪い。この不敵さはそのためだとも言える。
 ハイダルと相対するなら、害意を向けられたその瞬間に終わらせなければ分が悪い。
 けれど真意は読めない。
「まったく、そういう目つきも変わらねえなァ、生太刀。お前は」
 ハイダルは苦笑しながら、呆れたように天井を仰いだ。体重の移動にソファが軋む。こちらに向けられる視線は小賢しい子どもを見守るようで、当人の言うとおり勘繰るべき裏などないように見えた。
「上ッ面だの水面下だの、駆け引きするのが面倒で家を出た俺だぜ? この俺にそんな芸当ができるなら、今頃はアル・シャイターンを名乗っていただろう。お前はなんでもかんでも、疑りすぎだ。誰も彼もが自分と同じように虚勢と虚言で生きてると思ってンのかい? ――そんなことはねェさ」
 俺は本当のことしか言わない。
 ハイダルはにやりと唇の隙間から牙を見せる。
「俺は地祇の客分だ、と、むかし言ったが、より正確には地祇後継の友達だ。だから友達の腹違いの兄妹のことも、事情はよく知っている。その妹のほうが天羅の領に逃げたってンで、地祇のバアさんは血眼になって子飼いの連中を追っ手に差し向けた。表向き平静を装っちゃいるが、なかは大騒ぎ。とはいえ、俺の知ったことじゃないからな。地祇が嫉妬こじらせてようがなんだろうが、どうだっていい。それでもこれだけ騒がしければ、天羅の領に面白い仲間がいたのくらいは思い出す。思い出せば久しぶりに顔も見たくなる。それなりに手間かけて、フラッと会いに来てみれば、いるはずの奴がいない代わりにいなくなった友達の妹がひとりで留守番してたって、経緯はこんなところだ。理解したか?」
「長ェよ」
「そう言うな。バァさんの子飼いの連中には、まだ場所(ここ)は知れてない。さすがに天羅の領内では動きにくいようだからな。言うまでもなく俺もヘマはしちゃいねェし、いま囲まれてるってこともない。心配すンな」
「そりゃどうも」
「まあ、時間の問題だ」
「わかってンよ」
「それならいい。話しが早い」
 夜明けが近づき、だんだんと闇の薄まる視界のなかで、銀色の瞳が細く光った。
「なァ、生太刀――」
 ものは相談だ、とハイダルは言う。たいしたことでもなさそうに、気負いなく、その口から吐き出す言葉以上の裏表もなく。
 簡単で、ひどく容易いことのように。
「地祇の追手が来るまえに、あの子ども、お前が殺してやったらどうだ?」










アル・シャイターンことアル兄は基本つねにアラビア圏の民族衣装を着用してるけど、ハイダルさんはどうなんだろうね?←オイ、 なんとなく普通に洋服っぽいけど民族衣装着てほしい気持ちもある。

ちなみに、ハイダルさんの名前、意味は「獅子」。だからホモの絵描きことザ・デスのあだ名もリオン。カヤ兄サイドのお話も書きたい……もうずっと言ってるけど、カヤ兄が狼になって奥さんにモフモフする話……書きたい。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.02.28 Thu 23:36

カヤ兄がワンちゃんで奥さんとモフモフでラブラブーッ!!!キャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー
読みたーーーーーーーーーい!!!キャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー


ハイダルさん、この最後のセリフはカヤ兄とかサーシャ兄のこと思ってのセリフなんだろーなぁ。アキちゃんの為、というわけではあるまい。
いやでも幼い彼女を不憫に思って、ということでもあるか。いまのダメイクヤさんに保父さんのような真似が出来るとは思わないし、思えない。いずれ地祇の手に落ちてひんどい目に合うのであれば、そしてそれを二人の兄弟が目の当りにしてしまうのであれば、いまここで、生太刀に殺してもらった方がみんなの為だと。

と、いうわけで誰かはやくイクヤさんの横っ面にビンタかましてやって下さい。←

ん? 今回のハイダルさんのセリフはビンタみたいなものなの、か?

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.01 Fri 23:26

お姉さま
やっちゃいました―――――っ、見切り発車通常運行です!\(^o^)/
そしてお姉さまの読みが安定の鋭さで卯月が震えています! 部屋の隅で震えています! ハイダルさん、お姉さまのこと好きそうだなあ話の分かるやつだな飲もうぜ!って居酒屋に誘う姿が脳裏をよぎりましたが、もっとオサレなバーとかに誘えないのだろうかこの人w
イクヤさん痛烈なビンタでマウスピース吹っ飛んだ感じです、そんな感じ( ´Д`)=○ )`ъ')・:'.,

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