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2013.03.05 Tue 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その6

歌さまのお題サイト50題に挑戦、今回はいつにも増し増しで重いのであります。たぶん。

というわけでシリアスや暗いのは苦手という方はスルーしても大丈夫な安心設計「雨の日に猫を拾った話」、今回はとくにアキちゃんにひどいことしないでー!という方、もしもご覧になる際はちょっとだけ覚悟していただけるとよろしいかもしれません。そんなにじゃない、たぶん。









 あの日、気付けば路地で見つけた子どもを抱え、場末のホテルに駆け込んでいた。雨に打たれ続け、そのうち震えもしなくなった冷たい身体を窮屈な浴槽に放り込み、湯であたためてやったのは俺だ。だから言われるまでもない。
 雨と泥とで汚れきった服を脱がせてやった時、剥き出しになった手足が。首筋が。どんなありさまだったのか。知っている。
 地祇の後継が同族喰いの悪食だという話は、以前(まえ)から耳にしていた。
 まじりけない純血こそ至上、大始祖の同族こそ全生物中最上位の優性種だと言ってはばかりない血統主義の連中がもっとも忌み嫌う、人間との血混じり。混血の子ども。なにより片親とはいえ血の繋がった妹の、その血を口にしていた地祇後継は、なるほど、そうとうイカレた悪食だ。しかも酷い噛み癖がある。
 あの傷痕は一生、消えずに残るだろう。
(地祇の追っ手が来るまえに――)
(お前が殺してやったらどうだ?)
 ハイダルの話と、ユージンの報告に、齟齬はなかった。
 地祇はあの子どもを殺すつもりだ。
 二世天祇の末子、この国の血族を二分した双子の片割れ、三世の始祖である東の総領地祇の色情狂いは、その息子の悪食などよりよほど有名だ。夜会に出入りする連中ならどの血族にも知らない奴はいないだろう。
 総領の寿命と言われる千年と同じほど生き、そのあいだに幾人もの伴侶と寝ながら後継にはなかなか恵まれなかった。老いれば老いるほど、それに抗うように若い男をとっかえひっかえに侍らせ、しまいには一度は飽きてよそへやった血族の男にのぼせ上がり、男を連れ戻して想いを遂げると、蛇のような執念でついに後継まで産んだのだ、と。
 けれど、男はすでにウピルの眷属まじりの女と惚れあって、子どもまでいた。夫を奪われたウピルの女は心を病んで、ほどなく衰弱死したらしい。
 純々血に生まれれば、男でも女でも、結婚は家や血族間の取引と血統管理の一環で、甘ったるい恋愛結婚なんてのはないに等しい。奇跡的に愛だの恋だので結ばれても、子どもが出来やすいとわかれば、いつより家格の高い家や、後継のない総領に獲られるかわからない。同族の生殖力は極端に弱い。なかでも総領はとくに子どもが出来にくい。女総領ともなれば、より確実に後継を産むために、妻子のある男を伴侶にあてがわれるものだ。
 地祇の男も、ウピルの女も、そんなことははじめから知っていて、わかりきっていただろうに。それでも、好きあって、惚れあって、焦がれて、女は死んだ。
 男のほうも、地祇を愛したりはしなかった。
 自分に惚れこんでいる地祇へのあてつけに、血族のアムリタだった人間の女を抱いて、またぞろ子どもを産ませ、地祇はついに辛抱たまらず男を食い殺したという。形態変化は天祇の異能。嫉妬にかられた女が大蛇に化け、男を丸呑みにするなんていうのは、古典劇だけの話じゃない。
 男が死ぬと、アムリタの女は逃げた。
 血統主義のアムリタの扱いは、一握りの上等な部類を除けばそれこそ消費される家畜も同然だ。幼い子どもを置き去りにしてまで生き延びたかったその女が、あっさり捕まった後、どうなったのかはわざわざ聞くまでもなかったし、ユージンもハイダルも詳しく話さなかった。
 地祇は、遺された子どもをひとまず生かしておいて、母親とおなじ歳まで育ったら、おなじようにして殺すつもりだった、らしい。
 あるいは長く生かさず虐め殺すつもりだったのかもしれないが、どちらにせよ、子どもが弱りきるそのまえに腹違いの兄である地祇後継が救い上げた。妹に対する地祇後継の愛着は尋常ではないと、ハイダルは言った。
(どうしてだか、あいつは心底、血混じりの妹を愛してる)
(それが不幸だ)
(あの子どもには運がない)
 遅かれ早かれ、死ぬだろう。
 憎しみに切り刻まれて、あるいは、愛情に圧し潰されて。
(憐れだと思わないかい?)
 そう思うのなら自分でやれ、と言えば、ハイダルはこともなげに笑った。
(俺は、神と大始祖が俺の祈りに応じているかぎり、何があろうと女子供はけして手にかけないと誓願を立てているんでな)
(悪いが無理だ)
(誓いを破ってまであの子どもをどうにかしてやろうって気持ちは、俺にはない)
 だからお前に相談なんだ、そのために来たのだと言われても、面倒だし、迷惑だ。手前にその気がないのなら、俺だって、あの子どもとは縁もゆかりもないのだから。
(あるだろう? 生太刀)
(お前はあの子どもを拾ったじゃねェか)
(目を見ればすぐにわかったはずだぜ、地祇の血族だと)
(お前がやる理由になら、むしろ、それだけでも充分じゃねェのかと思ったがね)
(なあ、同族殺し――)
 縁があったら、またな。こちらの返事も聞かず、そう言ってハイダルは立ち去った。
 どこからかチリチリと鳥のさえずりなんかが聞こえてくる。
 ひとのいなくなった向かいのソファを、見るでもなく、ぼんやり眺めているうちに、ずいぶん時間が経ったらしい。視界は早朝の光に蒼褪めていた。鳥の声以外は物音ひとつ聞こえない。
 ソファを立って、応接室のドアを開けた。
 手のひら分ほどの隙間からなかを覗くと、ハイダルがソファを持ち出してなお雑然とし、不衛生な室内の中途半端な場所で、子どもは丸くなって眠っている。あの日駆け込んだホテルには二泊しただけで、それからはずっとここで寝起きしてきた。適当に調達した毛布はもう元の色がわからない。着替えがないから仕方なく着せてやった俺のシャツも、いい加減垢じみていた。ぶかぶかの袖や裾から伸びた手足も、首も、折れそうに細い。
(あいつは心底、血混じりの妹を愛してる)
(それが不幸だ)
 泣きもしなければ笑いもしない。ひと言もしゃべらず、文句を言うでもなければ抗うこともない。ひとりで逃げてきたわけではないだろう。地祇は追っ手をかけていると言っていた。ならば十中八九、総領子飼いの純血の手練れを、こんな子どもがどうこうできるはずがない。だれかが逃がした。ユージンはそこまで調べがついていないようだった。ハイダルは知っていたはずだが、あえて語らずはぐらかした。名前を出せないだれかが逃がし、けれど、はぐれた。
(運がない)
 ハイダルの言うとおりだ。運のない子ども。
 愛のない親のもとに生まれて、どうしようもない場所に捨てられて、救ってくれた相手さえまともではなく、結局こうしてひとりぼっちになっている。最後に巡り会ったのがこの俺だというのだから、いよいよツキがないのだろう。
 遅かれ早かれ――。
 逃げ延びたところで、こんな子ども、ひとりじゃ生きていけないのは目に見えている。そもそも逃げられるわけがない。時間の問題だとハイダルは言った。今日か明日か明後日か。かならず見つかる。
 死ぬだろう。
 無責任な父親のようにか、薄情な母親のようにか、あるいは――俺のサキと、おなじように。殺されて、死ぬだろう。
 ――だから、その前に。
(お前が殺してやったらどうだ?)
 どうやって、と訊けばよかった。ハイダルに。それか、どうするつもりだと言っていたユージンに。訊けばよかった。どうやって。
 どうやって殺せばいい?
 俺がむかしやったように?
 ひと息に跡形もなくしてやればいいのか。それならたしかに良さそうだ。今なら眠ったまま、もしかすると楽しい夢を見たままで、もう苦しむことはないのかもしれない。目なんか覚まさないほうがいい。だってあの夏の夕方の、ひぐらしの鳴き声が喧しく聞こえる部屋のすみに赤ん坊を抱えて隠れていた地祇の血族の女は、俺を見て、かわいそうなくらい震えていたから。
 本当に運がないよ、お前。
 せめてあんなふうに、最期まで抱きしめて守ろうとしてくれる親の子どもに生まれればよかったのにな。
 ふいに、薄汚れた毛布にくるまる子どもが身じろぎした。
 目を覚ましそうだ。ろくに櫛もとおしていないぼさぼさの髪が揺れ、頭がもたげかかり、目が合うまえにドアを閉めた。ドアノブから手を放そうとして、けれどどうしてか、上手くできない。
(なあ、同族殺し――)
 ドアに額をあて、目を閉じて、息を吐く。それでどうにか手から力が抜けた。
 そのまま身体を反転させ、ドアに背をつけ、座り込んだ。立てた膝にもう一度額を預ける。どこまでさかのぼればやり直せるのか考えた。なにもかも全部。どうすれば上手くやれたのか。
 上着のポケットを探って携帯電話を取り出した。
 ユージンに調べさせた番号は覚えている。見なくても間違えない。目を閉じたまま電話を耳にあてれば、無機質なコール音が続き、何度目かで通じた。
 声を聞くまでもない。
「――ゴウダ。話がある」

 どこまでさかのぼればやり直せるのか考えた。

 その答えは、サンジェルマンの言ったとおりだと思う。俺はきっともっとはやく死んでおくべきだった。幸福なうちに。しあわせだった時に。
 けれど、それじゃあ――あの子どもはどうすればいい?
 まっとうにしあわせだったことなんか生まれてから一度もなかったと思う。

 あの子どもは、どうすればいい?










あまりぶっそうな単語を連発したくないなあ、と思ったのですが連発せざるをえなかった。
しかも長い、長いよ……!(;д;)

イクヤさんが豆腐メンタルのヘタレになった根本的原因はサンジェルマンにあるんじゃないかなあ、と、思う今日この頃。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.03.07 Thu 00:27

自分で作った闇に自分から進んでずぶずぶと沈んでいったときにふと目に入ったのが雨の中で震えているアキちゃんで、それまで思考停止していたイクヤさんの脳みそが少しだけ動き出しました、という感じですかねー。いやぁ、へタレめ!←
ようやく「オレ、不幸!」という思考から他人に目を向ける余裕が出来たのか、というか目を向けざるをえなくなったというか。この人たち、寿命が余計にあるせいで、自分の不幸の憐憫にハマろうと思えば延々とハマってくれるから始末に負えない予感がする。特にイクヤさんが!←
サンジェルマン老が「死ね」って言わなけれは、多少はマシなメンタルだったのかしらねぇ。サキさんと一緒でも、二人で闇に落ちてくような生活はしなかった予感がするし。子供の頃の、キリヤマさんにくってかかるイクヤさんとか思うと。

イクヤさんが地祇の家族細切れにしたとき、ちゃんと意識があったというのがなんとも言えない。親子の愛みたいなものを感じているけれど、それは自分の別の部分で、イクヤとしてはもう「切り刻む」のが決定事項で、「仕方ないよね」という雰囲気でコロっとヤッたのかなぁ。感情の針が振り切れ過ぎて、無感情になったような。
……この辺はへタレな感じしないのにね。どうしたんだろうね。←


ゴウダくんになにを頼むのかなー?
期待!ヽ( ´ ∇ ` )ノ

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.07 Thu 21:28

お姉さま
イクヤさん、カッコイイはずなんですけどね……書いてるときにはカッコイイと思ってるんですけど、出力されたものを読むと「このお豆腐がッ! ドヘタレがッ!щ(゚ロ゚щ)」ってなるの、なぜなんでしょう、ね……(*´・ω・)?←
しかし、そうなのです、状況的に他者に目を向けざるを得なくなってて、長いこと電気通してない思考回路に火を入れはじめたら、あんな状態でひどいストレスを味わっている、という。イクヤさんは過剰な自己防衛で傷つくのを避けてきたのでメンタルのディフェンス値がまったく育ってない子です。その点だとゴウダのほうがまだしも打たれ強い、の、かもしれない……いや、やっぱりどっこいどっこいかな(-д-;)
ちなみに、イクヤさんキリヤマさんに食って掛かった時点ですでにサンジェルマンに「死ね」って言われてます。過去時間のアキちゃんと同じくらいの歳かもうちょっと小さかった頃に言われて、それに傷つきたくないから「俺、死ねって言われるくらいだからなんにも期待なんかされてないんだろうし、好き勝手していいよね!」って超解釈した結果の生意気な俺☆無双期で、そこからサキさんを失っていまの豆腐メンタルが完成しました(汗
サキさんを失った直後は、悲しいのと悔しいのと情けないのとつらいのと、さびしいのと、とにかく謝りたい気持ちで、イクヤさんはいっぱいいっぱいで、その感情をどう御せばいいのかわからなくて、どこかにぶつけておかないと自分が壊れちゃいそうで、こわかったのかもしれないなあ――と、思います。おまえらが悪いんだから仕方ない、うん、そんな感じです。そうじゃないだろって、思ってる部分は隅のすみに押しやってた。そうやって追いやった部分が責め立てる声を聞かないふりで暗いところを歩いて行って、アキちゃんとぶつかって、とうとう向き合わざるを得なくなった、みたいな。
けどまあ、ちゃんと真っ向膝突き合わせるようになるまでにさらに数年かかるんですけどもね! おとしまえ編のラストでようやっとですからね!げふげふ←

闇眷はWヒーローですから! 漆黒の妖精にもおでましいただきませんとねー!ヾ(´∀`*)ノ

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