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2013.03.06 Wed 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その7

歌さまのお題サイト50題に挑戦、今回もちょっと長めな「雨の日に猫を拾った話」まだまだつづくー。









   ***



「おかえりなさい、ハイダルさん」
「サーシャ、ひとりか?」
 地祇総領の本邸は、山中の広大な敷地に建てられた時代錯誤な平屋造りの古式ゆかしい屋敷だったが、その離れは現代的な二階建てだ。離れといってもそれひとつで世間的には豪邸と呼ばれる代物で、まるごと地祇後継の私室だとハイダルは認識している。
 使用人の案内を断って我が物顔で上がり込んだリビングスペースをぐるりと見渡しながら、ハイダルは海外製の白いソファに寝そべるように腰かけ、満足そうにうなずいた。
「ひとが暮らす場所はこうじゃないとな」
 テーブルを挟んで向かいに座るサーシャはくすりと笑う。
「おばけ屋敷にでも行ってきたんですか?」
「電気も水道もありゃしねえ。けど、今時はコンビニがあれば食うには困らねェな。便利なもんだ」
「そうですか」
 返事をしながら、サーシャはどこから用意したのかテーブルに救急箱のようなものを置き、ガーゼを片手に悪戦苦闘していた。首筋に貼りたいようだが、もたついているのは患部が左側にあるためだ。
 サーシャの左目は義眼である。元は新緑の色だったのを、ハイダルは覚えている。
「じれってェな、鏡使えよ」
「持ってくるの忘れちゃったんです。取りに行くのが面倒だから」
「貸せ」
 ため息を吐きながら隣に座ったハイダルに、サーシャは言われた通りにガーゼを渡す。
 サーシャの首筋を見て、ハイダルはわずかに眉根を寄せた。出血こそ止まっているが、治りかけの傷のうえからさらにいくつもの牙と歯型が重なり、ぐずぐずになっている。
 サーシャはとくに気にするでもなければ、痛みをこらえている素振りもなく、どこかのん気に手当てを待っていた。ハイダルはもう一度ため息を吐く。
「ヴァシリーサはいなかった」
「そうですか」
「探してやろうか」
 傷口にガーゼが貼られ、テープで留められると、サーシャは具合を確かめるように首筋を撫でさすりながらハイダルに向け苦笑した。探して、見つけて、どうするのか。ハイダルにも良案はない。
「ヴァーシャは俺よりしっかりしてるから。ひとりでも、大丈夫ですよ」
「そうだな。きっとな」
 そんなふうに相槌を打つのがせいぜいだった。
 救急箱を片付けるサーシャを横目に、ハイダルはソファに深く身体を沈ませ、ぐるりと室内を見まわす。這入った時にも確認した。リビングにはサーシャのほかに誰もいない。
「カヤは、屋敷か?」
 わざわざ問うまでもないが、あえて訊ねればサーシャは思った通りの返事をする。
「奥様がお呼びになって」
「地祇のバアさん、懲りねえなァ」
「本当は、俺が呼ばれていたんですけど」
「お前は行くな」
 救急箱を部屋の外にいる使用人に預け、戻ってきたサーシャにハイダルは言う。
「殺されるぞ」
「カヤもそんなふうに言いました」
 作り物を入れた左目もぎこちなく細めながら、困ったように微笑むサーシャの顔は、その名を口にした弟と酷似していた。正確には、どちらも父親に似た面立ちなのだ。
 サーシャはウピルの眷属まじりの純血、そして、地祇後継の腹違いの兄である。
 総領地祇を恋情と悋気に狂わせた男がただひとり愛した女こそ、サーシャの母親だ。父母の死後、サーシャは弟妹と暮らすために、地祇の愛人になった。安穏と、ぼんやりしていても、妙に度胸のあるサーシャを、ハイダルは好ましいと思っている。
 サーシャの度胸と情の篤さを、見誤っていたのは地祇だ。
 はじめに、地祇が血混じりの子どもを殺すよう命じたのはサーシャだった。
 地祇後継がおもちゃ箱にしまいこんだ人形を撫でまわすように溺愛するその子どもと接触できるのは、後継以外にサーシャだけだった。だから命じた。
 総領の命は絶対だ。その庇護下にいる限り、逆らいようはない。
 だからサーシャは妹を外へ逃がした。
 連れて逃げたのはサーシャの幼馴染だったウピル血族の娘で、サーシャはぬけぬけとそれを地祇に報せたのである。逃げられてしまったから殺せない、と。
 サーシャが企てたことはだれの目にも明らかで、地祇はもちろん憤慨した。サーシャに妹が殺せると本気で思っていたらしい。ハイダルにとっては滑稽な話だったが、地祇の怒りはただ事ではなく、八つ裂きにされても仕方なかったサーシャは、けれどこうして、いまもまだ生きている。
 地祇の後継でありサーシャの弟でもある、この離れの主人たるハイダルの友人が、地祇をなだめているからだ。
「つっても、ここにいたって安全じゃァないんだが」
 なにせここもまた地祇本邸の内。離れで働く使用人には地祇後継の信奉者が多いものの、総領の息がかかった手合いがまったくいないわけではない。
「サーシャひとりじゃ危ねえから、かならずだれかついてようぜって決めたんじゃなかったか? カヤも俺もいねえなら、リオンがお守りのはずだろう」
「お守りって……俺ひとりでも大丈夫ですよ、面倒になるほどのことじゃ」
「水臭ェこと言ってンじゃねーよ。ダチのあいだに面倒なんかあってたまるか。ったくあのクサれゲイ野郎……どこに消え、」
「――だれが腐ったなんだって?」
 リビングの続き部屋のドアが開き、不機嫌そうな声とともに絵具まみれの服を着るリオンが姿を見せた。彼もまた地祇後継の友人、ハイダルとともにここに居候をしている身の上だ。後ろ手にドアを閉めながら、リオンはむっすりと眉根をしわ寄せる。
「私がサーシャをひとり残して遊び歩くとでも思ったなら、ハイダル、きみはいよいよバカだ。末期だ。将来には何も期待しないほうがいい」
「それじゃあ何してたんだよ、サーシャほったらかしにして」
「芸術と美のささやきに身をゆだねていたのさ」
「お前こそ医者にかかれよ……」
 地祇総領が色情狂いなら、リオンは芸術狂いだ。ハイダルは脱力して背を丸めた。
 こんなところで油を売り、趣味の絵描きに明け暮れるリオンが「ザ・デスの大物」であることは公然の秘密になっている。血の濃い連中は総じて頭がおかしいのか。みんなイカレてる。ため息を吐くハイダルにサーシャが気遣わしげな苦笑を向けた。
 けれどリオンは意に介さない。
「カヤが、あの美しい顔で飢え、渇きをこらえられずサーシャの首に牙を立てる……だんだんと生気を取り戻すカヤの目と、蒼褪めながらも苦痛より激しい快楽に抗おうとするサーシャの表情……同族喰いの禁忌、兄弟の背徳……それを見て何も描かずにいられるなら、私はそもそもこの世に生まれてこなかった」
「リオンさん恥ずかしいです」
「恥らうきみも素敵だね、サーシャ。愛しいひと」
 ハイダルはついに頭を抱えた。
 そんなハイダルの姿に、リオンは鼻を鳴らして目を眇める。ソファの背もたれに寄りかかり、後ろからハイダルを見下ろして。
「私より。きみこそ今まで、どこに行っていたんだ?」
 サーシャは苦笑しているだろう。弟も含め、傍若無人な友人たちを相手に、困ったように笑っていることが多いのだ。ハイダルは見当をつけながら顔を上げる。
 やはり、サーシャは眉尻を落として微笑んでいた。
 サーシャはあえて訊かなかった。
 ハイダルがどこに行ったのか、何をしていたのか。
 訊いたところでどうしようもないことに食い下がってこなかった。地祇から逃げたなら天羅の領に行ったことくらいは問うまでもなく考えればわかる。その先の妹のことは心配だが、いまは逃がしてやるのがせいいっぱい。幼馴染を連れ戻したところで守ってやれるわけでもない。いくら友人でも、何かに対してまったくおなじ感情を、思考を、抱くわけではないのだと、サーシャは割り切っている。情には篤いが冷静でもある。いっそ薄情なほど。
 だからハイダルはサーシャを好ましく思っていた。
 もちろん、リオンのことも、頭のおかしいやつだとは思っているが嫌いではない。嫌っていたらこうして場所と時間を共有などしない。リオンはハイダルが嘘を吐かないと確信して訊ねた。それを裏切らない程度には、ハイダルもリオンを好ましく思っている。
「どこって――」
 もっとも。
「むかし縁のあったやつに会いに行ってたのさ。詳しく訊くな、下世話な話だ」
 嘘は吐かないが真実すべてを語るわけでもない。
 血の濃い連中は総じて頭がおかしいのだろう、俺も含めて――だからハイダルは地祇にさえ憐憫を感じている。
 総領として生きるなら、女のように生きることは諦めれば良かっただろうに。ひとりの男に入れ込まなければ良かっただろうに。その面影をいつまでも求めなければ良かっただろうに。サーシャで満足できないのなら。
 じつの息子を、後継を、カヤを愛したところで満たされるはずもないだろうに。
 未練がましくすがりつくから、あんな血混じりの、とるに足らない子どもにまで、嫉妬する羽目になる。
 地祇は憐れな女だ。
 そんな大人の情事に巻き込まれただけのあの子どもも、ハイダルは不憫でならない。










リオンの空気破壊力、パネェよ……(;゚Д゚i|!)

というわけでサーシャお兄ちゃんとカヤ兄のダチ友Sが出てきたのですけども、外見の描写とかはたぶん愛戀でやるからいいかな、いまそんなに必要な情報でもなさそうだしってことで割愛。ガッツリ書いてたらこの倍の量になったから一生懸命削ったなんてそんなことはないんだぜ☆ げふげふ←

ちなみに彼ら、たぶん日本語ではしゃべってない、と思われ。本文は吹き替えです!(笑) 何語かなー? みんなそれぞれ自国の公用語でしゃべっている可能性もあるけど、するとハイダルさんが話してることがサーシャお兄ちゃんに伝わらないかもしれないから、英語あたりで統一だろうか。とか考えるとちょっと楽しいのです。バイリンガルレベルだと、リオン>ハイダルさん>サーシャお兄ちゃんの順。

とりあえず、サーシャお兄ちゃんは書いてみるとなんだか可愛い人でした。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.03.07 Thu 00:39

カヤ兄のお友達たちキャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー

サーシャお兄ちゃんは、さすがにあのカヤ兄のお兄さんだけあって、可愛く穏やかな癒し系、だけど切るところはちゃんと切るのね、地祇っぽい!
リオンさんはクラッシャー! 見事なクラッシャー! いいよね、クラッシャー! ひとりは絶対必要だよクラッシャー!←しつこい。
そしてその絵……ね、ちょっと拝見させてもらうわけにはいかないだろうかッ!!щ(゜▽゜щ) 私も芸術を鑑賞したいのだけどッ!!←
そして冒頭のサーシャお兄さんの傷、ママがガブガブしたのかと思いきや、実はカヤ兄なのか、とwww 情熱的すぎるwww
これじゃあ、アキちゃんも傷だらけになっちゃうよなぁ……。
ハイダルさんはさすがのツッコミ要員! ありがとうございます! でも立ち振る舞いは世間の荒波くぐってきた感じでステキ!
ハイダルさんの立ち位置は、他のひとたちと一線を画しているのかなぁ、とか思った。地祇ママを憐れんだり、アキちゃんを可哀想だと思ったり、でも特になにをするでもなく、手を下さず口だけ出す。傍観者、という立場にいるのかしら。でも他所に愛人囲ってウハウハしてそうな予感もする。


カヤ兄さんのお友達も好きですけど、イクヤさんパートの続きも気になるの!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.07 Thu 21:59

お姉さま
>リオンさんはクラッシャー!
マジ空気読んで空気ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!(」゚ロ゚)」www
でした、リオン、こわいですホモの絵描きw 傍若無人にもほどがあるだろう、とw ちなみにリオンがあの時描いてた絵はものっすごい抽象画で、後日目にしたハイダルさんが「……で、これのどこにカヤとサーシャと禁忌と背徳があるんだ?」「どうせならきみが目をえぐられればよかったのにねハイダル」で、リオンと喧嘩になってサーシャお兄ちゃんに止められる流れw

>サーシャお兄さんの傷
アキちゃんがいなくなって精神的にガッツリ不安定になってるカヤ兄がガブガブしました、情熱的に!(*゚Д゚)/
サーシャお兄ちゃんに対する「お仕置きだよ☆」って気分が多分に含まれているにせよ、カヤ兄は基本的に噛み癖が悪いので、アキちゃんにもあんなふうに……カヤ兄から媚薬成分()出てるんで最中は痛くないと思うんですけど、ね……術後に麻酔切れたら痛いのといっしょで、ね……だれだよアキちゃんに過酷な運命背負わせたやつッ!。+゚(ノД`)゚+。←
というわけでアキちゃんの噛み方はカヤ兄直伝なのでガブガブです。血液パックからチューチューする時には注意してないと吸い口をつぶしちゃうので、恥ずかしいなあって最近は思ってると思います。お年頃。

>ハイダルさん
カヤ兄サイド唯一のツッコミ要員です! 彼がいなくなるとカヤ兄サイド日常パートは完全に収拾がつかないのでハイダルさんはとっても重要です! ありがとうハイダルさんがんばれ!(笑)
カヤ兄サイドは、みんな、仲は良いけどパーソナルスペースは確保してる・個々で好きに動くけど肝心なところは裏切らないっていう信頼にもとづく関係、なんだと思うので、ハイダルさんもハイダルさんの価値観で判断して、動いて、あんな感じになってます。とくに今回は地祇も女、アキちゃんも子どもで、ハイダルさんが手出ししない対象が揃ってるので傍観者です。ハイダルさん好きなので、ハイダルさんの話も書きたいんですけど、するとアル兄の話を書かねばならない罠!(≧д≦ )

つぎはイクヤさんパートのはずでーすヾ(・∀・)ノ 10回は無理でもおとしまえ編と同じくらいの回数で、なんとか、完結できればいいなと思う所存!(オイw

我が君 : URL

2013.03.08 Fri 13:43

アキちゃんを助けてください!!(/≧◇≦\)
『世界の隅っこで ヘルプと叫ぶ』近々公開予定ww
なんてなww
ガジガジ後かなり痛いだろうに…アキちゃん可哀想だ(。´Д⊂)腹が立つので、この話でイクヤさんに思いっきりガジガジしてやれば良いと思うよ(*`Д´)ノ!!!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.08 Fri 20:49

我が君
なつかしいフレーズwww 号泣とイクヤさんとカヤ兄への怒り必至だね!(笑)

>腹が立つので、この話でイクヤさんに思いっきりガジガジしてやれば良いと思うよ(*`Д´)ノ!!!
我が君それイクヤさん完全にやつあたりされた状態だよw ガジガジしたのはカヤ兄なのにwww まあ、アキちゃんを不衛生な場所で寝起きさせるとかイクヤさんてめェコラだからガジガジされてもいいと思うけども( ゚Д゚)ドルァ!!w
本当だれだよアキちゃんに過酷な運命背負わせたのっ!щ(゚ロ゚щ)←

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