Aries.

Home > スポンサー広告 > スポンサーサイトHome > 小話 > 50題 > 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その9

--.--.-- -- スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2013.03.13 Wed 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その9

歌さまのお題サイト50題に挑戦、スルーオッケー安心設計「雨の日に猫を拾った話」、目標は十五回、十五回……ッ!










「俺なんかに分けてちゃもったいねェよ、しあわせ」
 赤ん坊を抱き直し、心配そうな面持ちでこちらを見る彼女に苦笑して、もう熱のほとんど残らないコーヒーを飲み干した。ポケットから数枚の紙幣を取り出して席を立つ。
「悪い、用事があンの思い出した。ケーキでも食べて」
「ヒュー」
 その名前は、たしかひと昔前に人気だった映画俳優のものだ。思い出した。俺が遊び相手に選ぶのは、いかにも慣れてて、簡単にあしらえて、関係の切りやすそうな、ちょっと不幸でお安い連中ばかりだけれど。いまの彼女とむかしのように気軽に接するのはむずかしい。
 ひかえめな化粧とひかえめな髪形とひかえめな服。家族で食べる夕飯。外食に誘ってくれる旦那とかわいい赤ん坊。彼女は幸福で、満ち足りている。
 だから、もったいないんだ。俺には。
「それじゃ、ありがとう――ミサキちゃん」
 物言いたげな彼女を、我ながららしくないことを言って黙らせた。
 本当にらしくない。
 店を出て、通りを歩いて、人のあいだを縫うように、だんだん早足になって。何の意味がある。いまさら。走ったところで。
 サキを取り戻せるわけじゃない。あの頃にも戻れない。
 俺はずっと間違えたままで、幸福な時間は終わったあとで、サキに会わせる顔もなくて、言い訳を探しながらだらだら生きているだけで。どんなに考えたって、やり直しなんかきくはずもない。わかってる。サキはもういない。もうどこにもいないけど。
 あの子は生きてる。きっとまだあそこにいる。
 生まれてから一度だって、人並みに、母親に抱かれた赤ん坊みたいに、しあわせだったことなんかなかっただろうけど。この先も良いことなんかひとつもないのかもしれないけど。俺にさえしあわせだった時間はあったのだから。あの子にだってあるかもしれない。
 生きていればしあわせになれるかもしれない。
 こんな俺にもしあわせを分けてくれようとした彼女みたいに。彼女の赤ん坊みたいに。満ち足りた幸福があるかもしれない。そうじゃなきゃ嘘だ。
 いまさら走ったところで俺の間違いはなにひとつ帳消しにならないけど。
 あの子を守ってサキが還るわけじゃないけど。
 意味はないかもしれないけど。
 たとえば俺が笑いかけたら、手を差し出したら、名前を呼んでやったら。
 あの子は笑ったのか?
「――くっそ、」
 我ながらでたらめな思考だ。結論なんて出てこない。
 いまだって、本当はどうでもいいと思ってる。面倒だ億劫だと思ってる。ほうっておけばいいと思ってる。あの日拾ったことを後悔している。
 なのに止まれなかった。
 走るうちに景色からは人工的な賑わいが薄くなり、街中をはずれると急激にひなびていく。ひと気はもうないに等しい。そんななか鳴りはじめた電子音はずいぶん場違いに聞こえた。単調な呼び出し音が、はじめは三回で鳴り止み、次が一回、その次も一回。
 四度目の呼び出しで受電する。
「ユージン! なんだっ」
『良かった、生きてるね。どこにいるの生太刀』
 怒鳴るような俺に、ユージンの口調も切迫していた。ひと気がないのをいいことにおよそ人間ばなれした速さで走っているせいで、うなりながら耳元を抜けて行く風にまぎれて電話越しの声は聞き取りにくい。
 それでも様子がおかしいことくらいはわかった。呼吸の調子が狂っている。
『地祇の追っ手がそっちに行ったの、ずいぶんまえ、すぐに知らせてられなくてごめんなさい、おなじとこにいるならはやく逃げて。――アンタまで殺されちゃう』
「お前、」
『居場所、誤魔化してあげたかったんだけど、上手にできなかったから……大丈夫、うまく逃げたからもう平気。でも、ちょっと、しゃべれるようになるまで時間がかかって、本当はもっとはやく知らせて――』
「ンなことどーだっていいだろうが! プライベートと仕事は別だっつったのてめェじゃねェかッ、バカか! 俺なんかほっとけ!」
 思わず声を荒げると、電話の向こうでユージンが笑った。
『そんなふうに怒るの、めずらしいわねえ……こんな割に合わないこと、仕事じゃやらないわ。いまはプライベートなの』
「ふざけンなっ」
『いいから聞いて。とにかく逃げて。場所はしゃべったけど、アンタがいるのは言わなかったから。アイツらの狙いは、血混じりの子どもだけよ。だから』
 逃げて、ひとりで、あの子を置いて。
 ユージンはどれほどぎりぎりのところで、俺の存在を隠し通したのか。ユージンは眷属だ。特別な何かがあるわけじゃない。立ち回りがひとより器用で、だから使える便利屋をしているだけの、総領の庇護もないはぐれ者の、ただのふつうの眷属だ。地祇の子飼いを相手に「うまく逃げる」のは言うほど簡単じゃなかっただろう。
(ボクはアンタみたいな男イヤよ)
(しあわせになれる感じが全然しない)
 まったくだ。俺なんかに関わったせいで、いらない巻き添えを喰って、割に合わない目に遭って。そのうえ、せっかくの気遣いまで水の泡にされるんだ。
「ユージン、何人だった」
『え?』
「お前のとこに何人来た。異能使いか。男か」
『ちょっと、アンタ――』
 冗談でしょう、ユージンは半笑いでそう言った。
 俺が答えないでいると、電話越しの気配がだんだんと強張って、今度は向こうが声を荒げる。苦しげな呼吸でまくしたてた。
『無理よ! ボクはふたりしか見なかったけど、両方とも男で確実に純々血よ、ほかにもいるかもしれないんだから! バカなこと考えないで、血混じりの子どもなんか助けてなんになるの。地祇の血族はアンタの恋人の仇じゃない!』
「わかった。悪かったな、うまく逃げろよ」
『生太刀!』
 ユージンの声は悲鳴じみていた。
『敵うわけないわ! だって、アンタは――』
 言いたいことは最後まで聞かなくてもわかってる。電源ボタンを押しこんで通話を切った。悪いなユージン。せっかくの親切を。お前は善い奴だけど、俺はろくでもないんだ。
 純々血の、男がふたり。
 混血の子どもひとりに地祇はずいぶん気前がいい。そいつらがこっちに向かったのはいつだ。ユージンが電話をくれるまでのタイムラグはどれくらいだ。どこから来る。
 間に合うのか。
 あの子はまだ、あそこにいるか。
 まだ――。
(血混じりの子どもなんか助けてなんになるの)
(お前が殺してやったらどうだ?)
(地祇の血族はアンタの恋人の仇じゃない)
(なあ、同族殺し――)
 奥歯を噛む。堂々巡りの思考に立ち止まってしまわないように。言われなくてもわかってる。やり直せないし取り戻せない。俺は馬鹿のままだしサキはもうどこにもいない。
 あの子だって俺にどうこうして欲しくなんかないかもしれないけど。
 ――ほっとけないんだ。
 だれにも名前を呼ばれない、まっとうに愛されない、ほんのすこしだけ貰える優しさを頼りに生きているあの子は、なんだか、俺みたいで。サキみたいで。
 ほっとけないんだ。
 老朽化するに任せて建つ工場の、事務所の入り口を力任せに開けた。追っ手がなかにいる可能性は埒外になっていた。床に積もった砂と埃を蹴立てて奥に走る。あの色違いの目でこっちを見てくれ。頼むから。
 おぞましく汚れきった事務所に、応接室から引っ張り出されたソファに、あの子が座っていた。垢じみた俺のシャツを着て。薄汚い毛布を抱えて。
 左右で色の違う目で、じっと、俺を見ている。

 ――この子を守ろう。










これを書きながらイクヤさんとちっちゃいアキちゃんの話からおとしまえ編まで読み返していたんですけども、イクヤさんのデレ方がすさまじくって、もう……ツンデレ気取りかちくしょう、みたいな。

イクヤさんは愛されなくても平気だと勘違いしているだけの愛されたがり。イクヤさんのこういうところは考えれば考えるほどサンジェルマンのせい、そろそろイクヤさんとサンジェルマンの話も書かなくちゃなあ。


関連記事
スポンサーサイト

Comments

name
comment
ミズマ。 : URL

2013.03.13 Wed 01:06

ツンデレ気取りwww

ああ、もう時間的に寝ないとダメなんだけど更新されてたから読んじゃったら案の定わかっちゃいたけど面白くてイクヤさんの焦燥とか堂々巡りの思考とかぐちゃぐちゃな感じとかがとても良かったんだけど、それでも「コメントはじっくり! 後で! っつーか明日!」と思っていたのに「ツンデレ気取り」の一文に腹筋が持って行かれたどうしてくれるんだ朔ちゃん! ありがとう!←


>サキはもういない。もうどこにもいないけど。
 あの子は生きてる。きっとまだあそこにいる。

おま、……ようやくか! ようやく、この思考にたどり着いたかイクヤさんよォ!! どれだけとび蹴りすりゃ、てめぇのクソ重てェ腰が動くのかと思ってたんだよ、コッチは!!

間違えたままで消え去ろうとしていたイクヤさんは、きっと間違えたままでいるのが嫌で(だって愛されたがりだし)、それがアキちゃんを拾うという行動を無意識にせよとらせたわけで、そして今回、間違えたままじゃ嫌だ、とようやく自覚できて良かったなぁ、と思いました。

こういう、自分の思考がわけわからんけど走りたい道はここだから思考も自分も走っていく、みたいなお話というか文?は、好きですヽ( ´ ∇ ` )ノ

次回も期待!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.13 Wed 22:38

お姉さま
>ツンデレ気取り
なんの気なく書いた一文がお姉さまの腹筋に深夜のダイレクトアタックかましていたwwwww すみませんwwwww イクヤさん=ヘタレの構図が強すぎていままでまったく気づかなかったんですけど、あらためて読み返したら「こいつただのツンデレじゃねェかっ!щ(゚ロ゚щ)」って、なぞの怒りが込み上げてきてwww(酷w
どうせならもっとヒーローらしい属性に目覚めてほしいです。

>どれだけとび蹴りすりゃ、てめぇのクソ重てェ腰が動くのかと思ってたんだよ、コッチは!!
温和で優しいお姉さまにもこれほどの苛立ちをつのらせる正ヒーローはある意味キャラ立っていると思っていいのかもしれないと思えてきた(笑)

ようやっと、ちょっと未来に目を向けようか、前のほうに手を伸ばしてみようか、一歩くらい進んでみようか、と、思えたらしいです。イクヤさん。覚悟もなにも決まってないけど、いまはとにかく走れ! 走れ! みたいなの、卯月も好きです。ヒーローっぽい!ヾ(・∀・)ノ←

ここから腹が決まる(おとしまえ編ラスト)まで数年かかるけど、でも、ヒーローっぽい!←

……イクヤさんはクルルギさんにヒーローのなんたるかを教えてもらえばちょうどいいのかもしれないけど、会話、成立するかなあ。っていうかイクヤさんの精神がもたないなあw

次もがんばりまするー! 就寝前にコメントありがとうございました感謝! 感謝!!

comment form

Trackback

FC2Blog User

  1. Trackback
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。