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2013.03.16 Sat 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その10

歌さまのお題サイト50題に挑戦、「雨の日に猫を拾った話」はスルーオッケーの安心設計、なのはともかく……15回でも終わらない気がしてきたんだぜ☆←









「おい、」
 声をかけて歩み寄ると、子どもはあからさまに震え、身体を強張らせた。毛布を抱える腕に力がこもる。それでも視線はそらさず、窺うように見上げてくる。
 この子に事情を説明して、連れて逃げる。
 そんな悠長なことはやっていられない。時間がない。後ろ首にぞわぞわ怖気がはしる。追っ手が近づいていた。すくなくとも純々血の男が二人。子どもを抱えて振り切れるとは思わない。
 子どもの細い手首を掴んで有無を言わさず引き立たせた。
 ソファを降りた子どもがたたらを踏むのに構わず、手を引いて壁際に向かう。子どもは騒ぎも暴れもせずついてきた。気配は石のように硬いが、いまはかまっていられない。
 給湯室と消えかけのプレートがついたドアを開ける。
 なかは人が二人も立てば肘をぶつけあいそうに窮屈で、窓は換気のためのちいさな格子窓があるだけだ。ここに突っ込んでくる可能性はおそらく一番低いだろう。放り込まれた子どもはあっけなくバランスを崩して倒れながら、すぐに顔を上げてこちらを見る。色違いの目をしばたかせもせず。毛布をぎゅっと抱いて。
「ここにいろ。じっとして、静かにして、何が聞こえても、絶対に出てくンじゃねえぞ」
 返事はなかった。うなずきもしなかった。ドアを閉めて背を向ける。
 肌を刺す殺気に全身の産毛が逆立つ気がした。
 目を閉じて息を吐く。
(――生太刀! 敵うわけないわ!)
 ユージンはずいぶんでたらめなことを言ってくれた。「生太刀」は同族に対して無敵の存在。あらゆる異能を封じる突然変異。同族をただの人間同然に貶める、そのあまりの忌まわしさから生まれれば即座に打ち殺すのが暗黙の掟だった鬼子に向かって、敵うわけがないなんて――。
 そんなことはわかってる。
 言われるまでもない。
 サキがいなくなってずいぶん経った。あれからまともに血を摂っていない。同族殺しとおそれられる生太刀の能力が使えなくなったのはいつからだ。異能など使えばあっという間に弱るだろう。いなして、躱して、逃げるだけならまだしも。
 敵わない、まったくだ。
 あいつが来るまでの時間稼ぎになればいい。
 息を吸う。
 まぶたを上げて目を開く。
 ドアを蹴破る音と事務所の窓が割れるのはほぼ同時だった。ガラスを突き破った何かは後回しにして入り口から駆け込んできた相手に異能を放つ。視界に映ればどんなものでものべつまくなし切り刻むサンジェルマンの邪視に、全身から血を吹き上げて男が倒れるのと、窓を破った筒状の物体が大量の煙を吐き出すのもまた同時だった。
 同族相手に煙幕なんて冗談のようだが、邪視の異能使いには効果的だ。
 初手で視界を潰しにくるということは、あの子どもを地祇から連れて逃げたのは邪眼持ちだったのかもしれない。広くもない事務所のなかいっぱいに膨らむ煙を、力場を使って押しかえす。一瞬晴れた視界に見えた人影に視線を走らせると、ふたたび目前を覆う煙の向こうから短い悲鳴が聞こえた。これで二人。
 ――と、思った矢先に微かな閃光と銃声。
 盾代わりの力場に銃弾がぶつかり、圧砕してはじけ飛ぶ。立て続けにくるその重苦しい衝撃を踏ん張ってこらえた。連射するような銃じゃねェだろ、人間なら身体がもたない。二人目には大したダメージを与えられなかったか、すくなくとも銃を撃てる程度には無事だ。舌打ちも銃声に掻き消される。畜生。
 二人目は割れた窓の向こうか、さもなければハイダルが窓際に押しやっていった事務机の陰から撃ってきているに違いない。
 面倒だ。
 はやくも血の足りない身体が弱りはじめた自覚がある。このまま銃弾を防ぐのなんかに力場を使ってじわじわ消耗するくらいなら、いっそ加減なんかせず何もかもふっ飛ばしてしまえば早いが、そんなことをしたらこの建物自体崩れかねない。あの子が巻き込まれでもしたらどうする。手間だがもう一度煙を飛ばして遮蔽物を切り崩し、二人目をこちらの視界に追い立てるか――うっとうしい銃撃を払いのけるつもりで力場を広げようとした。
 瞬間、煙幕が向こう側から突き破られる。
 鉤のように曲げられた指、手、腕から先は胴までいっきに現れた。ひとだ。女。三人目。牙を剥き出して張り裂けるように笑っている、その目は赤い。
 同族――!
「くッ、そ!」
 互いの力場が激突する。拮抗などと呼べる競り合いもなく押し負けた。女に。反動で後ろに倒れながら思っていた以上に弱っていることに愕然とする。けれど――。
 弱っていようがなんだろうがサンジェルマンの邪視の特性に変わりはない。
 視界に映ればどんなものでも切り刻む!
 顔面を狙って肉薄する鉤の手に、腕に、肩に、顔に、胴に、脚に、深い裂傷が走り、血がしぶき、女は倒れる――と、思った。
 そのはずだった。
 けれど女の手が視界を覆い尽くす刹那に見たのは、頬に浅い傷をつけて傲然と嗤う顔。どうして。考える間もなく女の爪が閃いた。目を潰される。反射的に頭を振って狙いは躱したが、左のこめかみから鼻筋までを掻殴られ、激痛に片目を閉じた。体勢がいっきに崩れる。
 受け身もまともに取れないまま、女の手で頭を床に叩きつけられながら倒れ込んだ。
「――が、ァッ」
 側頭部から突き抜けた衝撃で頭蓋の中身が揺れる。ただでさえ異能と力場を使って弱りはじめたところに猛烈な目眩と吐き気が襲い、一瞬わけがわからなくなった。
 横ざまに倒れた身体はそのまま、頭だけうつむかせようと強引に押さえつけてくる女の力に抗おうとしたが、馬乗りになられた上体はろくに動かすこともできない。ぎりぎりと万力みたいな手で頭を固定され、顔面を床に押しつけられる。目のなかに土埃を擦り込まれ、瞼を開けていられない。右腕は女の右手にねじ上げられ、左腕は靴底で踏みつけにされているようだった。
 跳ね飛ばそうにも力場の強さじゃ敵わないのはさっきやり合ってわかってる。子どもみたいに華奢なくせに、男並みに馬力のある純々血の女。それも、異能使い。
 始祖天祇の血統――地祇血族の形態変化だ。
 姿形はそのまま、おそらく皮下を全身硬化させている。腕をねじ上げ、頭を押さえつける手の感触が普通じゃなかった。サンジェルマンの邪視は見えるものならなんだって切り刻むが、見えないものは切れず、視覚の認識と実物の状態に齟齬があればそれだけ威力も落ちる。ただの肉だと思っていれば、それ以上の硬度のものを切傷することはできない。
 あのやかましい銃撃は止んでいた。
 かわりに、ひとの身体のうえで哄笑が響く。
「よォ、兄サン! ウチのバカどもに調子よくカマしてくれ元気はどォした! オレの股座でしおらしく身悶えてンじゃねーよ、濡れッちまうだろうが! ハッハー!」
 凄んでいるのに上機嫌で、甲高いのにかすれた声にも、神経を逆撫でする笑い方にも、ひどい癖がある。
 胸クソ悪い女の声。
「オレが女だから遠慮してンなら無用だぜ! はっきり言おう余計なお世話だ! そンなんじゃイケねェから安心しな――このニーナさまは、男(てめえ)らなんざより強ェからなァ!」










ちなみに、ニーナは漢字にすると「新菜」です。基本的に、おなじ血の濃さなら男のほうが力場が強い、けど、何事にも例外は存在しますよ、っていう。ニーナさんはさらに規格外で元々からだいぶ力場の強い子。

戦闘は三人称のが書きやすい、ねー(`-д-;)ゞ


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Comments

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我が君 : URL

2013.03.17 Sun 06:51

やった!!カモン!!ゴウダ!!あの方を越えて、今その名を手にするのだ!!
イッツ 出時!!

ミズマ。 : URL

2013.03.17 Sun 23:32

ここで新キャラて朔ちゃん、さては15回で終わらす気はないね!
もしくは次回から文章量が倍になるのかなー?←

ニーナさん、名前のイメージだとロシア系の儚い色白金髪碧眼美人、なのにな……! と思ったのですけど、漢字表記アリということは、日本の血も入っているということかにゃー。
ってか、
> 始祖天祇の血統――地祇の形態変化だ。
まさか、ニーナさんがカヤ兄とかのお母さん、現地祇その人、というわけではない、です、よね……?
え、こんなぶっ飛んだ、しかも現場きてガツガツやっちゃうようなお方なの、か?
そりゃ、相手は腐っても生太刀だから、戦力としてご自身が出張るのが一番確実かもですけれど……。

ど、どうなのかしら、朔ちゃん?

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.18 Mon 23:34

我が君
「あなたの期待を裏切るのはつらいのですが……ここはまだ、出時じゃありません。いえ、いま出ても充分な効果はあります。でも、抜群じゃありませんからね。焦ってはダメですよ」
と、キングの称号を持つあの方が駆けだそうとするゴウダを止めているみたいだよ! 仲間のピンチにこの余裕とかさすがあの方は格がちがうwww


お姉さま
>次回から文章量が倍
そ の 手 が ッ ! щ(゚ロ゚щ) ←マテ、

できればそれほど肥大させずに、なんとか、まとめたいと、思ってるんですけどなぜ新キャラぶっこんだ自分んんんんorz 長くなるって、わかってたのに、我慢できなくて……つい……。
ニーナさんは地祇の血族なので、ベースは日本人なんですけど(と、言ってもいろんな人種がまざってますけど)、どうもガッツリ和名ってイメージじゃなかったので「音の響きは外国っぽい和名」で「ニーナ」になりました。黒髪で青い目です。

>まさか、ニーナさんがカヤ兄とかのお母さん、現地祇その人、というわけではない、です、よね……?
これは本当にもう大変すみませんでした、ややこしいですよね、ですよねーっ!(涙目)
ええっと、地祇個人の名称と総領の号と血族の呼称がいっしょくたになってるので、わけわかんない状態になっちゃってるんですけど「地祇(の血族の異能)の形態変化」の、つもりでした……ご指摘いただけて良かったです、ありがとうございます、読み返したら卯月も「これ地祇ってカヤ母にもとれるじゃんギャー」って、なったので、いちおう直してみました。がしかしあまり直っている気がしないんですけど、なんでこんなややこしい設定にしたし卯月……orz

というわけで、ニーナさんは形態変化の異能が使える地祇血族の純々血女性、です。総領地祇とは別人でした;;;

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