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2013.03.20 Wed 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その12

歌さまのお題サイト50題に挑戦、「雨の日に猫を拾った話」はひきつづき、痛いの注意!











「ァぐ! っ……ぅ、あ……ッ!」
 どこが焼けているのかもわからない痛みで反射的に身体が強張り、傷を抱えて縮こまろうともがいた。指先が食い込むほど床を掻く。悲鳴を堪えて歯が砕けそうだ。硝煙まじりの鉄臭いにおいが鼻についた。口のなかにも血の味がせり上がってくる。自分のなんか全然美味そうじゃない。心臓が破れるんじゃないかと思う。痛い。叫びたい、
 銃声と、衝撃と、激痛。
「――ッ!」
「にーはーつーめーっとォ! 兄サン頑張るねェ! もっとイイ声聞かせてくれよォ! あのガキが近くにいンだろォ? そォだよなァ? 探すの面倒だからよォ、みっともなく泣き叫んで、カッコ悪く呼ンじまえってェ!」
 傷口をにじる女の声が頭に響く。うるさい。黙れ。畜生。悪態を吐いて罵りたい。けれど食いしばった歯の隙間から漏れるのは悲鳴代わりに絞り出す呼気と血と涎だけだ。口を開けばきっと叫ぶ。肩口を撃ち抜かれて身体が跳ねた。声を上げて転げまわれたならどれだけ楽かと思う。
 圧し掛かる女は愉快げで、腰を浮かせようともしない。
「うちのバカどもにもこンぐれェの根性がありゃいーンだがよォ。呼ばねェってならしょうがねーなァ――おーォい、チビちゃーん? 聞ィこえてッかなァー?」
「うっわ姐さん何それキモい。そんな可愛くねー猫なで声聞いたのはじめて、勃たねー」
「うるせェぞスバル死ね! ――血混じりよォ、聞こえてンだろォ? 元気よく返事ィして出ておいでェ? 早くしねェと、やさしーオニーサンが穴だらけンなって死んじゃうぜェー? 出ておいでよォ?」
 だから姐さん気持ち悪い! 窓際にいる男が笑う。女のほうも遊びを楽しむ雰囲気に変わりはない。イカレた連中だ。――バカが。
 あの子が出てくるはずがねェよ。
 何が聞こえても出て来るなと言っておいた。じっとして静かにしていろと。俺は優しいお兄さんなんかじゃなかった。懐かれていたわけでもない。あの子はいつもどおり狭苦しい給湯室の隅でじっとしているにちがいない。男はともかく、唯一身動きできる女は生太刀を痛めつけるのに夢中だ。混血の子どもなんかすぐに始末できると余裕ぶってる。抵抗するのは諦めた。俺はせいぜいこの女のお遊びに付き合ってやればいい。
 出来るだけ長く息をして気を失わずにもがくだけでいい。
 時間稼ぎだ。簡単だ。
 あの子は見つけられさえしなければ勝てる。大丈夫。
 大丈夫だから、じっとしていてくれ。
 何が聞こえても、じっとして、静かにして、そこであいつを待っててくれ。
「はァーやく出ておいでェー? つぎの四発目でェ、オニーサンの耳が吹っ飛びまァーす!」
 大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。絶対に動くな。じっとしてろ。そこにいろ。頼むから。優しくしてやったわけじゃないんだ。殺してしまおうかと思ったし、置き去りにして見捨てようともした。だから来るな。外に出るな。俺は大丈夫だから。
 そんなふうにドアを開けるな!
「そこかァ――!」
 ドアの開く音と快哉を叫ぶ女の声に痛みもなにも消し飛んだ。
「――ッアァ! やめろ!」
 ありったけの力でもがく。床を掴んで身体を起こす。女の意識がよそにそれているおかげでわずかだけ体勢を変えられた。右目の視界に床以外の景色が入り込む。まだ煙幕の霞は晴れていなかった。銃声が響く。悲鳴はない。
 薄まりつつある煙を破って、薄汚れたちいさな身体が銃を持つ女の腕に飛びついた。
 色違いの目は赤い。
「ッハハハ! ゴキゲンだねェ!」
 視界の端の向こうで女が哄笑する。腕の一振りであの子を吹き飛ばしながら。華奢な矮躯は軽々と弾かれ、煙にまぎれながら、壁に叩きつけられて床を転がった。
 すかさずあの子へ向けられた銃口を視界に捉えて切り飛ばす。
 同時にでたらめに力場を使って女の身体を振り落とした。さっきまで全然だめだったのが嘘みたいだ。いったいどこにこれだけの力が残っていたのか。異能を使った反動に痛みと失血が追い打ちをかけて視界がぼやける。立ち上がろうとする端から膝が落ちそうになる。煙幕の向こうに倒れたあの子の影が動かない。銃声が聞こえる。
 女が楽しげに吠える。
「ぶッ殺せスバァああああああルッ!」
「りょーかいですよッ!」
 軽薄な言いぐさで男が撃ちまくるなか、なりふり構わずあの子のそばに駆け寄って矮躯を掬い上げた。目を閉じ、弛緩していてなお子どもの身体はぞっとするほど軽い。息はあるか、心臓は動いているか。確認する間もなく脚を弾かれてすっ転んだ。残る力場を子どもを抱えた胸のまえに集中する。俺はもう何発喰らおうが一緒だ。
 口に溜まった血を吐きながら、壁に手をついて上体を無理やり引き起こす。
 膝はもう立たない。
 瞼を傷つけられて狭まった左目も、無事な右目も、霞んでぼやけてろくに見えない。焦点も結べない。邪視は使えるか。せめてもう一回だけでも。
 ――なんで、
 なんで出てきちゃうんだよ、じっとしてろと言ったのに。おまえにどうにかできると思ったのかよ。ふざけんな。おかげでこのざまだ。余計なことしやがって。
 ふたりまとめて死にかけてンじゃねえか、バカみたいに。
 いつもみたいに部屋の隅でじっとしてればよかったんだ。そうすれば痛い思いなんかせずにすんだのに。優しくされたわけでもないのに。
 俺のことなんかほうっておけばいいのに、なんで。どうして――。
「っくそ……!」
 息が切れる。思考がばらける。体中から力が抜ける。霞んだ視界に映り込む女の影へどうしても視線を定められない。一瞬でもいいから目が見えるなら。
 ――畜生。
「ひッさしぶりに、たのしかったぜェ! 兄サン! ありがとよォ!」
 女の声がする。近づいている。発砲は止んでいた。留めは自分で刺すつもりか。子どもの身体を抱く腕に力を込めた。生きててくれ。頼む。頼むから――。
「オレと遊んでくれた礼に、ふたりまとめて殺してやンよォ!」
 ――サキ、ごめんな。都合のいいおねがいだ。
 この子を守ってくれ。

 視界が消えた。
 黒く、真っ暗に、何も見えなくなったから、死んだのかと、そう思った。

 けれど、
「――姐さんッ!!」
 今までにない切迫した男の声を、衝撃と震動が飲み込んだ。感覚はいまも弱りきって痛む身体と繋がっている。心臓も動いて、両腕はとっさに子どもを抱えなおしていた。
 暗く陰っていた視界が晴れる。
 否、視界を覆い尽くしていたものが、一点に集中していく。はっきりとは見えないが、脳裏にはその様子を鮮明に思い描けた。知っている。俺は、これを。
 こいつを、よく、知っている。
 地祇とおなじく始祖天祇の血統、天羅血族の形態変化――その異能で黒い靄状に気化していた身体がつくりなおされ、元に返る。立って並んでも見上げるほどの体躯。革靴の足元から、スーツの背、頭の先まで徹底した黒尽くめの風体で、俺たちと女のあいだに立ちはだかっているはずだ。
 その眸はだれより赤く、鮮やかで、そして昏い。
 唇の隙間に牙を覗かせながら、重く、沈鬱な息を吐くのは、同族最強――。

 万禍識。

「――ああ、死にたい」










漆黒のフェアリー、満を持して。


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Comments

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美沙 : URL

2013.03.20 Wed 01:02

襲撃側のクレイジーぶりの描写の巧さと生太刀のいっぱいいっぱいぶりの対比が緊張感をかきたて、息を詰めて読みました。鉄サビっぽくて血っぽくて非常にまずそうで痛そうで良かったです(・∀・)

よろづまがしき(もしかして初めて)カッコイイ・・・!
がんばれたろう!

我が君 : URL

2013.03.20 Wed 07:22

ゴウダきたぁ!!そして、セリフが…ネガティブww
ゴウダがいつもと違う感じで良い!!ダルそうかつ、やる気あるのか、無いのかww
とにかく頑張ってゴウダ!!!

たぬ : URL

2013.03.20 Wed 08:15

うわあああああ(*ノД`*)
すごいスピード感と緊迫感でドキドキした!!
身を挺して血みどろとか何もうおいし過ぎるでしょ、朔ちゃん。

前回中盤位で予感はしてたけどまさかのフェアリー…
あんなに命がけギリギリの攻防の果て耐え忍んで待っていたのがフェアリー…
アキちゃんのピンチを(なんだかんだあったけど)最終的に救ったのもフェアリー…
次回は多分総取りなラストフェアリー…
もってかれヒーローの名は伊達じゃないね☆

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.20 Wed 22:08

美沙さま
>鉄サビっぽくて血っぽくて非常にまずそうで痛そうで良かったです(・∀・)
ぅおおおお……っ! ありがとうございます! ヒーローのピンチ回を、息を詰めて読んでいただけたとか、もう……光栄すぎて嬉しすぎますっ(/∀\*)
襲撃者チーム、初期は名前もセリフも対してないモブだったのですけど、名前つけて良かったなあと思います!
>がんばれたろう!
がんばれ! 可愛い担当、妖精、フェアリーのイメージがすっかり定着してしまいましたが、ゴウダ、やれば出来る子です! ヒーローなのでカッコイイのです! あと下の名前ネタを覚えていただけててこれもまたすごく嬉しいです(*pωq*)ホァアアア///


我が君
「――今です! 今が出時です! 持っている技能は出し惜しまず効果的に使って印象的に出ていく時です!」って、あの方からゴーサインが出たみたいヾ(´∀`*)ノwww お待たせしましたゴウダ推参!
「死にたい」はゴウダの決め台詞だからねー、 最近すっかり可愛い妖精さんになってるけど、基本ネガティブだから!w テンションが低いのは次の回でチョロッと言ってるけど、ゴウダいまものすごく嫌々出てきてて、なんでこんな状況のなか呼びだすんだあいつめ……ッ!て、なってるからw でもゴウダはやれば出来る子だよーうщ(゚▽゚щ)☆
この過去時間編は、今回ラストシーンのために書いたと言っても過言ではないからね! イクヤさんの過去時間編なのにwww


たぬさま
スタンディングオベーションまで、ありがとう! 楽しんでくれたみたいで良かった! これからも景観を損なわない程度にがんばるね!(笑)
>すごいスピード感と緊迫感でドキドキした!!
これめっちゃ嬉しい(〃艸〃)
>ラストフェアリー
なんかラストサムライみたいになってて声出して笑ったwwwww うん、イクヤさんフェアリー待ちだったよ! イクヤさんの過去回なのにフェアリーが総取りだよ! Wヒーローだからね、公平にね!w

ミズマ。 : URL

2013.03.21 Thu 00:15

>「――ああ、死にたい」

爆笑と共に訪れるこの安心感はなんなんだろう!!!www
よくきたゴウダくん! お茶とケーキを食べてゆっくりしていけ!←
まだアキちゃんの存在知らないから、余裕たっぷりで満を持して登場というわけだよね、たぶん。そして久し振りに純粋にネガティブなゴウダくん! 久々! いつもはアキちゃん関連でそわそわしてるもんね!

焦燥感と哄笑と叩き付けるような感情とか、いいなぁ。こーゆう感情の昂ぶりのある話、書きたいなぁ。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.22 Fri 22:19

お姉さま
出ずっぱりのイクヤさんよりもたのもしいゴウダです! 今のゴウダならアキちゃんに一大事なんて知ったら矢も楯もたまらず飛んできますよ! 突っ込んできますよ!
ゴウダってそういえばネガティブなやつだったなあ忘れてたけどげふげふ、な、なんてことはないんですからね!← ゴウダがアキちゃん相手にそわそわして妖精ぶりに磨きをかけるのは、これからもーちょっとあとです。

>焦燥感と哄笑と叩き付けるような感情
感じとっていただけたなら、嬉しいですー(*pωq*)

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