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2013.03.22 Fri 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その14

歌さまのお題サイト50題に挑戦、「雨の日に猫を拾った話」は予定通り15回で完結です。内容的には一回分なんだけれど、長くなったので、ふたつに分けるよ!

ちなみに卯月さんいま風邪ひきで、日ごろ甘やかしている腹筋にくるくらいにはゲホゲホ(´Д`).∴なんですけども! 卯月寝てろよと! 何してんだよと! 自分で言ってれば世話ないです(`-д-;)ゞ









   ***



 薬品臭い個室のベッドに文字通り縛り付けられていたのは、俺の感覚だと三日ほどのはずだが、実際には二週間近く入院していたらしい。
 気絶したまま運び込まれ、手術を受けたあと、胃に直接血液を流し込まれて何度か半狂乱で暴れたと聞かされても、今回はきれいさっぱり憶えていなかった。
「まあ、毎度のことやし、慣れてんけど……おかげさんでこっちは警備にいてた若い子らが次々ふっ飛ばされるわ、暴れよるからあんたの傷の治りも遅て、おんなじとこ何遍も縫わなならんわ……どないかならんか?」
「ごめんってば、先生」
 行儀悪くベッドの端に腰かけた俺の脈をとったり、目の様子を看ながら、カネダ先生は嘆息する。普段は自分の診療所にいる人だ。それが、天羅出資のこの総合病院にまでわざわざ出向いてくれている。
 サキが死んでから、天羅の屋敷を出てあちこちふらふらしていたけれど、そのあいだにも何度か、血に飢えて倒れることがあった。そのたびに「都合よく」天羅の誰かに拾われて、無理に血を飲まされて暴れるのは、先生が言うとおり「毎度のこと」だ。
 渇いた身体が血に狂って、というのが半分。
 サキ以外のだれかの血なんか摂りたくない、のが、もう半分。
 だが今回は完全に自分の意思じゃなくて、死にかけで血に狂ってのことだからまったく身に覚えがない。それなのに意識が戻ってみれば、目は覚めているのに視力がない状態でベッドに拘束されていた俺の気持ちも、すこしくらい慮ってほしいところだ。状況はなんとなく理解できたものの、さすがに俺も邪視の異能使いらしく、視神経を麻痺させていた薬が抜けるまでのあいだ精神的にけっこう堪えた。
「前後不覚でサンジェルマンの異能なんぞ使われたら敵わん。嫌や言うなら、暴れんとおとなししとき」
「はぁーい」
 鼻先から当てられたペンライトの光に顔をしかめていると、カネダ先生はまたひとつため息を吐いて、ライトを白衣のポケットにしまった。
「目ェもちゃんと見えるようなってんな。傷もおおかた塞がってる。けど、しばらくムチャなことしたらアカンよ」
「ん」
「返事」
「はぁーい」
「顔の傷が消えてしまったのが残念やなあ。灸(やいと)代わりにちょうどええと思たのに」
「先生の腕がいいせいだろ、それはさあ」
「おおべっか言うてもアカンよ」
 先生はベッドのテーブルに置いていたカルテに何か書きつけると、それを持ってきびすを返した。
「退院おめでとおさん。うちにも今、泊まりの患者がいてるよってな。早よ帰らせてもらうから先言うとくわ。くれぐれも養生しや」
「うん」
「具合が悪なったら、遠慮せんとうちおいで。――ほなな」
 ええ子にしてるんやで、と念を押して、先生は病室を出ていった。
 閉じたドアの向こうから院内放送が聞こえる。ひとの気配はたしかに多い、けれどそれも遠くて静かだ。すこしのあいだぼうっとドアを眺め、それにも飽きて、背筋を伸ばす。あちこちの骨がバキバキ鳴った。
 病人服から備え付けのクロゼットに用意されていた無難な服に着替え、そういえば私物なんかろくにないんだと、二週間前の立ち回りで壊れたらしいひしゃげた携帯電話と財布を見ていると、ふいに廊下を近づいてくる足音が耳についた。歩幅の大きいのと小さいの。体重の重いのと軽いの。
 振り向いたタイミングで病室のドアが開き、足音の主が姿を見せる。
「……もういいのか」
 先生は、と室内を見まわしながら口を開いたのはゴウダだった。いつもどおりの黒服で、陰気な雰囲気がまとわりついているのもあいかわらずだが、くわえて今日はやたらに疲弊しているようだ。むりもないか。
 こいつも、俺も、子守りなんて柄じゃない。
「先生ならいま帰ったぜ。入れ違いだったな。――面倒頼んで悪かった」
「いや、べつに……手のかからない、おとなしい子だ」
 そう言ったゴウダと、俺のちょうど真ん中ほどに立って、地祇の目をした混血の子どもは首を左右にかしげるようにしながら、俺たちの顔を見比べる。こちらもあいかわらず子どもらしい表情ひとつなく、けれど、まえほどには警戒しているようでもなくなった。興味深げに様子を見ている子猫みたいだ、と思う。
 俺が正気付いて、目も見えるようになった時には、この子もおなじ病室にいて、壁際のソファで丸くなって眠っていた。垢の浮いた身体は風呂できれいに洗われ、服も、着たきりだった俺のシャツじゃなくてちゃんとした子供服を着せてもらって、カネダ先生が言うには天羅の本邸へ連れて行こうともしたらしいが、それだけはひどく嫌がったから、仕方なく寝泊りさせていたらしい。
 べつに、俺が目を覚ましたって、この子は何をするのでも言うのでもなく、そばに寄って来るでもなく、おとなしくソファに座ったまま、俺が見ているテレビをいっしょに見ていただけだけど。
 たまに話しかけてみると、うなずくくらいはするようになった。
 そんなふうに、おおむね聞き分けの良い手間いらずの子どもだったが、その長い髪だけは俺の手に負えなくて、退院のしたくをするあいだ、ゴウダに頼んで散髪に行かせたところだ。ほうっておくと食事をしながら自分の髪まで巻き込んで食べてしまったり、髪が皿に入ってベタベタになったりして大変だし、かといって結ぶには長すぎて、とにかく扱いづらい。
 肩よりすこし長い程度なら、そのままでも口に入ったりしないだろうし、結ぶのも簡単そうだ――背丈に差がありすぎるせいで、ほとんど顔を仰向かせて俺とゴウダを交互に見ている子どもへ視線を返していると、ゴウダが言った。
「本当に連れて行くのか、おまえが」
 正気なのかと言外に質されている気がした。たぶん勘違いじゃない。
 だから苦笑して肩をすくめる。
「しょうがねえだろ、拾っちまったんだから。すこしくらい面倒見るさ。どうせすぐ、俺なんかより居心地いいとこ見つけて出てくだろ」
「……親父様は、本邸で待っている、と。言っていた。行くなら、はやくしろ」
 ゴウダはそれだけ言い置くと、さっさと廊下へ出ていった。遠ざかる足音に鼻を鳴らす。愛想のないやつだ。それでも、総領天羅に面会の段取りをつけてくれたのは感謝する。
 まあ、あの人は、俺が突然ふらっと帰っても、驚いたり、邪見にはしないだろうけど。
 総領にとっての十数年がどれほどの感覚なのかわからないが、俺にとっては敷居を跨ぎづらい要因のひとつになる程度の時間だ。ほかにも色々、そんなことよりもっと、ずいぶんな面倒をかけてもいる。そのうえさらに、もうひとつ――だ。
 俺が黙り込んでいても、子どもは退屈がりもせずその場で待っていた。こちらをじっと見て。目じりの吊った、猫みたいな大きな目をまばたかせながら。
 俺も子守りなんて柄じゃないんだけどな、本当。
「あー……えっと、髪。切らせて悪いな。せっかく長くしてたのにな。嫌じゃないか?」
 子どもはこっくりうなずいた。嫌じゃない、ということでいいのか。
「まあ、そのくらいのほうが清潔そうだし、な……うん。ほかに何か、こうされて嫌だとかあったら、ちゃんと言えよ。嫌なことは。わかんねェからな」
 さっきとおなじようにしゃべった、はずだが、しかし一瞬子どもが竦んだように見え、しまった、と心のなかで舌打ちする。凄んだつもりはないし、一体なにがひっかかったのかもわからないが、俺の何気ない口調は、どうやらこの子には怖く聞こえることがあるらしい、というのに気付いたのは昨日だ。
 一拍遅れでうなずかれても、なんだか無理にそうさせているようで居心地が悪い。
 だから気をつけよう――と、思ったものの、そもそもこっちは普通にしゃべっているだけだ。ふとするとすぐ忘れてしまう。子どもが怖がらないしゃべり方ってどんなだ。俺がガキの頃世話係だったメイドのリリコとか、サキとか、ついでにユージンの顔まで思い出してげっそりした。あれか。










なんだろう、この、付き合いたての初々しいカップルみたいなイクヤさんの態度w


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.03.23 Sat 22:36

おー! 宣言通りに15回! さすが!
ってか、風邪は大丈夫なの?

>そのたびに「都合よく」天羅の誰かに拾われて
この辺がおやっさんから愛されている所以だと思うのだけど、本人は「手ごまとして見張りを置いているだけ」と思っているんだろーなぁ。本気で手ごまとしか思っていないのだった、もっとドライな対応しかしないと思うよ、おやっさん。
おやっさんは実にドライで現実的で総領としての判断が下せる鉄の男だと思うけれど、だからって心が泣いていないと思うなよ、という方、だよね?

カネダ先生のとこにきてる泊りの患者さんはリサさんってことでイイのよねー♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ
リサさんとラブラブになる前のカネダ先生、貴重だわぁ。まだイジる隙のないカネダ先生、ステキだわー。老練だわー。

そしてアキちゃんを挟んでぎこちない雰囲気の男二人www
久々の再会がコレなのよねw そりゃぎこちないよねw 次にゴウダがイクヤさんと逢うときには、おねえ口調のイクヤさんになってるってことか……。ビビるだろーなぁ。

そしてイクヤさんに対してどうも違和感があると思ったらこれか。口調か! アキちゃんに対するときの口調が柔らかくないから違和感だったのかー、と納得。

初々しい二人、じゃなくてイクヤさんか、が、かわいいですキャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.24 Sun 21:31

お姉さま
風邪は回復に向かっておりますー、喉が痛すぎて息するのもつらいレベルは過ぎました、ありがとうございますヾ(・∀・)ノ

>だからって心が泣いていないと思うなよ
おやっさんはそんな感じですね、まさに!(/□≦、) 個人的には子ども好きのおじさんなので、イクヤさんやゴウダのことも、もっと打算なく可愛がりたいっていうのが本音なのだと思います。でも総領だからそんなことはできない、葛藤、みたいな。おっとうさまはあんな緩そうな感じでも、息子に対してガッツリ総領としての生き方を叩き込んでたんだなあ。イクヤさんも、この話以降アキちゃんを養育していく過程で、親心めいたものも理解していくと思うので、いまの小話時間軸だとおやっさんの気持ちも察せられるようになっているはずです。

>カネダ先生のとこにきてる泊りの患者さんはリサさん
そうでーす、まだ全然ラブラブでもなんでもなく医者と患者・天羅の血族とウピルの血族っていうだけの、よそよそしいふたりーヾ(´∀`*)ノ これからなんやかんやあってあのラッブラブ状態になりますv

イクヤさんの違和感、感じ取っていただけてうれしいです! そうです! 口調がちがっていたのです!(力強く) イクヤさんの素の口調はそんなにやわらかい感じじゃないので、カヤ兄やサーシャお兄ちゃんのマイルド口調に慣れてたアキちゃんにはちょっと恐い印象だった、から、考えた末にあのオネエ口調になった、っていう。
イクヤさんのほうがアキちゃんに合わせちゃったので、アキちゃんはいまだに男性らしい口調が苦手で、なのでカイさんのしゃべり方もじつはちょっと苦手だったりします。たぶんヒロくんのしゃべり方もたまに恐くてびっくりしてそう。カイさんもヒロくんももう慣れた相手なので大丈夫ですけど、初対面で強い口調でこられると反射的にうっと身構えてしまうのがアキちゃん。

そういえば、イクヤさん、アキちゃんに対してもよそよそしいけど、ゴウダに対してもぎこちなかった……w なんだろうこの微妙な空気w イクヤさんはゴウダに対しては素のままですけど、アキちゃんに喋りかけてる様子を見たゴウダが「!?!?!?」ってなりそうですねーw でもイクヤさんから言わせれば「つーかお前が子守りしてるほうがビビるわ。あとなんでうちの子にまで敬語?」みたいですw

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