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2013.03.22 Fri 闇の眷族、みたいな――埋没する世界の中で。 その15

歌さまのお題サイト50題に挑戦、「雨の日に猫を拾った話」完結の15回目。









 気は進まないが、やむおえない。
「えっと、あー、ごめんね? べつに、怒ってないのよ。怒ってないからね」
 語尾を女言葉に似せて、屈みこんで目線も近づけてやると、子どもが無表情ながらに安堵する気配が伝わってきて複雑な気持ちだった。俺ずっとこんなことしなくちゃならないのか。面倒だし恥ずかしい。今さら怯えられるよりはマシだけど。
(本当に連れて行くのか、おまえが)
 じゃあてめえが面倒見てくれんのかよ、無理だろうが。俺だってこんなだけど。しかたないだろ。拾ったんだし、守ると決めた。
 この子がしあわせになれるように、何とかしてやりたくなったんだから。
「それじゃあね、俺、今日で退院だから。こことはべつのとこに行くよ。怖いところじゃないからね、いっしょにおいで。大きなお屋敷で、お菓子も食べられるぞ」
 まずは総領天羅に頼んで、地祇がこの子に対して下している殺害命令をどうにかしてもらわなければならない。じゃなきゃ延々とこの子個人が狙われる。総領地祇の蛇みたいな執念深さは有名だ。地祇と縁切りさせて、天羅の庇護下に置いてもらえれば万々歳。混血である以上は血(しょくじ)も必要になる。天羅にそのあたりの諸々を面倒見てもらえれば、とりあえず、普通に暮らす分には安心だろう。生太刀(おれ)がおとなしく戻って、言うことを聞けば、この子が多少厄介でも、あの人はどうにかしてくれるはずだ。
 生太刀なんて存在は爆弾とおなじで、そのくせ俺は弱ってて、ハリボテみたいになっているけど。この子ひとりの生活をあがなう程度の利用価値は、まだあるだろう。そう思いたい。
「お屋敷についたら、偉い人に会うからね。できれば、ちゃんとお返事して。はい、とか、そんなのでいいからね。あと、名前は――」
 なんだ?
「きいてなかったね。教えてくれる?」
 というよりも、そもそも喋れるんだろうか。この子。不安になりつつ、顔には出さないように努めて待っていると、子どもはこくこくうなずき。
「あ――」
 言いかけて、口を噤んだ。
 やわらかそうな唇をきゅっと引き結んで、無表情のままでもそれとわかるほどはっきり困惑の色を浮かべている。眉間が寄って、眉がちょっとだけハの字になった。話せるし、名前も憶えているけれど、言っていいのか迷っているようだ。
 事情があるのは最初からわかってる。
「言いたくないなら、いいよ。無理しなくても。大丈夫よ」
 そう言ってやると子どもはますます困ったようで、俺の顔と自分の足元に視線をさまよわせた。俺の機嫌を気にしているんだろうか。本当に、気にしてないんだけど。それよりも、慣れてくるとこんな子どもでもいろいろ考えているらしいとわかって面白い。
 おろおろしていた子どもが、急にこちらをじっと見て、小首をかしげた。
 どうやら俺は笑っているらしい。
「でも、名前は、そうだな、ないと不便だし……あ、ではじまるなら、あ、あ――アキ」
 アキちゃんにしよう。
 そう言っても当の子どもはよく意味がわからないらしく、まだ首をかしげていた。何度かまばたきしてから、ゆっくり、首を立て直す。
「……アキ?」
「そう。俺といっしょにいるあいだは、名前は、アキちゃんね。嫌ならほかに考える」
 とはいえ、とっさに思いつかないけれど。
 内心冷や冷やしていると、切ったばかりの髪を揺らして子どもはふるふる首を振った。名前はアキちゃんでいいようだ。ぱちぱちしばたく目がなんとなく嬉しそうに見えるのは、さすがに調子にのりすぎか。でも、思い切って頭を撫でてみれば、嫌がりもせずに目を細くするから、それほどはずしていないと思いたい。
「名前を訊かれたときには、それで、お返事してね?」
「はい」
「良い子ね、ちゃんとできるね。それから――」
 と、何気なく口にしかけて言いよどむ。
 これじゃさっきのこの子と一緒だ。アキちゃんは不思議そうに、けれどやっぱりおとなしく言葉の続きを待っていた。
 その目に映る自分に向けて、苦笑する。
(――名前も親も。あってもなくても、いなくても。いいでしょう?)
(あたしがいれば、いいでしょう?)
 だから、サキがいないならもう二度と、だれにも呼ばれなくていいと思っていた。俺には親からもらった名前はない。あの呼び名だって、だれかが生太刀を聞き間違えたんだか言い間違えたのがきっかけでついた、あだ名みたいなものだ。
 サキが呼んでくれるから、あれは俺の名前だった。
 サキがいないなら、もう、いらないんだと思っていたのに。
「……それから、俺の名前はね、イクヤっていうんだ」
 ずいぶんひさしぶりに口にして、耳にする響きは、けれど馴染み深いまますんなりと胸に落ちてきた。いらないと思っていたけど。愛されて、名付けられたわけじゃないけど。
(ねえ――)
「……イクヤ?」
 たどたどしい呼び声でも、その名前なら、すぐにわかる。俺のことだと。
 俺が呼ばれているのだと。
 いつのまにかうつむけていた顔を上げると、すぐにアキちゃんと目があった。
 表情なんかほとんどないはずなのに、心配そうで、不安そうで、俺が笑えば、それだけで安心してくれる。頭を撫でれば嬉しそうだ。もっとはやくこうしてやれば良かった。俺は馬鹿だから、なかなか気づかなくてごめんな。
 でも、もう、大丈夫。
「そうよ――俺がイクヤで、きみは、アキちゃんね」
「はい」



埋没する世界の中で




 俺の名前を呼んでくれる、きみに出逢えた。










というわけで、うちのヒーローの最ダメ期、雨の日に猫を拾った話、でした。長かったー!(*ノД`)ノ

このあと、イクヤさんは「なのよね」口調がすっかり板について恥ずかしくもなんともなくなってむしろ女子供に対しては積極的にマイルドに話しかけるようになるわけですが。女言葉みたいだけどしゃべり方自体は女々しくないから、それほどオネェっぽくはないんだよ!

この話の後にイクアキの過去時間小話を読むと、イクヤさんのデレが楽しめます。ツンデレ気取りめ。

アキちゃんはカヤ兄とかサーシャお兄ちゃんを呼び捨てで呼んでいたので、はじめはイクヤさんも呼び捨て。「さん」付けを覚えたのはすこし後。さらにゴウダに本格的になつきはじめるのはアキちゃんが夜会に迷い込む小話の後なんだけれど、あの時点でゴウダはたぶんもう何回もイクヤさんに頼まれたんだかなんだかでアキちゃんの子守りをしててすっかり保護対象だと思ってるんだよなあ。恋愛感情に切り替わったきっかけはなんなのかなあ。まあ、いまもって無自覚なんだけれども。ってか、ゴウダが妖精さんすぎて違和感ないけど、冷静に考えると犯罪だよなあ歳の差的に、とか、思わなくもない(笑)

ちなみに、まえにお姉さまがコメントでくださっていた「アキちゃんが通常の小話時間軸で地祇に狙われてなさそうなのは天羅と地祇の間でなんらかの取引があったからなのかな?」については、まさしくそのとおりなのであります<(_ _*)> アキちゃんが夜会に迷い込む話のラストで、アル兄がイクヤさんに言ってた「赤の他人のこどものために、天羅総領と取引か? らしくもないな」は、ここにかかるセリフで伏線、という感じ。あとは小話4でイクヤさんを迎えにきたキリヤマさんが「御館様からのご伝言です」って言ってた内容が、取引の概要、になっていたりします。

小話1と2は、なんか面白い夢みたぞー!の勢いだけで書いたから、あんまり後先考えてなかったんだけども、3以降は続き物にするつもりでちゃんと考えてるみたいだよ! 卯月! 考えずに書いてる部分もあるけど!←

イクヤさんは、周りのひと(とくに同族)から名前で呼ばれることがあんまりないの、いやそもそも生まれた時につけてもらった名前自体存在しないの、じつは気にしているんだよー、とか。本人自覚なさそうだけど、たぶんカネダ先生のこと好きだよねー、とか。

漆黒のフェアリーは強い強いと言われていますが実際ありえないレベルで強いんですよー、とか。

アキちゃんはここからの数年間で急激に成長してるねー、情緒面はもうひと押しだねー、とか。

けっこう初期の頃から書きたかった過去時間編なので個人的には書いててすごく楽しかったわけです。でもこれでしばらくシリアスなのはいいかな! 甘々でイチャラブ書きたいな! ってことでカヤ兄とシャオティエンの新婚生活編のつづき書こう! イチャラブさせたい! あとは本編の伏線もガシガシ張って行こう! 



でもその前に寝よう、卯月寝よう!ヾ(´∀`*)ノ←風邪ひき


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Comments

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我が君 : URL

2013.03.22 Fri 18:36

風邪引きなのに、ご苦労様でした。楽しく読ませて貰ったよ!何だかイクアキだけど、ゴウダも幸せにしてあげて!!(。´Д⊂)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.22 Fri 22:54

我が君
メールもありがとぉおおおうっ(/∀\*) 頑張れ子育て編、書きたい、すごく書きたい……!
>ゴウダも幸せにしてあげて!!
だよね、そろそろ本格的にゴウダ×アキちゃんでラブッラブなの書きたい! ゴウダが幸せなお話を書きたい!

ミズマ。 : URL

2013.03.23 Sat 23:02

>この子がしあわせになれるように、何とかしてやりたくなったんだから。
イーーーーーークーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんんん!!!キャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー
まさしく主人公覚醒回!! 覚醒ってアレだ、目が覚めるって意味合いで、力の覚醒とかではないよね、うん!

しかし、どうしてそこで思いついた名前が「アキ」だったんだよイクヤさんw 女の子の名前はもっと世の中に数多あるだろうにwww 「サキ」と被るんだよイクヤさんw どんだけwww

>俺の名前を呼んでくれる、きみに出逢えた。
泣きそう……(ρ_;)・・・・ぐすん
ちょっと切ない。ようやく守りたいと思える子に出会えて、それでようやく名前を、サキさんがそう呼んでいた名前を他の誰かに伝えることが出来て、本当によかったよね、イクヤさん。もうアキちゃんが幸せになれれば何もいらない……ぐらいの心境だろうけれどさぁ、あともう一歩なのだよね。そこに自分のことが入ればいいのになぁ、と思います。本当に。

アキちゃん絡みの取引、当たったーヽ( ´ ∇ ` )ノ
色々伏線張りながら書いてらっしゃるのねぇ、朔ちゃん。私は行き当たりばったりだよ!← ってか、欄外に伏線張ることが多いね、ダメだね!


いやー、楽しかったです。最ダメ期。15回、お疲れ様でした。ツンデレ気取りwww

イチャラブも期待!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.03.24 Sun 21:57

お姉さま
更新15回かけてやっとの主人公覚醒ですよ! しかもこれ第一段階ですよ! お姉さまの言うとおり、いまのところ「アキちゃんが幸せになるなら何もいらない」「むしろ俺の今後にしあわせ全部あげていい」って思ってますからね。他の小話なんかでもちょこちょこそんな感じで言ってて、おとしまえ編のラストですらこの決意覆ってませんし前進もしてないですからね。もうひと頑張りなんだよ、イクヤさん……!

でも、イクヤさんが「自分も、アキちゃんも、みんなしあわせになれるように」と思ったら、イクアキ恋愛EDもしくはイクヤさん闇落ち√まっしぐら――な気が、しなくもない! やばいぞゴウダ! がんばれ!(笑)

>女の子の名前はもっと世の中に数多あるだろうにwww
イクヤさん基本的に女の子の名前は右から左で聞いてない・覚えてないっていうサイテーな奴なので、もうとっさに母音の似てるサキさんの名前しか出てこなかったってw たぶんこれ初めの頃は呼ぶたびにサキさん面影が脳裏をかすめたりして完全に自爆だっただろうなあと、思われw でも呼び間違えたことはないので、イクヤさんの胆力は相当です。

いつかイクヤさんが、サキさんの話をアキちゃんに出来るようになれば、イクヤさんももう一歩進めそうなんだけどなあ、と、思いました。いま(今か;

ちなみに伏線に関してはわりと自己満足で張り巡らせてるので、ぶっちゃけ伏線として機能してないのがほとんどですーヾ(´∀`*)ノ← とくに闇の~に限っては「……あれ? これ関係伏線張ってたつもりだけど、じつは本文で書いてなかった? 設定記事にしか書いてない? ぎゃあ(;д;)」という恐るべき事態がちょくちょく発生しており……ゴウダが純々血の血しか飲めない設定を本文で書いてないのに当たり前のようにゴウダんチにユリちゃん非難させてたっていうアレとかホントもうヒィイ(((( ;゚Д゚)))

過去時間編、暗かったり痛かったり主人公がダメ子だったりしておりましたが、お楽しみいただけて良かったですー(*´꒳`*) ありがとうござましたー!

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