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2013.05.04 Sat Novluno Child――恋のような衝撃と哀情。 その2

歌さまのお題サイト50題に挑戦、その2ってことで、ふたたびのゴウダ主観。











 昼休みになると屋上に行った。三人が三人とも、教室には居づらかった。あいつはそうでもなさそうだが、彼女のいないところに興味はないとあからさまな態度だった。
「あー、イクヤってばズルしてる。見て見て、ゴウダくん、女の子に分けてもらうみたいだよ」
 屋上の低いフェンスにもたれて向かいの校舎を見下ろしている彼女が、どこか楽しげに声を弾ませる。購買でいちばん人気のパンを買ってくるよう、あいつに言ったのは彼女だ。昼休みになればすぐ売り切れてしまうものだから、このタイミングではだれかに譲ってもらうしかない。それは彼女もわかっているだろうに。
 もらえたみたい、キスしてあげてる、安い男だねえ――そんな実況のおかげで、状況は見なくてもよくわかった。
「……やきもちを、妬くくらいなら」
「え?」
「ムチャなことを頼まなければ、よかったんだ」
 フェンスに背を向けて座ったまま、弁当の中身を消化する。リリコさんの弁当は、今日はあいつの好きなものが中心だった。昨日は俺の好物がおおかった。おとといとその前はリリコさんが忙しかったから、屋敷の料理長がつくってくれた。美味しかった。
 今日も美味しいはずだ、が、味なんかずいぶん前から感じられなくなっている。
 どうしてだか、わからないけれど。
 彼女がフェンスを離れて、俺のそばにしゃがみこんで、ニヤニヤしながら顔をのぞき込んでくると、余計に。なんの味もしない。なにも。
「あたしがやきもち妬くの? イクヤに? どうしてえ?」
 横目に睨んでも、ふふふっと、楽しそうに笑われただけだった。ふたつに分けて結んだ黒い髪、女子の制服、細い手足。彼女は人間で、俺たちがその気になれば、この腕も脚も、簡単に壊せてしまう。俺たちがそういうモノだと、彼女も気づいている。
 それでなお、ニヤニヤと、不敵そうに、楽しそうに、面白そうに、愉快そうに、笑った。
 教室じゃいつも眼鏡で表情を隠して、俺たち以外とはろくに話もしないで、だから居づらくてこんな場所で時間を潰しているのに。そんなことはまるで気にしていないみたいに。笑って、俺に、手を伸ばす。
「どうせやきもち妬くなら、あたし、ゴウダくんがいいなあ――」
 その指先が、俺の胸を撫でる。
 思わず弁当を取り落としそうになって、あわてた隙に、彼女の顔がごく近くまで迫っていた。息がかかるほど。匂いが触れるほど。
「ていうか、妬かれたいかも。ゴウダくんに、やきもち妬かせてみたいのかも、ね?」
「何、を」
「好きになって。あたしのこと。イクヤから取り上げてみてよ」
 ふふっと、笑う。
 楽しそうに。面白そうに。愉快そうに笑う、その唇の奥に牙は見えない。彼女は人間で、それから、きっともう――だれかの、所有物だ。俺でもない。あいつでもない。
 だれか、の。
「ゴウダくんなら、いいよ。あたし、何されても平気だし、わりと何でもできるし、だから好きにしていいよ」
「……冗談、なら、やめろ」
「どうして?」
「あいつが、帰ってくる」
「気にしないよ」
「あんたは、」
「なあに?」
 俺の両肩に手を置いて、すぐ隣で膝立ちになって、見下ろしてくる彼女がおそろしかった。無性にこわくなった。何も言えず、まばたきもできなくなっている俺を見て、彼女はにんまり口角を上げた。
 その手が制服のスカーフをほどく。
「あたしのさ、この下、どうなってるのか見せてあげるよ。そうしたら、ゴウダくんもさ……べつに、我慢しなくっていいんだって、思うんじゃないかなあ」
 何を?
 我慢していると言うんだ、俺が。何を?
 どうあがいても同族の純血しか口にできない万禍識が、我慢するとかしないとか、そんな話じゃないはずだ。そもそもムダなことなのだから。俺が――。
 彼女の喉を裂きたいと、思うのは。
 その喉を、赤く、赤く――。

 やっと得体のしれない恐怖の正体がわかった。
 輪郭を持って手のなかに落ちてきた。

 だから、余計に、こわくなった。

「――離れろっ!」
 弁当箱がコンクリートのうえに落ちる音がする。突き飛ばした彼女は震えるほど軽かった。尻もちをついてこちらを見ている。あの笑顔はもうなかった。
 きょとん、とまばたく目はずいぶん低い場所にあって、俺は自分が、立ち上がって、逃げるように、後ずさっていたことに気付く。
「冗談はよせと、言った! ふざけるな! あんたは、」
 彼女は、
「あいつが好きなんだろう、俺じゃなく、あいつが! 冗談で、からかうのは、やめてくれ……あんたたちの、その、どろどろしたなかに、俺を、巻き込むな……!」
 その愛を望んでも、俺の手には入らない。
 いつものことだ。わかっている。だから我慢しているわけじゃない。ムダなんだ。はじめから、希望はない。
 それでも、それでも。それでも。
「あたし、ぜんぶ欲しいの」
 彼女が言った。
 あんな貼りつけたような笑顔ではなく、途方に暮れるような、遠くに見えるものが夢なのか現実なのか、わからないまま眺めているような、そんな顔で。
「あたし、イクヤがぜんぶ欲しいの。――だから、」
「あんたはおかしい」
 普通じゃない。きっと狂ってる。壊れているのを必死になって隠している。俺には何もわからないし、何も、知らないけれど。
「そうだねえ、あたし、変だねえ――」
 そんなふうに、へらへら、笑うな。俺のまえで。俺のまえで。
 ――笑うな。
 抱きしめたくなる。そうしたところで手に入らないものを。きっと壊してしまうのに。それでも。だから巻き込まないでほしい。
 そう思っても、彼女と、あいつと、三人でいたいと、思う。から。
 苦しい。
 こんなに苦しいのは嫌なのに。
「……教室に、帰る」
 彼女は引き止めなかった。歩いている途中で内(なか)に通じるドアが開いた。ずいぶんなタイミングだと思った。
 すれ違いざま、あいつは何も言わなかった。目も合わせなかった。俺も。
「サーキぃーさーん、買ってきた買ってきた。俺ちょー頑張ったんだぜ、最後の一個、すごくね?」
「もういらない。イクヤが食べて」
「ええーっ? そんなこと言わないで、俺の苦労に免じて、半分でもいいからさ。――つか、どうしたの? 転んだ?」
「そう」
「スカーフほどけちゃってるけど」
「引っかけたから」
「ふうん」
 鼻を鳴らすあいつは笑っているだろう。彼女もおなじような顔をして、笑っているに決まっている。へらへらと、薄っぺらく、建前にもならない笑顔で。相手が隠そうともしないものに、見えないふりをするための顔で。笑っている。
 錆の浮いた薄い鉄扉を閉めれば、声は聞こえなくなった。
 真面目に掃除されないまま長いあいだ使われている階段は、昼間も暗く、埃っぽく、静かで、昼休みの喧騒はまだ遠く、俺の足音だけがはっきり聞こえる。
 ぐるぐると、ぐるぐると、いろんなものが、体のなかで渦巻いていた。
 だから気持ちが悪くて、苦しくて、吐き気がして、それから――。
 それから――。

 ひどく、悲しい。










そういえばサキさんは眼鏡っ子なんですよ、忘れてたわけじゃなくもないです。うん。なくもない。きっと伊達なんだよ。本当は裸眼でも大丈夫だから。

サキさんが相手だと、ゴウダはとにかくいろいろぶつけまくるんだけども、肝心なものを投げつけるのだけはためらっちゃって、そのうちサキさんはああいう顛末で、やり場がなくなってしまったんだ、みたいな。ゴウダはずっと我慢の子。

だからそろそろ爆発してもいいんじゃないかなって、そんな気はする。そろそろね。

抑圧されない感情的な部分は、じつはゴウダのほうが凶暴で鋭いのかもしれない。イクヤさんのほうが全然やわらかくて臆病なのかもしれない。つねに対比であるふたり。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.05.04 Sat 19:58

サキさんの呪縛、怖えぇぇぇぇ……щ(゚ロ゚щ)
ゴウダくんの爆発も、怖えええええぇぇぇぇぇぇ……щ(゚ロ゚щ)

イクヤさんはぶっ壊れたサキさんに捕まってしまったんだろうか、とか。でも進んで捕まったんだろーなぁ、イクヤさん。そんで一緒に落ちていってあげようと思ったんだろーなぁ、とか。やっぱりイクヤさんって優しいんだなぁ、と再確認してしまったのですよ。

ゴウダくんがああいう風になってったのは、この性格が形成される大事な時に面倒臭い人格(イクヤさんと、特にサキさん……)に捕まっちゃったからなのかなー。もっと単純で簡単な人が側にいれば、思い悩むことはなかったのかも知れないなぁ、とか。ゴウダくんのガス抜きの相手は一体どこにいるのやら、です。
アキちゃん? アキちゃんは欲望を捧げる相手じゃないっスかーw←

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.05.05 Sun 01:04

お姉さま
サキさんはイクヤさんとゴウダにとっては完全に魔性のファム・ファタール。思春期にガッツリ心奪われたので、その呪縛は根強いのです……ふふふ←

イクヤさんと、サキさんと、ゴウダの関係については、この頃お話が進んでいるせいか卯月のなかでだんだん軽々しく言えない心境になってきているので、なんというか上手いお返事ができないんですけど、結局は三人ともぶきっちょでさびしんぼの子どもだった、だけ、ていう。そんな感じです。だれか大人がちょっとだけ手助けしてあげていたら、もうすこし違ってた。かもしれない。

>ゴウダくんがああいう風になってったのは~
お察しのとおり……(`-д-;)ゞ もっと、こう、ぜんぜんブレなくて安定した大黒柱みたいな精神で裏表も屈曲ない前向きなだれかといっしょに育っていたら、性格違ってたんですけども……そう、クルルギさん、クルルギさんと一緒に育ってたらもう全然違うゴウダに(笑)

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