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2013.06.04 Tue Novluno Child――恋のような衝撃と哀情。 その3-7

歌さまのお題サイト50題に挑戦、ひきつづきフェアリー強化月間、配分は予定通り。










   ***



 切羽詰って考えてみれば、解決すべき問題は簡単なことだった。
 彼女の「安全」を確保しなければならない。
 生太刀(あいつ)が俺に彼女を預ける理由そのものが、彼女の安全のためなのだ。自分の目が届かないなら、俺の手元に置いておくのが安全で、安心だと。俺もそうだと思っていた。彼女を何からでも守るつもりだった。危険から守れると思っていた。――それが。
 結局、あのざまだ。
 あの日、あいつが来るのがもうすこし遅ければ、俺は彼女を傷つけていた。きっと、取り返しようもなく傷つけていただろう。
 万禍識(おれ)などが、彼女を守れると思っていたのが間違いだ。
 思い上がりで、うぬぼれだった。そもそも彼女が親しく接してくるのも、俺があいつの知り合いだからというだけだ。たまたま、付き合いが長いというだけだ。それ以上の理由はないはずだ。あいつが彼女を拾ってから月日も経った。彼女ももう、所在無くあいつや俺の姿を探すばかりの子どもではなくなった。彼女の居場所はたくさんある。そのなかには、俺のそばなどよりずっと、安全で、安心な場所があるだろう。
 すくなくとも、俺は安心だ。
 この手の届く場所に彼女がいなければ、俺が彼女を傷つけることはない。問題は彼女の安全をいかに確保するか、ならば、これで解決だ。
 どうすればいいか――など、考えてみれば簡単で明快なことだった。
 俺はいったい何を悩んでいたのか。すぐにも導き出せた答えを。いつまでも思い悩んで、いったい、どうしたかったのか。
 彼女のためを思うなら――。
 今ここで、この着信をとらないほうがいい、と、わかっているのに。
『――ゴウダさん!』
 むかし、まだあの女が生きていた頃に使っていた、古い電話番号。この番号を知っているのは、もうあいつと彼女しかいない。だから聞き間違えようもない。彼女の声だった。
 息を切らして、怒鳴るように、こちらの話を最後まできかず、めずらしく強い口調で彼女が言う。
『すぐに行きますっ、だから、待っててください!』
 彼女のためを思うなら――。
 俺は今すぐこの場を立ち去るべきだ。この番号も手放して、互いに手が届かないほどの距離を置くのが一番いい。そうすれば彼女は安全だ。俺に傷つけられることはない。彼女に嫌われようと、避けられようと、憎まれようと、かまいはしない。俺は。
 俺が彼女を傷つけてしまうことが、何よりも恐ろしい。
(ゴウダくんは――)
(あいかわらず優しいねえ)
 買いかぶりだ。ひどい誤解だ。あんたが言うほど俺は優しくなんかない。
 むかしも、今も、優しくなんかなかった。
 だからこうして、彼女がやって来るのを待っている。突き放しもせずされるがまま、彼女に抱きしめられている。ちいさく軽い、華奢な身体は、下手に触れれば壊してしまいそうだから。そんな言い訳を自分に聞かせながら、誤魔化している。
 ――俺は。
「ごめんなさい」
 スーツの背中を鷲掴みにして、しがみつくように額を押し当ててくる彼女の声は、くぐもって、ひどく頼りなく聞こえた。彼女がどれほど力をこめたところで、俺は苦しくないが、彼女自身がつらいのではないかと、心配になる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ゴウダさん……ごめんなさい」
「あ……アキさん、どうしたんです、か……何が……?」
 謝罪を受けるいわれがわからない。謝るべきは、俺じゃないのか。考えていると、かすかに、ずるっと、洟をすするような音が聞こえた。
 途端にわけがわからなくなる。いっそう。ごちゃごちゃと。彼女はどうして。
「あの、あの……な、泣かないでください」
「泣いていません」
 そう言う端からまた洟をすする。彼女が泣くほどの何があったのか。きっと俺のせいだ。そうに違いない。もう死んでしまいたい。彼女が泣き止むならどうなってもいい。
 俺などは、最初からいなければよかった。
 そうすれば彼女を悲しませることもなかったはずだ。生きていたところで、何を得られるでもなく嫌われるだけの、万禍識が。ずるずると死に損なうから、こんなふうになる。彼女だって俺には辟易したはずで、怒っていたはずで、だから距離をとろうとしていたのではなかったのか?
 どうして、俺を抱きしめたまま、はなしてくれない。
「……わたしは、泣いていません、が、」
 ついに語尾をしゃくり上げながら、彼女が言った。
「ゴウダさんは、痛かった、ので」
「え?」
「わたしが、噛みついて、だから……ゴウダさん、怒ってない、ですか」
「え……?」
 俺が? 怒る? どうして? 何を?
 だれを?
「もう、しません、から。わたし、ちゃんと、ちゃんと、良い子にし、ます、から……だから、嫌いにならないで、ください」
 あなたを? 俺が?
 まさかそんなふうに、思うわけもないのに。
 彼女がいったい何をどう勘違いしているのか、まるでわからなかった。理解できない。頭のなかはますますごちゃついて、助けを求めて視線を巡らせても生太刀の姿は見あたらない。こんな時になにをしている。俺よりよほど、なんでも上手くやってのけるくせに。頼むから説明してくれ。
「……あの、アキさん、俺は」
 考える。考えるがやはりさっぱり理解できない。どうして、俺が、彼女を嫌いにならなければならないのか? むしろ。
「あなたが、俺を……嫌っているんだと、思っ、」
「どうしてですかっ」
 背中に回された細い腕にぎゅっと力がこもった。
 おそらく人間なら男でも骨が軋んで痛むほどの力だ。俺にはどうということもないが、それよりも、勢いよく持ち上がった彼女の顔に気圧される。左右で色のちがう瞳は案の定うるんでいた。
 何より、いつもの淡白な表情をどことなくしかめ、眉間にちいさな皺をよせ、怒っているようだった。
「わたしはっ、ゴウダさんをっ、きらいじゃっ、ないっ、ですっ」
「す、すみません……」
「どうしてですかっ」
「どう……して、なのか、は、その……すみません」
「ゴウダさん、ひどい、ですっ……だって、イクヤさんも、ユリちゃんも、カイさんも、好き、だけど……ゴウダさんも、好きなのに」
「あの、」
「ゴウダさんが、好き、なのに――いなくていい、って、言わないで……ください」
 嫌わないで、ごめんなさい、ごめんなさい――。
 彼女もきっといろんな思考がごちゃごちゃになっていて、言動は支離滅裂で、怒っているのかと思えば、唇を噛んで、しゃくり上げながら涙をこぼす。彼女がここまで手放しに、感情をあらわにしているのははじめてだった。あいつの前ではもしかすると、いつもこうしているのかもしれないが。俺にとってははじめてだった。
 俺は――俺が彼女を傷つけてしまうことが、何よりも恐ろしい。
 このままそばにいれば、きっと、いつか取り返しようもなく傷つけてしまうと、思う。俺自身の意思でか、そうでなくとも、万禍識(おれ)のせいで。
 生太刀(あいつ)がサキを守れなかったように。
 そうだとわかっていても――。
(嫌いにならないで、ください)
(いなくていい、って、言わないで)
 愛されず、遠ざけられるのは、いつでも俺のほうだと思っていた。
 だから、懸命に訴える彼女の切実さだけは、よくわかる。痛いほど、よくわかる。
 俺は――。
「アキさん」
 唇を噛んで、声を立てずに、ただ涙を溢れるにまかせている彼女を抱きしめる。そうすると壊してしまうのではないか、と、ずっと思っていた華奢な身体は、けれど思っていたより丈夫で、背中に回された細い腕にたしかな力で抱きかえされた。
 彼女のことを想うなら、俺は、いま、ここで、この手をはなすべきだろう。頭では、わかっていた。彼女の安全を確保する。そのために。
 ――けれど。
「俺は、あなたを……嫌いにはなりません、から。泣かないでください」
「……泣いていません」
 ずるっと洟をすすりながら、負けん気を滲ませて彼女がつぶやく。その声は慕わしく、触れあった身体は純粋な同族のそれよりもあたたかで、香る匂いもあの日とおなじ甘美さだった。だから胸の奥の、どこか、心臓に近い場所にちらちらと、またたくものがある。
 それを自覚すると、もう、手放すことなどできなかった。
 彼女を傷つけてしまうことが、俺は何よりも恐ろしいはずなのに。

 ずっと、得られないものだと思っていた。俺にはむりだと思っていた。だから諦めたはずだった。けれど、どうしても、それが欲しい。どうしても。

(ばかだなあ、おまえ――)

 彼女の、愛を。










漆黒のフェアリーに恋愛感情がログインしました。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.06.04 Tue 00:51

ログイン……ッ!!!!
感想書かずに今日は寝ようと思っていたのに、蹂躙するのは明日にしようと思っていたのに……ッ!!!


>生太刀(あいつ)がサキを守れなかったように。
ゴウダ、おまえ……。おまえこんなところイクヤさんと重ねなくってもいいんだよ、ほんとに。自分は周囲の人を傷つけるとか、不幸にするとか、そういう思考ってもともと持ってたかもだけど(それもそれでアレだけど)、それがより加速したのってサキさんが亡くなったからだったのかよ……。イクヤさんは大事な人を守れなかった。だから自分も大事な人を守れないだろう、とか、そーゆう思考か、おまえェ……。
かわいいっつーか、なんだ、これはイクヤコンプレックスか? イクコンか? イクやさんの「キモッ!?」って声が間違いなく聞こえたんだけど、ゴウダくんよォ……。

> あなたを?
ゴウダくんの「あなた」呼びが好きー♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ

>「どうしてですかっ」
なんとまぁ、アキちゃん無双ではありませんか!
括目して見よ、この破壊力!! 岩をも砕くぜ!←違うかと思ったけどあながち間違ってもいない気がした。
岩のように固いゴウダの心を打ち砕きましたアキちゃん、マジヒロイン。


……と、ここでツイッターより「小話3を要チェックや!」という伝達がきたのでチェックチェック。

……ははぁ、どこかで聞いた声だと思ったアレはイクヤさんの声だったのですね、やっぱり。ここに繋げてきたかぁ。やはりどこまでもイクヤさんついてくるなぁw

ゴウダの思考の中心がイクヤさん、というんじゃなくて、思考の端々を繋げる接着剤みたいな存在がイクヤさんなのかしら、と思いました。
そのうち思考の中心はアキちゃんになるわけだしねーw

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.06.04 Tue 23:42

お姉さま
ありがとうございまーす! ログインしましたよ───。+゚ヽ(○`・v・)人(・v・´●)ノ。+゚───っ!

>イクコン
合コンみたいでなんかイヤですwwwwwもしくは育婚、みたいなのが脳裏をよぎってwwwww
ゴウダ、ちっちゃい頃からイクヤさんになついてて(あれでも)、イクヤさんのことを「すげー!」って思って、憧れていた時期があるので、わりとイクヤさんに基準をゆだねるところがあるし、自分はつねにイクヤさんよりも下で考えがちです。……うん、イクヤコンプレックスですね!(笑)

>ゴウダくんの「あなた」呼び
卯月も好きですー、年下の女の子に「あなた」って呼びかけちゃうゴウダがフェアリーヾ(´∀`*)ノ

>アキちゃん無双
まさかの無双発動でした、アキちゃんw 一週間分のグルグルが炸裂した、みたいな(笑)
女の子の本気は岩をも砕くぜ! 砕くんだぜ! ちなみにアキちゃん全力のハグはゴウダの読み通り人間男性相手なら「ぃいいいい痛い痛い痛いムリ痛い痛い痛いごめんなさいっ」て、泣きが入ります☆

卯月、長いお話になると前に出てきたセリフをけっこう引っ張ってきたりするので、なんとなく覚えてると「あーあの時の、あー」と思ってなんとなく楽しい、かもしれません。なんとなくw←

>思考の端々を繋げる接着剤みたいな存在がイクヤさん
なるほど……!(オイ、 たしかにそんな感じです、うん、そんな感じ。
だからゴウダは早くイクヤさん離れしてアキちゃんにメロメロになればいーのにー!(*´∀`*)w

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