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2013.06.30 Sun Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その4

カイユリ番外、これ10回で決着する、の……? という案の定いつもの不安がよぎってますが、ともかくもまだまだつづきます。つづいております。










「むかしからそう言ってンのァ、あんたもよく知ってンだろォが。耄碌したか」
「いつまでも童(こども)みたいな我儘(こと)をお言いじゃないよ」
 キセルの吸い口を赤い唇に寄せながら、サハルは言う。
「イヤだイヤだとぐずるだけなら赤子(ややこ)にだって出来るのさ。妾(あたし)の差配に文句があるってんなら、まっとうな理屈をもっておいで」
「理屈だァ?」
 低く唸るようにカイが凄む。けれどサハルはわずかにも怯まない。
 異国めいた張りのある肢体に色艶のあぶらがのった女盛りに見える彼女は、カイよりも二百年ほど長く生きていた。百余歳の若造がどれほど険をにじませたところで、サハルは悠然と煙草をくゆらせるばかりだ。カイは鋭く舌打ちする。
 同族がその血を純粋に保とうとすれば、近親婚は避けられない。
 長大な寿命と頑強な肉体、超常の力と引き換えたように生殖力の極端に弱い同族は、かつて、遠いむかしにすでに一度、血にこだわるあまり数を減らして滅びかけている。人間を眷属として迎えることでなんとか持ち直したものの、いまやまじりけない血の同族など全体のほんのひと握りだ。純々血と呼ばれるその血筋を保とうとすれば、近親婚は遅かれ早かれ、避けようがない。
 しかし、血が濃くなり過ぎれば大始祖の同族にも他の生物とおなじように、遺伝的な疾患や障がいが発生する。そのリスクを最小限に抑えるため、純々血の血統はおおむね意図的な婚姻によって管理されていた。血統管理をどのようにするのかは血族ごとに様々だが、天羅血族では「縁談の世話焼きは女のやること」という先代の意向から、総領の伴侶がそれを行っている。
 当代天羅の六人の伴侶のなかで最年長のサハルは、血統管理の総責任者といっていい立場だ。先代の信頼も篤かった彼女の発言力は、天羅古参の血族にすら比肩する。こと縁組みに関して、彼女の決定が覆ることはめったになかった。
「ノスフェラトゥの純々血、それも生娘が、天羅と縁続きの子を産むなら父親(てておや)はアンタがいいと言ってきた。アンタは若くて、健康で、子を生したことはないが見るからに種無しでもなさそうだ。あの娘とはほどよく血も遠い。なにより向こうの家はノスフェラトゥの重鎮だからね。名指しで来られちまッたからには、天羅総領の従弟(アンタ)が出るより他にないのさ」
「てめェらが仲良くやるために、こっちの都合は無視するってワケか」
「天羅血族(うち)に損をさせてまで通せるほど、アンタの都合(それ)は御大層なもんかい」
「バァさんだって、知ってンだろ」
 カイは喉を締め上げられるように錯覚した。それでもどうにか声を絞り出す。脳裏にちらつくものを見たくない。そう思いながら目を伏せた。
「うちが、どォなったか――」
 いまやこの国の血族を二分している天羅と地祇は、元は天祇と呼ばれる始祖だった。
 二世天祇の末子が双子であり、それが先代天羅、当代地祇として、それぞれに総領を名乗ったのだ。千年の寿命をもってしても子どもを得ることの厳しい始祖としては、二世天祇は子宝に恵まれた部類である。天羅、地祇となった末子のうえにも、娘がいた――二世天祇の長子こそが、カイの母親だ。
 その母も、彼女の伴侶となった父も、すでにこの世にない。
 血統主義の権化のごとき母に代わってカイを育ててくれた姉も、若くに死んだ。三人ともろくな死に方をしなかった。その理由は、突き詰めれば血による因果だとカイは思っている。弟は健在だが、その弟もまた血のために不遇をこうむった。
 カイにとって自分の『血』とはそういうものだ。
 大始祖の直系、総領血統、穢れない純々血――同族が何よりありがたがるそれらすべてが、ろくでもないものとしか思えない。叶うなら放り捨てて投げ出したかった。母親が当代地祇と犬猿の仲だったのを幸いに、姉の死とともに地祇血族からはぐれ、天羅の客分におさまってからも、自分の『血』を遺そうなどと思ったことは一度もない。
 漠然とした忌避感がある。
 拭いがたいほどの不快さと、不安と、ないまぜになった感情をひと言で言いあらわすなら、おそらく恐怖だ。
「俺ァ、ガキなんざつくる気はねェンだ。――わかってくれ。頼む」
 血を吐くようなその声に、サハルは三服めの煙を細く吐き出し、ゆるりと瞬いた。
「ユズリハの家は不幸だったからね……アンタの気持ちも、わからなくないさ」
 だが――キセルの雁首が灰吹きの縁を叩く音に、カイは顔を上げる。
 その薄い氷色の目を、サハルの青い目が真っ向から見据えていた。眼光は鋭く強い。情け容赦など滲むすきもなく。
「アンタの言う都合は、やっぱりただの我儘だ」
「ンだとっ、」
「自分にだけ事情があると、まさか本気で思ってんのかい? 事情なんかはだれにでもある、不幸なんてのは世の中にごろごろしてる、一遍もつまずかないで生きてる奴なんざいやしないんだ。それでも皆、己が成すべき時にはきちっとやるべきことをやってんのさ。なのにアンタ一人がそれを免れると思ってんじゃないだろうね。たとえ客分だろうと、預かると言ったからにはアンタは天羅(うち)の血族で、総領の血筋だ――アンタにゃ身内の務めがある。違うかい」
「俺の話を聞いてくれる気はねェってこったな」
「そんなに嫌ならはぐれちまいな」
 新しい煙草を詰め直し、火を入れるサハルに向かって、カイは失笑した。
「脅してるつもりか、それで。見くびッてくれンな」
「当たり前のことを言っただけさ。血族の意向を承知できないってんなら、出て行けばいい。好きにしたけりゃはぐれればいい。そうだろう?」
 血族からはぐれるということは、総領の庇護を失うことを意味する。同族にとっては死活問題だ。それを軽々と言ってのけるサハルは、今でこそ服属したが、かつてはアル・シャイターンのはぐれ者だった。先代天羅を慕うあまり、当時は血統主義だったアル・シャイターンの血族からはぐれ、身一つで嫁いできた。その騒ぎのなかで親兄弟さえ焼き殺したとまで言われる烈女だ。だからこそ先代の信頼は篤く、当代天羅の後見として第一の伴侶にもなった。
 その言い分は極端だが、手段のひとつにはちがいない。カイは口の端に引き裂けそうな笑みを貼りつけた。
「……おっさんに、世話ンなったって伝えとけ」
「わかったよ」
 サハルはそっけなく返事をし、吸い口をはなしてひと息吐き出す。カイはそれを見もせず背を向けた。
 その背中に――。
「ああ、そうだ」
 思い出したと言わんばかりにサハルが言う。
「アムリタのことは、ちゃんとだれかに引き継いでいっておくれ。旦那様の世話になったと思ってるなら、最後にそのくらいはしてくれたって、罰は当たんないだろう?」
「――あ?」










なんでカイさんとサハルさんこんなに喧嘩腰なんだろうって思うんだけど……カイさんチの事情については、こちらを読んでいただければ、カイさんがどうしてこんなにイヤがってるのかわかっていただけるのではないかと! 思います! 

しかし、本当に卯月この番外書いてて大丈夫なのかしらとか本当ドキドキする……ば、番外は番外なので、お姉さまのカイユリ本編に支障をきたす内容はザックリなかったことにしていただいていいんだからね! ね!


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.07.01 Mon 00:31

いやー、なんかドキドキする!
いろんな意味で、どきどきするね!

展開如何では、こう、方向転換も辞さない構えですよ、こっちとしては!
楽しみ!

サハル姐さん、いい女!
カイさんはなー、やっぱちょっと考えが甘いというかツメが甘いというか、やっぱりボンボンなんだよなー(^_^;) 

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.03 Wed 21:13

お姉さま
>展開如何では、こう、方向転換も辞さない構え
お姉さまああああああああああ、それは、それは無しの方向でええええええええっ;;;
なんてお前好き放題書いてて何言ってんだ、っていう……す、すみませぬ|ω・`);;;

>サハルさん
美女にあだっぽい着流しと煙管の組み合わせは最強だな! って!←

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