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2013.06.30 Sun Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その5

カイユリ番外はつづく、つづくー。










 不意打ちを喰らったように、一瞬、意味が分からないという顔で振り向いたカイに、サハルはキセルの吸い口を唇にあてて微笑んだ。その笑みがカイを意識によらず不愉快にさせる。サハルは大きな猫科の獣のようで、それも、獲物を弄びながら狩るたちの悪さをにじませていた。
「アンタほどの腕を手放すのは惜しいけど、アムリタの料理人がほかにいないってわけじゃなし。あとの人選は任せるからよろしくやっとくれ。あの子らの世話を一日だっておろそかにゃ出来ないからねえ――なにせ大切な、天羅のアムリタだ」
「てめぇ……ッ」
 氷色の瞳の底に真紅の色がひらめいた。
 唸る唇のあいまに牙を剥き、全身から怒気をほとばしらせ、滲み出す力場で部屋全体を軋ませながらカイはサハルを睨めつける。きつく握った拳があまりの力に痙攣して震えた。目の前の女に飛びかかりたい衝動を堪えさせたのは、業腹にもサハルの言葉によって脳裏に思い浮かんだ少女の姿だ。
「あいつを俺の首輪にでもしてるつもりか、生太刀にやったみてェに。――ふざけンな!」
「人聞きの悪いことをお言いじゃないよ」
 飄々としらを切って見せるサハルに、カイは砕けるほどきつく奥歯を噛む。頭のなかをさまざまなものがめぐっていた。感情だとか思い出だとか、声だとか姿だとか。まとわりついて圧し掛かる。すぐにでも出て行ってやろうと思っていたはずの足が動かなくなるほど重く。腹の底で怒りがふつふつと温度を上げて高まっていく。
「まあ、まあ、二人とも――」
 張り詰めた緊張のなかに、やわらかく、手を叩く音が二度ほどに響いた。
「こわい顔をしているわ。ちょっと、おちつきましょう?」
 場違いにのどかな声の出どころは、窓際のソファから。
 そちらの一画はサハルのいる座敷とちがい、洋館造りの内装と一致したアンティークの調度で整えられている。猫足のソファに腰かけているのは、姿だけならサハルやカイよりもやや年上に見える女だった。
 ふわふわと広がる白っぽい金髪に縁どられながら、和やかに微笑するのはサンジェルマンの血族から嫁いだ当代天羅の二人目の伴侶、ジゼルだ。
 楚々とした居住まいで控えめに成り行きを見守ってきた彼女は、サハルのように姿を目にしただけでカイの神経を逆撫でることはない。とはいえ、昂ぶった剣呑さをすぐにほぐせるわけもなく、カイが睨むように向けた視線にも、ジゼルは機嫌を損ねることなく笑み返した。
「急な話でびっくりしたのでしょう、カイ。ごめんなさいね。はじめに話してしまうと、あなたのことだから会う前から嫌がって、段取りが進まないと思ったのよ。時間をかけようにも相手方もいることで、のんびりしているわけにもいかなくて。不意打ちになってしまったのは謝るわ」
「今さら、」
「そうね。あなたが怒るのも無理のないことよ。性急だったと思うわ。サハルお姉様も厳しい言い方をしてしまったけれど、本当にあなたに出て行ってほしいなんて思っていないのよ。あなたの気持ちを、ただの我儘だと本気で思っているわけでもないの。それはわかってくれるかしら」
「それで、あんたも言いたいことは一緒なんだろ。俺にガキをつくれって」
「もちろん、今日や明日なんてひどいことは言わないわ。ともかくも彼女を迎えたのだから、ここから先はすこしくらい時間をかけてもいいと思うの。先方にだって言い訳がたつもの。彼女とあなたは旧知なのでしょう? 思い出話をしたり、親睦を深めてみてはどう? それから結論を出してもいいのではないかしら」
 ねえ、お姉様――ほがらかに促すジゼルに、サハルはため息をひとつして「好きにおしよ」とキセルをふかす。
 カイは鋭く舌打ちした。
「わかったよ、考えりゃいいンだろ」
 ジゼルの笑みが深くなる。
「ありがとう、カイ」
「考えるだけだ」
 いっそう柔らかく、優しげな表情を浮かべるジゼルから目を背けながら、カイはサハルを一瞥する。サハルはあからさまに目を合わせなかった。
 その横顔を、一瞬、強く睨めつける。
「結論は変わらねェ――俺は、ガキなんざつくらねェからな」
 カイは吐き捨てるように言い残し、部屋を出た。



「――あの子を怒らせてはダメよ、お姉様。意地悪をして。かわいそうに」
「だってねえ」
 苛立ちの滲む足音が充分に遠ざかってから口火を切ったジゼルに、サハルは言い訳をする子どもそのまま唇をとがらせた。
「どうしたら、あんな甘ったれに育つんだろうって思わないかい? あの子はいくつだったかね」
「百歳とすこし、ではなかったかしら?」
「人間なら人生一遍分は生きてんじゃないか。そろそろ大人になってもらわなきゃ困るだろ、いつまでも童(こども)でいられちゃかなわないよ。総領血統の男が」
「そんな言い方をするから、あの子が怒ってしまうのですわ」
「妾(あたし)が言おうと言うまいと、あの子がそういう立場にいるってことに変わりないさ。逃げ道ばかり拵えてやってどうするんだい」
「人間なら人生一回分は生きているんですもの、あの子にはあの子なりに思うところがあって、逃げ道ではない行き先を探しているのではないかしら? 時間のかかることですわ」
「アンタって子は、本当に、昔ッから素直にうんと言わない娘だねえ」
「こんな私がお好きでしょう、お姉様?」
「よく言うよ」
 ふてくされて見せるサハルに、ふふふっと、ジゼルは楽しげに笑った。
「お姉様のお気持ちもわかっていますわ。あの子にだって、そのうち通じますとも」
「どうだかねえ」
 サハルは物憂げにキセルの灰を落とし、煙草盆を眺めた。年季の入ったそれは、まだ先代天羅が生きていた頃からの愛用品だ。二人でこの盆から煙草の火を分けたこともあった。サハルにとって、人生の春の名残のひとつだ。










サハルさんも、ジゼルさんも、良くできた嫁さんみたいだろ……信じられるか? この人たちこんなことしながら時間見つけて薄い本描いてんだぜ……(震え声(台無し


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.07.01 Mon 00:38

忘れてたこの二人、カイさんで薄い本書いてるんだったwww
危うく流されるとこだったwww


やー、サハル姐さんのおっしゃる通りです。カイさんってばガキんちょだよなー。なんだかんだ面倒見が良かったり甘かったりするのって、ガキんちょだからなんでしょうねぇ。
そしてカイさんの首輪だとユリちゃんが知ったら、冗談でしょと笑って、それから本気だと知って泣いて怒って「そんなんなら、私、アムリタやめる!」と言い出す予感しか出てこないのです。
ユリちゃんを手放すだなんてそんなことは思ったこともない様子のカイさんにニヤニヤしてしまいました。そしてそこを突いてくるサハル姐さんは、やっぱり二人のこの微妙な関係に気付いて……いない人なんてごく少数ですか、そーですか(^_^;)

いやー、続きも楽しみ!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.03 Wed 21:42

お姉さま
きっと室内には数台の隠しカメラがセットされていて「追いつめられたカイさん」の表情を余すところなく資料用に撮影しているにちがいないのです、奥様の会おそるべし!(笑)

>カイさんってばガキんちょ
カイさんは優しいんだけだもんカイさんを責めないでーっ、と、サハルさんに文句を言いつつ書いていたのはこの卯月|ω・`) サハルさんもうちょっと遠慮……しないか、しませんね、だって三百歳オーバーだもの……。

>カイさんの首輪
ユリちゃん、ごめえええええええええええええっ・゚・(つД`)・゚・
でも実際そんなつもりはなくて、ふつうにアムリタとしてカイさんに調理&護衛&未成年だから保護者替わりに面倒見させてるだけなんだろうけれども、でも「使えるものならコンビニ弁当の割り箸に入ってる爪楊枝」まで使う天羅血族なので(キリヤマさんが前にカミングアウトしていたw)、「いま使えそう!」と思えばユリちゃんという存在をこんなふうに使うこともある、かもなあ……と、思ったんですけど。今回は、たぶんサハルさんはちょっとカマかけてみただけなのかもしれない。実は。そしたらカイさんが期待以上に反応したので「あ、これは次回から使える」と思ったのかもしれない! サハルさんこわいよ!(;゚Д゚i|!)

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