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2013.07.03 Wed Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その7

前回更新分のコメントにお返事もできていない状態で大変申し訳ないのであります! ともかくこれを、早めに、更新したかったのだと言い訳させてくださいませっ、お返事は明日こそ、かならず……っ!











   ***



(――カイ、元気でね)
(愛しているわ)
 それが最期の言葉だった。姉は優しいひとだと思っていた。弟は彼女をしたたかな女だと言い、今にしてみればたしかにそういうふうだったとも思える。けれど、子ども心に抱いていた印象を塗り替えるほどではなかった。死人は変わったりしない。
 姉は優しいひとだった。
 その優しさに、たとえどんな思惑があったのだとしても、彼女なりの愛をもって育ててくれたことに感謝している。おかげで今の自分がある。だから、彼女には感謝している。
 恨み言を言うのは筋違いだ。
 俺をもっと薄情に育ててくれりゃあよかったのに、と、姉に当たったところでどうにもならない。よその純々血の連中のように、幼い頃から血筋を守ることに一片の疑いも抱かないよう教育してくれていればよかったのに、などと。
(いつまでも子どもみたいなことをお言いじゃないよ)
 サハルの言うこともわかる。自分の立場も理解している。どう足掻いたところで身に流れる『血』を捨てようがないことも。
 ――けれど。
「たっ、ただいまーっ!」
 カラ元気を出すならせめてしょっぱなからつっかえるな。
 そう言ってやるのはやはり大人げないだろうと、カイは気づかない素振りでリビングにやって来たユリを出迎えた。迎えると言っても、ソファに座ったまま見てもいないテレビのチャンネルをいじりつつだ。騒がしいバラエティ番組をやっていた。外はもう暗い。
「おかえり。――チビは、生太刀はどォした。迎えはいらねェって言っといて、まさかてめェひとりで帰って来たンじゃねェだろォな」
「家の前まで送ってもらったから、大丈夫! ふたりは先に帰っただけだし」
「夕飯は食ったか」
「おいしかった! よ!」
 ふへへっ、とユリが笑う。
 不自然に挟む笑顔と、やたらな上機嫌。ユリが必死に誤魔化そうとしているものがなんなのか、カイは知らないふりをする。何気なくソファを立ち、リビングを離れようとした。
「ど、どこ行くの?」
 慌ててついて来ようとするユリに、カイは立ち止まって振り向く。
「キッチンだ。ケーキ、食いたいつってただろ。今朝」
「そう、だった……?」
「あとはクリーム塗って盛るだけだ、ちょっと待ってろ。手ェ洗って来いよ」
「うん……あっ、で、でもっ」
 ふたたび歩きはじめようとしたカイに、ユリが半歩踏み出して追いすがる。へへっ、と、また無理やりの笑顔で、表情はめちゃくちゃだ。それにすらユリは気付かない。
「さっきご飯食べたとこだし、ケーキは、あとで、いいかなあって……」
「……、そォか」
「ごめんね、カイ。作って待っててくれたんだよね」
「べつに」
 そっけない返事の先に続けるべき言葉が出てこない。会話が続かない。ユリがいらないと言うならキッチンに用はないが、かといってまたソファに戻る気にもなれなかった。いつも、どうやってふたりの時間を過ごしているのか。ほんの昨日までの「普段どおり」を、カイはうまく思い出せない。
 ユリも同じようだった。
 なんのかんのと喧しくしゃべる小娘が、不細工な作り笑いを貼りつけたまま立ち尽くし、話の接ぎ穂を探すように視線を泳がせている。昼間、生太刀のところで、どういう状況になっているのか教えられてきたのだろう。生太刀がどう話したのかわからないが、どんなふうにせよ、ユリには理解しがたい内容だったにちがいない。ユリは子どもだ。
 痛々しいほど必死になって「普段どおり」に振る舞おうとしたところで、いつまでももつはずがない。カイにはわかっていた。
 だからなんとか口実をつけて、ユリが口火を切る前に、この場を離れていたかった。
「カイ……天羅のおじさんとこ、行ったんだよ……ね?」
 おそるおそる、顔色をうかがうユリの視線から逃げるように、カイは廊下を見やるようにして顔を背ける。
「行ってきた」
「――どうだった?」
 今日はアキと遊ぶ約束なんだよ、と言うユリを、生太刀のところへ送ってやった時のことを思い出す。ユリは無邪気に楽しげだった。いつものように騒がしく笑っていた。自分もこんな様子ではなかった。ひと言文句つけてくる、それで解決する気でいた。
 あとはキリヤマに愚痴のひとつもこぼし、説教されて、気を取り直して約束のケーキを焼いてやればいいと思っていた。腹がくちたら昨日のホラー映画の続きを観ようと言い出すに決まっているから、しぶしぶ付き合ってやればいい。
 いつものように。
 ユリも、今朝はそんなふうに思っていただろう。
「考えとく、って、話ンなった」
「そ、……」
 ユリの呼吸が空転した。わずかに持っていただろう、期待が、爆発的に膨らんだ不安感に圧し潰されていく。顔を見るまでもなかった。そんなことは出来なかった。
 泣き出しそうな気配が肌に刺さる。
 ユリは子どもだ。守ってやらなければならない。けれど手を差し伸べてやることもできない。己が身の振りひとつ満足に決められない、こんな中途半端な、情けない状態では。
 サハルの言うこともわかる。自分の立場も理解している。どう足掻いたところで身に流れる『血』を捨てようがないことも。
「……なあ、ユリ」
(そんなに嫌ならはぐれちまいな)
(出て行けばいい)
「俺が、よそに行くっつったら……てめェは、どうする」
 後悔した。
 言ってしまったことも、目を向けてしまったことも、カイは後悔した。
「え――?」
 ユリは驚いたように瞬く。
 意味がわからないと。思ったこともないと。どうしてそんなことを訊くのかと、問われた気がした。取り繕う間もなく、ユリの表情がゆがむ。子どもらしく手放しの感情を露出させる少女だったらどれほど良かったかと思う。ユリは気丈で辛抱強い。
 他人のためならいくらでも感情をあらわせるのに、自分のこととなれば、いくらでも我慢する。限界まで堪えようとする。だから、守ってやらなければならない。
 いまこの瞬間に――。
「聞いてみただけだ」
 カイはユリから目を逸らし、背を向けた。
「気にすンな。なんでもねェ」
「カイ、」
「先、寝るわ。疲れた。てめェもさっさと寝ろよ、明日ァ学校だろ」
 それから、じゃあなと言ったのか、おやすみと言ったのか。
 何か言いたげなユリを置き去りにし、寝室に入ったところで、カイは閉じたドアを背に立ち尽くした。最悪の気分だった。あまりにも情けなかった。
「――くそっ、」
 こぶしを握った手が震える。当たり散らしたい衝動をどうにか堪えた。物音でもすればユリは怯えるだろう。ただでさえ、あんな状態でひとりにした。
 ユリを――。
(アムリタのことは、ちゃんとだれかに引き継いでいっておくれ)
(大切な、天羅のアムリタだ)
「どォしろってンだよ、俺に……ッ」
 しんと、息苦しいほどの沈黙のなかで、カイはきつく目を閉じた。





(――…ひとりになるのは、イヤだなぁ……)










これ本当に卯月書いていいの!? 書いて大丈夫なのっ!? という不安は払拭されるどころかいや増すばかり。


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.07.05 Fri 00:24

ユリちゃんがかわいくて、かわいそうすぎてツラ―……orz



そしてこの話の展開が、あと三年後ぐらいに起こっていたらカイユリは本編を開始することなくこの話で決着、という気がすごいひしひしとしていて、
「本編、どうしたもんかなぁ」
と思っていろいろヒヤヒヤしています。展開とか、なぁ。
このユリちゃんが中学生で、まだ恋心がツボミなので、だからあまり思い切った解決に走ったりしないんだよなぁ、とか思ったりしたりして。

話の行く末がいろんな意味で楽しみでございますよー♪ヽ( ´ ∇ ` )ノ

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.05 Fri 21:56

お姉さま
卯月もいつカイユリ本編に抵触するんじゃないかと冷や冷やしながら書いてますが、もしかしてすでに抵触気味!?ΣΣ(゚д゚lll)ハワワ・・・
あくまでも番外だと思って書いてるので、お姉さまの読み通り思い切った解決には走らないはず、なの、ですが……このスリル、たまんねェぜ!(おちつけ;

そしてユリちゃんには中学女子にはちょっとハードなメンタル面の苦行を強いてて本当にごめんユリちゃんごめんorz

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