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2013.07.07 Sun Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その9

カイユリ番外はまだつづくー、つづきまーす。









   ***



「――だから、俺のものになれと言ったんだ」
 ジンホァは勝ち誇った様子で口の端を上げながら、ユリの首筋に鼻先を摺り寄せた。
 申し訳程度の噴水がある他は、とくにこれというほどの物もないちいさな公園だが、夕方ともなれば学校や仕事帰りで家路を急ぐひとの姿がそれなりに見受けられる。ユリが腰かけるベンチの前はそんな人々の通り道で、通りすがりにちらちら向けられる視線のせいで非常に居心地が悪かった。
 はた目には、女子中学生が年上の外人とイチャついてるように見えるだろうか。ここ家の近所なんだけど、変な噂になるのはちょっと困る。しまったなあ――と、思ったものの、となりに座ったジンホァにいつのまにか抜かりなく腰を抱かれていて、逃げようもない。
 首筋に触れる肌や呼吸に背筋をぶるりと震わせ、ユリはどうにか遠ざかろうと窮屈そうに身をよじった。
「ジン、あのね……ちょっと、」
「ん?」
「近い。近いから、もうすこし離れてほしいんだけど……な!」
 ジンホァの肩を押しやりつつ、スカートの尻をにじってじりじりと距離を取る。
 どうにか頭ひとつ分ほど隙間をつくったところで、ユリがひと息吐くと、それを見計らっていたようにふたたび腰を抱き寄せられ、思わず「ぅぎゃ」と声が出た。ジンホァはおかしげに喉で笑う。片手でユリの腰を抱いたまま、もう片手でその手をとり、口元に引き寄せた。
「つれないことを言うな、ユリ」
 鳶色の瞳で様子を見ながら、悪戯するように手の甲を軽く吸うジンホァに、ユリは酸欠の金魚のようにあわあわと口をぱくつかせる。
 ジンホァはにんまりと、唇の隙間に牙を見せた。
「俺にとってはなんの面白みもないおしゃべりに付き合ってやっているんだ。すこしは愉しませろ」
「た、たのしませるって――」
「匂いくらい堪能させろ」
 言うなり、またしても首筋に顔を埋められ、すんっと鼻を鳴らして匂いをかがれた。
 その感触に、ユリは思わず――。
「ぅほあっ!?」
 尻が浮くほど跳ねたユリに、ジンホァも思わず身を引いた。
 げっそりと胡乱げなまなざしをユリに向け、
「いちいち色気のない娘だな……」
「だ、だって! くすぐったいし! もう!」
 だめだめっ、と肩を押しやられれば、ジンホァは嘆息しつつ素直に腰から手をはなし、ベンチに深く腰かける。ユリはほっと息を吐いた。撫でさする首筋にはまだ違和感が残っていて、離れたとはいえ一緒に座っているのも気恥ずかしいような、視線が気になるような、やはりすこし居心地が悪いものの、いますぐ家にも帰れない。
 ジンホァに会ったのは、学校を出てしばらくしてからだった。
 昨夜は結局まんじりともせず、かといって家から離れるのもいやで、ベッドでむりやり目を閉じたまま朝を迎えた。昼間もぼうっと上の空で、友人たちをさんざん心配させた挙句、「家まで送る」と言ってくれたのを断って、ひとりとぼとぼ歩いている時だった。真正面からぶつかって、尻餅をつきそうになったのを抱きとめられ、第一声が「不用心だな、喰われたいのか?」といつものジンホァだったことに妙に安堵して、帰宅の道すがらとりとめもなく休日に起きたことを話したのだ。
 そうして、我が家である赤レンガのマンションに帰り着こうとしたところで――待ったをかけられた。
 マンションの前にいたのは、きっちりした服装の、知らない男だった。
 細身で、小柄で、童顔で、若いと言われれば若いような、歳だと言われればそうとも見える、外人だから余計にわかりにくい年齢不詳の男に道をふさがれ、きょとんとまたたく間にジンホァが割って入った。その背中はあきらかに男を警戒していて、それでようやく、ユリは男が人間でないことに気付いたのだ。
 男はノスフェラトゥの血族と名乗った。
(ただいま、当家のお嬢様がユズリハ様とご歓談中でいらっしゃいます。ご帰宅はいましばらくお待ちを)
 ユズリハ様という聞きなれない名称がだれを指すのか思い至るより、状況を察するほうが早かった。わかりましたと返事をし、ユリは公園まで後戻りして、ベンチに腰かけた。
 ぼうっとしてしまって、上手くものを考えられなかった。
 その隙にジンホァが隣に腰かけ、皮肉っぽく笑ったのだ――だから、俺のものになれと言ったのに、と。思い出してユリはうなだれる。
 それを横目に見やり、ジンホァは呆れたように息を吐く。
「鬱陶しくするな」
「ごめん……ジン、帰っていいよ。私も、もうちょっとだけここにいたら、帰るし。一緒にいてくれるのは嬉しいけど、面白い話ができそうにないんだ。今日は」
「鬱陶しいうえに頭まで足りなくなったか? あまり馬鹿げたことを言うな」
 叱りつけるような厳しい語気と裏腹に、そっと髪を撫でる指先の感触に、ユリはうつむけていた顔を上げる。ジンホァは真剣な面持ちで、けれど視線が合えば取り繕うようににたりと微笑した。
「こんなところにアムリタ(おまえ)を一人にするなど、誰とも知れん下衆(げす)にみすみすくれてやるも同然だ。血の一滴までむさぼられるぞ」
「大丈夫だよ、うちに近いし。まだこんなにひともいるし、明るいし」
「そうか? 俺ならいまこの場にいる全員を引き裂いて、お前を手に入れるのに五分とかけないが。お前の番犬が来るのとどちらが早いか――試してみてもいい」
「ジンはしないよ。そんなこと」
「なぜ?」
 問い返すジンホァに、ユリはその目をまっすぐに見て答える。
「だって、いまも私の心配してくれてる。つまんない話も聞いてくれたし、落ち込んでるのを慰めてくれようとしてた。言い方はきついけど。ジンは優しいから、酷いことなんてしないでしょ?」
「質問に質問で返すのは姑息な手段(て)だ」
 ユリの髪のひと房を指にからめながら、ジンホァは満足そうに口角を上げた。
「お前がそう言うなら、優しくしてやろう。ユリ。俺はお前に酷いことはしない。大切にしてやる。役に立たないあの番犬のように、お前を蔑ろにもしない」
「カイはっ――」
 強めた語気は、けれどすぐに勢いを失くした。
 じっと、試すようにまっすぐに向けられるジンホァの視線から、ユリはわずかに目を逸らす。
「……カイは、私のこと、蔑ろにしてるわけじゃないもん」










カイさんの公的な呼び名ってなんだろ? と、思って、いちおう家名(名字)にしてみたのです。

そういえば、なぶるのは基本的に本文中にフルネームがわかる記載のあるキャラって少ないんだけども、ジンホァさんはそんな数少ない本文中でフルネームのわかる人だったりします。イン・ジンホァ。ちなみにカヤ兄の奥さんもフルネームがわかる人、イェ・シャオティエン。あとはキリヤマさんチの五人兄弟も必然的にフルネームがわかるし、リリコさんも。そのくらいかなあ?

あ、おやっさんもか。天羅は始祖の号であり血族の名称であり総領の家名でもあるので、フルネームは天羅タツミ(漢字だと巽)になる……でもまあ、ここは偽名いっぱいありそうだなあw


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我が君 : URL なんだか

2013.07.09 Tue 18:12

奥様会のジンホァさんのイメージが強過ぎて、男らしいジンホァさんはちょっと恥ずかしい(;^_^A

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.09 Tue 23:05

我が君
それ、すごくわかる。卯月も、なんだろうね、ものすごく恥ずかしかったんだけどこっちが正規ジンホァさんなんだよ!(笑) 奥様会のジンホァさんは「もしもクルルギさんと恋愛EDした場合」のifだから。
でもやっぱりキャッキャー(〃ノωノ)って、なるねw

ミズマ。 : URL

2013.07.14 Sun 23:08

家帰ったら家の前に「今家ん中でてめぇんとこの男とウチのお嬢がちちくりあってっから、待て(意訳)」とか言われたら、ユリちゃん普段なら怒ると思うんだけど今へこんでるからなー。こう、とことん底までへこんでしまいそうだなー。つつかれたら泣いてしまいそーだなー。

……ん? ここで性的に迫るのではなくて、優しくなだめて泣かせてあげたら、一気にカイさんよりアドバンテージとれたりするんじゃないの、ジンホァさんてば。
性的に迫られたんで気が紛れちゃったんじゃないのかしらね、ユリちゃんてば。
あとは、このままがっつり押し倒してイヤイヤ言われたら甘い言葉で諭して慰めてんで流れで押し倒して既成事実作ってしまえばどうにでもなるような。←
ってか、ここでどうにかしないとジンホァさんは今後カイユリとの間に隙が出来るとでも思っているのかね?という感じなんですけどw

いやーまーとにかく、男verのジンホァさんは久々ですなぁ、ドキドキしますなぁ///

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.15 Mon 00:10

お姉さま
そういえば、カイさんが家に女を連れ込んでる(語弊)のって、先にセリさんのことがあって、これで二回目だから、ユリちゃんにとって不意打ちってほど不意打ちでもない、のか……そ、そうですね、今回はちょっと突然のヘビーな話でユリちゃん参ってるからヘコんじゃっててだから引いちゃった、と、いうことにしてくださいよしなに!orz

ジンホァさんの今回最大の敗因は、ふつうに優しくするっていうのがどういうことかわかってない、ことなのかそうかー! ユリちゃんをそっといたわってなぐさめてあげればよかったのかそうかー! 涙流させて拭って抱きしめてあげればよかったのかそうかー!orz

で、でもでもジンホァさんは、ユリちゃんに都合よく振る舞ってユリちゃんが油断したところをかっさらって酷いことして精神的に大ダメージ喰らわせることで自分に従順になるようにしたいと思っているので(とんだ鬼畜……)、これはこれで計画通り! なの、かなあ?←
そんなふうに考えてても結局うまくいきそうにないジンホァさんだなあw

>男verのジンホァさん
こっちが正規のジンホァさんですよ! 奥様会は二次ですよ!(笑)

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