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2013.07.11 Thu Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その10

当初の予定では、10回更新で収まると思ってたんだよなあ……甘かったなあ(遠い目。










(俺が、よそに行くっつったら……てめェは、どうする)
 そんなふうに訊いてくれただけでも、カイは親切だ。
 家族のように思っているけれど、いちばん親しい相手だけれど、たまたまあった縁で保護され、養育されているだけの関係だと、言われてしまえばそれまででもある。あたりまえだと思っている今の暮らしを、ここまでだと、ある日突然区切られてもおかしくない。けれどそうしなかった。カイは優しく、親切だ。
 だから、問いかけにすぐ答えられなかった。
 カイがどこかへ行くなら、もちろん自分もいっしょに行くのだと思っていた――そんなふうに言えば、カイは困ってしまうだろう。
(カイさんの気持ちなんて問題にならないくらい、同族にとって、血は大切なのよ)
 吸血鬼の血筋を守るだとか、そんな難しい話はよくわからないけれど。
(考えとく、って、話ンなった)
 理解できないからこそ、吸血鬼(かれら)にとってそれほど特別に大切な問題なら、人間(じぶん)がやたらな口を挟むべきではないと、ユリは思う。無責任なことを言いたくない。カイは優しいから、きっと無理をしてくれる。わかっているから言いたくない。良識がそれを許さない。
 けれど――このまま黙っているのは、何もせずただ待つのは、つらく、苦しく、恐ろしい。大切なものが失われる空虚さを、孤独を、ユリはよく知っている。
 心も体もばらばらに引き裂けてしまいそうな、その痛みを。
「――面白くないな」
 ジンホァのわざとらしいため息が聞こえた。
 振り向きかけるユリの肩を、ジンホァは抱き寄せる。油断しきって気を散らせた少女の自由を奪うのは簡単だった。腕のなかで、驚いて硬直し、身動きもしないユリの耳元に唇を寄せる。
「そんなに惜しければどんなことをしてでも捕まえておけ、奪われるまえに逃げられなくしろ。それが出来なければ諦めるんだな。つまらん話でいつまでもグズグズと、鬱陶しい。俺のまえであの犬のことばかり考えるな」
「だって……だって、そんな簡単なことじゃないんでしょ?」
「簡単だ」
 やっと状況を飲んで離れよう身じろぐユリの耳の先に、ジンホァは軽く牙を立てた。
 かりっ、と食(は)まれる感触に、ユリはいっきに血を気をなくす。
 血が出るほど強く噛まれていないとわかっていても、身が竦んだ。先刻のような気恥ずかしさではなく、捕食される恐怖で手足が強張った。耳の輪郭を舌先で辿られる。嗤うような吐息を総毛立つ肌で感じた。
「ためしに、お前をあの犬から攫ってやろうか。二度とあれのことなど考えられなくしてやる。せいぜい優しくしてやるから、安心しろ」
「ジ、ジン……っ」
 困惑しながら、たどたどしく抗うユリの様子に口角を上げながら、ジンホァはその目だけを動かしてユリの向こう側を見た。
 鳶色の目が皮肉気に細まる。
「――何してンだ、てめェ」
 背後から聞こえた声は低く、怒気を含んでいたが、それでもユリはその声音に全身でほっと安堵した。ジンホァの腕にいっそう強く抱き込まれて満足に振り向けないまま、身をよじりつつその名を呼ぶ。
「カイっ、」
「何をしているのか、いちいち答えてやらなければわからないか?」
 なめらかな黒髪に指をさしこみ、ユリの頭を胸に抱くように押さえつけながら、ジンホァはベンチにそばまでやって来たカイを不遜げに見上げた。
「節操のない犬がよそのメスに尻尾を振るのを、見るに堪えんとユリが悲しむから、慰めてやっていただけだ。優しくしてやる約束でな」
「てめェ……ッ」
「俺に落ち度はないと思うが? 八つ当たりは見苦しいぞ、ユズリハの」
 カイの薄青い目が焼けつくほどの怒りをにじませながらジンホァを睨み据える。眉間には浅黒い肌に険しい皺が寄っていた。それをにんまりと見返すジンホァと、その腕のなかでもがいているユリを交互に見、カイは鋭く舌打ちする。
「いらねェ世話ァ焼いくれンなッ」
 吐き捨てて手を伸ばし、ユリの細い腕を掴むと、ジンホァから奪い取るように引き寄せた。乱暴に引き立てられたユリがたたらを踏むのも構わず、カイは身をひるがえして歩き出す。
「カイ、カイ……ちょっと、待って、お客さん、」
「もォ帰った」
 振り向きもせず答えるカイに半ば引きずられて歩きながら、ユリはその背中と、後ろに遠ざかっていくジンホァを交互に見た。
 ジンホァはベンチに腰かけたまま、片方の口の端を上げて笑っている。
「アムリタが手に余るようなら、ユリは俺が引き受けてやるぞ」
 カイは挑発に応じなかった。
 ただその口元が、憎々しげに、苦しげに歪むのがユリには見えた。加減のない歩幅でどんどん進んでいくカイに痛いほどきつく手を掴まれ、その背中を小走りになって追いかけながら。思いつめたように険しい横顔を見上げ、そして、目を逸らす。
(どんなことをしてでも捕まえておけ)
(奪われるまえに逃げられなくしろ)
 そんなふうに言われても、なんの話をしていたのかと訊ねる勇気も出てこない。
(出来なければ諦めるんだな)
 でも、それも無理だと、ユリは思う。
 このまま黙ってただ待つのは、やっぱり無理だ。つらくて苦しくて恐ろしい。だってカイが来てくれた時、あんなにほっとした。嬉しかった。いまだって当たり前のように、家に連れて帰ろうとしてくれている。
 どうする――と、カイはわざわざ訊ねてくれた。
 無責任なことは言いたくない。けれど、答えないままでいるのもおなじだ。なにもかもカイに押しつけている。それは卑怯だ。
 ユリは唇を引き結ぶ。
 カイの手を握り返しながら、散り散りになった勇気をかき集める。










次はカイさんとドリルのターン、かな?


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.07.14 Sun 23:21

このままユリちゃんのターンでしょうがああああああああ!!!!(*゚ノO゚)<オオオオォォォォォォォーーーーーイ!

ユリちゃんが勇気振り絞って、ちゃんと言うターンでしょうがああああああああああああ(*゚ノO゚)<オオオオォォォォォォォーーーーーイ!

あーでもカイさんがドリル()になに言ったかは気になる……。


いやー、しっかし、煽るねぇ。にやにやしちゃう。この後の展開ににやにやしちゃうよ、朔ちゃあああああああんキャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー
ジンホァさんは自分で最大限の墓穴をガンガンに掘っていることに自覚はあるのかいなか。もーこの人、ユリちゃんを確保捕獲乱獲隔離監禁したいって思ってるけど、無自覚にそれよりもユリちゃんの幸せ願ってんじゃないの、実は?
カイさんを煽ってるようにしか見えないのだわよねー。いいんだけど。全然良いんだけど。むしろオッケーカモンだけど。

これでジンホァさんが本気で噛んでたら、カイさんに消し炭(文字通り)にされてたんじゃないかなァ?←


とりあえず次回! 待機! 炎天下で! 星座! 待機!

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.15 Mon 00:21

お姉さま
ここでドリルが割って入るのが卯月クオリティぃいいいいいいいっ!(*゚ノO゚)<ヤッフウウウウウウウ―――――!

ジンホァさんは前のコメントのお返事にも書いた感じで、ユリちゃんを油断させて信頼させて、ユリちゃんが幸せをつかみそうになった瞬間にがっと攫って酷いことして心折って従順にしつけたい、と思ってて、自分でもそれに向けて日々頑張っている……つもり、なんですけどやっぱりどうもユリちゃん先生の調教のほうが進行が早いんじゃないかな、と、思いますw だってジンホァさん全力でカイさん煽ってますもん! カイさんが迎えに来るのを確認したうえでの耳噛みですもん!キャー ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃 キャー
今時点ではまだまだ全然ユリちゃんの捕獲調教を諦めてないし計画実行中のジンホァさんですけど、ほだされるまでそんなにかかりそうもないなあw 外でユリちゃん先生に会ったあと、家に帰ると正義の味方がいるからなあw モラル教育にはもってこいの環境(笑)

>消し炭(文字通り)
ギリギリのセーフティライン保ってるジンホァさん、すげえ……カイさんおっかねえ……(((( ;゚Д゚)))

>炎天下で! 星座! 待機!
日陰で! せめて日陰で! いややっぱり空調のきいたお部屋で水分を補給しつつお待ちください! とりあえず11は更新いたしましたけれども!( ゚Д゚)⊃旦

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