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2013.07.15 Mon Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その12

ひきつづき、カイさんとドリルのターン。










 こともなげに、大したことではないように、どころかカイをからかうように見やって、フランチェスカは言う。
「職人としての研鑽を積むための時間を、中途半端な男のために費やすなんて絶対にイヤですもの。あなたは無礼で粗野な犬っころですけれど、総領血統には違いありません。あたくしの相手にふさわしいでしょう」
「手前勝手なこと言いやがって」
「あなたこそ」
 勝手なのではなくて? フランチェスカの言いように、カイはきつく顔をしかめた。
「あァ?」
「始祖天祇の血を継ぎながら、それを遺そうともせずいつまでもフラフラしているのは手前勝手ではありませんの? 大始祖直系としての自覚に欠けていますわ。天羅総領もお気の毒」
「俺ァそういうな嫌ェなンだよ」
「だから人間の娘を囲っているのかしら?」
 鼻で嗤うフランチェスカに、自制の箍が外れた。
 こぶしを叩きつけられたテーブルのうえでグラスが跳ねる。カイは獣が威嚇するように低く身を乗り出し、牙を見せて唸った。
「あいつは天羅のアムリタだ。妙な勘繰りしてンじゃねェぞ」
「でしたらムキにならなければよろしいのに」
「フランチェスカっ」
「あたくしは、あなたが人間なんかに入れ込んでいようと、なんだろうと、どうだっていいのですわ」
 血族の務めさえ果たせるならそれで。
 フランチェスカは面倒事にやむなく手をつけているのだと言わんばかりで、カイをますます苛立たせる。むかしからこうだった。フランチェスカは良くも悪くも、育ちのいい同族のお嬢様だ。考え方の根底がそもそもちがう。
「あなたもそんなに思いつめて考えなくてよろしいのではなくて? 何も、婚姻して生涯連れ添おうというのではありませんわ。子どもをつくるだけですもの」
「総領血統(おれ)と純々血(てめえ)でガキつくるのが、どンだけのことかわかってンのか?」
 大始祖の直系である、始祖の寿命は千年だ。
 その千年のうちに後継を遺すことも、血族を束ねる始祖総領の責務である。
 そのために総領は複数人の伴侶を迎えるが、そうしてなお、子どもを得ることは難しい。代を重ねるごとにその厳しさは増して、四世ディナシーはついに後継を遺せず、五世総領には四世が眷属まじりの情夫とのあいだに産んだ異能使いの娘を据えてどうにか体裁を保っているが、大始祖直系としての始祖ディナシーの純血が絶えた事実は拭いようがない。そのことが後継のいない総領たちの危機感を煽り、当代天羅が百五十余歳という若さですでに六人もの伴侶をもつ要因にもなった。
 カイもまた、四世の始祖である。
 子どもを遺すのは容易いことではない。まじりけない、純血の子どもとなれば、それこそ千年かけてどうにかという話になる。つくるといって出来るものではない。
「もちろん、承知のうえでしてよ」
「出来るまでってンなら連れ合うのと変わりねェぞ」
「そんな悠長な話はあたくしも嫌です」
 だから、五年ですわ――フランチェスカはカイに向け、広げた右手を突き出した。
「それで子どもが出来なければ、あなたはお役御免の用無しです。あたくしはべつのお相手を探すことにしますわ」
「出来るワケねェだろ」
「試してみなければわかりませんわよ。存外、相性がいいのかもしれませんし?」
 皮肉めかすその言いぐさに、カイは舌打ちする。
 何気なく逸らした視線の先には、壁際の棚に飾られたフォトフレームがあり、ユリが去年のクリスマスに貰ってきたそれは挿し込まれたメモリカードに保存されている画像をいまも次々に表示させていた。今時は子どもでも簡単に写真を撮れるようになったせいで、映し出されるのは特別なところのない、日々の光景ばかりだ。
 普段は気にもとめないフォトフレームの表示を見つめたまま、カイは目を細くする。息苦しいような気がした。
 その横顔に、フランチェスカはそっと息を落とす。かすかなため息だった。
「アムリタの世話も、つづけていただいて構わなくてよ」
 カイが振り向いた時にはもう、フランチェスカはいつもどおりの居丈高な、矜持の高さがそのままあらわれた顔で、喰ってかかって物言いだけなカイにふふんと鼻で笑って見せる。
「料理狂いのあなたのことですもの、半端な仕上げで手放すのは嫌なのでしょう? その気持ちはあたくしにだってよくわかります。ですから、あの娘とはこれまでどおりに暮していただいて結構でしてよ。乳繰り合うなりなんなり、お好きになさって」
「だからアレとはそンなじゃねェッて、」
「からからかっただけです、いちいち噛みつかないでくださる? これだから犬っころは困りますわあ」
 ぐっと喉を詰めるカイに、フランチェスカは勝ち誇ったように高笑いした。
「あたくしがこれほど譲歩して差し上げているのですから、そこのところはよくお考えあそばして。言っておきますけれど、あなたのように下品で料理するしか取り柄のない犬っころにこれほど良い話が来るなんて、後にも先にもこれっきりですわよ。可愛げのない犬をわざわざ拾ってあげようというのです、なんて心優しいあたくし!」
「でっけェお世話だ……ッ」
「品がないうえに狭量な男、つくづく程度が知れますわ。――あたくしにとってこんなのはついでのついで、ごくごく小さな問題ですのに」
 言うなり、フランチェスカは隣の椅子に置いていた荷物を勢いよくテーブルに上げた。持ち運びにちょうどいい大きさの保冷バックを開けると、出てきたのはタッパーに詰められた大量のマカロン。玄関先で文字通りカイが喰らわされたものの残りだ。
 いそいそとフタをはずし、フランチェスカは嬉々としてタッパーをカイのほうへと押しやった。
「――お召しあそばせ!」
 さんざん深刻な話をしてからのフランチェスカの能天気さについて行けず、カイはげっそりと半目になる。
「さっきもう食ったろうが……」
「さっきはさっき、今は今。それにまだ感想をいただいていませんわ!」
「食った気も飲んだ気もしねェよ」
「たかがプライベートの問題で気もそぞろになって、料理(しごと)に投げやりになるなんて、あなたそれでもプロですの? 天羅最高の料理人が聞いて呆れますわね! あなたがそんなふうではアムリタの味にも関わるでしょうに――そうですわ!」
「なんだよ」
「あなた、あの娘にケーキを作ってあげまして?」
 ケーキが食べたいと騒ぐユリを黙らせるため、あとで作ると約束していたのを、フランチェスカは覚えていた。大真面目な様子で顛末を問われ、カイの表情はふたたび渋くなる。
「……いいや」
「なんていうことッ!」
 テーブルを叩き、椅子を蹴倒してフランチェスカが立ち上がった。
 その剣幕に思わず腰を引いたカイを、テーブルに身を乗り出して見下ろし、フランチェスカは唾を飛ばす勢いでまくしたてる。
「女の子にお菓子を食べさせないなんて、最低ですわ! 悪魔の所業! あなたは本当にろくでもない犬っころですのね! 女の子がお砂糖とスパイスで出来ているのをご存じなくてッ!?」
「そ、そりゃただの子守歌(ナーサリーライム)だし、意味が違ェだろ。第一、俺はつくってやろうと」
「言い訳は結構! 見苦しい、恥を知りなさい! 女の子にはお菓子を食べさせてあげなければいけませんのっ、こんな時にはとくに! お砂糖を欠かすのは虐待しているも同然です!」
 派手すぎず、かといって控えめでもないネイルアートを施されたフランチェスカの人さし指が、カイの鼻先に突きつけられた。
「あなたは本当に、よくよく、お考えあそばせ!」
 憤然とそう言い残し、フランチェスカは来た時同様、嵐のように帰って行った。こちらのペースなどおかまいなしの、結局いつものフランチェスカだ。思いつめるなと言ってみたりよく考えろと言ってみたり。そもそもの元凶はてめェじゃねえか――カイは渋面に渋面を重ね、何度目かの舌打ちをする。
 どうしろってンだ、俺に。
「…――カイ。ねえ、カイってば」










マカロン、食べたい_(´ω`_ )_

ちなみに今回いちばんなぶられてるのは、カイさんチのダイニングテーブルで間違いない……こんだけバシンバシン叩かれて壊れないとか、何製w


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Comments

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ミズマ。 : URL

2013.07.15 Mon 22:34

「あ、テーブル逝ったな」って思ったのにwww 頑丈www

五年かー。五年って、だいぶすごい譲歩だよなー、カイさん、これは飲んでおいた方が全然良いって思うよ。うん。
……って、理性では分かっているの! 理解はしているの! でも、でも納得はできないのおおおぉぉぉぉぉぉおお!!(*゚ノO゚)<オオオオォォォォォォォーーーーーイ!

うう、フランチェスカ嬢、かわいいなぁ。なでこなでこしてやりたい、ん、だけど、でもさ! そりゃあこの話が無事に終わったらっつー話ですよ! ぎゅっ、と我慢してうわべ取り繕ってなんでもないふりして、だけど相手は「そうだ」ってもう見てすぐわかる事実に気付いてなくって、馬鹿じゃないのこの朴念仁、だけどもう、だって、あの日であったときに決めてしまったんだもの、とか。ちゃんとユリちゃんにケーキ作ってやれって言ってくれたのもありがとうございます、だけどさぁ、なんかもー、複雑! 複雑だよぅ、朔ちゃん!!щ(゚ロ゚щ)


さぁて、次こそはユリちゃんのターン! だ! よ! ね!?

待機!

我が君 : URL

2013.07.16 Tue 19:18

私もマカロン食べたい。。。
ピンクのマカロンが可愛くて好きです♡

ポール・ブリッツ : URL

Edit  2013.07.17 Wed 14:37

フランチェスカさん……ウソでもいいからここで「あなたがいないとわたしだめなの。あなたでないとだめなの」的オーラをちょいとにじませることができれば、カイさんのハートを撃墜することも難しくはないだろうに……と思ってしまうわたしはなにかの欲求不満なんだろうか(笑)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.18 Thu 11:49

お姉さま
もうこれオリハルコン製なんじゃないかって、思ってwwwダイニングテーブルwww

こんなの書いていいのかな!? いいのかな!?!? って、思いつつもお姉さまが叫んでくださるのを大変面白く嬉しく拝見させていただいております。ニヨニヨ←

五年はめちゃくちゃ譲歩ですね、絶対に無理なのわかってての五年なので、フランチェスカさんも必死です。可愛いドリル。あとプロなのでお菓子関係は黙ってられません。カイさんはユリちゃんにマジケーキつくってあげてください、マジ!щ(゚ロ゚щ) とか、いろいろ語り尽くしたいのですけどネタバラしになってしまうので、お口チャック……ぐぬぬ(※卯月はしゃべりたい子)

そして次はユリちゃんのターンです! 真打登場!


我が君
卯月も! 卯月もピンクのマカロン食べたいー! あと、バニラ味も好きなのー!(*´꒳`*)
フランチェスカさんにはもっといっぱいお菓子を作らせてあげたいんだけど、今回なかなか隙がない……卯月の見てないところで、飴細工の鳳凰とかつくってそうだけどねw


ポール・ブリッツさま
素直になれないツンデレが、好意に無自覚なコックさんに突撃かまして……このような状況に……ポールさまの言うとおり、もうちょっとそういう仕草をすれば、カイさんを陥落せしめるのも容易いと! 卯月も! 思います! もっと素直におなりよドリル(/□≦、)

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