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2013.07.07 Sun Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その15





   ***



 フランチェスカはなんでも出来た。
 子どもの頃からとにかく器用で、勉強も遊びも、ひとに遅れをとった記憶がない。ノスフェラトゥの異能である強力な力場も発現していた。総領に代々仕える名門当主の父親が優秀な一人娘にかける期待は大きかったが、それに圧し潰されることもなく、むしろ矜持を伸ばす糧にして育ったのである。
 父親は、一人娘により良い伴侶を望んでいた。
 そんな時にやって来たのが、カイだ。
 四世の始祖がどうしてフラフラ料理修行などしているのかはともかく、娘とおなじ年頃の総領血統の男となれば、父が見過ごすはずはなかった。彼が滞在しているうちに見初められなさいと言われたフランチェスカは、もちろんこれも首尾よくやれると思っていた。料理に興味があるようだから、菓子をつくって振る舞った。
 特別にそれが得意だったから、ではない。
 フランチェスカはなんでも出来た。
 もちろん料理も、ひとよりずいぶん上手に出来た。菓子をつくったのは、女らしさをより見せつけられると思ったからだ。首尾よくやれると思っていた。
 彼はきっとあたくしを褒めるに決まっている。
(あんた――)
 けれど、カイはフランチェスカの予想に反した顔で言ったのだ。
(料理は上手いンだろォが、そンだけだ)
 ひどくつまらなそうにして。
(美味しくはねェよ)

 キュッと蛇口をひねり、フランチェスカはシャワーを止めた。

 天羅に用意されたホテルのバスルームからは、夜でも明々と忙しない街の夜景を臨める。近隣でもっとも高い建物の最上階となれば、覗き見される心配はなかった。濡れて赤さを増した髪の先からしたたる雫を肌に伝うままにして、フランチェスカは窓に映る自分の姿をじっと見つめた。女として、なにひとつ恥じるところはない。
 胸を張っていればいい。
 自分が優秀な伴侶を得るのは当然のことだと思っていた。愛があろうとなかろうと、純々血の婚姻というはそういうものだ。互いに、そのように了承して、血を遺すだけの関係。カイともそうなるのだと思っていた。
(けど、ま――俺よりよっぽど料理出来てンだからよ)
(頑張りゃそのうち、美味いモン作れるようになンじゃねェか?)
 なんでも出来るフランチェスカにそんなふうに言ったのは、カイがはじめて。
(飯つくるのに、要るのは心掛けだろ)
(上手だろうが下手だろうが、美味いモン食わせてやりてェって気構えだろ)
 ここに来るまで百年かかった。



 ――欲しいのは、たったひと言。



「お待たせしましたわ!」
 ババーン!と、どこからともなく安っぽい効果音が聞こえてきそうなフランチェスカの登場を、ベッドの端に腰かけるカイはあからさまにげんなりしつつ迎えた。
 先に湯を浴びた銀色の髪の先はすっかり冷え、いい加減待つのがばかばかしくなってきたからいっそ寝てやろうかと思っていたところである。ユリはもう寝たか、と思うたびに感じる居心地の悪さに首を振り疲れた、というのも理由のひとつで、両膝にそれぞれ肘をついて丸めたバスローブの背中に疲弊具合がうかがえる。サイドテーブルにはフランチェスカが用意したのだろう、洋菓子とワインが置かれていたが、手をつける気にはならなかった。
 バニラの甘い香りだけが、否応なく胸に満ちる。
「まったく、だらしのない格好をなさらないで。総領血統として恥ずかしいと思わなくて?」
「総領だろォが眷属だろォが、疲れる時には疲れンだろ」
 ため息を吐いたのは、血筋を持ち出されたからだが、フランチェスカは意に介したふうも遠慮もなくカイのそばまでやって来た。ワインレッドのナイトガウン越しにもそれとわかる女の輪郭に、思わず眉間が寄るのを自覚して、カイは小さく舌打ちする。
 フランチェスカもまたわずかに目を細くし、けれどいまだ水気をわずかに含む赤毛を片手で背中に払えば毅然と言った。
「それでは、さっさとはじめませんこと。あたくしも暇を持て余しているわけではありませんわ」
「準備に手間どったのァ、てめェのほうだろォが」
「それ以前に、返事を先延ばしにしたのはどこの犬っころでしたかしら。女の身支度にかかる時間くらい可愛いものだと思えなくて? キョウリュウな男!」
「それを言うなら狭量だ……」
 母国語で喋れよとうなだれながら、カイは大きく息を吐く。
 氷のような青い目を閉じて、眉間を皺寄せ、瞼の裏にちらつく面影を見ればさまざまなことが気にかかった。もう眠ったのか。髪はちゃんと乾かしたのか。夕飯は残さず食べたのか。過保護だと言われるが、このくらい気にしていなければ、大切なことを見落としそうなのだ。ユリは、辛抱強い子どもで。肝心な時にわがままを言わない。
 そんな子どもがたまに言ったわがままくらい。
(私……)
(カイといっしょにいたいって、答えちゃ、だめかなあ……?)
 叶えてやるのが大人だろう。
 目を開き、カイはゆるりと顔を上げる。視線の先で、フランチェスカがわずかに首をかしげた。何か言いたいことがあるのかと問いたげな仕草に、カイは言う。
「頼みがある」
 始祖天祇直系の血筋として、総領天羅の従弟として、天羅血族の客分として。
 ノスフェラトゥの血族と血を交えることを、了承する。だから――。
「今夜の、事が済んだら……五年だけ、待ってくれ」











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Comments

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ポール・ブリッツ : URL

Edit  2013.08.06 Tue 20:39

だから自分がそう思っていることをそのまま話せばカイくんなんて撃墜するのは簡単なんだってば。わたしがいうのもなんだが男なんて単純なんだから。

フランチェスカちゃんには誰か優秀な作戦参謀が必要らしいですな(笑)

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.08.07 Wed 21:39

ポール・ブリッツさま
>作戦参謀
必要ですね!(*゚▽゚)*。_。)*゚▽゚)*。_。)ウンウン
でも、だれかに教えてもらっても、それはそれでプライドが許さなくて余計に言わなくなる……の、かもしれません。フランチェスカさん頑張って;;;

>わたしがいうのもなんだが男なんて単純
なるほど((φ(..。)メモメモ 殿方のポールさまがおっしゃるのだからこれは貴重な証言!

ミズマ。 : URL

2013.08.11 Sun 20:21

まー確かに、フランチェスカ嬢に思いのたけを素直にぶつけられたら、カイさんほいほい子種残しそうなもんだよなー。←
でもまー、あの方過去にうじうじ囚われてるからなー。その辺を吹き飛ばす明るさってェもんを持ち合わせていないと辛いかも知れませんがな。と、いうカイさんへのフォロー!w

フランチェスカ嬢、ホントに乙女ですなー。かわいいなー。
彼女の初恋が、どうにか良い方向に行ってくれればいいんだけどねー、ユリちゃんにとっても、いい方向にいってくれるといいんだけどねー。ユリちゃんに、とっても、ねー!!!←

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.08.11 Sun 22:19

お姉さま
>あの方過去にうじうじ囚われてるからなー
リク姉さまの呪縛……さすが!(((( ;゚Д゚)))コェエエエ…
フランチェスカさんも明るいといえば明るいけど、解呪系ではないなあ(なんだそれw)
やっぱりカイさんのヒロインはユリちゃんなんだよなあ、明るいし、けどほっとけなくて、カイさん自身が立ち直るというか克服するというか、なんだろう、そういう感じのイメージがあります。

>ユリちゃんに、とっても、ねー!!!←
そ、そんな圧力には屈しない……屈しないんだから!!←
もうそろそろ佳境なので、なんとかおさめていきたい所存です。番外なのでそんな大変なことにはなりません、その、はず!(オイw

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