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2014.07.07 Mon Novluno Child 『お砂糖とスパイス、それから恋のひとかけ』 その15

おそろしいことに、前回から1年近くも間があいてしまいましたが、このお話は卯月によるカイユリ番外です。まえに上げてたその15が文量的に短かったので、追加して再度うpということで、ここはひとつ。ちなみにこの続きもちょっといつ書けるかわからないけど、でもなるべくがんばりたいという思いだけはあります! まだつづくのです!←









   ***



 フランチェスカはなんでも出来た。
 子どもの頃からとにかく器用で、勉強も遊びも、ひとに遅れをとった記憶がない。ノスフェラトゥの異能である強力な力場も発現していた。総領に代々仕える名門当主の父親が優秀な一人娘にかける期待は大きかったが、それに圧し潰されることもなく、むしろ矜持を伸ばす糧にして育ったのである。
 父親は、一人娘により良い伴侶を望んでいた。
 そんな時にやって来たのが、カイだ。
 四世の始祖がどうしてフラフラ料理修行などしているのかはともかく、娘とおなじ年頃の総領血統の男となれば、父が見過ごすはずはなかった。彼が滞在しているうちに見初められなさいと言われたフランチェスカは、もちろんこれも首尾よくやれると思っていた。料理に興味があるようだから、菓子をつくって振る舞った。
 特別にそれが得意だったから、ではない。
 フランチェスカはなんでも出来た。
 もちろん料理も、ひとよりずいぶん上手に出来た。菓子をつくったのは、女らしさをより見せつけられると思ったからだ。首尾よくやれると思っていた。
 彼はきっとあたくしを褒めるに決まっている。
(あんた――)
 けれど、カイはフランチェスカの予想に反した顔で言ったのだ。
(料理は上手いンだろォが、そンだけだ)
 ひどくつまらなそうにして。
(美味しくはねェよ)

 キュッと蛇口をひねり、フランチェスカはシャワーを止めた。

 天羅に用意されたホテルのバスルームからは、夜でも明々と忙しない街の夜景を臨める。近隣でもっとも高い建物の最上階となれば、覗き見される心配はなかった。濡れて赤さを増した髪の先からしたたる雫を肌に伝うままにして、フランチェスカは窓に映る自分の姿をじっと見つめた。女として、なにひとつ恥じるところはない。
 胸を張っていればいい。
 自分が優秀な伴侶を得るのは当然のことだと思っていた。愛があろうとなかろうと、純々血の婚姻というはそういうものだ。互いに、そのように了承して、血を遺すだけの関係。カイともそうなるのだと思っていた。
(けど、ま――俺よりよっぽど料理出来てンだからよ)
(頑張りゃそのうち、美味いモン作れるようになンじゃねェか?)
 なんでも出来るフランチェスカにそんなふうに言ったのは、カイがはじめて。
(飯つくるのに、要るのは心掛けだろ)
(上手だろうが下手だろうが、美味いモン食わせてやりてェって気構えだろ)
 ここに来るまで百年かかった。



 ――欲しいのは、たったひと言。



「お待たせしましたわ!」
 ババーン!と、どこからともなく安っぽい効果音が聞こえてきそうなフランチェスカの登場を、ベッドの端に腰かけるカイはあからさまにげんなりしつつ迎えた。
 先に湯を浴びた銀色の髪の先はすっかり冷え、いい加減待つのがばかばかしくなってきたからいっそ寝てやろうかと思っていたところである。ユリはもう寝たか、と思うたびに感じる居心地の悪さに首を振り疲れた、というのも理由のひとつで、両膝にそれぞれ肘をついて丸めたバスローブの背中に疲弊具合がうかがえる。サイドテーブルにはフランチェスカが用意したのだろう、洋菓子とワインが置かれていたが、手をつける気にはならなかった。
 バニラの甘い香りだけが、否応なく胸に満ちる。
「まったく、だらしのない格好をなさらないで。総領血統として恥ずかしいと思わなくて?」
「総領だろォが眷属だろォが、疲れる時には疲れンだろ」
 ため息を吐いたのは、血筋を持ち出されたからだが、フランチェスカは意に介したふうも遠慮もなくカイのそばまでやって来た。ワインレッドのナイトガウン越しにもそれとわかる女の輪郭に、思わず眉間が寄るのを自覚して、カイは小さく舌打ちする。
 フランチェスカもまたわずかに目を細くし、けれどいまだ水気をわずかに含む赤毛を片手で背中に払えば毅然と言った。
「それでは、さっさとはじめませんこと。あたくしも暇を持て余しているわけではありませんわ」
「準備に手間どったのァ、てめェのほうだろォが」
「それ以前に、返事を先延ばしにしたのはどこの犬っころでしたかしら。女の身支度にかかる時間くらい可愛いものだと思えなくて? キョウリュウな男!」
「それを言うなら狭量だ……」
 母国語で喋れよとうなだれながら、カイは大きく息を吐く。
 氷のような青い目を閉じて、眉間を皺寄せ、瞼の裏にちらつく面影を見ればさまざまなことが気にかかった。もう眠ったのか。髪はちゃんと乾かしたのか。夕飯は残さず食べたのか。過保護だと言われるが、このくらい気にしていなければ、大切なことを見落としそうなのだ。ユリは、辛抱強い子どもで。肝心な時にわがままを言わない。
 そんな子どもがたまに言ったわがままくらい。
(私……)
(カイといっしょにいたいって、答えちゃ、だめかなあ……?)
 叶えてやるのが大人だろう。
 目を開き、カイはゆるりと顔を上げる。視線の先で、フランチェスカがわずかに首をかしげた。何か言いたいことがあるのかと問いたげな仕草に、カイは言う。
「頼みがある」
 始祖天祇直系の血筋として、総領天羅の従弟として、天羅血族の客分として。
 ノスフェラトゥの血族と血を交えることを、了承する。だから――。
「今夜の、事が済んだら……五年だけ、待ってくれ」










卯月が書くとヒーローがみんな名前の末尾にェってつく感じになっちゃってかなしいよね……_(:3」∠)_


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Comments

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ミズマ。 : URL

2014.07.08 Tue 00:11

そりゃあ、冷えるよね! 背中も痛くなるよね!←
待ってましたよ更新を。フランチェスカ嬢のおせおせドンドン回!!
ってこの期に及んでまだカイさんユリちゃんのことで頭がいっぱいってどうなの!? それでイロコイのことだと気づいてないってどうなの!?ただの保護欲でこうなってるだけだって、思い込もうとしてるだけなのカイさん!! ちょっと精神科の鑑定をオススメします!!←

やー、どきどきするねぇ!ほんとに致しちゃうのかしらねえ!ユリちゃん泣かないといいんだけどなー、カイさん安請け合いは…まー、どう転ぶかわっかんないしねー_(´ω`_ )_

続きはシャワーに打たれながら正座待機余裕だよぉ!!




しかしなんだ。
90年代のトレンディドラマっぽい気がする←

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2014.07.08 Tue 01:39

お姉さま
バスローブにサイドテーブルのワインとか完全にここだけ90年代のかほりですよ……や、でも彼ら彼女らにしてみればまだまだナウいはずなので!←

お待たせしましたあ……カイさんは濡れ髪のまま、フランチャスカ嬢にいたっては文字通り全裸待機でしたorz
ふたりとも吸血鬼でよかったなあ、風邪ひかずにすんだもんなあ!←←

カイさんは早急に精神鑑定というか心理カウンセリングというかそんな感じのを受けて、さっさとユリちゃんへの気持ちを自覚して欲しいような欲しくないような! いまのカイユリ(お姉さまの書く)距離感でも大変ウマウマなので……でも恋愛状態のカイユリもきっとウマウマだろうし……悩ましいところ。

話の筋はもう決まってるので、あとは書くだけなんですけど! 書くだけなんですけどこの作業がもっともウエイトが高いという。がんばります_(:3」∠)_

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