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2010.12.07 Tue さらに続・闇の眷族、みたいな。

いい雰囲気を書いてると、とにかくオチをつけたくてウズウズする卯月ですが、シリアスなお話だって大好物。というわけで、基本ダメ男なあの人の本気モードとかシリアス展開のリクエストがあったと勝手に誇大解釈して書いてみたわけです! どどーん!(効果音)



……調子に乗ってすみませんorz 思いがけず書いてて楽しかったのでつい……。



というわけで、以下は卯月が以前見た吸血鬼モノ夢ネタの設定を元にしたお話になります。

ちなみに本気モードとかいいつつ戦闘はナシです注意その1。そしていい加減、夢で見た設定だけではどうしようもなくなったので追加要素ありです注意その2。どなたかイクヤさん描いてくれないだろうかと卯月が念を飛ばしています注意その3は自重。

そんなこんなで、引き続きオチなしで追記からどーん。







「――あたし、イクヤがいれば、それでいいの。イクヤだけが欲しい」
 そう言ってキスをした。
 むさぼるように抱き合って、つながって、キスをした。むかし話のようだ。いつか観た映画のワンシーンを、ただ、ぼんやり思い出しているだけなのかもしれない。あれは本当に、現実に、存在した時間だったのか。いつのまにかこんなにも曖昧だ。
 サキ――。
 窓際の、最前列。教室でひとり、黙々と本を読みつづける彼女の背中。黒い髪をふたつにわけて、おさげに結って、眼鏡をかけて、にこりともしない。入学したばかりの新しいクラスで、だれとも喋らない彼女をからかってやろうと声をかけたのだ。たしか。俺のことは、適当に扱える調子のいいやつだと、クラスメイトに思われたかった。
 最初はそんなふうに知り合って、一方的に恋をした。
 あの日、彼女のどこに惚れたのか、それはいまもってわからない。がむしゃらに何かを手に入れたいと思ったのは生まれてはじめてだった。どうしていいのかわからないまま、どうにかこうにか三年かけて、やっと好きだと言われた時は、思わず泣いた。嬉しくて悲しくて泣いた。彼女は笑っていて、それが幸せで、けれど申し訳なくて、泣いた。
 俺はいつか、きみを傷つけるだろう。サキ。
「イクヤはさ――吸血鬼なんだよね?」
「そうだよ。こわくなった? もうやめる?」
「こわくない。こわくないけど、でも、あたしいっぺんも血なんか吸われたことないなって。見たこともないから。どうなのかなって」
「サキには話したくないなあ」
「やっぱり、若い女の血が好きだったりするの?」
「輸血パックから摂取してます。じかに飲んだことはありません。生き血はうまいって聞くけどね。まちがってもサキ以外のだれかに噛みついたことはないと断言しておく」
「あたしの血は飲んでみたい?」
「……サキにこわがられたら傷つくよ、俺」
「こわくないって言ったじゃない。イクヤはばかなの?」
「あたり。だってサキがこんなに好きだ」
 いっしょにいたいと言った俺に、いいよとうなずいてくれたサキは、優しかった。
 ひとりでだって平気そうな顔でいる彼女も知り合えば意外なほどさびしがりで、だから優しかった。俺はそれに甘えていた。ふたりで家を出て、ふたりだけの部屋で暮らしはじめて、あの頃は幸せだった。このままいいことばかりが続いていくような気がして、確かめもせずそれを信じていた。幸福に、なにもかもが眩んで。
 俺は、俺が『生太刀』のイクヤだということを忘れていた。


「――サキ」


 墓前の花が風に揺れる。返ってくる声はなかった。もう涙も出ない。
 永遠につづくと信じていた、幸せな日は一年もせず終わった。俺は間に合わなかった、この手も届かなかった、結局守れなかった、サキは俺を恨んでいるか。あの日、あの時、俺が彼女に声をかけたりしなければ、いまもまだ、どこかで笑っていたのだろうか。
 サキ――。
 俺も、サキがいればそれでよかった。サキだけが欲しかった。
 そんな気持ちがきみを殺した。

 あれからだれの血も飲んでいない。
 言いわけにもならないけれど。

 サキ。

 俺は、本当に。
 きみだけが欲しかった。


『――イクヤさん』


 二回は見逃してくれても、三回目はない。
 いつまでも鳴り止まない着信音にしぶしぶ携帯をとると、聞こえてきたのは女の声で。機械を通すといっそう淡々と聞こえる。電話越しにも眉ひとつ動かしていないのが目に見えるようだ。
『どこにいるんですか。出かける時は戸締りをしてくださいと、お願いしているはずですが。帰宅した我が家の玄関が全開なのではさすがにわたしも驚きます。上着はちゃんと着ていますか。風邪をひいたら力の限り笑いますよ』
「そこはいやらしく看病しますって言っとこーぜ、アキちゃん」
『わかりました頭を冷やしていてください』
「うちの女の子はつれないね――」
 雨の日に道端で拾った同居人は冷静だ。俺の笑い声が、受話器をとおって向こう側から聞こえる。あんまり静かにしないでくれよ。虚勢を見透かされそうでこわい。いつもどおりに喋れているか。俺のはったりなんてサキには通じなかったのを思い出す。
「それで? どーしちゃったの、なにかあった? 俺がいなくてさびしいなら、すぐに帰るから、もうちょっとだけイイコにしてな」
『わたしではなくゴウダさんがお待ちです』
「――お前がいるかぎり俺は戻らんと伝えてください。二度と来るなマジで」
『イクヤさんはもうすこしゴウダさんに優しくして差し上げてもいいと思うのです』
「アキちゃんが俺にもっと優しくしてくれたら考えるよ」
『寝言はともかく。はやく帰って来てください……風邪をひいたら、笑います』
 ため息を吐いて電話を切られた。通話終了の表示。液晶にほのかに映り込んだ自分の顔が力なく笑っている。べつの女と暮らしてるなんて、サキは怒るか。でもあの部屋じゃない。あの部屋は借りたまま、玄関のカギは、サキのカギは、いつもの場所に隠してあるから。俺のことなんか待たなくても、いつでも帰ってくればいいのに。
 そうしたら、俺もあの部屋に帰るよ。
 あの子もちゃんと紹介する。しっかり者のいい子だけど、サキとおなじでさびしがりで、女の子同士だから、きっとすぐに仲良くなるはずだ。いまはまだサキのほうが年上の、お姉さんだから。だから。だから――。
 ――サキ。


 こんなにも、きみが好きだ。いまもまだ。


 白い花はそよそよと揺れるだけ、ひと言もなく背を向けても、なつかしいあの声で引きとめてはくれなかった。街におりる坂道を歩きながら遠く海を眺めていると、ふたたび携帯が鳴りはじめる。着信音1。単調な電子音のくりかえし、愛想のないところがそっくりで、電話に出る前につい、笑ってしまう。
「はいはーい、こちらはみんな大好きイクヤさんです。ラブ&ピース! ご用の際はめいっぱいかわいい声で妹っぽくどーぞ」
『お醤油がありません』
「……は?」
『お醤油がありません。一滴も。このままでは今夜の肉じゃがは凄惨な結果にしかなりえないでしょう。このような窮状におちいるなど、台所をあずかる者としてあるまじき失態ですが、ここは恥を忍んでお願いします。――買ってきてください』
「べつにいーけど……いまからじゃ確実に間に合わな、」
『買ってきてください』
 そこからスーパーまでは散歩がてらに十五分。こっちは電車で二時間の道程。
 うちの同居人はよく働くし、よく動く、ほんのそこまでの買い物を面倒だとは思わないはずだ。それが、あいかわらず淡々と、けれど熱心に言い募る。
『いつものお醤油でなければだめです。ついでにお砂糖もお願いします。嗜好品の購入も今回に限り大目にみましょう。しかしお醤油だけは絶対に忘れないでください。いいですか、あれがなければ夕飯のしたくはできません――はやく帰って来てください』
 そう言うのは二回目だと、彼女は気付いているだろうか。はやく帰って来てください。たしかに、恥を忍んでお願いします、だ。らしくもない。
『何を笑っているんですか、イクヤさん。ちゃんと聞いていますか?』
「聞いてる、聞いてるよ。そんなに心配しなくってもさァ」
『心配などしていませんが』
「オーケイ、そーいうことにしときましょう。買うもの買ったら寄り道せずに、帰るから、ちゃんと――」
 ちゃんと、この坂をくだって、この街を離れて。いまは。



「――まっすぐ帰るよ、アキちゃん」


















名前を絶対にまちがえないイクヤさんの精神力いかほど、とか思いつつ。
そしてイクヤさん何歳だろう……とか。
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Comments

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かぶとも : URL こんばんは

2010.12.07 Tue 16:43

吸血鬼の彼女になるのは命懸け。
そんなことは、とっくに承知。
だから、怨んじゃいないよね。
愛は時間の長さじゃないんだよ!
とか、まあ、妄想だね(笑)

: URL

2010.12.07 Tue 20:51

ふおおッ、奇跡の「さらに、続」!/// 
喜び勇んで目ぇかっ開いてニヤニヤしましたーv
おおお…イクヤさん、そんな、甘やかで切なくベタボレな過去が…!相変わらず夢の中ではイン・卯月さまアキちゃんが素敵で素敵で仕方ないです!クーデレ…ッ!vv
純情一途べた惚れイクヤさんの、「まっすぐ帰るよ」にじんわりしました。
>イクヤさんはもうすこしゴウダさんに優しくして差し上げてもいいと思うのです
これにっ!これに笑いがこらえきれませんでしたっ!><*
おかしなテンションですみません;;

ミズマ。 : URL

2010.12.07 Tue 23:51

ぜ、ぜぜぜ絶叫してよかったーーッッ!!!
妄想して良かったああぁああぁあッ!!!!
イクヤさんかっこ良すぎですよ! 切なくなるうぅぅ(>_<)
……ぜーはー、ちょっと落ち着きました。
サキさんがとっても美人でした。そりゃ、イクヤさんが惚れるぐらいですからね!
アキちゃんのデレ具合もいい塩梅ですね。かわいいです。……そしてそれを見透かすイクヤさんッ(>_<)
あーもーほんとにカッコいいですよねー。
イクヤさんのイメージ…当然Wの左の人なんですが、「屍鬼」のトオルちゃん(ジャンプで連載中&夜中テレビで放映中ですが…ご存知ないかも(^_^;))もちょっと入っている感じですかね。
茶髪、癖ッ毛、ふわふわな頭ッ!←
私もイクヤさん、拝見したいです!
そしてリクエストにお答えいただき、ありがとうございましたぁッ(^_^)/

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2010.12.09 Thu 22:14

かぶともさま
ああだったのか、こうだったろうかと、考えるのは、やりどころのない気持ちをなんとか消化しようとする延長の自責なんですよね。たぶん。サキさんとしては、おっしゃるとおり、恨んでないと思うのですが( -ω-))ウンウン イクヤさんがんばれ。愛は時間の長さでないですよね!
しかし卯月も夢ネタから妄想がもくもくふくらんでるなあと思ったり(笑)
祭 歌さま
マジで奇跡の『さらに続』です! 2日で書けたとか、何があった自分(笑)
そして、アキちゃんはそうか、クーデレなのですね! おぉ、これが世に言うクールデレ……! なんだかんだ言いながら、アキちゃん、結局ゴウダの面倒まで見ております(笑)
そしてイクヤさんの過去編は『続』のほうでミズマ。さまからいただいた、シリアルノリのイクヤさん妄想を元に卯月が便乗妄想してできてあんな感じになりました。お店の女の子とチャラチャラ遊んだりしておりますが、いまでもサキさんがいちばん大好きなイクヤさんです。
楽しんでいただけてなによりでした(*>ω<*)v
ミズマ。さま
ミズマ。さまの妄想がなければ書かれなかったお話です! でなければ、あのグータラでチャラいダメ男にこんな一面があろうなど、卯月は気付かないまま終わっておりましたよ。
サキさんが文学美少女なイメージで。メガネっ子でございますv 中学卒業するなり手に手をとって駆け落ち同然に同棲をはじめたふたり、若いなあ……そしてやっぱりイクヤさんはいま何歳なんだと(笑)
アキちゃん視点だとひたすらダメだったイクヤさんですが、イクヤさん視点になると結構複雑な男でした。アキちゃんの考えてることは大体筒抜けです。イクヤさん年の功(笑) まあ、家に帰るとあのダメ男になるわけですがw
Wの左の方! は、かなり鮮明に思い浮かぶのですが、『屍鬼』のトオルちゃんはハッキリ輪郭が思い浮かばない……;; よく表紙絵になって青っぽい髪のひと、でしょうか??? 『屍鬼』1、2話読んだあたりで「怖いッ」と思って、読んでないのですよね;
しかし、イクヤさんがWの左の方と同じ格好したらかなり似合うと思います、というか想像してニヤニヤしてます今/// シャツに、ベストに、ネクタイに、スラックス、革靴、中折れ帽!! でもイクヤさんの場合、ベストがあずき色ジャージになったり革靴が便所サンダルになったりするのですよ、ね…orz

ミズマ。 : URL

2010.12.10 Fri 12:32

イクヤさん、中卒だったのかwww
じゃあ、あずき色のジャージは中学ジャージですね。ダサさ倍増ですね! というか何年前のジャージですかイクヤさんwww
アキちゃんが幾度も捨てようと試みるも、そのたびにゴミ箱から救出されているのですねわかります←
Wの左の人はハードボイルド小説かぶれなので、身なりには気をつかっていそうですが、イクヤさんは……残念です。←
『屍鬼』のとおるちゃんはコミックス第七巻の表紙の彼です!、と書きたくてコメント二回目でしたー。←しつこい。

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2010.12.12 Sun 20:14

ミズマ。さま
中卒です。さりげに高学歴なのがゴウダ、大卒です。インテリ。
そしてイクヤさん御愛用のジャージはたぶん、自分のはもう小さくなって着られないじゃないかと思うので、元はゴウダのだったと思われます。完全に借りパクです(爆)
「イクヤさん、どうしてこのジャージ、裏の名札にゴウダさんの名前が書いてあるんですか?」
「あれー、言ってなかった? 入籍したのよ、俺ら」
「……」
このへんからアキちゃんの『ゴウダさんにもっと優しくして』発言がきているのではないかと。考えれば考えるほどゴウダが不憫ですwwwww
そして、とおるちゃん見ましたー! 青い髪ってどこから来てる記憶だ、自分wwwww
お知らせくださってありがとうございます。『屍鬼』……こわそうだけど、やっぱり今度読んでみようかなー><

朱鷺(shuro) : URL 風邪をひいたら力の限り笑いますよ

2013.07.07 Sun 21:05

↑アキちゃん、良いですねぇ!
なんだ、この切なさはっ! という幻想的な背景を背負っていながら、彼女の登場でイクヤさんは現実に戻ってこられた。
そんな感じを受けました。

恋をして、その想いを普通に貫くこと。穏やかに幸せを求めること。
それが叶うと信じていたイクヤさんが現実を知った瞬間が悲しいな、と。

彼には、だから、決して恋情や素直な愛情表現を示さないアキちゃんの存在が必要なんだろう。
そんなことを思いました。


朱鷺(shuro) : URL

2013.07.07 Sun 21:06

すみません、一個前のコメ、何故かはじかれてしまいました(ーー;

卯月 朔 : URL いらっしゃいませ!

Edit  2013.07.08 Mon 21:43

朱鷺さま
なぜはじかれてしまったんだろう……どうしたことだ(-д-;) お手数かけてすみません;;
イクヤさんはすぐに過去に引きこもっちゃうというか、とにかく後ろ向きっていうか、そんな感じなので、おっしゃるとおりアキちゃんの存在で現実に戻ってこられる、今に居られる、みたいなところがありますね。でもやっぱりすぐに過去に立ち戻りがちですが|ω・`)汗 このお話もだいぶ前に書いたので、読み返して懐かしく思いました。アキちゃんの口数が多いなあ、とか(笑)
引き続きお読みいただいてありがとうございますー!(*´∀`*)

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